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第三十一話 ヤマト紫龍剣

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 街の入り口の門に着くと、今度は王女のイオちゃんがいますので、すんなり入ることが出来ました。
 街の門は城壁の中央、東西南北に四ヵ所有り、どれもが城塞都市の中央に有る王城に続いています。
 この四ヵ所の門から続く道路が一番太くて立派です。目抜き通りといったところでしょうか。この道路沿いに豪華な建物が続いています。

「わあーーーっ!!!!」

 こんな豪華な石造りの建物はジャングにはありませんでした。
 イサちゃん、チマちゃん、シノちゃん、ヒジリちゃんの四人が思わず歓声をあげました。高い建物を見上げているため、口が大きく空いています。お子様ですね。
 私は大阪の街を知っていますので、この位では驚きませんが石造りの建物は、神秘的な美しさを感じます。

「うふふ、こちらです。皆さんにはアーサー様のお屋敷に住んでいただきます。私の宮殿の横にあるのですよ」

 子供達が歓声を上げたので、イオちゃんは上機嫌です。
 城塞都市は正方形で、第一の城壁は、街全体を包むように十メートルほどの高さでそびえ立っています。
 そして、中央の王城のまわりを第三の壁が十五メートルの高さでそびえ立っています。その第三の壁の横には、五十メートル程の堀が、城のまわりをぐるりと包み王城を守っています。
 堀には東側の中央に橋が一本だけ有り、それ以外では城につながる道はありません。城はこの堀と壁で難攻不落ですね。さすがは国の首都のお城です。
 堀の横には貴族が住んでいるのでしょうか、お城のような家が並んだ敷地があります。
 この貴族が住むエリアを、第二の壁がぐるりと囲み守っています。
 この第二の城壁にはやはり東の中央だけに門があり、私達は今その門をくぐったところにいます。

「この門を守っている建物の北側がアーサー騎士団の詰め所で、南側がラーケン騎士団の詰め所です。ですからこの壁は、王国の最強の騎士団二つに堅固に守られているのです」

「イオ様、お戻りですか」

 門を守る一人の騎士が近づいて来ました。
 鼻の高いがっしりとした強そうな男の人です。

「ああ、紹介します。こちらがアーサー様の育ての親、レイカ姉様です」

 イオちゃんは、私達の方を見ました。

「おお、アーサー様の姉上様ですか。私はアーサー騎士団四番隊隊長のメジカです。お見知りおきを」

 おーーい!! それはイサちゃんだよ!!
 どうせ、私は幼女ですよ。

「あわわ!! メジカ隊長!! その方はイザミギ様です。その横のちびっちゃい子がレイカ姉様です」

 ――ちちち、ちびっちゃいですってー!! 言い方ーー!!

「ひえっ! そそそ、そ、そうでしたか!! もも、申し訳ありません!!!!」

 メジカ隊長がひざを折って頭を下げました。

「やめて下さい。勘違いは誰にでもあります。イオちゃんもやりましたしね」

「ぴゃっ!! 申し訳ありませんでしたーー!!」

 イオちゃんまでペコペコしています。

「うふふ、はいはい。もういいですよ」

「くすくす」

 うちの子供達と、侍女さんが我慢出来ずに笑っています。

「では、メジカ隊長のちほど。でも知っておいてください、アーサー様のケガは完治しました。近々一回り強くなって戻って来てくれます。それまでの間は、イザミギ様がアーサー様の代理をして下さいます。驚かないでください! イザミギ様はアーサー様よりも、お強いのですよ」

「えーーーーーーーーっ!!!!!!!!

