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第八十三話 はじめての町人

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「いいなあ、この景色。あのゲームを思い出す」

 空は青く、雲がすごく白い。

「あのゲームですか?」

「夏休みっていうゲームだ」

「俺は、ゲームをあんまりしませんから」

 知らないという事か。話しがはずまねーー。
 誰か、ゲーム好きと来れば良かった。
 くねくね曲がった道の左右に、果樹園があり、ちらほら民家がある。
 果樹園はぶどう園が多いようだ。

「あ、あれは!?」

 柳川が何かを見つけたようだ。
 酒造所のようだ。

「葡萄酒って書いてあるなー」

「中は、酷いですね。掃除が大変そうだ。もう使えないでしょうね」

 酒造所の中は、発酵では無く腐った臭いが充満している。
 半年の放置は、再起不能に見える。

「柳川、あれ!!」

 俺は柳川の視線を外に誘導した。

「なっ!!」

 外を見て、何も無いのを確認して、視線を中に移して驚いている。

「ふっふっふっ、やーなーがーわーっ。俺を誰だと思っている。清掃のヒーロー、アンナメーダーマンであるぞ」

 中は、ピカピカになっている。
 ほこりすら全て綺麗にした。

「今から営業再開出来そうですねー」

「再開したいな。まわりは皆ぶどう園で、材料はそろっている」

「人材を探しましょう」

「そうだな」



 醸造所を過ぎて、しばらく歩くと、高速道路のような国道に出た。
 その上にのぼると、強い寂しさを感じた。
 片側二車線の、しっかりした道路。
 この道路に車が全く走っていない。
 人類が絶滅してしまった、映画のような世界に感じた。

「なんだか、鬱になりますね」

「そうだな」

 柳川も同じ事を感じているようだ。
 おっさん三人でのんびり歩いていると、陽が傾いてきた。

「見て下さい」

 やっと柳川が気付いた様だ。

「!?」

 向こうも俺たちに気が付いた。
 国道をまたぐ、歩道橋の上に三人の人相の悪い男達がいる。

「おい、てめーら。ここからは俺たちの縄張りだー」

 三人は歩道橋から降りてきて、俺たちの顔をのぞき込んだ。

「がはっ、ぐおっ、があーーっ」

 柳川が、有無を言わさず殴り倒した。

 ドスドスドスドス。

 足を振り上げられるだけ振り上げ、蹴りを入れる。

 ひでーっ、不意打ちだから相手は、全く抵抗できず動けなくなった。
 ゲン一家、幹部柳川もただ者じゃねえ。
 こ、こええーー。

「こいつと、こいつに手錠をして下さい」

 俺は。ステンレス製の枷を作り、指示のあった男二人に手かせと足かせをつけた。
 これは、俺以外には外せない一体型の枷だ。
 一人の男は、大あわてで逃げて行った。
 歩道橋の脇に止めてある自転車に乗って、どこかに向って姿を消した。

「いいのか、逃げて行ったぞ」

「逃がしてやったんです」

 そういう事か、これで仲間を連れてやって来るというわけか。
 探す手間が無くてすむ。

 俺たちは、二人の見張りをクザンに任せて歩道橋をのぼった。
 そこには、見張り番の荷物が置き去りになっていたので、中身を見た。

「な、何だこりゃあ」

 カバンの中には、乾パンのような物と、カエルやトカゲのヒモノの様な物が入っている。

「こんな物を食っているんですね」

「ああ、甲斐の人は絶望的な食糧不足のようだ」

 カバンを持って、下に降りた。

「これは、俺たちが没収させてもらう」

「ま、待ってくれ! それは、俺たちの一週間分の食糧なんだ」

「な、なんだって! こんな少しで一週間」

 柳川が驚いている。
 俺はこいつらに背を向けて、大トロ丼を二つ出した。
 そして、手かせに手を置くと、手かせを消した。

「なっ、何で消えたんだ」

「イリュージョンです」

 俺は、あずさの様に言ってみたが、可愛くなかったようだ。
 二人の前に大トロ丼をさしだした。

「これは、どこから出したんだ」

 こ、こいつら面倒くせー。
 どうでもいいじゃねえかよー。そんなこと。
 丼を持たせると、箸と醤油、わさびをだしてやった。

「い、いいのか」

「遠慮はいりません。食べて下さい」

「うおーーーっ、うめーーー、うめーーー!!! うっうっうっ」

 いかつい人相の悪い男達が、ボロボロ涙を流して、丼をかき込んでいる。
 ふと、あずさの顔が浮かんでしまった。
 こうなるともう、憎めねえ。
 助けてやりたいと思ってしまった。

「柳川」

 恐らく俺は情けない表情をしていたのだろう。
 柳川を呼ぶと、「全て分かっています」という表情で、うなずいた。

「ほら、水だ」

 俺はミスリル製の、キンキンに冷えた湧水の水筒を渡した。

「うめーー、滅茶苦茶うまい」

 男は、飲んだ水筒を、もう一人に渡した。

「あんた達は、何しにここへ来たんだ」

「俺は、駿河の商人大田と言います。商売の種が無いか探しに来ました」

「俺たちを殺して、物資を奪う為に密偵に来たんじゃないのか?」

「違います。あなた達を見ていると、奪える物資もそうは無いように感じますが」

「ちげーねえ。節約しているが、あと一ヶ月で、食糧が無くなる」

「どうする予定なのですか」

「最後一週間分になったら、殿と全員で東京を目指そうと思っている」

「そうですか」

 俺は東京にも何も無いとは言えなかった。
 こういう人が、東京で強盗に変わるのかと思うと、悲しみを感じる。

「あんたは商人と言っていたな。食糧はあるのか」

「商人は対価を要求します。何か出せる物はあるのですか」

「ふふふ、何も無いな。ふふふ」

 あーしまった。助けるつもりなのに、見放すような事を言ってしまった。
 その後、二人の見張りの男は、固く口を閉じ何もしゃべらなくなった。
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