上 下
40 / 48

第四十話 五百点満点

しおりを挟む
「そんなことを言ったって、二十二点は二十二点じゃねえか」

 受験生の中から声がしました。
 どうやら、私のアンチのようですね。
 私は自分でもわかる位シュンとしてしまいました。

「チマちゃん……」

 イサちゃんが小声でチマちゃんを呼びました。
 チマちゃんは、イサちゃんの耳元で事のいきさつを、ささやいているようです。
 ついでにゾングさんも盗み聞きをしている様です。

「なるほど、分かった……レイカ姉!」

「は、はい」

「この平らな大地の果てはどうなっているんだっけ?」

「えっ??? それは、前にも説明したとおり、この大地は平らじゃなくて球なのよ」

「ぎゃはは、球だってそんな訳があるかーー!!」
「どう見たって平らじゃないかーー」
「ひゃはははははーー!!!!」

 受験生がザワザワしています。

「うふふ、そう思うのも無理はありません。この大地はとてつもなく大きな球体だから平らに感じるのです。高い山に登って地平線か水平線を見てご覧なさい。少し丸く見えるはずです。港に戻る船を見てください。平らならだんだん大きくなるだけのはずでしょ。船はマストの頂点から見えてくるはずですよ。それが証拠です」

「……」
「な、なんでそんなことがわかるんだ……」

 どうやら、この世界には地球という言葉もないみたいです。

「レイカ姉はそれ以外にも、美味しい唐揚げや、とんかつも知っている。お前達が食べたことも無いような、とんでも無く美味しい料理だ。お前達の中にヤマト村のことを知っている者はいるのか? 場所さえも知らないだろうどうだ? レイカ姉がサイシュトアリ国の事など知らないのは当たり前の事だ。そもそも興味が無いのだからな」

「…………サイシュトアリ国の事に興味が無い……」

「鎧鉄人!! レイカ姉を抱っこして、この街を最速で一周回ってくれ!!」

 イサちゃんが言うと、鉄人はうなずき私を抱っこして全速で飛び立ちました。

「うおおーーー!!!! と、飛んだーー!!!!」

 鉄人はあっという間に王都を一周するとイサちゃんの前に立ちました。

「どうだ、この中の誰かでこれより速く王都を一周出来る奴はいるのか?」

「馬鹿なのか、それはその鉄人が速いだけじゃねえかーー!!」

 さっきから抵抗している、目つきの悪い私のアンチの受験生が言いました。

「ふふっ!! レイカ姉少し横へ移動してください」

 私が鉄人の側を離れるとイサちゃんは、紫の大剣を背中の鞘から引き抜き正面に構えました。

「キエエエェェェェェーーーーーーーー!!!!!」

 気合い一閃、鉄人を頭から真っ二つに切り裂いた。
 鉄人はゆっくり二つに割れ崩れ落ちていく。

「わあああああぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!」

 悲鳴が上がりました。
 中から死体が飛び出すとでも思ったのでしょう。
 切り口から見えているのは、ただの金属の断面です。とても美しい断面です。
 真っ平らで、なぎの水面のように輝いています。

「はあーはっはっは!!!! 見ろこの鉄人を、これはレイカ姉の魔法で動いているただの鉄の塊だ。人間は入っていない」

「えええええっーーーーーーー」

 私は二つに分かれて倒れている鉄の塊に手をかざしました。
 鉄の塊は、最初に二つの水たまりの様になり、その水たまりが一つになるとそこから鉄人が立ち上がりました。
 足元の魔石は、こっそり拾って手の中に隠しました。

「…………」

 受験生はポカンと口を開けたまま鉄人に見とれています。
 今回の鉄人は、頭は完全防備で露出ゼロですが、体は女性にしてビキニアーマーにしました。
 少し弱そうですが、でも性能は変わりません。

「この鉄人と戦ってみたい者はいるかーー!! フト国神将ドウカンより強いぞーー!!!! 俺より弱いけどなーー!!」

「…………ド、ドウカンより強い……」

 受験生だけでなく試験官や兵士、隊長まで驚いています。

「次の試験は……的の試験かー。的はあれか!? 鉄人火魔法であの的を破壊してくれ!!」

 イサちゃんが言うと、鉄人は右手を前に出すと、火の玉を出しました。

「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」

 受験生から悲鳴が上がりました。
 鉄人はチマちゃんの火魔法より強力な魔法を出しました。
 もはや破片すら飛び散りません。
 何もかも燃え尽きてしまいました。
 石畳の表面まで少し溶けたようです。

「こ、こういうことだったのですね」

 試験官が青ざめて言いました。

「ふふっ、おいそこの兵士、もう一つ的を用意しろ!! レイカ姉あの的を壊せないようにしてくれ」

「は、はい」

 私は、イサちゃんの言うとおり、的にゴーレム魔法をかけて、的ゴーレムに防御魔法をかけさせました。

「おい、おまえ達全員で、あの的を壊してみろ!! ふふふ、どんな方法でも良いぞ!! もし出来たら、その箱の中のレンカの宝刀をくれてやる!!」

 レンカの宝刀と聞いて、受験生達の目の色が変わりました。
 箱の中をよく見ると、左手と左足の他にレンカの宝刀が入っています。
 ああ、そうかドウカンの使っていた物ですね。
 武器で攻撃する者、魔法で攻撃する者、受験生は全力を出しているようですが誰一人疵さえ付ける事が出来ませんでした。

「あの、レイカ様」

 ゾングさんが私に恐る恐る声をかけてきました。

「はい、なんですか?」

「まさか、フト国のゲンシン大帝の横に、いつも寄り添って護衛をしている鉄人二体はレイカ様の作った物ですか?」

「そーいえば、最初にあげた気がします。でも、あれは旧式で、今はご覧の通り魔法を使えるようになっていますよ」

「げえぇぇぇぇぇーーーーーーーーー!!!!!! あの二体の鉄人は敵軍数万を倒した実力があるとゲンシン大帝が言っていました。それが旧式……レイカ様は恐ろしすぎる」

 ゾングさんが恐ろしい表情で驚いています。
 恐らく恐怖の表情なのでしょうが、その表情が恐ろしくて私が恐怖しました。
 貴方の顔の方が恐ろしすぎますよ。

「ふふふ、誰も出来ないじゃ無いか!! この試験はすべて出題の仕方に問題があるな。レイカ姉は、五百点満点だ!!」

 ふふふ、イサちゃんは、的に対する防御魔法の試験まで追加してしまいました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

処理中です...