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終章 人類諸国の英雄と終焉の堕天戦乙女
第8話 追い込まれたリシュカと終わらせたいオットーと
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・・8・・
5の月11の日
午後10時50分
帝国軍反逆者側・リシュカ陣営
ホルソフ中心市街地・臨時司令部
叛逆者となったリシュカ陣営は徐々に追い込まれていた。
兵力の不利、練度の不利、立場上の不利。おまけに士気の低下。兵力や練度はまだなんとかするとしても、立場上の不利は覆せるはずがない。あれから帝都からの連絡は途絶え、陣営の外側からは延々と自分達を叛逆者と罵り投降を促す呼びかけが続いていたからだ。故にリシュカ陣営の将兵の士気は日に日に、そして目に見えて低下していた。
そのような中で行ったのが一種の賭け。ホルソフにあったソズダーニアへと変化させる薬剤を使い尽くしての特攻じみた攻撃だった。その中でも統合軍司令部へのソズダーニア投入は切り札だった。
端的に言えば、パラセーラをソズダーニアにして送り込んだのはリシュカの仕業だった。
パラセーラはリシュカに忠誠を誓う女である。だが、先の戦闘で彼女はリイナに片腕を飛ばされやむ無く後送。以降は表舞台には立てなくなった。
だが、これで終わらなかった。パラセーラがいた野戦病院はここホルソフ。そしてリシュカもホルソフに命からがらやってきた。さらには今の展開だ。
パラセーラはいる。片腕が飛んで使い物にならないが、そういえばソズダーニアに変化させると何故か腕は戻るではないか。
だからリシュカは思いつき、パラセーラに言ったのである。
「私の為に死ね」
と。
パラセーラは喜んで命令を受諾した。主人の命令なら何でも聞くパラセーラだ。断る訳がなかった。
パラセーラもリイナやアカツキに対しては恨みがあった。
今度こそ、化け物に成り果てでもあの二人を殺してやる。リシュカ様を喜ばせたい。
そう意気込んで統合軍司令部へ潜り込んだ。
だが、リシュカやパラセーラにとって世界はどこまでも残酷だったし、アカツキやリイナはどこまでも世界に愛されていた。
結果は、アカツキとリイナにエイジスは無傷。魔法光石による約束された奇跡によって、彼等は死ぬどころか怪我さえもしなかった。副次的にもたらすはずだった統合軍司令部への被害もずっと少なく、一部機能が一時的に止まっただけで、数時間も経たない内に立て直された。
つまりパラセーラの忠誠と死は無駄に等しかったのである。
その結果は、即日リシュカのもとにもたらされていた。
報告をしている士官の目の前にリシュカに、かつての面影はほとんど無い。見るからに疲弊しており、目の下にはクマを作っている。艶やかな髪の毛はボサボサになり、細かった体躯はさらに細くなり不健康極まりない様子だった。
「――以上が、潜入させていた者からの報告になります」
「分かった。ご苦労。下がれ」
「は、はっ……」
士官が報告終えると、リシュカは手短い言葉で会話を終わらせる。冷静を装ってはいるものの、手は震えているし唇も噛んでいた。士官に伝わってしまうくらいに、感情が漏れ出ていた。
士官が退室するとリシュカは感情を、怒りを早々に爆発させた。
「パラセーラのクソッタレの役立たずがッッ!!!! クソ英雄共を殺す事が出来なかったどころか傷一つ付けられないだって!?!? ふざけんじゃないわよ!!!! 何の為に役立たずの無駄飯食らいに貴重なソズダーニアトゥリーの薬剤を突っ込んだと思ってんのよ!!!! クソッタレクソッタレクソッタレ!!」
「閣下、どうか落ち着いてください」
「あぁぁ?!?! これで落ち着けるわけねえだろうが!!」
傍に控えていたオットーは彼女を宥めようとするが、焼け石に水どころか火に油を注ぐ形になってしまっていた。
「ちったぁ役に立つかと思って送ったアイツが戦って自爆するまではいいさ!! 問題はそっからだろ!! なんだよ突然眩い光に包まれたかと思いきや無傷って!! おとぎ話じゃねえんだぞ!!」
「魔法光石によるものです。以前の諜報で結婚指輪に付けられているもので、それが発動したと」
