上 下
78 / 89

第七十八話 開戦

しおりを挟む
エルフの国の森を1時間程歩くと、少し開けた所に出ました。
そこに、まあまあ立派なお城が建っています。
森の中で、何人か斥候がいるのを感じていましたので、こちらがどんな人数かは知っていたのでしょう、城から兵士が出て来てくれています。

人数は五百人くらいでしょうか、待ち構えています。
盾を構えた歩兵に弓隊が続き、魔法部隊が並んでいます。
攻城戦なら面倒くさいと思っていましたので、丁度よかったと思っています。
僕たちの姿を見て余裕が出たのか、ヘラヘラ笑っています。

「クリード、今からでもこちら側に寝返ったらどうだー」

体の大きな熊のような髭づらの男が笑いながら声を掛けてきます。
恐らく敵の大将でしょう。エルフにしては珍しいタイプです。

「ノコ様、返事を返してもよろしいですか」

クリードさんが冷静に、僕に返事の許しを願い出てくれました。律儀な人です。

「思う存分お願いします。ついでに降伏勧告もお願いします。いまなら命だけは助けて上げようと思います」

僕が言い終わると、クリードさんが大きくうなずき、胸いっぱい空気を吸い込みました。

「グルズ領の領兵よ、我あるじノコ様より、今降伏するなら命は助けるとの慈悲をたまわったー。命が惜しい者は直ちに降伏せよー」

「ぎゃーーはっはっはっーー」

この言葉を聞いた敵兵全員が腹を抱えて笑っています。

「皆さんはここに居てください。今日は僕が行ってきます」

「ノコ様、もう少し力を戻したほうがいいかニャ?」

マリーが僕の身を少し、心配しています。

「いいえ、これでいいです。ずいぶんこの力になじんでいますので十分戦えると思います。それにスキルもありますので……」

僕の冥府王のスキルは、五百人程度の兵士なら余裕でゾンビに出来ます。
まあ、しまって置く先が少ないので今回はゾンビにはしないつもりですが、ピンチになればゾンビにすればいいだけのことです。
そして、このスキルは、魔法が一切使えない代わりに、許可を与えた者以外の全ての魔法を無効にします。
僕が今許可を与えているのは、マリーとローズ、ニーファさんだけです。
さらにゾンビなので弓程度では致命傷にはならないのです。

エルフで気を付けないといけないのは、弓と攻撃魔法だけなので、僕はエルフにとっては天敵ともいえる存在なのです。

「マリー、ドラゴンソードを二本出してください」

僕は、ユーリさんのうろこから作った、青いドラゴンソードを出して貰った。
一本は僕が使い、一本はクリードさんに渡しました。
その剣を手に持ち一人、前に進み出ます。

「弓隊、射掛けよ」

そんな僕に対して、敵兵は一騎討ちをするわけでも無く、弓を射かけてきました。

「ふふふ、それなりに警戒はしている様ですね」

僕は聞こえるようにつぶやきました。
矢の雨が降ってきます。
それを、剣の腹で振り払います。
何とか全て払いのけました。

「な、なんだと、魔法隊攻撃開始――!!」

でも、その攻撃も僕の体にあたることも無く、寸前で全てかき消されます。

「な、なんだと」

敵将が慌てています。

「ノコ様―、私に魔法の使用を許可していただけませんかー」

僕の後ろから声が聞こえました。
この声は、バッキーさんです。
バッキーさんは獣人です。獣人は高い戦闘能力の代わりに魔法は使えなかったと思ったのですが……。

「興味深いです。一発お願いします」

バッキーさんは嬉しそうな顔をして、手を高く上げます。
すごく大きな魔方陣が空中に浮かび上がりました。
心なしかあたりが暗くなります。

うん、すごく嫌な予感がします。
グルズ領の領兵の上に巨大な燃えている岩、まるで隕石が出て来ました。
そして、その隕石は領兵の上にズドンと落ち、領兵を全て飲み込み一気に押しつぶしてしまいました。
後には巨大な岩が残るだけで生き残った兵士は何もいないようです。

「すげーー、すげーー」

クリードさんと兵士の四人が言いながら目が点になっています。
つかった本人のバッキーさんの目が一番点になっています。
そして、尻尾がしおれて、足の間に吸い込まれています。
僕はバッキーさんに全力疾走で駆け寄り、頭をこれでもかという程撫でます。

