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第百五話 お化け騒動
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真田と伊藤の表情は暗かった。
まるで敗戦した将のように表情が暗い。
六百五十人もの人の命を、奪った事に対して思う事があるようだ。
「だ、大丈夫か?」
北条が、二人に声をかけた。
「大殿に合わせる顔が無い」
「まあ、真田殿は鎧の性能が良くわかっていなかったわけだし、伊藤殿は手加減していたわけだし。それに敵は銃を持ち攻撃してきた。しょうが無かったと思うぜ。大殿は、味方の命も大切に思っている。千人相手にこっちは被害ゼロだ。上出来なのだと思うがなあ」
「は、はあ……」
北条は、二人を元気付けようと色々言ってみた。
だが、あまり元気付ける事は出来なかったようだ。
「んーー、あれはなんだ。うお!! ゆ、幽霊か!! 俺は初めて見るぜ」
連合軍の進むアスファルトの道路の上に、畳が数枚敷き詰められ、そこに白装束の男が三人正座をしている。
それを囲むように十人ほどの白装束の男が頭を下げている。
その後ろに大きな、白い旗が広がり揺れている。
三人の男の額には三角の布が付いていて、日本の昔話に出てくる幽霊と同じだ。
「あれは、幽霊ではありません。松本の使者でしょうか」
真田が普通に答えた。
「全軍止まれーー」
北条が号令をかける。
北条と真田、伊藤が兵士の間を抜けて、前に出た。
白装束の男達まではまだ数十メートルはある。
「あんたらはいったい何だ。俺はこの部隊の総大将北条だ!」
「はっ、我々は松本城、城主戸田と最高幹部の二人です」
「戸田さんか、その姿は死装束に見えるがどういうことだ」
「我らは、あなた方に降伏致します。出来れば我ら三人の命で市民や兵士の命をお救いいただきたい」
「降伏だと」
「はい、昨日の戦いの詳細を、生き残った兵士から聞きました。銃も効かず、一瞬で三百人の兵士の命を奪う方々に、我らが勝てるとは思えません。この上は兵士と、市民の命だけは助けていただこうと考えました。」
「ふふふ、戸田さん良い判断だと思うぜ。良し三人の首をはねよ」
「なーーっ! ほ、北条殿、殺してはいけません。そんな事をすれば、大殿のお怒りを買います」
真田が慌てて、戸田の前に立ち両手を広げた。
「俺も、真田殿に賛成だ。降伏しているのだ。殺す事も無いだろう」
伊藤も真田に賛成した。
北条は納得のいかない表情で二人を見つめる。
もともと北条も命を奪う気など無かったのだが、一芝居うったのだ。
こうしておけば、少なくとも命を救おうとしてくれた、真田と伊藤に戸田は悪い感情は持たないはずだ。いや、好感すらもってくれるだろうと考えての事だった。
「戸田殿、この二人は恐ろしく強い。俺の軍では勝てない程にな。その二人に助命されては、俺としてはどうしようも無い。ふむ、戸田殿、我らは関東木田家に属している。あんたが木田家に忠義を尽くしてくれると言うのなら、市民も兵士もあんた達も助けようと思うのだが」
「もとより、降伏をした身、どんな条件でも受け入れます。して、木田様というのはどの様なお方なのですか」
「それを聞いちゃうのかー。真田殿言ってやってくれ」
北条は答えを真田に振った。
「お、大殿は一言で言うのなら、オタクですな」
「そして、見た目は豚ですな」
伊藤が割って入った。
「なんと、オタクの豚ですか。すごそうには感じませんが」
「まあ治世のオタク、乱世の英雄と言う事だな」
「英雄ですか?」
戸田が不思議そうな顔をして復唱している。
「ふふふ、大殿は、戦ってはこの伊藤殿を子供扱いするほど強く、真田家の小型ロボット、まあ重装歩兵と呼んでおりますが、これを作ったのも大殿。現在では関東から、三河、甲斐まで勢力を広げられ、今もなお勢力を広げ、一人でも多くの日本人を幸せにしようと考えているようなお方だ。まさに英雄と呼ぶにふさわしいお方なのだ」