「気に食わねえ気に食わねえ気に食わねえ!! 夫婦の愛の結晶が命を救っただなんて許さない信じられないふざけんなよ本当に!!!!」
「魔法光石については帝国でもございます。ただ、まさか三型の自爆すら完全に防ぐとは……」
「その結果がこれだろ?!?! 私は追い込まれている。帝都からの連絡は無いどころか毎日耳障りな勧告ばかり。兵の投降は止められない。なんで、なんで奴等ばっかり世界に愛されてんだよ!!!! なんで死なねえんだよ!!!! クソッタレクソッタレクソッタレクソッタレクソッタレクソッタレ!!!!」
リシュカは半錯乱状態だった。
仕方の無い話だ。
リシュカはかつて祖国の協商連合に裏切られただけでなく、裏切った先の帝国でも皇后ルシュカに裏切られた。レオニードはルシュカに依存しているから期待出来るはずもなく、自分はいつの間にか叛逆者扱い。
ところがリシュカが憎んで憎んで憎みきっているアカツキはというと、祖国に愛されている。国民に愛されている。他国からも愛されており、信頼されている。
何より、家族に愛されている。
片や世界に愛される英雄。片や何一つ持っていない叛逆者。
なるべくしてなったとも言えないことはないが、だとしてもあまりにも残酷な差ではあった。
「閣下」
「うるさい!! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!」
「閣下、お気を確かに。切り札はダメでした。しかし、まだ兵力は残っており市街戦も控えております。徹底抗戦もじさなければあるいは」
「あるいはなんだよ!! この状態からどうしろって!?!?!? そりゃ最後の一兵まで、私だけになっても戦ってやるさ!!!! そこからはどうする?!?! だったらその前にお前が私の為に死ねッッッッ!!!!!!」
「…………っ」
リシュカも追い込まれている事は十分に分かっていた。今のままでは一ヶ月も持たないことも。
にも関わらず今回の件が、彼女に追い打ちをかけていた。
もうリシュカは、誰も信じていなかった。
「………………出てけ」
「……………………」
「さっさと出てけよ!!!! どいつもこいつも裏切り者め!!!!」
「…………分かりました」
オットーは、静かに言うとリシュカのいる部屋から退室した。
部屋の外には、何人かの士官がいた。誰もが不安な顔をしているし、諦めている顔つきの者もいた。
オットーは、小さく首を横に振った。
「オットー閣下……」
「閣下、これでは……」
ぽそりと本音を漏らした士官達に、オットーは口元で人差し指を置くと、士官達は頷いた。
彼等は歩き出した。向かう先は、参謀達も控えている大きな部屋だ。
そこに着くと、オットーは口を開いた。
「…………もうダメだ」
「やはりですか……」
「リシュカ閣下は正気ではない。それどころか、このままだと私も君達もみんな死ぬ。しかも叛逆者として死ぬことになる」
「そんな」
「いや、元からリシュカ閣下に従っていた時点でおしまいじゃないか」
「リシュカ閣下が言っていた、レオニード陛下の再決起もない……」
「むしろ逆だ。我々は祖国に見限られた……」
「リシュカ閣下ならどうにかしてくれると思ったが、これじゃあ……」
部屋には絶望感が満ちていた。
手詰まり。詰み。八方塞がり。彼等はもう救いようがないところまで来てしまったし、後にも先にも進めなくなっていた。
オットーは考える。
このままでは全員死ぬ。リシュカに付き従ったままでは皆が死ぬ。しかもその死は名誉ではなく不名誉の死。
自分はともかくとして、末端の兵士にはあんまりに過ぎる終わりだ。
どうにか出来ないか。なんとかならないか。
士官達がああでもないこうでもないと話している間、オットーは疲弊している思考回路を必死に回して考える。
そうして、たどり着く。
禁じ手ではあるし、自分は死ぬ可能性が著しく高いが、一つだけあった。
これならば、せめて兵士達くらいなら。
「すまない、私は少し席を外す」
「はっ。了解しました」
なんだろうか、ついにオットーもダメか。
と士官達は思ったものの、口には出さなかった。
オットーは退室すると、自分の部屋に戻る。
