上 下
33 / 41

第三十三話 証拠

しおりを挟む
「なぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」

 ゾングが大きな口を開けて、あごが外れそうです。
 そして、少し目玉が前に飛び出しています。
 人がこんなに驚く様を見るのは、日本にいたときにギャグ漫画を読んだときに見たぐらいしか思い当たりません。
 十人位の警備員が一瞬で白目をむいて、口から泡を吹いて倒れています。

「こ、この人達、木人よりはるかに弱いです」

 シノちゃんが驚いています。
 チマちゃんとヒジリちゃんがしきりにうなずいています。

「何事だーー!!」

 太った衛兵が騒ぎを聞きつけてやって来ました。
 ゾングの顔に悪い笑顔が浮かびます。

「隊長!! この餓鬼共が、この私に暴力を振るったのです」

「なにぃーーっ!!!! 餓鬼共、この方を誰だと思っている。世界一の大商人ゾング殿だぞ!!」

「衛兵様、でも悪いのは……」

 私が話していると、太った衛兵の隊長は私達の姿をジロジロ見ています。
 まあ、みすぼらしい格好をしていますからね。

「やかましい。小汚い餓鬼共!! ゾング殿に暴力を振るった罰だ少し痛い目を見てもらおう」

 そう言うと、太った衛兵の隊長は腕まくりをします。

「シノちゃん! かまいません。少しこらしめてやって下さい」

「ふんっ! 小僧が生意気な!! うおぉぉーー!!!!」

「ほいっ!」

 シノちゃんは殴りかかってきた衛兵の隊長の腕を取ると、石畳の道路にたたき付けました。

「ごふっ!! ぐぅぅーーーー!! くそぉーー!! きさまーー許さんぞーー!!」

 衛兵の隊長さんは、さすがに隊長だけあってタフです。
 失神しませんでした。
 衛兵の隊長が笛を出して大きく息を吸い、口に笛を加えると思い切り吹きました。
 ピーーッと大きな音が響きます。

「わわっ」

 あちこちの路地から衛兵がゾロゾロ出て来て、シノちゃんが驚いています。

「ひゃはははは! 餓鬼共、よく聞け! 衛兵に手を上げると言うことは重罪だ。観念するんだな」

 衛兵の隊長は、尻もちをついたまますごんでいます。

「馬鹿な餓鬼だ。これでお前達はお終いだ。ひゃはははは」

 ゾングまで得意げに笑います。いやな笑い声です。

「レイカ姉……」

 シノちゃんとチマちゃん、ヒジリちゃんが私にしがみついて、心配そうにしています。

「うふふ、かまいません。弱い木人だと思って、こらしめちゃって下さい」

「いいのですか」

 三人が不安そうに聞いてきます。

「はい!!」

 私が、満面の笑顔で返事をします。
 それを見て三人の顔が、キラキラ輝く表情になりました。

「うぎゃああーーーー!!!!」
「どわああーーー!!!!」
「ぎゃあああーーーー!!!!」

 次々倒される仲間を見て、攻撃に参加せず笛を吹く人が出て来ました。
 ピーピー笛が鳴り響き、王都中の衛兵が集るのでは無いかというほど衛兵が集って来ます。

「うがあああーーーーーー!!!!!」

 やってくる兵士より、三人の子供達がやっつける速さの方が勝るため、次々倒されていきます。

「な、な、なんだこれはーー!! 一体この餓鬼は何者なんだー?」

 ゾングが事の重大さに恐ろしさを感じているようです。
 倒れている衛兵は、既に二百を越えているでしょうか。
 周りの建物から顔を出して見物する人や野次馬が集り、何事かとジロジロ見ています。

「静まれーー!!!! 静まれーー!!!!」

 騒ぎを聞きつけた騎馬隊が、道路に出来た人垣を割って入ってきました。

「終わった。ひゃはははははーーーー!!!! 餓鬼共ーー!! 終わったぞお前らーー!!」

 ゾングが勝ち誇っています。

「騒がしいなあー!! 何事だ!!」

 騎馬隊の隊長が騎馬の上から声をかけました。

「ひゃはははは!! 餓鬼共、この方はなあ、今や破竹の勢いのアーサー騎士団、その四番隊の隊長メジカ様だ!! もうお終いだ。ひゃはははははーーーーーー!!!! メジカ様、この餓鬼共を捕まえて下さい。大罪人です。衛兵隊をこんなにしてしまいました」

 ゾングは、有頂天になっています。
 ひょっとすると、知り合いなのかもしれませんね。

「むっ……」

 メジカ隊長はじろりとまわりを見回し、倒れた衛兵の数を確認しているようです。

「この馬鹿共――!! お前達は何てことをするんだ。この方をどなただと思って居るのだーーーー!!!!」

「ひゃははははははははははーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 ゾングの高笑いが街中に響きました。

「アーサー騎士団、団長の育ての親、レイカ様にあらせられるぞーー!!!!」

 メジカ隊長は、ゾングをにらみ付けました。

「ひゃははは……ははは……はは……は……???????」

 ゾングは笑いながら段々表情が凍り付きます。
 最後には目が点になっています。
 まるでぬいぐるみのような可愛い目になりました。

「メジカ!! レイカ様に失礼であるぞ!! 騎馬から降りませい!!」

 紫色にピカピカ輝く甲冑の、立派な剣士が言いました。
 全く、イサちゃんはそんなことをどこで憶えたんでしょうか。

「はっ、ははあぁぁぁぁーーーーーっ!!!!!!」

 メジカ隊長は、素早く騎馬から降りるとひざをつき、臣下の礼をしました。
 でも、うつむくその顔は、てへぺろってなっています。

「あ、あのーー……」

 ゾングはガタガタ震えながら、メジカ隊長に声をかけました。

「なんだ!!」

「こ、この方は?」

「ふん、この方はレイカ様だ。又の名をレンカ様。貴様も世界一を名乗るのなら聞いた事があるだろう。レンカの宝刀を、その制作者でもある」

「うそだろう。そんなことが!?」

「聞いた事はないのか、レンカ様の特徴を」

「俺は、世界中の国に行っている。フト帝国も例外じゃない。大帝ゲンシン様にだってお目にかかった事がある。たしか六歳ぐらいの幼女で、はな、話し方が……話し方が……お、おばっ、おばさんのようだと…………!? ま、まさか、そんな」

「じゃあ、人違いでございます。私は、おばさんのようになど話したりいたしません」

「いや! そのしゃべり方がおばさんだーーーー!!!!」

 ゾングやメジカ隊長、子供達だけでなく、周りの野次馬まで言やがりました。

「いや、まだ信用できねえーー!! 証拠、そうだ証拠がねえ、証拠を見せてみろーー!!」

 ゾングは往生際が悪いですねえ。どうしましょうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒロイン聖女はプロポーズしてきた王太子を蹴り飛ばす

蘧饗礪
ファンタジー
 悪役令嬢を断罪し、運命の恋の相手に膝をついて愛を告げる麗しい王太子。 お約束の展開ですか? いえいえ、現実は甘くないのです。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

処理中です...