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第七十一話 刺客

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「きたぞーー」

 駅のローリタ……間違えた、ロータリーに近いところにいる人から声がする。
 ビルの影からその姿が出て来た。
 その姿を見た人達から、ザワザワざわめきが起きる。
 俺たちの所からは、ビルが邪魔でまだ見えない。

「ああーーっ!! とうさん見えた、見えたよー!!」

 あずさが、姿を見て指をさし、ぴょんぴょんジャンプしている。

「な、なんだ、ありゃあ?」

 見えたのは、頬がこけ、全身やせた、神経質そうな学者のような男だった。
 研究者が着る白衣を青くしたような服を着ている。
 男の後ろに、同じ服を着た十五人の部下だろうか? 並んでついて来ている。

「でも、ガッカリです。大怪獣ガリラのようなのを、想像していましたので拍子抜けです!!」

 あずさは、貧弱な男の姿を見てガッカリしている。

「いやいや、でも飛んでいる! 飛んでいるぞ!!」

 俺が飛んでいる事に驚いていると、まわりから驚きの声が上がった。

「うおーーーっ! 飛んでいるー!!」

 それが、大きな喚声となりビルの壁がビリビリ振動した。

「ふん、あんなの、ぜんぜんすごくない。とうさんにも出来るじゃないですか!」

 その言葉を聞いて、俺たちのまわりの喚声が消え静まり返った。
 まわりの人の視線が俺に集まった。
 と、言っても全体から見れば一部分なので、喚声自体は鳴り響いている。

「な、何てことを言うんだ。……アスラさん、少し怒っているのかな?」

 なんだか、あずさの機嫌が悪い。
 アスラと呼んだのは、俺は念の為黒いジャージを着てヘルメットをかぶって、あずさは、メイド服に仮面をしているからだ。

「だってー、あんな奴のせいで、握手会が出来なかったんですよー!」

 どうやら、ステージが終ったら握手会が予定されていたようだ。
 それを邪魔されてご立腹なようだ。
 本当のアイドルだって嫌がる握手会をやりたいなんて、あずさはアイドルの鏡のようだ。

「あんな、オタクと握手をするのは気持ち悪くないのか。ぬるっとする奴もいるだろう?」

「うふふ、平気です。とうさんでなれています」

 はーーっ、な、何だとー! 俺の手はぬるっとしてねーぞ。
 それに俺は、あんな気持ちの悪いアイドルオタとは違う、一緒にされたくない。
 俺は、ゲームと模型を愛する、インドアオタクだ。
 一人を愛するんだ。

「俺を、あんな気持ちの悪い奴らと一緒にしないでくれ」

「うふふ、シュラちゃんのパンツを見て喜んでいるとうさんは、十分気持ち悪いです」

 ――ガーーン

 すみません。アイドルオタの皆さん、俺はあずさから見たら同類な様です。
 いえ、むしろ、気持ち悪さでは上をいっているのかもしれません。



「ぐわああぁぁーはっはっ!!」

 神経質男が、喚声を聞いて上機嫌になり笑いだした。

「俺は、大魔法使いだ。敬い恐れよー!」

「アスラさん、あいつから魔力を感じますか」

「いいえ、感じません。使っているのはテレキネシスではないでしょうか」

 ――超能力者か!

 最近、次々超能力者が現れる。
 これは、人間の進化なのだろうか。

「おい、あんた名前は?」

 俺は目の前を、ふわふわ宙を浮いて駿府城に移動する青い一行に、大声を出して質問した。

「な、なんだお前は、失礼な奴め。だが俺は今、少し機嫌が良い、教えてやろう。サイコ伊藤だ!!」

 サイコ伊藤って、すでに自分で魔法使いじゃないって言っているようなもんだろう。

「とうさん、サイコパス伊藤だって」

「こ、こむすめーー!! 誰がサイコパスだ。サイコキネシスのサイコだー」

 伊藤があずさの一言でぶち切れた。
 サイコパスは嫌だったらしい。

「伊藤サイコさん、娘がすみません」

「サイコ伊藤だー。伊藤サイコじゃあ、どっかの女の人みてえじゃねえか!! てめーら親子は俺様を舐めているのかー」

 しまった。俺の言い方がさらに怒らしてしまった様だ。
 すぐに謝ろう。

「いえ、すみません。エスパー……」

「ば、馬鹿野郎、それとだけは間違えるんじゃねえ。もうお前達親子は黙っとけー!! 今川義虎ーーどこにいる。出てこーーい!!!」

「わ、私が今川だ」

 駿府の本丸にしているビルの屋上で殿が返事をした。
 横に今川の家紋の入った旗が風になびいている。

「ふん、テメーが欲望の固まり、今川義虎様か!」

「欲望?」

「そうじゃねえのかい? 今川を名乗った時点で、遠駿三を領地として上洛をし、天下に覇を唱えると意思表示している様なもんだろう。義虎の義は今川義元の義、虎は武田信虎の虎というところか」

「いや、それは違う、虎の字は高橋統虎の虎だ」

「はーー、誰だそれ。超マイナーな武将か?」

「いや、戦国最強の武将の名前だが、知らんのか」

「戦国最強……立花宗茂か!」

「そうだ。ちなみに俺の本名は佐藤一郎だ。部下が今川を名乗れってうるせーからそうしたんだ」

 いらねー情報来たー!! もう今川義虎だけでいいじゃねえかよー!

「義虎ー! てめーはもう知っているだろう。俺が浜松で何をしたか。まあ、豊橋じゃあ、人型ロボットにひでー目にあったが、浜松じゃあ俺にかなう奴はいなかった」

 人型ロボット? 豊橋?
 ああ、ミサの所でこいつらやられたのか。

「要求は何ですか?」

「ふふふ、食い物と酒、そして女だ。十六人分用意しろ。そうすれば五日で出っていってやる。俺はハルラ様の為、東京でアンナメーダーマンとかいうバカを殺さなくてはならんからな」

 なっ、なにーーーっ!!!
 こいつの目的は俺を殺す事なのか。

「食糧と酒は用意出来ますが、女は無理です」

「はーーーっ、舐めているのかー。てめーらに選択権などないんだよ」

 そういうと、伊藤は両手を前に出し、手の平を下に向け指を広げた。
 すると、駿府城の壁にしている積み重ねた車が十台宙に舞い上がる。
 伊藤が手の平を近づけパンとたたいた。
 宙に浮いている車が一つの固まりになった。
 手をもむ仕草をすると、車の固まりがだんだん鉄の球になる。

 手を少し奥に押し込む様に動かすと、今川の殿の頭の上に鉄の玉が移動した。

「ふふふ、これを落としたらどうなると思う」

「くそーーっ、撃てーーーっ!!」

 尾野上隊長の声がした。
 声を聞くと今川兵が伊藤に向って銃を発砲した。

「いけない!! とうさん!!」

 あずさが叫んだ。
 ふふふ、娘よ慌てるな分かっているさ。
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