上 下
272 / 428
激闘編

第二百七十二話 月光の下の戦い

しおりを挟む
 食事が終るとすぐに陽が落ちました。
 私達古賀忍軍は、襲われるといけないので船の上に戻ります。
 大型船なので、ギャングウェイを外せば誰も乗り込めません。
 安全スペースになっています。

「おかしいですね」

 私は、島と大陸をつなぐ橋を見ながら異変を感じました。

「廣瀬様、どうしたのですか?」

「皆は気が付きませんか」

「……」

 全員首をかしげ、隣同士で顔を見合わせます。
 私の部下は皆優秀です。
 ですが、気が付く者はいません。
 気が付いているのは、橋の前で槍を持って座っている柴田様と前田様だけかもしれません。

「船のライトを橋に集中して下さい」

「は、はい」

「皆はここから動かないで下さい。万が一の事があった時は私を見捨てて、このまま船で帰り大殿に報告してください」

「!? そんなことは出来ません」

 皆、深刻な顔をして首を振ります。

「愚かなことを言わないで!! 私達は忍びですよ。昔から忍びの使命は、命を捨ててでも情報を持ち帰ることです。私の犠牲で貴重な情報を持ち帰ることが出来るのなら本望です。いいですね。お願いしますよ」

「は、はい。ところで何がおかしいのですか?」

「そうね。気のせいかもしれないのですが、橋をゾンビが渡らないのが、不自然に感じます」

「と、言われますと?」

「対岸には、生きた人間の気配を感じてゾンビが集っています。ゾンビ達は知能が低いのでしょう、海に阻まれて島に渡れません。でも、あれだけのゾンビが集っていれば、橋を偶然渡る者が出てくるはずです」

「本当ですね。橋に近づきません」

「私は、柴田様と前田様のところへ行きます。後は、頼みますよ」

 全員不安な顔でうなずきました。

 私は、船の上からジャンプをして、数度回転すると着地し、柴田様のところへ急ぎました。

「柴田様!」

「おお、廣瀬殿。そろそろ来る頃だと思っていましたぞ」

 そう言いながら少し顔が赤くなっています。

 ――だーー!! しまったーー!!

 姿を消していなかったので、パンツが丸出しでした。
 い、いいえ。
 この人は、きっとゆれる私の胸を見ていたのではないでしょうか。全くおとこってやつわあぁーー!!

「ふふふっ、柴田様来ましたよ!」

「おおっ!!」

 二人は槍を握る手に力を入れました。
 そして、私の胸をチラリと見ました。
 馬鹿なのでしょうか、少しは顔も見てください。
 二人の視線は橋の中央に戻り、まばたきを忘れています。

 橋は暗闇に白く浮かび上がっています。
 船からの光と、月光に照らされてアスファルトまで白く浮かび上がります。
 その橋の中央に黒い人影です。
 ゆっくり歩いて来ます。

 だんだん姿がはっきりしてきました。
 服は、ボロボロに破れ、最早ぼろ切れを体に巻き付けているようにしか見えません。
 顔は黒く変色し、鼻がとれてすでに窪みだけになっています。
 まるで、幽霊海賊船の船長です。

「でかいなー、あれは俺よりでかいですね」

 前田様も大きいですが、確かに船長ゾンビの方が大きく見えます。
 柴田様よりは、少し小さいようです。

「野郎! 笑っているぜ」

 嘘でしょう。
 ゾンビに表情があるなんて!!
 どういうことでしょうか?
 そう見えているだけ。
 いいえ、動いています。
 あきらかに表情を作っています。

「奴は、別格ということでしょうか」

「そのようだ。自信に満ちあふれている。恐らく強いのだろうな。どれ、一丁手合わせを……」

「お待ち下さい。敵からの情報集めは忍びの仕事です。私にお任せください。私の戦いを見て、対策を考えて下さい」

 私は柴田様の言葉をさえぎって、一歩前に出ました。

「ほう、廣瀬殿も血の気が多いようだのう」

 柴田様は、私の顔を見るとニヤリと笑いました。
 槍をつかむ手の力はそのままに、ふくらはぎに力が入ります。
 私に行かせるつもりになってくれたようですが、何かあれば駆けつける気満々です。

 私は、頭は出したままゾンビ船長の前に歩きます。
 頭を保護しないのは、全身を忍者装備で包むと、ゾンビから人間判定をして貰えないからです。

「ゴコォコ、グオコォ」

 ゾンビ船長が動くと、口から変な音が出ます。
 きっと、体の動きに合せて、昔、肺だった所から空気が漏れて気道で音が出るのでしょう。

「気持ち悪い」

 思わず、顔をしかめて言ってしまいました。

「ゴオオオオオオォォォー」

 怒った?
 ゾンビ船長が口を開けて、肺を動かしたのでしょうか。
 叫び声のような音を出しました。
 さっきの笑顔といい、この怒りといい、どうやら船長は知性の様なものがあるようです。