「よし、よし、よーし、よし」

バッキーさんの尻尾が、元気よく左右に動き出しました。

「しかし、驚きました。二,三千人は押しつぶせそうですね」

僕が言いながらも、バッキーさんを撫でていると、パッチさんが近づいてきました。

「俺も使えます」

俺ッ子パッチさんが、赤い顔をしてもじもじしながら言ってきます。

「えーーっ」

また、クリードさんと兵士の四人が驚いています。
僕は瞬間的にパッチさんも頭を撫でて欲しいのだと思いました。

「じゃあ、あの城に……」

「待ってください」

僕が、城の上に隕石を落として貰おうと思ったら、バッキーさんが割って入ってきた。

「何ですか」

「はい、魔法に名前を付けて欲しいのですが……」

あーー、ローズもそういっていたなー。
なにか良い名前を付けて上げたいなー。

「ミーティアドロップかな」

ちょっと違うけど。まあいいかな。

「……」

何だか、バッキーさんとパッチさんの顔が真っ赤になっています。

「ミーティアドロップ!!」

パッチさんが手をあげて言いました。
巨大な魔方陣が現れて、あたりが明らかに暗くなっています。
巨大な燃える岩が城の上に現れると、城から使用人と思われる人達が逃げ出しています。
そして森の中の美しい城が、巨大な燃える石に押しつぶされました。
後には、城壁に守られた巨大な岩が出来上がりました。
パッチさんの方が少し、大きい岩が残っています。

僕は虎のような猛獣の雰囲気のパッチさんの頭を、はげるのじゃ無いかと思う位なでました。
こんなことで、ち切れそうなくらい尻尾を振っている獣人が可愛くてしょうが無くなりました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる

まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。 そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

英雄一家の〝出涸らし〟魔技師は、今日も無自覚に奇跡を創る。

右薙光介
ファンタジー
かつて世界を救ったという英雄の一家がある。 神すらも下した伝説の魔法使いの父、そしてその隣に立ち続けた母。 しかし、その息子──ノエルには、その才能が一片も受け継がれなかった。 両親から全ての才能を引き継いだ姉の隣で、周囲から〝出涸らし〟と揶揄される日々。 あげくに成人の儀式では、最低評価の『一ツ星(スカム)』を受けてしまうノエル。 そんなノエルにも魔法道具(アーティファクト)職人……『魔技師』になるという夢があった。 世界最高の頭脳が集まる『学園』で待っていたのは、エキサイティングな学生生活、そして危険な課題実習。 そんなある日、課題実習のさなかにノエルはある古代魔法道具による暴走転移事故に巻き込まれてしまう。 姉、そして幼馴染とともに吹き飛ばされたその先は、なんと40年前の世界だった。 元の時間に戻るべく、転移装置修理に乗り出す三人。 しかし、資金調達のために受けた軽い依頼から、大きなトラブルに巻き込まれることに。 それはやがて、英雄一家の過去と未来を左右する冒険の始まりとなるのだった。 魔法使いになりたかった〝出涸らし〟の少年が、『本当の魔法』を手にする冒険ファンタジー、ここに開幕ッ!! ※他サイトにも掲載しております。

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

人気MMOの最恐クランと一緒に異世界へ転移してしまったようなので、ひっそり冒険者生活をしています

テツみン
ファンタジー
 二〇八✕年、一世を風靡したフルダイブ型VRMMO『ユグドラシル』のサービス終了日。  七年ぶりにログインしたユウタは、ユグドラシルの面白さを改めて思い知る。  しかし、『時既に遅し』。サービス終了の二十四時となった。あとは強制ログアウトを待つだけ……  なのにログアウトされない! 視界も変化し、ユウタは狼狽えた。  当てもなく彷徨っていると、亜人の娘、ラミィとフィンに出会う。  そこは都市国家連合。異世界だったのだ!  彼女たちと一緒に冒険者として暮らし始めたユウタは、あるとき、ユグドラシル最恐のPKクラン、『オブト・ア・バウンズ』もこの世界に転移していたことを知る。  彼らに気づかれてはならないと、ユウタは「目立つような行動はせず、ひっそり生きていこう――」そう決意するのだが……  ゲームのアバターのまま異世界へダイブした冴えないサラリーマンが、チートPK野郎の陰に怯えながら『ひっそり』と冒険者生活を送っていた……はずなのに、いつの間にか救国の勇者として、『死ぬほど』苦労する――これは、そんな話。 *60話完結(10万文字以上)までは必ず公開します。  『お気に入り登録』、『いいね』、『感想』をお願いします!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

処理中です...