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第九十二話 清楚な着物美女

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 ミサは俺が着なくてもいいと言った、松平の殿様が用意したあの下着をつけて、下着姿のままで立っていたのだ。

「えっ、だって、ふすまの向こうで、どうしても着て欲しいと言ったから着たのよ。あんたじゃ無いの」

「い、いや。俺は今来たところだ。俺じゃねえ。ふすまのこっちには誰もいなかったぞ!」

「えーーーっ!!!」

 俺達は全員が大きな声を出した。

「ひょっとしたら、死んだ松平の殿様が来たのかも」

「えっ、殿様が死んだ、ですって。そう言えば殿様の声にも似ていたような……」

「ひええーーーーっ」

 もう一度俺達は悲鳴を上げた。
 まあ、季節は夏だしこういうこともあるのかもしれない。
 状況が状況だけに、せっかくのミサのエッチな下着姿がかすんでしまう。
 まあ、もともと俺は三次元の人間にはあんまり興味が無いのだけどな。
 でも、せっかくなので見ておくか。

 黒いスケスケの、布地の少ない下着に無理矢理押し込んだような巨大な胸が、悲鳴を上げた動きでゆさゆさ揺れて、こぼれ落ちそうになっている。
 ぽちん、ぽちんと、膨らんでいる小さな突起はひょっとしたらあれなのか。
 あかん、目の毒だ。サッサとしまってもらおう。

「ミ、ミサ。外に松平家の重臣とサイコ伊藤が来ている。はやく服を着てくれないか」

「えっ、そう言う事ははやく言ってよね」

 ミサは奥のふすまの中に消えた。
 手伝う為か、坂本さんとあずさがついていった。

 シュッ、シュッ

 衣擦れの音が聞こえる。
 しばらくして、ミサが和服で出て来た。
 白っぽい模様の少ない和服は、清楚さを感じる。
 髪もストレートに落とし、和服の為胸のボリュームが押さえられ、とても清楚で美しい。

「なんて、美しいんだ!!」

 俺が、ぼっそとつぶやくと、ミサは着物から出ている肌が全部真っ赤になった。
 しばらく、見とれてしまった。

「あんたって、馬鹿なの。せっかくエッチな下着を見せてあげたのに、その時より今の方が余計に見ているじゃ無いの」

「そ、そうか。下着姿より、こっちの方が清楚で美しくて俺は好きだ」

「なーーーーっ」

 ミサは、赤さが増して、ゆでだこのようになり、くねくね揺れている。

「さあ、皆さんに入ってもらいますよ」

 坂本さんが、あきれたように言うと、玄関へ歩き出した。

「皆さん、お待たせしました。どうぞ中へお入りください」

 重臣四人と、サイコ伊藤が中に入ってきた。

「おおー、何と美しい」

 中に入り、ミサの姿を見ると男達は声を上げた。
 だが、ミサはさっきの俺の時のリアクションとは違い、少し口角を上げ微笑むだけだった。

「どうぞ」

 あずさが、全員の前にお茶を出すと仮面を外し、お茶を勧めた。

「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! な、何と美しい!!」

 あずさの顔を見ると男達は、ミサの時の数倍の声を上げた。
 あーあ、やっちまったなー、ミサの機嫌が見る見る悪くなっていく。
 だが、ミサ、しょうが無いんだ。
 おじさんは皆、ロリコンなんだ。

 子猫や子犬、ひよこなど、幼い生き物は何でも可愛く感じる。
 おじさんは歳を重ねるほどその傾向が強くなる。
 つまりそう言う事なのだ。

「うふふ、あなた、そろそろお話を始めてはいかがですか」

 坂本さんが、当たり前の様に俺の横に座るとそう言った。

「ちょっと、まって、あなたってどういうこと」

 それにミサがすかさず食いついた。

「あら私、大田様の嫁ですのよ」

「はーーーっ、うっ」

 ミサが大きく息を吐き出すとよろけて倒れそうになった。
 あずさがそれをすかさず助けた。

「ち、違うよ。坂本さん、話しをややこしくしないで下さい」

「ご、ごめんなさい」

「どういうこと」

「ああ、坂本さんには、浜松の調査の間だけ嫁の役を頼んだんだ」

「そ、そう言う事ですか」

 ミサが、ほっとしている。

「坂本さん、俺みたいな豚野郎の嫁役は嫌だったでしょう。もう大丈夫ですから」

「あら、私は嫁役を当分やめる気はありませんよ」

「えっ!!」

 俺と、ミサとあずさが驚いた。

「ささ、皆さんがお持ちかねです。あなた! はやくお話を進めてください」

「……」

 俺達三人は、坂本さんの顔を見つめた。
 あかん、この人はこの人で、とてつもない美人だ。
 いつまで嫁役をやるつもりなのだろうか。
 俺はとんでも無く厄介な人に、嫁役を頼んだのでは無いだろうか。

 このままでは話しが進まないので、視線を重臣と、サイコ伊藤の方に移し真面目な顔をした。
 そして、少しだけ間を取る為沈黙した。

「ミサ、さっきも少し触れたが松平の殿様は死んだ。代わりを立てなくてはならないと思う」

 俺は重臣達から視線をミサに移し、ゆっくり話した。

「ええ、そうね」

「それで、考えたのだが、ミサお前がやってくれないか。幸いにも浜松の人は皆、天地海山会の信者だ」

 重臣達は、その手があったのかと目を見開きうなずいている。
 文句は無いようだ。

「嫌よ。なんで私がやらなきゃならないの」

 あっさり断りやがった。

「何故嫌なんだ」

「だって、また、こんなことがあったら嫌だし、何より面倒臭いわ」

「うむ……」

 また、こんなことがあると、ミサが自殺を考えるかもしれないなー。
 ミサが死んだら、俺は国家の損失とさえ思う。
 まてよ、なんだー、面倒臭いって。

「そんな事より、私以外に他にも候補がいるのでしょ」

「ふむ、他の候補か。そこの重臣はどうだろう」

「だめね。私が無理矢理、松平の物になろうとしていた時、この人達は下を向くばかりで何も言えなかったわ。そんな腰抜けには務まりません」

「くっ……」

 重臣達は言葉に詰まった。
 言い返す言葉も無いようだ。

「まあ、他にもいるにはいる。今川なんかどうだろう。しっかりしているし、市民にも好かれている。何より昔、三遠駿は今川家の領地だった」

 その今川家とは縁もゆかりも無いお方ですけど、この際それは内緒にしておこう。

「あ、あの、あなたはどの様なお方なのですか」

 重臣の口からとうとうこの言葉が出てしまった。
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