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第二百三十話 威風堂々

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「さて、人選だが……」

 あずさが、砂糖の目玉焼きを上杉から一口もらって、俺を見つめている。「うまーい」と言う表情のままこっちを必死で見ている。かわいい。行きたそうだなー。
 だが、駄目だ。危険すぎる。

 ――あぶねー。一瞬連れて行こうかと思った。

 あずさのヤロー、いつの間にやら自分の可愛さを武器にしている。

「あずさと、ヒマリ!」

「はい!!」

 二人が、嬉しそうに返事をする。

「二人は俺が留守の間、この城の城主様だ。大阪にいる者達への接待を命じる。俺が苦手なことだ。かわいい二人に頼みたい。頼りにしているよ」

「……は、はい」

 しょんぼり、してしまった。

「心配するな、二日か三日で帰ってくる。ハルラと会うわけじゃ無いのだからな」

「……」

 二人は浮かない顔だがうなずいてくれた。

「スケさん、カクさん、響子さん、カノンちゃん、同行していただけますか」

 俺は、この四人にお願いした。

「はっ!」

 四人は重々しい雰囲気で返事をした。
 だが、返事とは裏腹、目がキラキラ輝いている。喜んでいるようだ。
 いちおう、殺されないとは言ってみたものの、明智がどんな男か分からない。世の中には糞野郎も多くいる。危険な仕事だけど、わかっているのかなあ。

「では、大殿行きましょう」

 上杉が、コーヒーカップを置くと言った。
 食事は終ったようだ。
 結局、上杉のパンは、ヒマリちゃんとアドにも取られてしまって、あまり食べられていない。
 旅の途中でおやつでも食べよう。

「うむ、だが今から俺は、上杉の護衛のシュウだ。間違っても大殿とは呼ばないようにな」

「はっ、申し訳ありません」

 上杉は真面目だからなあ。それが、駄目なんだよなあ。俺は手下なのだから……追々慣れてもらうしか無いか。

「見送りはいらない。あずさ、城の外までたのむ」

 あずさに外まで送ってもらうと、五人にアンナメーダーマン、アクアの装備をしてもらい、高速で走り出した。
 最初に、上杉の陣に寄り遺髪をカバンに詰めて俺が背負った。

「皆さん、この中では俺が……私が一番下端です。荷物運びのシュウです。よろしくお願いします」

「はっ、はい。よろしくお願いします」

 上杉が頭を下げた。

「上杉様、駄目ですよ。私みたいな者に頭を下げては、貴方が今は一番偉いのですから」

 俺は、上杉の尻を叩いた。

「ひゃ、ひゃい。わか、わかりました」

 大丈夫かなあ。





「止まれーー!!」

 関所を見つけて、高速移動をやめてゆっくり歩き出した。
 丹波へ続く道は少ない。
 全てに関所を作ってもたかがしれている。
 丹波というのは、なかなか守りやすそうな場所だ

 関所を守る番士に呼び止められた。
 旗に明の文字がある。
 明智家の関所で間違いないだろう。

「我々はあやしい者ではありません。木田家の使者でございます」

 上杉が代表して丁寧に言った。
 番士は上杉の顔を見て一瞬驚いた。
 そして、スケさんとカクさん、響子さんとカノンちゃんの顔を見て、さらに驚いている。
 そして、俺の顔を見てほっとしている。
 って、おい!!

「ふん、あやしい者ではないと言う奴は、たいていあやしいんだよ」

 あはは、間違いない。

「何が目的だ!」

「おい、シュウ!! 何をしている。ぼさっとするな。お見せしないか!」

 上杉が怒鳴った。

 ――えーーーーーーっ!!

 う、上杉の奴、完璧じゃねえかー。

「も、申し訳ありません。上杉様! お役人様、これをご覧下さい」

 俺はカバンを開けて中を見せた。
 上杉はこっちを見ると、番士に見えない様に手を合せている。
 眉毛が下がり情けない顔になっている。
 俺も番士にわからないように手を振って、わかった、わかったとやっておいた。

「何だこれはー?」

 番士が数人集って来た。

「あーーっ!!!!!」

 一人の番士が大声を上げてひざまずいた。

「皆の者控えろ、この方は、上杉謙信様だ。これは、先の戦いで死んでいった我軍の兵士の遺髪だ!!」

「貴方は?」

「はっ、先日の戦いに荷駄隊で参加しておりました者で、この班の班長です。上杉様自らお越しとは、どうぞこちらへ」

 明智家の家臣は俺達をいきなり殺す気は無いようだ。
 ひとまずは、安心と言う事か。
 少し立派な建物に案内された。

「どうぞ、どうぞ」

 班長は笑顔で、扉を開けて上杉を中へ招き入れた。
 スケさん達も一緒に通された。

「何をしている! シュウ!」

 後ろから声がした。

「えっ!?」

 俺もついて行こうとしたら、襟首をつかまれた。

「使用人はこっちだ!」

 扉は通して貰えず、庭の隅に座らされた。
 ここからなら、部屋の中の五人の姿が見られる。
 って、おーーい。まあいいか。俺にはお似合いの扱いだ。
 むしろ、いごこちがいい。

 庭の前のサッシのガラス戸が開き、上杉が手招きをしてくれた。
 俺は入れてくれると思って笑顔で駆け寄った。

「シュウ! カバンだ!」

 上杉が言った。
 俺は、あわててカバンを上杉に渡した。
 渡した瞬間サッシのガラス戸はピシャリと閉められた。
 俺はすごすご、庭の隅にもどった。
 まあ、いごこちがいいからいいけどね。

 部屋の中では班長と、上杉が談笑している。
 上杉の姿は堂々としていて、キリッとした顔には威厳を感じる。
 ふむ、いつものイメージと全然違う。

「ありゃあ、上杉謙信の生まれ変わりに見えるなあ」

「本当ですなあ。笑っている顔を見ているだけでも、震えるほどの恐さを感じます」

 正座して控えている俺の横で、見張りの番士がつぶやいた。
 威風堂々って奴か。俺には全くねー奴だ。
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