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第二百二話 今日は何日

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 南へ進むと、すぐに人の気配は無くなった。
 山の中に東西に進む道を発見し、そこを東に進む。
 307号という、標識がある。
 山に囲まれた、片側一車線の舗装道路だ。
 山は相変わらず、道路沿いは雑木に覆われている。

 こんなところを分け入って、走り回ったのかと思うと我ながらよくやったと思う。



「信楽? しんらく?」

「うふふ、しがらきです。焼き物の町です」

 響子さんが答えてくれた。

「じゃあ、お皿や、茶碗が手に入るということですか」

「はい」

 この道は、両サイドに民家がちらほらあり、人の生活のにおいがする。

「おおお!! あれは!!」

 工場の前にある、陶器の直売所の前を、掃いている人を発見した。

「おばあさん、こんなところで何をしているのですか」

「見たままじゃ、掃除じゃよ」

「盗賊とかは、大丈夫ですか」

「ははは、自警団もいる。いまのところ大丈夫じゃ」

 どうやら、ここは人がまだ残っているようだ。
 畑もあり、食べるものが自給できているようだ。

「すごーい、タヌキ、かわいい」

「おばあさん、このタヌキは売り物なのですか」

「元売りものじゃ、今は誰にも必要とはされていないだろうのー。ほしければ持っていくか?」

「本当ですか? ほしいです。なんだかシュウ様みたい」

 響子さんとカノンちゃんがでかいのを両手に抱えた。
 スケさんとカクさん、アドまで抱えた。
 ばあさんが目を細めて見ている。
 うれしいのかな。

「ただ、という訳にはいきませんねー」

「ははは、金なら要らんぞ。使い道などないからのう。気にせず持っていったらいい」

「じゃあ、これなどどうですか」

 俺は、カバンから羊かんと醤油と砂糖を五個ずつ出した。

「おおお、これは! よいのか?」

「どうぞ、タヌキのお礼です」

 喜んでもらえたようだ。
 大きなタヌキを抱えた五人を、ばあさんはずっと手を振って見送ってくれた。
 しかし、シュウ様みたいって言われて、あの未来から来た青いロボットの気持ちが少しだけ理解出来た。

 ――おれは、タヌキじゃねえー。豚だー。

「うふふ、豚ならもっと良かったのに」

 響子さんが嬉しそうに言った。
 ばあさんから見えなくなると、それぞれが収納魔法で収納した。
 途中甲賀流忍術何とかと言う看板を見つけ、そこにも足を伸ばした。
 このあたりは、甲賀と言う事らしい。

 のんびり観光していたため、名古屋城に着くのに数日かけてしまった。

「とのーー!!」

 何やら、全員大あわてだ。
 事件の予感がする。

「今日が何日かわかりますか」

「おう……」

 おうと言ってしまったが、わかんねー。
 こんな世界に何月何日もねえもんだ。

「12月31日です」

 カクさんが耳元で教えてくれた。
 そして、腕時計を見せてくれた。

「ふふふ、12月31日午後3時50分だ。すでに薄暗いな」

「全く、あずさ様は朝まで待っていましたが、すでに出かけましたよ。すごく怒っていました」

「えっ!?」

「えっ、では有りません。明日は木田本城にて、大評定があります。皆さん準備のため本城にいかれましたよ。残ったのは、私と斎藤と、東と藤堂殿だけです」

 加藤も少し怒っているようだ。

「じゃあ、先に行って良いぞ。俺は休む」

「とーーさん!!!!」

「ぴゃーーー!!!」

 あずさが、凄い顔でにらんできた。
 こ、これは相当怒ってらっしゃる。
 折角かわいいメイド服なのに台無しだ。

「とうさんが帰って来ている予感がして、のぞいて見れば、そんなこと言って。許しませんよ!!」

「か、かわいい。近くで見ると余計にかわいいです」

 響子さんとカノンちゃんが、あずさに顔を寄せて見つめている。

「ま、まあ! あ、あのー、この方達は?」

 あずさは真っ赤な顔をしている。
 怒った顔より、その顔の方がいいぞ。

「ああ、途中で拾った。命を預けてもらった人達だ」

「と、途中で拾ったって。犬や猫じゃあるまいし。しかも、美人だし。って、滅茶苦茶美人だし」

 あずさも、目を見開いてまじまじと見ている。
 見過ぎだよ。さすがに。

「加藤さん」

「はっ」

「とうさんを、お風呂に入れて準備をさせて下さい。明日の朝、迎えに来ます」

「はっ」

「えっ、何? アドちゃん」

 アドがあずさのスカートをひっぱった。

「信楽焼のタヌキ?」

「お土産ニャ」

「わあ、ありがとう。とうさんみたいって、とうさん、遊んで来たの?」

 ぎゃーー!! あずさの顔が怒りに満ちてきた。少し顔が赤くなってきた。怒りの赤だ。
 アドめーー。何てタイミングでだすんだよーー。

「ぴゃーー!!」

 だめだーー。あずさが激怒しています。恐い。
 俺は、助けてもらおうと、お供五人を見た。
 アドは、あずさに頭を撫でられて上機嫌で、俺の事など眼中に無い。
 四人は、うつむいてしまった。
 あずさが恐いんだ。

「くっくっく」

 肩が震えだした。
 なーーっ、笑っているのかーー。

「今は、忙しいので話しは後です。本城は猫の手も借りたいぐらい忙しいので、アドちゃんは借りていきます」

 あずさはタヌキを持って、アドと名古屋城の屋根に移動して、金のしゃちほこの背に、タヌキをおいて、手をかざし何か魔法をかけて、消えてしまった。
 どうやら、本当に忙しいようだ。本城に移動したのだろう。よかった、よかった。

 タヌキの焼き物は、金シャチの背でこっちを見ている。
 きっと、落っこちないように防御魔法でもかけたのだろう。

「はーっ! こんなことなら、もう二、三日遊んでくればよかったよ」

「なっ、なんですと!!!!」

 ぎゃーー、加藤まで激怒させてしまった。
 もともと、恐い顔なのに、もっと恐くなったよ。
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