おもむろに手紙を取り出すと、文章を書き始めた。届け先は帝国本国。自分達を包囲している帝国軍。内容は現状を打破する為で、リシュカが叛逆者にならなければ終わるはずだった戦争を終わらせる為に関する内容だった。
5の月11の日
午後10時50分
帝国軍反逆者側・リシュカ陣営
ホルソフ中心市街地・臨時司令部
叛逆者となったリシュカ陣営は徐々に追い込まれていた。
兵力の不利、練度の不利、立場上の不利。おまけに士気の低下。兵力や練度はまだなんとかするとしても、立場上の不利は覆せるはずがない。あれから帝都からの連絡は途絶え、陣営の外側からは延々と自分達を叛逆者と罵り投降を促す呼びかけが続いていたからだ。故にリシュカ陣営の将兵の士気は日に日に、そして目に見えて低下していた。
そのような中で行ったのが一種の賭け。ホルソフにあったソズダーニアへと変化させる薬剤を使い尽くしての特攻じみた攻撃だった。その中でも統合軍司令部へのソズダーニア投入は切り札だった。
端的に言えば、パラセーラをソズダーニアにして送り込んだのはリシュカの仕業だった。
パラセーラはリシュカに忠誠を誓う女である。だが、先の戦闘で彼女はリイナに片腕を飛ばされやむ無く後送。以降は表舞台には立てなくなった。
だが、これで終わらなかった。パラセーラがいた野戦病院はここホルソフ。そしてリシュカもホルソフに命からがらやってきた。さらには今の展開だ。
パラセーラはいる。片腕が飛んで使い物にならないが、そういえばソズダーニアに変化させると何故か腕は戻るではないか。
だからリシュカは思いつき、パラセーラに言ったのである。
「私の為に死ね」
と。
パラセーラは喜んで命令を受諾した。主人の命令なら何でも聞くパラセーラだ。断る訳がなかった。
パラセーラもリイナやアカツキに対しては恨みがあった。
今度こそ、化け物に成り果てでもあの二人を殺してやる。リシュカ様を喜ばせたい。
そう意気込んで統合軍司令部へ潜り込んだ。
だが、リシュカやパラセーラにとって世界はどこまでも残酷だったし、アカツキやリイナはどこまでも世界に愛されていた。
結果は、アカツキとリイナにエイジスは無傷。魔法光石による約束された奇跡によって、彼等は死ぬどころか怪我さえもしなかった。副次的にもたらすはずだった統合軍司令部への被害もずっと少なく、一部機能が一時的に止まっただけで、数時間も経たない内に立て直された。
つまりパラセーラの忠誠と死は無駄に等しかったのである。
その結果は、即日リシュカのもとにもたらされていた。
報告をしている士官の目の前にリシュカに、かつての面影はほとんど無い。見るからに疲弊しており、目の下にはクマを作っている。艶やかな髪の毛はボサボサになり、細かった体躯はさらに細くなり不健康極まりない様子だった。
「――以上が、潜入させていた者からの報告になります」
「分かった。ご苦労。下がれ」
「は、はっ……」
士官が報告終えると、リシュカは手短い言葉で会話を終わらせる。冷静を装ってはいるものの、手は震えているし唇も噛んでいた。士官に伝わってしまうくらいに、感情が漏れ出ていた。
士官が退室するとリシュカは感情を、怒りを早々に爆発させた。
「パラセーラのクソッタレの役立たずがッッ!!!! クソ英雄共を殺す事が出来なかったどころか傷一つ付けられないだって!?!? ふざけんじゃないわよ!!!! 何の為に役立たずの無駄飯食らいに貴重なソズダーニアトゥリーの薬剤を突っ込んだと思ってんのよ!!!! クソッタレクソッタレクソッタレ!!」
「閣下、どうか落ち着いてください」
「あぁぁ?!?! これで落ち着けるわけねえだろうが!!」
傍に控えていたオットーは彼女を宥めようとするが、焼け石に水どころか火に油を注ぐ形になってしまっていた。
「ちったぁ役に立つかと思って送ったアイツが戦って自爆するまではいいさ!! 問題はそっからだろ!! なんだよ突然眩い光に包まれたかと思いきや無傷って!! おとぎ話じゃねえんだぞ!!」
「魔法光石によるものです。以前の諜報で結婚指輪に付けられているもので、それが発動したと」
「気に食わねえ気に食わねえ気に食わねえ!! 夫婦の愛の結晶が命を救っただなんて許さない信じられないふざけんなよ本当に!!!!」
「魔法光石については帝国でもございます。ただ、まさか三型の自爆すら完全に防ぐとは……」
