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第百六十八話 伊勢神宮へ

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店を出ると、俺は伊勢神宮へ行く決心をした。
無意識で口から出た言葉だが、無意識の中に伊勢神宮があったのなら行った方がいいと考えたのだ。
ひょっとすると、大阪で命を落とすかもしれない。
最後に一度だけでも日本の最高神様に、あいさつがしておきたいと思ったのだろう。

「皆さんまずは、お伊勢さんへ行きたいと思います。でも、道中はだいじょうぶかなあ?」

「うふふ、大丈夫ですよ。鈴鹿までは尾張の大田家が安全を確保してくれています。鈴鹿から伊勢神宮までは津の藤堂家が、安全を確保してくれています。お伊勢参りは女一人でも安心して行く事が出来ると言われています」

「そ、そうなのですか」

「はい、藤堂家のお殿様は民衆にも慕われる良い方と聞いています」

さすがは、名士の夫人だ。
よく知っている。
って、何で俺が知らないんだ。
あー、俺そういうのあんまり興味ないから、良きに計らってくれたのだろうなー。

「こんな崩壊した世界で、市民に慕われる殿様ですか。藤堂さんとは良い方のようですね。会うのが楽しみだ」

「あっ、会えませんよ。殿様ですから」

うわーーっ、何を言っているんですか的な顔になっている。
そりゃあそうだ。殿様は偉いんだ。どこの馬の骨とも分からねえ奴に会ってくれる訳がねえ。

「で、ですよねーー」

不審がられている。
この四人、意外と頭が切れそうだ。
正体がすぐにばれそうだ。気をつけなきゃあだね。

一号線から近鉄四日市が見えた。
反対を見ると四日市駅がある。
発展しているのは近鉄四日市駅で、四日市駅の方はとても懐かしい昭和な感じがする。
両駅に距離があるので列車を走らせるのにどちらがいいのか悩んでしまう。
両方の駅に入ってみたが、治安隊に止められることはなかった。
やはり女性が二人いるだけで危険人物認定をされないのだろう。

四日市で一号線とは、おさらばして二十三号線に入る。
伊勢街道という国道だ。
片側二車線の立派な道だ。悪く言えば情緒も何も無い。
フラフラと国道を離れ、一本横の生活道路を歩いてみる。
もう誰も住んでいない住宅街は、静かで裏寂しさを感じる。

住宅の庭に、オレンジ色の実がなっている。
完熟した柿だ。
折角なので一つもらって食べてみた。
最初は甘さを感じて美味しい実かなと思ったら、後から渋が来た。
口の中が、一カ所に集るような不思議な味だ。

「くーー、渋柿なんて初めて食べた。一度は経験しておいた方がいい味だね」

「本当ですね」

響子さんがすごい表情をしている。
まるでウメボシを食べたような顔だ。
きっと、初めて食べたのだろう。
他の三人も凄い顔をしている。
口の中から水分が全部無くなったような感じがして、飲み込めなくて吐き出した。
この実は蜂蜜さんにゴミとして処分してもらおう。

鈴鹿に着く頃には薄暗くなり、ここで宿泊となった。
翌日は津を目指すのだが、鈴鹿と言えば鈴鹿サーキット。
俺でも知っている。ここまで来たのなら行かない選択肢は無い。

早々に朝食を済ますと、鈴鹿を目指した。
尾張の大田家と藤堂家の境界に簡単な関所が作られていて、持ち物検査と目的を聞かれた。
もちろん目的は、お伊勢参りで、すんなり通して貰えた。
藤堂家の粋な計らいなのだろう。
道草の為に、津にはやはり薄暗くなってからついた。

だが、津の様子は、かがり火が焚かれ物々しかった。
こんな時は居酒屋だ。
赤提灯を探すと、すぐに見つかった。
あたりは薄暗くなっているとは言っても夕方だ。
まだ、店の中にはお客さんはいなかった。
丁度良い。

「いらっしゃい。何になさいますか」

「おすすめを、いくつかお願いします。ところでおかみさん、町が物々しいけど何かあったのですか」

「あーそれねーー」

おかみさんは、どうやら話し好きのようだ。
この店にして正解だったようだ。

「うんうん」

五人が興味深そうに、おかみさんの顔を前のめりになってのぞきこんだ。
おかみさんはそれが嬉しかったのか、ニコニコしながら話しを続ける。

「何でも、松阪の城が賊に襲われて陥落してしまったらしいのさ。いま、藤堂様が兵士を募って、賊の退治の討伐隊を編成している所なのよ」

「へー、ここは大丈夫なのですか」

「ここは、藤堂様が守っているから大丈夫よ。安心してのんびりしていきな」

そういうと、おかみさんは奥に入っていった。

「大変な時に来てしまったようですね」

「うふふ、嘘ばっかり、顔が楽しそうですよ」

そ、そうなのか。
俺はこんな時に顔が楽しそうになってしまうのか。

「皆さんがよろしければ、首を突っ込んでみようと思いますがどうですか」

「私達は、シュウ様のやることに反対する事はありません。すでに命は預けています。好きにお使い下さい」

響子さん以外の残りの三人もうなずいている。
食事を済まし、津城へ向うと津城はバタバタしていた。
松阪から逃げてきた市民と、敗軍の兵士。
兵士の中には、重傷の者が大勢いた。

そして、城門脇で兵士、輜重隊という運搬役の人足を募集している。

「済みません、俺達も荷物運びに参加したいのですが」

帳面の前にいる、兵士がじろりと俺達を見た。

「おいおい、女は駄目に決まっているだろう。しかも、とびっきりの美人じゃねえか。戦場なんかに行けば慰み物だ」

「あの、私達は大丈夫です」

「駄目だ、駄目だ。当たり前だろうわかったら帰りな。で、あんた達はどうするね」

「それなら、俺達もいいです」

俺は断って、城を後にした。

「あの、よかったのですか」

「大丈夫だ。藤堂軍とは別に勝手について行けばいいだけのこと」

俺達は、宿屋を探しゆっくり体を休め翌日に備えた。
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