「うむ、その通り!」
北条の言葉に、真田と伊藤が賛同した。
「なるほど、分かりました。私から見れば、北条様、真田様、伊藤様がまさに恐れ多きお方、そのお三方が敬うお方なら十分に英雄と呼ぶにふさわしいお方だと思います」
「わ、分かってくれるか。そうか、そうだよなーー。すごいお方なのだ」
「はい、すばらしい。お方です」
戸田は余りピンとは来ていなかったが、この三人がここまで心酔するのだから間違いは無いと思うようにして、同調しておいた。
「ところで、あれは棺桶か?」
「はい、我々の死体を入れて松本城まで運ぶ為に持参しました」
「ふむ、良い考えが浮かんだ。お前達、あの中に入れ。そして、松本城まで行くぞ」
北条はニヤニヤ悪い顔をした。
ろくな事を考えていない顔だった。
松本城に着くと、堀の外に大勢の市民がいた。
「殿が命と引き換えに、我らを守ってくれたー! 安心しろー! そして道を空けろ。これでは城に入れん」
戸田の棺を運びながら、白装束の男達が人垣をかき分ける。
それに続き北条軍が行軍する。
城門が開き、城内に棺と、北条軍が入城した。
「と、とのーーー!!!」
城内には二千人程の兵士が並び、棺桶にすがりつき泣きだした。
「うおおおおーー!! 戸田様ーー!!」
城の外から市民の声がする。
大勢が泣いているようだ。
戸田という男は、市民にも家臣にも愛される良い殿様のようだ。
棺が城の前の広場の中央に下ろされると、皆が我先に棺に駆け寄った。
「とのーー!!」
全員が大声で叫び、涙しない者がいなかった。
その時だった。
「なんだ! 騒々しい!」
棺の蓋がパカッと開き、戸田が立ち上がった。
「うぎゃああああーーーー!! おばけええええ!!!!」
棺のまわりの家臣達がペタンと尻餅をつき、すごい勢いであとずさった。まるであの虫のように速かった。
愛する殿様でも、お化けはいやなようだ。
「ぎゃあーー、はっはっはっはーーー!!!!」
戸田の家臣達の驚く様がおかしかったのか、北条の大笑いが松本城に響き渡った。
まるで敗戦した将のように表情が暗い。
六百五十人もの人の命を、奪った事に対して思う事があるようだ。
「だ、大丈夫か?」
北条が、二人に声をかけた。
「大殿に合わせる顔が無い」
「まあ、真田殿は鎧の性能が良くわかっていなかったわけだし、伊藤殿は手加減していたわけだし。それに敵は銃を持ち攻撃してきた。しょうが無かったと思うぜ。大殿は、味方の命も大切に思っている。千人相手にこっちは被害ゼロだ。上出来なのだと思うがなあ」
「は、はあ……」
北条は、二人を元気付けようと色々言ってみた。
だが、あまり元気付ける事は出来なかったようだ。
「んーー、あれはなんだ。うお!! ゆ、幽霊か!! 俺は初めて見るぜ」
連合軍の進むアスファルトの道路の上に、畳が数枚敷き詰められ、そこに白装束の男が三人正座をしている。
それを囲むように十人ほどの白装束の男が頭を下げている。
その後ろに大きな、白い旗が広がり揺れている。
三人の男の額には三角の布が付いていて、日本の昔話に出てくる幽霊と同じだ。
「あれは、幽霊ではありません。松本の使者でしょうか」
真田が普通に答えた。
「全軍止まれーー」
北条が号令をかける。
北条と真田、伊藤が兵士の間を抜けて、前に出た。
白装束の男達まではまだ数十メートルはある。
「あんたらはいったい何だ。俺はこの部隊の総大将北条だ!」
「はっ、我々は松本城、城主戸田と最高幹部の二人です」
「戸田さんか、その姿は死装束に見えるがどういうことだ」
「我らは、あなた方に降伏致します。出来れば我ら三人の命で市民や兵士の命をお救いいただきたい」
「降伏だと」
「はい、昨日の戦いの詳細を、生き残った兵士から聞きました。銃も効かず、一瞬で三百人の兵士の命を奪う方々に、我らが勝てるとは思えません。この上は兵士と、市民の命だけは助けていただこうと考えました。」