「その結果がこれだろ?!?! 私は追い込まれている。帝都からの連絡は無いどころか毎日耳障りな勧告ばかり。兵の投降は止められない。なんで、なんで奴等ばっかり世界に愛されてんだよ!!!! なんで死なねえんだよ!!!! クソッタレクソッタレクソッタレクソッタレクソッタレクソッタレ!!!!」
リシュカは半錯乱状態だった。
仕方の無い話だ。
リシュカはかつて祖国の協商連合に裏切られただけでなく、裏切った先の帝国でも皇后ルシュカに裏切られた。レオニードはルシュカに依存しているから期待出来るはずもなく、自分はいつの間にか叛逆者扱い。
ところがリシュカが憎んで憎んで憎みきっているアカツキはというと、祖国に愛されている。国民に愛されている。他国からも愛されており、信頼されている。
何より、家族に愛されている。
片や世界に愛される英雄。片や何一つ持っていない叛逆者。
なるべくしてなったとも言えないことはないが、だとしてもあまりにも残酷な差ではあった。
「閣下」
「うるさい!! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!」
「閣下、お気を確かに。切り札はダメでした。しかし、まだ兵力は残っており市街戦も控えております。徹底抗戦もじさなければあるいは」
「あるいはなんだよ!! この状態からどうしろって!?!?!? そりゃ最後の一兵まで、私だけになっても戦ってやるさ!!!! そこからはどうする?!?! だったらその前にお前が私の為に死ねッッッッ!!!!!!」
「…………っ」
リシュカも追い込まれている事は十分に分かっていた。今のままでは一ヶ月も持たないことも。
にも関わらず今回の件が、彼女に追い打ちをかけていた。
もうリシュカは、誰も信じていなかった。
「………………出てけ」
「……………………」
「さっさと出てけよ!!!! どいつもこいつも裏切り者め!!!!」
「…………分かりました」
オットーは、静かに言うとリシュカのいる部屋から退室した。
部屋の外には、何人かの士官がいた。誰もが不安な顔をしているし、諦めている顔つきの者もいた。
オットーは、小さく首を横に振った。
「オットー閣下……」
「閣下、これでは……」
ぽそりと本音を漏らした士官達に、オットーは口元で人差し指を置くと、士官達は頷いた。
彼等は歩き出した。向かう先は、参謀達も控えている大きな部屋だ。
そこに着くと、オットーは口を開いた。
「…………もうダメだ」
「やはりですか……」
「リシュカ閣下は正気ではない。それどころか、このままだと私も君達もみんな死ぬ。しかも叛逆者として死ぬことになる」
「そんな」
「いや、元からリシュカ閣下に従っていた時点でおしまいじゃないか」
「リシュカ閣下が言っていた、レオニード陛下の再決起もない……」
「むしろ逆だ。我々は祖国に見限られた……」
「リシュカ閣下ならどうにかしてくれると思ったが、これじゃあ……」
部屋には絶望感が満ちていた。
手詰まり。詰み。八方塞がり。彼等はもう救いようがないところまで来てしまったし、後にも先にも進めなくなっていた。
オットーは考える。
このままでは全員死ぬ。リシュカに付き従ったままでは皆が死ぬ。しかもその死は名誉ではなく不名誉の死。
自分はともかくとして、末端の兵士にはあんまりに過ぎる終わりだ。
どうにか出来ないか。なんとかならないか。
士官達がああでもないこうでもないと話している間、オットーは疲弊している思考回路を必死に回して考える。
そうして、たどり着く。
禁じ手ではあるし、自分は死ぬ可能性が著しく高いが、一つだけあった。
これならば、せめて兵士達くらいなら。
「すまない、私は少し席を外す」
「はっ。了解しました」
なんだろうか、ついにオットーもダメか。
と士官達は思ったものの、口には出さなかった。
オットーは退室すると、自分の部屋に戻る。
おもむろに手紙を取り出すと、文章を書き始めた。届け先は帝国本国。自分達を包囲している帝国軍。内容は現状を打破する為で、リシュカが叛逆者にならなければ終わるはずだった戦争を終わらせる為に関する内容だった。
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