上 下
54 / 89

第五十四話 大将軍の一日

しおりを挟む
「ゼルバン様、ヴラド伯爵様が面会したいと、あいさつにいらっしゃいました」

「俺は今忙しい、追い返せ」

「はっ、あとローズ様が……」

「すぐに会う、応接室にお通ししろ!」

「ふふふ」

「嫌な笑い方をするな、ノコ様の関係者は特別なのだ」

俺が執務室を出て応接室に入ると、ローズ様が静かに目を閉じ座っている。
絵画のような美しさで、息を飲んだ。
そして部下が、お茶を出すとローズさんが、薄茶色の丸い物体を出した。

「シュークリームと言います。最近憶えました」

ローズさんが手づかみで一口食べるのを確認してから、俺も口に運んだ。

「うまい!!」

思わず大きな声を出してしまった。
はしたないことに、部下が凄い勢いで見つめている。
俺が、たしなめようとしたら、それより速くローズさんが口を開いた。

「ここには、何人働いていますか」

「は、はい、百二十人です」

「この箱に六個ずつ入っています。皆さんで食べてください」

ローズさんは箱入りのシュークリームを二十箱部下に渡してくれた。
その後シュークリームを食べた部下であろう大声が、時々聞こえた。

「で、どの様なご用でしょうか」

俺は内心ドキドキしていた。
俺程度では、どの様な要求をされても断れないからだ。

「エルフ族が、軍備を整えつつあります」

「な、何ですと」

「カドモス領に、大勢エルフが捕らえられていました。その中に貴族の娘もいたようです」

「報復と言うことですか」

「そうですね。王国もカドモスの商売を認めていたのですから」

「責任は、国にあると……」

ローズ様は表情を変えずゆっくりうなずいた。

「幸い、ノコ様も行動してくれると言っていますが、軍備とお詫びの使者くらいは出した方がよろしいかと思います」

よかった!
俺は心底ほっとしていた。
エルフ族との一般兵の強さ比較なら、一対一で人間が勝てる相手ではない。
三対一でもきびしい戦いになるはずだ。
ふふふ、ノコ様に依存しきっている自分に笑いがこみ上げた。

「すぐに陛下に進言いたします」

「ふふふ、お願いします」





僕の一日は静かに終ろうとしていた。
この一年F組は、どうやら大半が貴族の落ちこぼれ生徒で、世紀末感がすごい。
幸い女生徒姿なので絡まれてはいない。
まてよ、マリーとローズはこうなることを、見越して女生徒姿にしてくれたのか。
いやいや、いい方に考えすぎだ。あいつらは、面白がってやったに決まっている。

「ノノコちゃん、女子寮を案内します」

ローズが鼻の頭にクリームを付けて現れた。
あっあれだ、シュークリームをくったんだ。

「女子寮?」

「はい、この学園は全寮制で、ノノコちゃんは今日から女子寮で生活してもらいます」

ななな、なんだってーー。
嫌な予感しかしない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界転移したロボ娘が、バッテリーが尽きるまでの一ヶ月で世界を救っちゃう物語

京衛武百十
ファンタジー
<メイトギア>と呼ばれる人型ホームヘルパーロボット<タリアP55SI>は、旧式化したことでオーナーが最新の後継機に買い換えたため、データのすべてを新しい機体に引継ぎ、役目を終え、再資源化を迎えるだけになっていた。 なのに、彼女が次に起動した時にいたのは、まったく記憶にない中世ヨーロッパを思わせる世界だった。 要人警護にも使われるタリアP55SIは、その世界において、ありとあらゆるものを凌駕するスーパーパワーの持ち主。<魔法>と呼ばれる超常の力さえ、それが発動する前に動けて、生物には非常に強力な影響を与えるスタンすらロボットであるがゆえに効果がなく、彼女の前にはただ面倒臭いだけの大道芸に過ぎなかった。 <ロボット>というものを知らないその世界の人々は彼女を<救世主>を崇め、自分達を脅かす<魔物の王>の討伐を願うのであった。

ダンジョン・ホテルへようこそ! ダンジョンマスターとリゾート経営に乗り出します!

彩世幻夜
ファンタジー
異世界のダンジョンに転移してしまった、ホテル清掃員として働く24歳、♀。 ダンジョンマスターの食事係兼ダンジョンの改革責任者として奮闘します!

斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……  しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!  とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?  愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!

外道魔法で異世界旅を〜女神の生まれ変わりを探しています〜

農民ヤズ―
ファンタジー
投稿は今回が初めてなので、内容はぐだぐだするかもしれないです。 今作は初めて小説を書くので実験的に三人称視点で書こうとしたものなので、おかしい所が多々あると思いますがお読みいただければ幸いです。 推奨:流し読みでのストーリー確認( 晶はある日車の運転中に事故にあって死んでしまった。 不慮の事故で死んでしまった晶は死後生まれ変わる機会を得るが、その為には女神の課す試練を乗り越えなければならない。だが試練は一筋縄ではいかなかった。 何度も試練をやり直し、遂には全てに試練をクリアする事ができ、生まれ変わることになった晶だが、紆余曲折を経て女神と共にそれぞれ異なる場所で異なる立場として生まれ変わりることになった。 だが生まれ変わってみれば『外道魔法』と忌避される他者の精神を操る事に特化したものしか魔法を使う事ができなかった。 生まれ変わった男は、その事を隠しながらも共に生まれ変わったはずの女神を探して無双していく

封印されし魔王、自称モブ生徒に転生す!

猫宮乾
ファンタジー
 勇者が言った。「魔王! お前を封印する!!」来た。ついに来てしまった。俺は絶望的な気分で、目の前で閉じつつある時空の歪みを見た。それから――三百年以上の時が経過していたらしい。「リザリア・ナイトレル! 貴様との婚約を破棄する!」なんだか目の前で婚約破棄が繰り広げられているが、それどころではない。俺は、思い出してしまった。そう記憶が蘇ってしまったのだ。俺は、魔王だ……! ※主人公最強の異世界ファンタジーで恋愛要素があります。お楽しみいただけましたら幸いです。

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

処理中です...