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第三十一話 初めての保護

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 大急ぎで声の方向を目指した。
 ここがどこだかわかってから見ると、川だと思っていた所が堀だとわかる。
 堀から伸びる太い道路を車でふさぎ土嚢が積まれている。その先で巨大な男が暴れている。
 男の後ろに見た事がある駅が見える。

「あれは東京駅か」

「あなた、本当に気付いて無かったの」

 当たり前だ。
 俺には全く関心が無い場所だ。
 東京駅は、新幹線に乗る時に使ったが、外に出た事もない。
 こんなに皇居と東京駅が近いとは全く知らなかった。

「ああ、気付いていなかった。ミサはここで待っていてくれ」

 俺は土嚢の手前で、ミサを下ろすと男の前に出た。
 男は、頭にボロボロの麻袋の様な物をかぶり、顔を隠している。目の所だけ開けていて、そこからのぞく目は吊り上がり鋭かった。
 全身が金属で出来ている様な銀色で、そこに毛がぼうぼうに生えていた。
 身長は二メートルをはるかに超えている。

 両手に兵士をぶら下げている。
 まるで重さを感じていないようだ。

「グイモノヲヨゴゼー!!」

 片言で、食い物を要求しているようだ。
 外人なのか?
 良く見るとすぐ脇の、茶色のビルの影にボロボロの服を着た人達が隠れている。
 子供もいる。
 こいつはあの人達の食料を調達しようとしているのか。

「その人達を離してくれないか」

 ぶら下げている兵士を見つめて開放を求めた。
 俺は、敵意が無い事を示す為、両手を挙げてやさしげに声をかけたのだ。

「ガーー!! オマエハナニモノダーー!!!」

 お前が何者だよー!
 両手の兵士を放り投げると、俺に向って走ってきた。
 放り投げられた兵士は、映画の様に勢いよく飛んで行った。

 パーーン
 ダダダダダ

 おーい、勝手に撃つんじゃねー。
 手から兵士を離した瞬間、銃撃が始まった。

「グアアーーー!!

 見ろ怒っているじゃねえかー。
 しかも全く効いていねー。
 銃が効かねえって、リアルで初めて見るわ。

 やっぱり恐いねー。体が震える。
 俺は元々、若い頃に喧嘩一つした事も無い平和主義の男だ。
 今だに人を拳で殴った事も無い。逃げ出したい。これが本音だ。
 ふふふ、ミサはこんな考えを読んでいるのかな。
 かっこ悪いなー。

 そんな俺が、こんな恐ろしい奴に立ち向かわなくてはならないのか。
 やれやれだぜ。
 大男が俺に近づくと、銃撃が俺に当たらない様にする為か、攻撃が止んだ。

「グオーーーッ」

 でかい拳で俺を殴ろうとしてきた。
 きっと、変なジャージのデブだから侮っているのだろう。
 攻撃が大きい。
 その手を伸びきる前につかみ、俺は体を回転させた。

 大男の攻撃の力が加わると強い回転の力になる。
 まるでダンスの様に何回転もその場で俺を中心にまわった。
 大男の体は遠心力で宙に浮いている。
 ブワッと竜巻の様な風がまわりのゴミを巻き上げた。
 回転の力が弱まると、俺はそのまま地面に叩き付けた。

 ドン!!!!

 音と共に震度三ぐらいで大地が震動する。
 地面に大男の体がめり込み、そのまわりが大きく丸く、くぼんでいる。
 くぼみの中央からいくつもひび割れが広がり、蜘蛛の巣の様になっている。
 ひび割れた道路が所々持ち上がっている。

「うおおおおお!!!!、アンナメーダーマーーーーーン!!!!!!」

 集まっている兵士から歓声が上がった。

「アンナメーダーマンダトーー!」

 くぼみの中央で大声がした。
 これだけの攻撃をくらって、まるで効いていないようだ。
 大男がゆらりと立ち上がった。

「チッ、やれやれだぜ。タフすぎだろー」

 俺はもう一度戦う覚悟を決めた。

「ウオオオオオオオオオーーーーーーーー!!!!! アンナメーダーマン」

 叫びながら走り寄って来る。こえーだろー。体が硬直した。
 大男は頭の袋を取ると、鋭い牙のオオカミのような顔が出て来た。
 どこかで見た事がある。向こうも俺の事を知っている様だ。
 オオカミ男から敵意が無くなった。
 俺は少しほっとしている。

 その隙をついてオオカミ男はあり得ない行動に出た。

 俺のジャージのズボンを勢いよく下ろしたのだ。
 勢いよく下ろしたので、ジャージのズボンだけで無く、海パンも半分脱げてしまった。

「な、何をするんだーーー」

 俺の汚いブツブツのできた尻が半分出てしまった。
 オオカミ男は、どこから出したのか、A4のプリントされた写真を見ている。
 俺の海パンの「激豚」と写真の「激豚」を見比べている様だ。

「オンナジダー!!」

 なんだか喜んでいる。
 俺も思い出した。

「お前は、アイアンウルフだな」

「チガウダー! アイアンファングダーー!!」

 ちっ、やれやれだぜ。
 感動の再会で相手の名前を間違えてしまった。
 でも、前にあった時は、こんな片言じゃ無かったぞ。

「それは、そうでしょう。私がテレパシーで通訳していたのだから」

 ミサが、あずさと共に俺の横に来た。
 ミサが危険は無いと判断して連れてきてくれた様だ。

「ウオーー、アズサチャンダーー。ヨウセイノヨウニウズグジー」

 妖精の様に美しいと言われて、あずさはスカートの端を持ちくるりと回転する。
 白い中身が露出する。

「おおおおーーー」

 見ている兵士達から声が漏れた。
 あずさめサービスしすぎだ。だが、安心して下さい。あれは水着です。
 ちなみに俺のジャージの中身も水着です。
 そして安心して下さい。尻も半分しか出ていません。
 俺は海パンをちゃんとなおした。

「アイアンファングは、日本語がわかるのか?」

「ワカルダ、オラノムラデハミンナニホンゴガワカル」

「そうか。それはいい。腹が減っているんだろ。あずさゆで卵を頼む」

 あずさが、かごに入ったゆで卵を出した。
 アイアンファングが隠れている人を呼んだ。
 その中にアイアンバリアの姿もあった。
 全員マヨネーズをたっぷりかけて、うまそうにゆで卵を頬張っている。
 ゆで卵は口から水分を奪うので、コップに水を入れて渡してやった。

「なあ、ウルフ。みんなで俺の町に来ないか。農業を手伝って欲しい。食事なら用意が出来る」

 俺は、子供の姿を見て保護してやりたいと思った。
 それに、もうじき秋が来る。米の収穫が近いので人手が欲しい。

「ウルフジャナイダ。ファングダ」

 し、しまったー。また間違えた。
 もう、ウルフにしてくれよー。

「アンナメーダーマンの申し出は嬉しいダニ。ここにいるのは、みんな農家出身ダニ。よろしく頼むダニ」

 アイアンバリアが答えてくれた。
 こっちは、流ちょうな日本語だが、癖が強いなー。
 こうして俺は、初めて困っている人を保護できた。
 全員で千人以上いる様だ。

「あの私は、さっきあずさちゃんの友達になった愛美と言います」

 一人の女の子が走り寄ってきた。

「は、はあ」

「私も一緒に町へ連れて行ってください」

 なんだか気品のあるお嬢さんが話しかけてきた。
 嫌な予感がする。
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