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第百八十五話 普通の人

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「ぎゃあーはっはっはっ! 貴様らの負けだ馬鹿め!」

 賊のかしらが、笑い出した。
 なぜか勝ち誇っている。
 いったい何があると言うのだろうか。

「みんな、何があるかわかりません、変身して下さい」

「はい。オイサスト! シュヴァイン!」

 三人は全員アンナメーダーマンアクアに変身した。

「なっ、変身しただと、全員武器を取り攻撃しろ!!」

 賊はリヤカーの段ボール箱から、銃を取り出し構えた。
 どうやら、これが賊達の切り札だったようだ。

「死ねーーー!!!」

「かしらーー、弾が出ません!!」

「なにーーっ、安全装置とか有るだろう、ちゃんとやったのかーー」

 それでも出ないだろうなー、弾がないから運んでいる途中だからなー。

「くそおーー」

 賊が武器を投げ捨てた。

「ば、馬鹿もん、投げ捨てるんじゃねえ。拾って箱に戻さねえか」

 爺さんが怒鳴った。
 恐いのはどこかへ飛んで行ってしまったようだ。

「おお、す、すまん、すまん」

 賊は素直に投げ捨てた銃を、拾って箱に戻した。

「ば! ばっかっもーーん!! 十一番の箱から出した物は十一番、十二番の箱から出した物は十二番に戻さんかー! 適当な仕事をするなー!!」

 爺さんの声がさらに大きくなった。
 いちばん、いい加減な仕事をするくせに威張っている。

「おお、そうか。すまん。お前達ちゃんと元通りに戻すんだ!」

 かしらの言葉で全員が素直に元通りに戻し始めた。
 もしかして、こいつら、いい奴なのか。

 違うな、この人達も隕石騒ぎの前までは、普通の会社員だったのか、それとも自営業だったのか、普通の人だったのだろう。日本では普通以外の人を探す方が難しかったのだから……。

「スケ……カクさん、響さん、カノンさん。怪我をさせないように手加減をして下さい」

 あぶねーー。また間違えそうになった。
 どうしても、最初はスケさんを言いそうになる。
 たぶん、あのドラマの影響だな。
 三人が、肩を揺らしている。

「はい、わかりました」

 三人の返事が合わさった。

「ふざけているのか。かまわねえ。やっちまえーー」

 かしらが叫ぶと賊達は、三人に襲いかかった。

「ぎゃああーーー」
「いてえーーっ」

 悲鳴が上がった。

「お、おいおい」

 賊は武器を持っている者の方が少ない。
 大半が素手だ。素手の男達が渾身の力で殴りつけた為に、拳が大変な事になっている。拳が血だらけの者までいる。
 まだ、三人は構えてさえいないのだ。
 この状態に爺さんはあきれて声をだしていた。

「うっ、うわあーー!!」

 賊が逃げ出した。

「がっ」
「ぐはっ」
「げぼっ」

 逃げた賊を追いかけて、三人は次々と腹にパンチを出した。
 殴られた者は全員倒れ込み、腹の物をぶちまけた。
 全員、腹の中が空っぽなのか、胃液だけが道路のアスファルトを汚していた。

「どうですか? 力の違いがわかりましたか」

「なにを言いやがる。てめーは何もしていないじゃねえか」

「ふふふ、シュウ様は俺達三人が同時にかかっていっても勝てねえほど強いが、誰か試して見るか!」

 カクさんが言った。

「……」

 賊達は静かになった。
 爺さんまで、目玉をひんむいている

「皆さんは、あのリヤカーを見て襲って来ましたが、それがどういうことかわかりますか」

 リヤカーには、銀色のボディーに黒のペンキで新と書いてある。
 新政府軍のリヤカーと遠くからでもわかるはずだ。

「殺すのなら、さっさとやれ。覚悟は出来ている」

「皆さんは、大和の人ですか?」

「それがどうした。俺達は生まれも育ちもこの大和だ」

「そうですか。よかった。実は俺は、大和の解放軍に知り合いがいます。皆さんもこんな所で山賊などしていないで、それに参加してみてはどうですか」

「な、なんだって! ……だが、できねえ……」

 一瞬明るい顔になったが、すぐに暗い顔になった。

「それは、何故ですか?」

「子供達をおいていけねえからだ!!」

「なっ、なんだって!!」

 俺は、抱きついて心の友よと叫びたいのをぐっとこらえた。

「この山の裏に、子供達をかくまっている。だから、行けない。病気の子供もいるんだ」

「おい、アンちゃん、リヤカーの食いもんを全部渡してやるんだ。カクさん達も食糧があるなら全部出すんだ」

「おいおい、爺さん大阪までは、まだ、ずいぶんある。食糧無しじゃあ、つらいぜ」

「なにを意地汚いことを言っておる。大人は二日や三日飯を抜いても死にゃあせん。全部子供達にやるんだ。わかったな。わしは班長じゃ。班長命令じゃ」

 ふふふ、全く憎めない爺さんだぜ。
 初日、意地汚くズルして二回も、飯を食っていた人間の言い草とはおもえねえ。

「と言う事だ。持って行ってくれ」

 俺達は、賊の前に食い物を置いた。

「何ということだ。殺そうとした俺達にこんな……」

「すぐに食わしてやるんじゃ。病気の子供には、一番栄養のある物をな!!」

 なんだか、爺さんがかっこよく見える。

「ありがとう!」

 そう言うと賊の子分達は、山の中に消えた。
 だが、かしらだけは残っている。

「聞かせてくれ、大和の解放軍の事を」

 俺は、柴井班長の事や、元気に暮らす子供達のこと、そして、守護神アンナメーダーマンシールドの事を教えてやった。

「すごーーい。すごいです。すごすぎです。シュウ様は私達が、国道の見張りをしている時に、すでに解放軍を作り、子供達を助けていたのですね」

 響子さんが男のフリを忘れ女の子になっています。
 それだけではありません。カノンちゃんもカクさんも、響子さんと同じ目をして見つめてきます。

「いえ、たまたま、成り行きです」

「いいえ、そんなことはありません。シュウ様は素晴らしい人なのです。もう、一生付いていきたい気持ちです」

 カノンちゃんもカクさんも激しくうなずいている。
 まるで愛の告白だなあ。
 でも、俺はだまされない。これでうっかり、付き合ってくださいなどと言おうものなら、きもーーって言われるのが落ちなのだ。
 わかっちゃいるけど、言ってみてーーー!!
 そして、人生初めて「うん」と言ってもらいてーー。

 ああ、本音が出てしまった。
 気を取り直して、賊のかしらの方を向いた。

「かしら、俺はあんたらも、子供達も救いてえ、あんたらの住みかを見せてくれねえか」

「……」

 かしらは考え込んだ。そりゃあそうだ、初対面の俺を信じられる訳がねえ。

「ふふふ、日本がこんな風になっちまうとはなあ。なあシュウさん聞いてくれるか」

 賊のかしらが話し始めた。
 どうせ、時間もあるし、のんびり話しを聞いてみたい。
 俺が聞く姿勢になったのを見て、カクさんも響子さんもカノンちゃんも爺さんも、かしらの前に座り話しを聞く姿勢になった。
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