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激闘編

第二百七十三話 忍者の実力

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「グクォボォ」

 船長が喉を鳴らしました。
 柴田様の驚く様子に、気を良くして笑っているようです。

「このぉーーお!!」

 柴田様は槍を、胸の中央に突き刺します。
 槍はドスッと乾いた音を立てて貫通しました。
 その槍を船長は頭を傾けて見つめ、両手で握りました。
 柴田様がニヤリと笑います。
 どうやら、力比べを挑んだようです。

「ぬおおおおおーー!!」

 柴田様が渾身の力を込めているようです。
 船長はそれに抵抗しているみたいです。
 槍は小刻みに震えているだけで動きません。
 私にはどちらが、どちらへ力を加えているのかわかりません。
 ミシミシと槍から音が聞こえてきました。
 ベキンと槍から堅い物が砕ける音がします。

 どうやら槍は、堅い鋼と柔らかい鋼が両方使われている、日本刀の様な構造になっているようです。
 その堅い鋼が耐えきれず砕けてしまった様です。
 グニャリと、くの字に曲がりました。

「うおおおぉぉぉーー!!」

 柴田様は槍から手を離すと殴りかかりました。
 ドンドンと音を立てて柴田様の拳は当たりますが、船長にはまるで効き目がありません。

「こいつは不死身か?!」

 いいえ、船長はもう死んでいます。
 ただのしかばねです。

「柴田様、何をしているのですか! 海に落として下さい」

 私の言葉を聞くと、船長の体がビクンと動きました。
 どうやら船長にとっても、他のゾンビ同様弱点のようです。

「おお! そうか! 前田ー!! 槍をよこせー!」

 前田様が槍を投げます。
 柴田様は素早く後ろに飛ぶと槍を片手で受け止めました。
 このあたりの動きを見ていると、素早さでは柴田様が勝っているようです。

「おりゃあぁぁ!!」

 槍の柄の部分で船長の脇腹を払いました。
 船長の体が2度3度、アスファルトでバウンドして、橋のらんかんまで飛んで行きます。
 何という剛力でしょう!!
 そして、橋から落ちる寸前、船長はらんかんをつかみました。

「ゴオコオォォ」

 船長が音を出します。
 この音を聞くと対岸のゾンビが橋の上を歩きはじめます。

「もう遅いわ!!」

 柴田様が、船長の指を切り落としました。

 ドブン!!

 暗い水面に白い水しぶきが上がります。

「うわあっ!!」

 柴田様が驚きの声を上げ尻餅をつきました。
 何があったのでしょうか。

「ゆ、ゆび、ゆびがーー!!」

 切り落とされた指が、ウネウネ動いて、柴田様の方へ動きます。

 前田様が素早く駆け寄り、指を海へ蹴り落としました。
 そして、槍を柴田様から受け取ると。

「槍たーーい!! 千人ほどついてこーい! 残りはバリケードをつくれーー!!」

 前田様は、槍隊と共にゾンビの群れに突っ込みます。
 大陸からのゾンビは島にいたゾンビの数倍はいそうです。
 ですが、橋の上は狭く限られた範囲なので、たたかい易いようです。

「くそう、ゾンビというのは気持ちが悪いのう。わしは苦手じゃ!」

 柴田様はなさけない顔をして、老人の様な口調になりました。それでも、兵士から槍を受け取ると、前田様を追いかけてゾンビの群れに飛び込みます。
 柴田様が飛び込むとゾンビが、宙を舞い次々海へ落ちていきます。

 私は、全身を忍者コスチュームで包むと姿を消して、ゾンビの群れに入り込みました。

「ふふふっ、柴田様じゃありませんが、気持ち悪いですねー」

 ゾンビ達は、良く見ると強さに違いがあります。
 船長の様に大きな人はいませんが、五人ほどあきらかに体の大きな人がいます。
 班長という感じでしょうか。
 そして、船長が隊長という感じでしょうね。

 ゾンビ達は、班長ゾンビに指揮されて動いているように見えます。
 この違いは何でしょうか?

 ――まさか!?

