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激闘編

第二百八十一話 赤い月の下での戦い

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 不気味な二人の男の姿は、狂気を含んでいて場に緊張をもたらします。二人を除いて全員の顔が引きつっています。私は体温が急激に下がって寒くなり凍えています。少し唇が震え出しました。見ただけでこんなに恐怖を感じたのは初めての経験です。

 こんな状況の中、緊張していないのは笑っている久美子さんと、ニコニコしている大殿だけです。

「どうやら、仲良く飯を食ってくれる感じじゃねえなあ」

 滝川一益は眉一つ動かさず大殿を見ています。

「てめーは、なにもんだ?」

 低くてしゃがれた声ですが、とても良く通る声です。

「この薩摩島津家の姫君島津久美子さんの御供の者だ。高校時代の同級生の家に遊びに来て、楽しいお食事をしていたらお前達が来たというわけだ」

「なんだそりゃあー! ふふ、その証拠は」

 大殿は少しふざけたようです。滝川一益はどうやらそれに乗ったようです。

「ちょっと待っていて下さい」

 永子さんが、自分の部屋に戻ったようです。

「これを見てください」

 インターハイの記念写真を持って来ました。
 表彰台の一位に永子さんがいて、二位に久美子さんがいます。
 剣道の防具の垂れに高校名が書いてあるので石川県代表と鹿児島県代表というのがわかります。
 って、ここにあったと言う事はこれ、置いて行く予定だったのですよね。
 まあ、こんな時には荷物になるからいらないかー。

 まってください。久美子さんが何だか恐ろしい顔をして永子さんをにらんでいます。
 まるで呪いの写真です。逆によく今日まで持っていましたね。

「なるほど、島津の姫様というのが本当かどうかはわからねえが、友達というのはわかった。ちょっと待て、本当に友達か?」

 久美子さんの表情に気が付いたようです。

「ふぉっ!」

 全員が写真をのぞき込み、久美子さんの表情に気が付くと変な声を出しました。

「昔から島津と言えば勇猛でその名を轟かせちゃあいるが、この状況でてめーの、その余裕とは恐れ入るぜ。で、おめーさんの名前は?」

「俺ですか。俺は島津久美子様の使用人の八兵衛です」

「使用人だと!」

「へえ、使用人だす」

 だすって、急に何弁?

「ぷーー!! くっくっく」

 あらあら、あちこちで吹き出しています。
 皆の肩の力が抜けて、平常心に戻ったようです。
 さすがです。さては、大殿はこれをねらって、とぼけた会話を続けていたようですね。

 そういえば、私の緊張もいつのまにか取れています。
 これなら、目一杯持っている力を発揮できそうです。

「しかし、綺麗な夕焼けですなあ。スケさんなら大丈夫でしょう。どうですか。体は存分に動きそうですか?」

 あたりは、赤く光り輝いています。
 空には満月まで出ています。
 その月まで赤く染まり、まるで血に染まっているようです。

「えっ、あ、はい」

「自信が無ければ、俺がやりますが」

「いえ、八兵衛さんがそう言うなら出来そうな気がします。……いや出来ます」

 出来ますと言ったスケさんの顔には自信に満ちた笑顔がありました。
 大殿が大丈夫とお墨付きを出したので、スケさんは相手の姿に射すくめられていたのが嘘のように堂々としています。
 大殿は本当にすごい人です。

「では、お願いします」

「はっ!」

 こ、この二人、演技する気が有るのでしょうか?
 もう、使用人と護衛のやりとりじゃ無くて、殿様とその配下みたいになっていますよ。
 ばれなきゃ良いですけど。

「ふっ!」

 滝川一益があきれたように笑いました。
 これは、もうバレていますね。

「オイサスト! シュヴァイン!」

 スケさんが、中庭に降りながら言いました。
 全身を青い糸のような物が覆い、それが消えると青い正義のヒーローのようなものに変身しました。
 魚のヒレのような物が手足にあり、うろこのような模様もついていて、体は魚人のように見えます。
 顔のマスクは前に尖っていて、シャチのような形のマスクです。

「変身しただとー! おもしれえじゃねえか。慶次郎ぶち殺せ!」

「ぐひひっ」

 声を出した慶次郎の口から、どろりとよだれがこぼれました。

「な、なんですか。あれは??」

 久美子さんと、永子さんが驚いています。

「あれは木田家名物オイサストシュヴァインですよ。私達はアンナメーダーマンアクアに変身出来るのです」

 響子さんが言いました。

「私達古賀忍軍は、忍者に変身出来ます」

「ええっ!?」

 驚きの声と供に目が大きく開きました。
 そして、その瞳がキラキラ光り、まるで子供の様にスケさんの姿を見つめます。

「おおっ!! 変身したぞ!」

 垣根のまわりにいる、滝川兵達が垣根の上から中庭をのぞき込みます。
 そんな中スケさんは、余裕の足取りで慶次郎の間合いに近づきます。
 スケさんの体は良く鍛えられ筋肉隆々で大きいはずです。
 ですが慶次郎の真正面に立つスケさんの体は、慶次郎より二回りほど小さく見えます。まるでプロレスラーと中学生位に見えます。

 慶次郎は、よだれに気付かないほど集中して、すけさんを見つめます。
 そして、手にした黒くて太い鉄の棍を強く握りしめます。
 ミリミリッという音が聞こえました。
 次の瞬間、慶次郎は棍をスケさんの頭上に振り下ろします。
 まるで、細い木の枝を振ったような音がしました。

 ドン!!!!

 地響きがします。
 あんな攻撃が当たったら、鉄の玉でもくぼんでしまいそうです。
 ですがスケさんは、その攻撃を少し大きくよけました。
 慶次郎は地面にめり込んだ棍をそのままスケさんの腰に向けて斜めに振り上げました。

「あっ!!」

 全員から声が上がりました。
 当たったように見えたからです。
 ですが、スケさんは寸前でしゃがんで避けていました。
 これはわざとギリギリでよけたようです。
 もはや、完全に見切った見たいです。

 慶次郎は、ニヤリと嫌な笑いを浮かべました。
 慶次郎もこれは計算通りだったようです。
 棍をくるりと宙でまわすとスケさんの頭の上に棍を落とします。その速さはさっきの攻撃よりはるかに速かった。

 ドン!!!!

 さらに激しい地響きです。
 スケさんは、この攻撃を左手一本、片手でうけています。
 いいえ、受けたのではありません、拳を振り上げ棍を下から突き上げたのです。
 あまりに強烈な攻撃だったために、スケさんの足が少し地面にめり込んでいます。

「うがああああーーーーーっっ!!!!!」

 慶次郎が声を上げました。
 慶次郎の腕から何本も血の筋が吹き出しています。
 どうやら、ダメージは慶次郎の腕に出たようです。

「あら、痛そう」

 久美子さんが涼しげに言いました。
 やっぱり、この子は性格が悪そうです。

「ぐおおおおおおおーーーー」

 棍を地面に落とし、慶次郎はしゃがみ込んで痛みをこらえています。

「くそおぉぉぉぉーーー!!! きさまらーー!! よくも弟をーーーー!!!!」

 滝川一益が手を上げると、ガチャガチャ具足の音が慌ただしく聞こえます。

「やれーー!! 皆殺しだーーー!!」
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