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第二百二十四話 雄姿

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 大阪城南側の戦場で戦うのは、木田軍最強の精鋭である。
 赤い真田の部隊は三百人の重装歩兵だ。
 機動陸鎧と当世具足の中間の性能と大きさの鎧で、攻撃力と防御力のバランスがいい。
 そして、黒い当世具足は七百人、尾張と藤堂の部隊だ。見た目は戦国時代の甲冑で、機動性、攻撃性を重視してあり、防御力はその分落ちる。

 黒い当世具足隊と、赤い重装歩兵隊が、パッと引き新政府軍十番隊との距離を取った。
 すでに、新政府軍十一番隊の兵士は、千人以上倒れたまま立ち上がれなかった。それを補充するように、城から千人の援軍の姿が近づくのが見える。

「どうした? なにがあった?」

 状況がわからない新政府軍の兵士達が慌てている。
 引いた、木田軍は左右に分かれ一本道を作ると、膝をつき頭を下げた。
 その中央に一つの人影が歩いている。
 荒野の具合を確かめるように一歩ずつ確かな足取りで近づく。

「何者だーー!!」

 援軍で駆けつけた部隊の隊長が叫んだ。

「俺かー! 俺は、お尋ね者のアンナメーダーマンという者だ。だが木田家では、正義のヒーローと言われている」

 落着いた口調で言った。

「アンナメーダーマン……アンナメーダーマン」

 新政府軍の兵士がザワザワする。
 アンナメーダーマンは足を止めること無く進み。
 木田軍の中央を通り過ぎた。
 たった一人で、臆すること無く敵軍に近づく。

「全軍整列しろ!!」

 援軍の隊長が声を上げた。
 その言葉を聞くと、呆然としている兵士達が我に返り、倒れている兵士を後ろに運び、グチャグチャに乱れていた隊列を組み直した。だが援軍の兵士以外は、満身創痍で立っているのもつらそうだった。

 すでにアンナメーダーマンは、木田軍と新政府軍の中間まで進んでいる。

「き、貴様は、正気なのか?」

 ずいぶん減ってはいるが、援軍を加えると三千弱はいる。
 そこに、武装もせずジャージ姿で、近づいてくるのだ。
 驚くのも無理は無い。

「そろそろ、いいぜ!」

 敵軍の部隊長の質問に、俺は正気だと答えるようにいった。
 そして、あおるように手招きをする。

「ふっ、ふざけるなーーー!!」

 ツバを大量に飛ばして、部隊長が叫んだ。

「来ねーなら、こっちから行くぞーー!!」

 アンナメーダーマンは叫ぶと、走り出した。

「ころせーーー!!!!!」

「おおおおおおおおーーーーーー!!!!」

 三千人が雄叫びを上げると走り出した。
 新政府軍十一番隊全員の目が血走って真っ赤になっている。
 痛みのためかフラフラしていた兵士まで、元気いっぱいになっている。

 整列していた兵士達が、一本の槍のようになりアンナメーダーマンにむかった。

 ドン、ドン

 後ろにいる兵士達には何が起きているのか解らなかった。

 ドッ、ドッ、ドッ

 音の間隔が狭くなる。

 ドドドドドドドドーーー!!

 とうとう滝のような音になった。

 そして、最後尾の兵士達にも何が起きているのかわかった。

「ひ、人が降っている」

 大量の兵士が宙に放り上げられ、落ちているのだ。
 最後尾の兵士が言い終わった時には、その降ってくる兵士に押しつぶされた。

「な、なんなんだ!? お前はーーー!! お前はなんなんだーーー!!!」

 部隊長が震える唇で言った。
 アンナメーダーマンは、部隊長の顔にキスが出来るほどに近づき言った。

「アイ、アム、アン、アメーバーマン」

 アンナメーダーマンはそれをネイティブな言葉で言った。

「……アンナメーダーマン」

 隊長にはそう聞こえたようだ。
 アンナメーダーマンは、隊長には何もせず通りすぎた。
 だが、隊長はガックリ、ヒザを折るとふたたび立ち上がれなかった。
 アンナメーダーマンの後ろには、三千の兵の横たわる姿があった。
 数分はかかっていたはずだが、見ている者には数秒に感じられた事だろう。

「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」
「あれだーー、あれがアンナメーダーマンの力だーーー!! あれがアンナメーダーマンの強さだーーー!!!!!」
「あ、あれこそが我らの大殿だーーーーー!!!!」
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」

 アンナメーダーマンの後方の木田軍から歓声が上がった。

「きゃああーーーー!!! かっこいいーーー!!!」

 通天閣の中でも黄色い歓声が上がっていた。
 アンナメーダーマンは、何事もなかった様に歩き出すと、一度だけ大阪城を仰ぎ見た。

 大阪城天守閣に向うアンナメーダーマンの姿を見ると、城を護るはずの守備隊の兵士達は震え上がり何も出来なかった。
 それどころか、逃げ出す者まで出る始末だ。
 アンナメーダーマンはそれを狙っていたのかもしれない。

 パーーン

 銃声がした。

「やれやれだぜ。まだ銃を持っている奴がいるのか。ジャージに穴があいちまったなあ」

 撃った兵士の横へ一瞬で移動すると、穴の上をはたきながら言った。

「ひっ、ひぃぃぃぃぃーーーー」

 腰が抜けたようになり、尻餅をついたまま逃げ出した。
 ヘルメットのため、アンナメーダーマンの表情がわからない。
 まわりにいる兵士達は、それが気持ち悪かった。

「銃も効かねえのか、まったく本物のバケもんだなあ」

 一人の男が近づいてくる。
 よく日に焼けた黒い肌の、神経質そうな男だった。
 だが、眼光だけはやけにするどい男だった。

「辻隊長だ!!」「隊長だーー!!」

 まわりの兵士から歓声が上がった。

「全ぐーーん!! てったーい!! おい撤退だ逃げて行け!」

 隊長は、横で呆然としている。部下の足を蹴った。

「いい判断だ。隊長あんたは逃げねえのか?」

「ふふふ、せっかく会えたんだ。少し遊んでくれねえか」





 やっべーー。なんだこいつ、ちょーこえー。
 外の兵士は、上に持ち上げたら、たまたま、あんなことになったが、そもそも俺は人を殴れねえんだよ。

「俺は先を急いでいる。邪魔をしねーでくれ」

「なあ、あんた、部下は全員殺してしまったのか?」

「さあな、殺そうとは思っていねえ」

 なんだこいつ、ぶっ飛んでいると思ったが、部下の心配をしてヤーがる。良い奴なのか。

「そうか。なあ、あんた。どこへ行く気なんだ」

 俺は、応える代わりに大阪城天守閣の最上階を指さした。
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