 私は、調査をすますと、柴田様の横で姿を現しました。

「おお、廣瀬殿! そこにおったのか」

「はい」

「どうやら、こいつら、島の奴らに比べ大きく強さに差があるようだ」

「やはり、そう感じますか」

「ふむ。しかも、そろいもそろって島のゾンビよりもはるかに強い」

「そ、そうですか……なるほど」

「なにか気が付いたのだな。考えを聞かせてくれ」

「私に大殿のような深い洞察力があれば良いのですが、浅慮しかありません。それでもよろしいですか?」

「何を言われる。廣瀬殿の意見が聞きたいのだ」

「はい。私はこう考えます。ゾンビは人間を殺すと強くなる。そして、大勢殺せばランクアップするのではと」

「……何と言うことだ。もしそうなら、ゾンビの創造主はくそ野郎だ。なんてことをしやあがる。こんな大変な時に、そんなものまで造り出すとは」

「なるほど、島には限られた人間しかいませんでした。だから弱い。大陸には何十億人という人間がいた。だから強い。考えただけでも恐ろしいですなあ。さっきのでかいゾンビより、さらにランクアップしたゾンビがいる可能性もあるということですね」

 前田様が私達の会話に参加されました。

「考えたくもありませんが充分あり得ますね」

「くそう、誰の仕業か知らねえが、ゾンビを使って遊んでいるとしか思えねえな」

「性根が腐っているとしか思えません」

「ぬうううぅうーーー」

 柴田様がうなって黙り込んでしまいました。
 こんなことをして遊んでいる。いったいそんなくそ野郎は誰なんでしょうか。
 大殿、大陸は大変な事になっていますよ。
 私は、すぐにでも戻って報告したいとあせりましたが、大殿からもう一仕事頼まれています。それだけは済ませないといけません。

 橋での戦いは、陽がしっかり姿を出した後まで続きました。
 映画によっては、日光で死滅するものがありましたが、ここのゾンビ達は日光もなんともないようです。

「やったぞおおぉーーーー!!!!!」

 橋の上の最後の群れを海に落とすと歓声が上がりました。
 急造のバリケードの中に入ると全員座り込んでしまいました。

「お疲れ様です」

 私は柴田様の目の前に、真っ赤な身の一杯乗ったマグロ丼をさし出しました。

「な、な、なななななな」

 な、が多いです。

「ああ、疲れすぎて食べられませんか? 少し後にしましょうか」

 そのとたん柴田様のおなかが、大きな音を出しました。

「あっ、大殿の物は……」

「食う! 食うさー! アンナメーダーマンだろうと誰の物だろうと、食う!!」

 私の手から凄い勢いで奪いとると、ガツガツかき込みました。

「これは、お替わりも有ります。どんどん食べてください」

「お替わりだ!!」

 柴田様がすぐに言いました。

「前田様の分もまだ配っていないのに早すぎです!」

 私が言うと、まわりから大きな笑い声があがりました。

「皆さん、食事をしてお昼くらいまでしっかり休んで下さい。その間は私達が、しっかり見張りをしておきます。何かあれば起こしますので心配しないで下さい」

 そうです。
 大殿からの最後の一仕事は、朝食の準備と休ませるための見張りです。
 きっと、ここまで想定していたのでしょうね。
 さすがです。

「廣瀬殿。俺は日本人が嫌いだ。だが、廣瀬殿は別だ。心から感謝する。この恩は一生忘れない」

 柴田様は深く頭を下げると、しばらくそのまま動きませんでした。
 でも私は、日本人は好きだが、廣瀬は嫌いだと言われた方がうれしいですよ。

 食事を済ますと、安心して柴田様も前田様も高いびきで眠りました。部下の方も、もう起きている人が一人もいなくなりました。

「さて、古賀忍軍ろ組出陣です」

 私は、部下と共にバリケードの外に出ました。
 実は私は、まだ本気を出していません。
 部下達も、コスチュームの全力を使ったことがありません。
 実戦で相手がゾンビなら、全力を使うことが出来るのです。
 部下達も心なしか顔が高揚しています。
 私達は、頭を出してゾンビを呼び寄せます。

 でも、ゾンビが中々来ません。
 私達は大殿のおそばの美女軍団とは違って、そろいもそろって、顔がいまいちです。
 私に至っては眉毛が太くて、普通の下の方とまで言われました。

「廣瀬様、私達ではゾンビが関心を示しません」

「そうでしょうか」

「廣瀬様、少しジャンプをして下さい」

「えっ? 別に良いですけど」

 私は言われるままジャンプをしました。
 すると、橋の手前で引っかかっていたゾンビ達が、私の方を見ました。どうやら気が付いたようです。
 えーーっ? なんで?

「古賀忍法、木枯らしの術!!!」

 橋をのこのこ歩いて来たゾンビ達を、小さな竜巻を起こして橋から海に落としました。
 何メートルも巻き上げます。
 このコスチュームには風の忍術が装備されています。
 初めて使いましたがすごい威力です。

「古賀忍法、かまいたちの術!!」

「あっ、だめ!! なんでそれを使うかなーー!!」

 部下の一人が、風の刃の術を使いました。
 案の定ゾンビが何体もバラバラになります。
 お掃除が大変でした。
 やれやれです。
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