 なんだか、メジカ隊長の配下の方が、気になって様子を盗み見ていたようですね。
 アサちゃんより強いと聞いて、びっくり仰天して声を出してしまったようです。

「で、では……」

「はい。アーサー様のかたき、フトの四神将青龍のドウカンを、倒して下さるために来て下さいました」

「おっ、おおおおーーーーーっ!!!!!」

 また、大きな声が聞こえました。

「うふふ。レイカ姉様、お待たせしました。案内を続けますね」

 騎士達の大歓声を聞くと、イオちゃんは嬉しそうに笑って言いました。

「はい。お願いします」

「このアーサー騎士団の詰め所の後ろに、ラーケン団長の自宅とアーサー様の自宅が並んでいます。そして、アーサー様の自宅の奥が私の自宅です。ラーケン騎士団の詰め所の後ろは、貴族達のお屋敷が並んでいます」

 アサちゃんのお屋敷はとても大きくて立派です。
 その横に大きな庭園があって、その奥にさらに大きな家があるようですが、庭園が広すぎて屋根が小さく見えるだけです。それがイオちゃんの宮殿ということのようです。

「では、こちらへどうぞ」

 イオちゃんは、アサちゃんのお屋敷に案内してくれました。
 白い壁に緑色の屋根の大きなお屋敷です。

「お掃除は、私達がやっています。それ以外はアーサー様が、全部自分でやっているのですよ」

 イオちゃんの侍女さん達三人が言いました。
 ふふふ、アサちゃんは隠し事があるので、あまり人を入れたくないのでしょうね。

「では、私はここまでです。ゆっくりして下さい」

 イオちゃんは、そう言うとお城の方に歩いて行きました。

「ふーーっ!!」

 お屋敷の玄関を入り、広いロビーの片隅にイサちゃん、チマちゃん、シノちゃん、ヒジリちゃんが背負ってきた大きな樽を次々降ろしました。

「あの、樽の中には何が入っているのですか?」

 金髪でおっとりした優しげな顔をした、侍女のマリーちゃんが聞いてきました。

「そうですね。まずはイサちゃんの用意をしちゃいましょうか。イサちゃんの樽の蓋を開けて下さい」

「はい」

 イサちゃんが樽の蓋を開けました。
 中には、上まで赤い金属が入っています。

「うわあーーっ!! 赤い金属です。だから、バカみたいに重かったのですね」

 イサちゃんが樽をのぞき込んで驚いています。
 そう言えば樽の中身は子供達にも教えていませんでしたね。

「うふっ! そうです。シノちゃんの樽は青い金属です。シノちゃんの樽の蓋も開けて下さい。そしてチマちゃんとヒジリちゃんの樽は食材です」

 私は、イサちゃんとシノちゃんの樽に向って手のひらを向けました。
 二人の樽から赤い金属と、青い金属が飛び出して空中で混ざり合います。
 混ざり合った金属は紫色に変わり、そのまま床に降り立つときにはプレートアーマーに替わりました。

「全身を隙間無く覆う紫色に輝く鎧です。うふふ、鉄の武器ではダメージを受けません」

「おおっ!! すっすごい!! レンカのフルプレートアーマーです」

 三人の侍女さんが、感動しています。
 そのすきに、イサちゃんしか扱えない、イサちゃん専用の紫の大剣を作りました。
 空中で大剣に変わると、イサちゃんはその柄を空中でつかみました。

「ふふふ、ヤマト紫龍剣です!!」

 イサちゃんは、それをブンブン振り回しました。
 どうやら、勝手に名前を付けているようです。
 紫に輝き、柄を龍のデザインにしてあるので、ヤマト紫龍剣ですか。良い名前だと思います。

「おおーー!! レンカヤマト紫龍剣!! 美しいです! まるで芸術品です!!!!」

 三人の侍女さんがまた声を上げてうっとりしています。

「イサちゃん、この鎧と大剣はイサちゃんの物です。これをドウカンと戦うときに使って下さい」

「は、はい!!」

 イサちゃんは、嬉しそうな顔をして鎧と剣を装備しています。
 鎧と剣には、当然ゴーレムの魔法をかけてあります。
 おかげで、魔力の使用量がやばい状態になっています。
 しばらく私は、歳を取らないかもしれませんね。これは子供達には内緒です。

「うふふ、よく似合いますね」

「ありがとうございます!!」

 イサちゃんが涙ぐんでいるようです。
 顔は見えませんが、声が少しうわずっています。
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