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第二百六話 世界で一番安全な場所

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 シュウ様は私の事を傾国の美女とまで評して下さいました。
 嬉しすぎて、涙が滝の様にこぼれそうです。

「シュウ様はとてもお優しいですね。連環の計でそんな解釈をするなんて」

「響子さんは、三国志演義の王允の連環の計を、ご存じなのですね」

「はい。あれは、美女が悪者ですよ」

「いいえ。権力者は、欲を捨てなくてはいけません。重臣がほれている女性は、決して自分の側に置いてはいけないのです」

「では、その重臣がもう必要なくなってしまったら、その美女をどうするのですか?」

「簡単です。美女の、のぞむまま自由にさせて上げます。自由に恋愛が出来なかった可哀想な女性です。思うまま存分に自由に生きて欲しいですね」

「わわわ、私の話ではありませんが、その美女がシュウ様の嫁になりたいなんて言ったらどうしますか?」

「ふふふ、そんなことは、決してありません。見てくださいこの姿を、アニメのように悪い魔女にこの姿にされた訳ではありません。生まれつきなのですよ」

 シュウ様は、すごく悲しそうな顔になりました。きっと過去に容姿を女性に酷く言われていますね。
 トラウマになっているようです。かわいそうすぎです。
 でも、私はシュウ様の心に傷を付けてくれた女性に、感謝したい気持ちで一杯です。
 おかげで、その閉ざした心を開けることが出来た女性が、いまだにいないと言うことです。

 シュウ様の容姿を初めて見た時は、私も気持ち悪いと感じました。でも、心の中を知ってからは、全く気にならなくなりました。それどころかかわいいとさえ感じます。
 シュウ様の心の傷を何とか、いやして差し上げたいものです。
 私は、思わずシュウ様の腕につかまりました。

「!?」

「どうしました。体が震えていますよ」

「いいえ、何でもありません」

 私は、シュウ様の腕をそっと離しました。
 腕につかまった瞬間、すごい殺気を感じました。
 舞台の上から、そして背後から、周囲から。

 ま、まさか、シュウ様は皆から……ここにいる人達全員から狙われているのですか。ゆっくり舞台を見ました。そこには大勢の美女が座って食事をしています。ま、まさかあの人達全員が狙っているのですか。
 後ろを振り返りました。カノンとヒマリがいます。
 背後の殺気はまさかこの二人。
 周囲には大勢のメイドさんがいます。この人達も殺気を出していたのですか。

 腕を離した瞬間殺気は消えました。
 それでも全身の震えが止まりません。
 でも、私もゆずるきはありません。
 震えは止まりませんが、もう一度シュウ様の腕につかまり、胸を押しつけました。

「ふふふ、響子さんは、ゲンが恐いのですね。大丈夫です。ゲンは女性と子供には滅茶苦茶やさしいですからね」

 シュウ様は、いつも優しいです。
 あっ、カノンまで私の真似をしています。
 さ、殺気が一段と強くなりました。カノンも体が震え出しました。
 うつむいて耐えています。でも、手を離す気は無いようです。

「兄弟、もてもてだなー」

 ――ぎゃああああーー!!

 な、な、な、何ですかー。この方はーー!!
 恐さが、異常です。
 まわりの殺気など、もうどっかへ飛んで行きました。
 シュ、シュウ様につかまっていないと、立っていられません。

「ゲン、この四人を紹介したくてな」

「ほう」

 ゲンと呼ばれた金髪の美青年は、歳は二十代なかばでしょうか。
 顔は、少女のように美しいのですが、目が恐いです。
 すべてを吸い込みそうな、暗い瞳です。
 ブラックホールのような瞳です。
 会話の流れから、笑顔でも良さそうなのですが、表情が人形の様に変化しません。
 体から出ているエネルギーの様なもの、オーラとでもいう物でしょうか。それがとても強いです。

「おい、カノンちゃん、大丈夫か?」

 カノンの腰が抜けて、立てなくなったようです。
 私も抜けそうですが、なんとか頑張っています。

「おい、ゲン!!」

「おい、ゲンといわれてもなー、おりゃあ、何にもしてねーぜ!」

「ゲンおじ様は、顔が恐いのよねー。はい、これで大丈夫」

 すごい美少女が、ゲン様のヒザの上に座ってニコニコしています。
 本当です。恐さが半減しました。
 カノンも立ち上がりました。
 何でしょうか、この少女は、恐れを知らない子なのでしょうか。

「ふふ、あずさちゃんにはまいるぜ。で、兄弟、この四人は?」

「うむ、ハルラと戦う時に連れて行く四人だ。俺の最期を見届けてもらう」

「そうか。おれじゃあ駄目なのか?」

「あたりめーだ。ゲンには、俺が死んだ後を託してーからな」

「ふむ」

「順番に紹介する。この女性が、響子さん。ヒマリのお母さんだ」

 私は、深々と頭を下げた。
 最期を見届けるって、一緒に死ぬのではないのですね。
 シュウ様は、すでに私達を生かそうと考えているみたいです。
 どこまでも優しいお方ですね。
 でも、本当は「一緒に死んでくれる四人だ」と言って欲しかったです。

「お、おい。ヒマリちゃんのお母さんって、おめえ……」

「大丈夫です」

 ヒマリはきっぱり返事をしました。
 少しかわいいことを鼻にかけた、わがままで嫌なお嬢様だったのに、素敵な美少女に変わっているみたいです。
 シュウ様のおかげですね。

「こちらが、カノンちゃん。ヒマリちゃんのお姉さんだ」

 カノンが頭をやはり、深々と下げました。その顔に心からの笑顔があります。美しい良い笑顔です。
 薄幸の娘でしたが、シュウ様のおかげで、こんな笑顔が出来る様になったのですね。

「お、おい。兄弟!!」

「大丈夫です」

 ゲン様が慌てていますが、ヒマリは動じていません。
 良い娘に育っています。

「こっちは、スケさん」

「十田スケです。よろしくお願いします」

 なんですって、トダスケって、ちゃっかり名字を同じにしています。
 しまったー。私も十田響子と言えばよかった。

「あっ、私は十田楓音です」

 なんですって、カノンまでトダカノンと言いました。
 私も、言わなくては、でも……。いまさら……

「ははは。じゃあ、響子さんは十田響子だなあ。そうだろ兄弟」

 うわあ、ゲン様、なんてお優しい。
 シュウ様の次に好きになりそうです。

「はい」

 私は、返事をしました。
 でも、声がすこし大きくなってしまいました。
 恥ずかしくて、顔が熱くなります。

「はぁ……、スケさん……」

 シュウ様が情けない顔をして、スケさんを見つめます。

「ふふふ」

 私とスケさんとカノンに笑みがこぼれます。

「最後が、トダカクさんです」

 シュウ様があきらめて、自分からカクさんに十田の名字を与えました。
 シュウ様もやはり、お優しい。もはや私の中ではシュウ様は至高のお方になっています。
 カクさんの目に、涙が少し溜まってウルウルしています。

「十田カクです。よろしくお願いします」

「ふふ、十田家四天王か。こちらこそ、よろしく頼む。ところでヒマリちゃんは平気なのか」

「はい。母も姉も少し、ネジがぶっ飛んでいます。とうさんのそばがこの世界で一番安全です」

「ははは、ちげーねえ」

 ななな、なんですってーー。
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