 音と共に動きが速くなりました。
 でも、そのスピードは、普通のゾンビより少し速い程度。
 普通の人間程度です。
 船長は私に近づくと、私を捕まえようと手を伸ばします。
 何度も何度ものばします。

 私は、コスチュームのアシストで船長の攻撃を軽々とよけることが出来ます。

「廣瀬殿、もういい。わかった。わかった! 次は俺の出番だ!」

 橋の中央を長くて太い槍を持ち、赤鬼の様な柴田様が近づいてきます。その顔には不気味な笑顔があります。
 白い光が、柴田様の足下に長い影を作り出します。
 私は、バク転を数回すると、柴田様の横に立ちました。

 柴田様は、船長を見ていません。
 視線の先は……
 視線の先は……
 私のゆれる胸を見ています。
 せっかく、かっこいいと思っていたのにー!!
 台無しです。
 あれ、船長まで見ているような気がします。
 まさかね。

「パユンパユンだ!」

 赤い顔をして、柴田様が言いました。

「プリンプリンです!!」

 前田様が訂正します。
 はああぁぁーー! どっちでもいいわ!! です。
 まあ、その位余裕という事でしょうか。

「さて、我らがヒロインの出番は終わりだ。手下の柴田がお相手仕る。いくぞーーー!!」

 柴田様が槍を目一杯ふりかぶります。
 船長は馬鹿なのでしょうか、まだ私の胸を見ています。
 私の胸ってそんなにすごいのかしら。
 大殿は全然見てくれませんよ。

「どりゃああぁぁーーー!!!!」

 船長を、柴田様の槍が一刀両断しました。
 船長の体が二つに分かれます。
 ですが、船長の体からは汁は出ません。
 二つに別れた顔が、ニタリと笑いました。
 あきらかに笑っています。

 そして両手の指を組みました。
 腕に力が入りました。
 二つに分かれていた体が、ピタリとくっつきます。
 すると、切れ目が一瞬で消えて元通りになりました。

「な、なにーー!?」

 柴田様が、驚きの声を上げました。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

勇者から逃亡した魔王は、北海道の片田舎から人生をやり直す

栗金団(くりきんとん)
ファンタジー
「ふははは!さぁ勇者よ、開戦だ!」 魔族と人間が対立して1000年。 災厄と呼ばれる魔王がいる魔王城に、世界平和を取り戻すため、勇者一向が訪れる。 城に攻め入り四大幹部を打ち倒した勇者は、ついに魔族の頂点に君臨する「転移の魔王」とあいまみえる。 魔族を倒すことに特化した聖魔法の奥義魔法を使い、勇者は魔王を追い詰める。 千年間生きていて最大の危機に、魔王は前代未聞の「逃走」を選択する。 そして、異世界で最強種族の頂点にいた魔王は現代日本に転移する。 命からがら転移するも大気圏から落下して重症の魔王は、怪我をした動物と間違われて少年に拾われる。 この物語は、魔族としては初めて勇者から逃亡した魔王のその後の物語。 そして、新しい世界で初めて魔族と出会ったとある少年の話だ。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【完結】魔導騎士から始まる、現代のゴーレムマスター

呑兵衛和尚
ファンタジー
 異世界での二十五年間の生活を終えて、無事に生まれ故郷の地球に帰ってきた|十六夜悠《いざよい・ゆう》  帰還時の運試しで、三つのスキル・加護を持ち帰ることができることになったので、『|空間収納《チェスト》』と『ゴーレムマスター』という加護を持ち帰ることにした。  その加護を選んだ理由は一つで、地球でゴーレム魔法を使って『|魔導騎士《マーギア・ギア》』という、身長30cmほどのゴーレムを作り出し、誰でも手軽に『ゴーレムバトル』を楽しんでもらおうと考えたのである。  最初に自分をサポートさせるために作り出した、汎用ゴーレムの『綾姫』と、隣に住む幼馴染の【秋田小町』との三人で、ゴーレムを世界に普及させる‼︎  この物語は、魔法の存在しない地球で、ゴーレムマスターの主人公【十六夜悠】が、のんびりといろんなゴーレムやマジックアイテムを製作し、とんでも事件に巻き込まれるという面白おかしい人生の物語である。 ・第一部  十六夜悠による魔導騎士(マーギア・ギア)の開発史がメインストーリーです。 ・第二部  十六夜悠の息子の『十六夜銀河』が主人公の、高校生・魔導騎士(マーギア・ギア)バトルがメインストーリーです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...