「ふふふ、戸田さん良い判断だと思うぜ。良し三人の首をはねよ」
「なーーっ! ほ、北条殿、殺してはいけません。そんな事をすれば、大殿のお怒りを買います」
真田が慌てて、戸田の前に立ち両手を広げた。
「俺も、真田殿に賛成だ。降伏しているのだ。殺す事も無いだろう」
伊藤も真田に賛成した。
北条は納得のいかない表情で二人を見つめる。
もともと北条も命を奪う気など無かったのだが、一芝居うったのだ。
こうしておけば、少なくとも命を救おうとしてくれた、真田と伊藤に戸田は悪い感情は持たないはずだ。いや、好感すらもってくれるだろうと考えての事だった。
「戸田殿、この二人は恐ろしく強い。俺の軍では勝てない程にな。その二人に助命されては、俺としてはどうしようも無い。ふむ、戸田殿、我らは関東木田家に属している。あんたが木田家に忠義を尽くしてくれると言うのなら、市民も兵士もあんた達も助けようと思うのだが」
「もとより、降伏をした身、どんな条件でも受け入れます。して、木田様というのはどの様なお方なのですか」
「それを聞いちゃうのかー。真田殿言ってやってくれ」
北条は答えを真田に振った。
「お、大殿は一言で言うのなら、オタクですな」
「そして、見た目は豚ですな」
伊藤が割って入った。
「なんと、オタクの豚ですか。すごそうには感じませんが」
「まあ治世のオタク、乱世の英雄と言う事だな」
「英雄ですか?」
戸田が不思議そうな顔をして復唱している。
「ふふふ、大殿は、戦ってはこの伊藤殿を子供扱いするほど強く、真田家の小型ロボット、まあ重装歩兵と呼んでおりますが、これを作ったのも大殿。現在では関東から、三河、甲斐まで勢力を広げられ、今もなお勢力を広げ、一人でも多くの日本人を幸せにしようと考えているようなお方だ。まさに英雄と呼ぶにふさわしいお方なのだ」
「うむ、その通り!」
北条の言葉に、真田と伊藤が賛同した。
「なるほど、分かりました。私から見れば、北条様、真田様、伊藤様がまさに恐れ多きお方、そのお三方が敬うお方なら十分に英雄と呼ぶにふさわしいお方だと思います」
「わ、分かってくれるか。そうか、そうだよなーー。すごいお方なのだ」
「はい、すばらしい。お方です」
戸田は余りピンとは来ていなかったが、この三人がここまで心酔するのだから間違いは無いと思うようにして、同調しておいた。
「ところで、あれは棺桶か?」
「はい、我々の死体を入れて松本城まで運ぶ為に持参しました」
「ふむ、良い考えが浮かんだ。お前達、あの中に入れ。そして、松本城まで行くぞ」
北条はニヤニヤ悪い顔をした。
ろくな事を考えていない顔だった。
松本城に着くと、堀の外に大勢の市民がいた。
「殿が命と引き換えに、我らを守ってくれたー! 安心しろー! そして道を空けろ。これでは城に入れん」
戸田の棺を運びながら、白装束の男達が人垣をかき分ける。
それに続き北条軍が行軍する。
城門が開き、城内に棺と、北条軍が入城した。
「と、とのーーー!!!」
城内には二千人程の兵士が並び、棺桶にすがりつき泣きだした。
「うおおおおーー!! 戸田様ーー!!」
城の外から市民の声がする。
大勢が泣いているようだ。
戸田という男は、市民にも家臣にも愛される良い殿様のようだ。
棺が城の前の広場の中央に下ろされると、皆が我先に棺に駆け寄った。
「とのーー!!」
全員が大声で叫び、涙しない者がいなかった。
その時だった。
「なんだ! 騒々しい!」
棺の蓋がパカッと開き、戸田が立ち上がった。
「うぎゃああああーーーー!! おばけええええ!!!!」
棺のまわりの家臣達がペタンと尻餅をつき、すごい勢いであとずさった。まるであの虫のように速かった。
愛する殿様でも、お化けはいやなようだ。
「ぎゃあーー、はっはっはっはーーー!!!!」
戸田の家臣達の驚く様がおかしかったのか、北条の大笑いが松本城に響き渡った。
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