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激闘編

第二百八十五話 芸術はばくぱんつだー

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「あ、あのーー、大殿」

 久美子さんが恐る恐る大殿に声をかけました。
 一益も配下もいなくなったので、八兵衛ではなく大殿と呼んだようです。

「あっ!? す、すみません。島津家に確認もせず勝手な事をしてしまいました」

「いえっ! むしろ感謝したいぐらいです。本当に金沢に島津の旗を立ててもよろしいのですか?」

「もちろんです。金沢より北は全て島津の旗を立てて下さい」

「えっ!? そ、そそそそそそれは! 加賀の残りと能登までもということですか?」

 そ、が多いですね。
 まあ、それだけ驚いているということでしょうか。
 私もビックリです。

「もちろんです。俺は、底辺に暮らす人々が苦しまなければ、誰がどこを統治しても良いんですよ。木田でも島津でもそんなことはまったく関係ないのです。むしろ島津に丸投げできて楽が出来ると喜んでいます」

「なっ!?」

 これには全員が驚きました。

「でもね、島津が住民を苦しめた場合は許しません。木田家の精鋭で攻め滅ぼします。ふふふ、織田家には攻め込まないと約束しましたが、この地が島津家なら、木田家はなんの遠慮も無く攻められますからね」

 大殿は、くったくの無いキラキラした笑顔で言いました。
 でも、それが久美子さんに突き刺さったようです。
 勝ち気の久美子さんに脅すように言えば、反発したと思いますが、この言い方だったために久美子さんは恐怖し、顔に冷や汗が流れるほど緊張しています。

「き、肝に銘じたいと思います」

 久美子さんは縁側から素早く降りると、大殿の前で地べたにひざまずき平伏して言いました。
 その顔は高揚し眉は吊り上がっていますが、口は真一文字です。
 やっと、大殿の偉大さと優しさ、そして欲の無さに気が付いたようです。やれやれです。

「では、加賀と能登は島津家の久美子さんに任せて……」

「いえ、加賀と能登は兄にお願いして、私は大殿のおそばにいさせて頂きます」

 大殿が、何か言おうとしたのをさえぎって慌てて言いました。
 このままでは、自分が城主にされてしまうと思ったのでしょうね。
 女城主もかっこいいと思いますが……。
 待って下さい。この流れは嫌な予感がします。

「まあ、それは良いですが、俺のそばにはいなくていいですよ」

「いいえ駄目です。もともと私は島津家より大殿の嫁になる為に木田家へ来たのです」

「またですか」

 大殿は少し不機嫌になりました。
 ですよねーー。

「あ、あの。顔がお気に召しませんか? それとも貧弱な体でしょうか」

「いいえ。顔はとてもおきれいです。体だって、服の上からですが充分魅力的ですよ。だが、結婚というのは好きな者同士がするもの。無理矢理させられるものではありません」

 あの、面白いから言いませんが、きっと久美子さんは大殿が好きになっていると思いますよ。

「は、はい。ですから……」

 ほらほら、赤い顔をして、あの憎たらしかった久美子さんがとてもかわいくなっていますよ。

「まあ、島津家から立派な人が来てくれるなら、側にいるのは許可しますが、久美子さんはちゃんと好きになった人が出来たらその人と結婚して下さい。以上です」

 あらまあ、これ以上言えないですよね。
 これ以上言えば、逆効果です。
 木村さんがとてもほっとした表情になりました。
 あれ、響子さんもカノンちゃんもほっとしています。
 あれあれ、上杉様もスケさんもカクさんもほっとしています。って、あんたら男でしょ!!

「久美子さん、薩摩へ行く手段はありますか?」

「大阪に船がありますが燃料がもうありません」

 なっ!?
 今気付きましたが、久美子さんはすごい人なのですね。
 こんな知らないところへ片道切符で来ていたのですね。

「ふふふ、後ろを見てください」

「えっ!?」

 後ろを振り返った久美子さんが驚いています。
 そして頬が赤くなり、目がウルウルしています。
 なんだか、UFOがすごいと思っている顔ではありませんね。
 ミス鹿児島が本気の恋に落ちた瞬間なのかもしれませんね。

「島津家に一機進呈します。輸送用のUFOです。護衛に黒川さんと配下の忍者をおつけいたしましょう。これで行けば、三時間とかからずに往復できるはずです。格納庫がありますので兵士も運べるはずです」

「ありがとうございます。今すぐ行って来ます」

 ちょっと待ってください。
 私も行くのですかー!

「やれやれ、やっと行ける」

 あーーっ。大殿が小さな声でつぶやきました。
 大殿はこっそり美術館へ行くつもりです。
 金沢には素敵な美術館、二十一世紀美術館があります。
 大殿はそこで、シャドウちゃんを作って、かわいいメイド服を着せて、エッチなパンツをズリズリ自分の手ではかせるつもりです。
 それで、芸術品を寄贈したつもりになるのです。

 ――芸術は下着姿の女性だーー!!

 とか叫びそうです。
 やれやれだぜ! です。





「おおーー!! 廣瀬どのーー!!」

 船を柴田様自ら出迎えてくれました。
 横には前田様まで来てくれています。
 私はギャングウェイを待たずに、船の上から直接岸へ飛び降りました。

「柴田様、お出迎えありがとうございます」

「ふふ、廣瀬殿は恩人だ。出迎えるのは当然のこと。しかし、はやかったのう。一ヶ月は来ないかと思ったが、一週間も立っておらんぞ」

「うふふ、大殿に言われて来たのです」

「アンナメーダーマンにだと」

 柴田様の表情が急に曇りました。
 まだ、大殿の事が大嫌いなようです。

「はい、良いお知らせが二つと、悪いお知らせが一つありますが、どちらから知りたいですか」

「ふむ」

 柴田様は前田様の顔を見ました。
 この二人は仲がいいですねえ。

「では、良い方を教えて下さい」

 柴田様に代わって前田様が言いました。
 まあ、言われなくとも順番は決まっていましたけど。
 いきなり悪い方はあり得ませんからね。

「はい! シャドウちゃん降りてきてーー」

 呼ぶと、二人の美しいアンドロイドのようなシャドウちゃんが私と同じように船から飛び降りてきました。
 今日の私は水夫のようなセーラー姿です。下はちゃんとズボンです。でもシャドウの二人はメイド服です。
 あの大殿が、下着をつけさせていないわけがありませんよね。

 バサバサスカートがひるがえると、シャドウちゃんがスカートを押さえますが中身がチラチラ見えます。
 黒いスカートからのぞく純白はとても目立って目を引きます。
 そこにはご丁寧に真っ赤なリボンまでついています。

「おおぉーおっ!!」

 低い声が響きます。
 船の近くにいた男達が皆、首が折れそうなくらい見上げて見つめています。
 全く男って奴は、ばかばっかりなのでしょうか。
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