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終章 人類諸国の英雄と終焉の堕天戦乙女

第2話 前進初日

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・・2・・
5の月7の日
午前11時45分
ホルソフより西40キーラ地点
統合軍前線エリア


「攻勢準備砲撃全区域にて終了しました」

「半包囲一斉攻勢第一波の攻勢開始まであと一五分です」

「歩兵及びゴーレム搭乗能力者兵などの支援ロケット攻撃、砲撃の準備は順次進行中」

「攻勢準備砲撃の効果確認中。判明まで暫く時間がかかります」

 遂にやってきた攻勢の時。六時間延長した攻勢準備砲撃も終わり、統合軍全体に緊張の度合いが高まっていく。勝てるのは分かっていても指揮官はあの人、リシュカ・フィブラだからだ。
 僕はアレゼル大将と共に前線で戦う将官の一人として、次々と飛んでくる無線に対して返答を送っていく。

「アカツキ中将閣下、上空のココノエ陛下から通信です。繋げますか?」

「繋げて」

「はっ」

 戦闘機より高空を飛行可能なココノエ陛下から通信が来たとのことで、僕は直ぐに通信要員に繋ぐよう言う。

「こちらホルソフFHQ(前線司令部)。イーストロイヤル1どうぞ」

『こちらイーストロイヤル1じゃ。上空から偵察しておったが、彼奴等は引きこもってばかりじゃ。恐らく攻勢準備砲撃は思ったような効果はないであろう。六時間ばかりでは、誤差の範囲内やもしれぬ』

「やはりですか。元より多少時間を伸ばした程度では、反乱軍兵士を精神的に追い込むきっかけになれば十分くらいに思ってましたが」

『今は長距離砲とロケットしか射程に入っておらぬからの。ところで妾達が攻撃をせんくて良かったのか?』

「今はまだ。後々空からか陸にてか、いずれかの形で動いて頂きますのでその時にはまたお伝えします。ただ、攻勢開始からしばらくは上空援護をお願いしたく」

『任せよ。さっさとこの戦に終止符を打たねばならぬからの。何せ、妾達はこの戦の後にもテーブルで言葉を用い戦わねばならんのじゃから』

「ええ。一時停戦の際に、マーチス元帥閣下に皇国の件にも触れて頂きました。終戦の条約の際には確実に条項に上ります。ですからこの最後の戦い、全力でお願いいたします」

『うむ。――さて。それでは間もなく攻勢開始故そろそろ通信を終えるとする。また何かあれば連絡する』

「了解しました。陛下、ご武運を」

『お主もの』

 ココノエ陛下との通信を終えると、僕は一度息を吐いて胸ポケットに入れてある懐中時計を一瞥。その後、視線を戦場である前方に向ける。

「あと七分、か。エイジス、敵の洗脳化光龍とソズダーニアの探知を」

「サー、マスター」

 僕はエイジスに、昨日も行った洗脳化光龍とソズダーニアの魔力探知を命じる。

「探知完了。洗脳化光龍は約一〇。昨日もお伝えしましたが、地下壕のようなものを構築した場所から変わっておりません」

「まあさすがにそこは増えないか。ソズダーニアは?」

「反応が微弱なものも含めれば約三〇。昨日と変わりません」

「三〇か……。やっぱり数の辻褄が合わない」

「残っているソズダーニアからホルソフにあると予想されるソズダーニアの数よね。確かに少なく思えるわ」

「肯定。少なく見積ってもホルソフとその周辺にあると考えられるソズダーニアはこの四倍から五倍はあってもおかしくありません」

 僕の感想にリイナやエイジスは同意する。
姿を隠しておくことが出来ない洗脳化光龍はともかくとして、姿を隠すことができて直前までの人の姿にしておけるソズダーニアがこの数だとはとても思えない。これまでの戦いでかなりを倒したとはいえ、ソズダーニアのコスト――元となる素材的な意味でも――は洗脳化光龍より少ないからだ。

「となると、いきなり出現する可能性は確定と……。どの部隊にも要警戒と伝えておいて正解だったね」

「エイジスが収集したソズダーニア特有の魔力波長も、ソズダーニアにならないとキャッチはできないものね。一体どれだけ成れの果てが出てくるのやら」

「ワタクシの演算でも確定した数値は出せません。もしソズダーニアの素材が帳簿外で多く納入されていたとしたら、尚更に」

 ボヤいていても仕方がない。数が少なく見積った分だけで済めば御の字としよう。幸いなことに、勝ち戦が確定していても指揮官クラスで楽観視している者は少ないんだから。

「マスター、間もなく攻勢開始時刻です」

「分かった。カウントを」

「サー」

 エイジスは全体にも伝わるようカウントダウンを始める。
 四五秒、三〇秒、一五秒――、

「――五、四、三、二、一、ゼロ」

「能力者化師団全軍、進軍開始!!」

 僕は無線で指揮する部隊全てに前進を命じ、あちこちから進軍を表す信号弾も打ち上げられる。
 約二〇〇〇〇〇いる反乱軍の内、ホルソフ郊外周辺に展開する約一〇〇〇〇〇から一二〇〇〇〇に向けたロケット砲と野砲の一斉攻撃。
 周囲から耳に入る大勢の突撃の雄叫び。
 やや遅れて聞こえてきた、近郊の仮設飛行場から離陸した約一〇〇の戦闘機。
 戦場音楽があちこちで演奏を始めた。
 僕も野戦指揮車両にしている蒸気自動車に乗り込んでやや前に出る。
 半包囲に対抗する反乱軍の反撃はほとんど無い。郊外周辺に展開する兵力は決して少なくないけれど、あまり密度を薄くすると各個撃破される恐れを極力減らしたいんだろう。まだ進軍を始めたばかりの僕達統合軍に対しての攻撃は、一時間が経過した程度では大きな動きは無かった。

「最前面の第二能力者化師団及び第一六師団より連絡。敵の動向に注意しつつ三時間で約五キーラ前進。散発的な攻撃はあるものの、目立った反撃は無し。ただし魔石地雷やトラップなどのハラスメントがかなり多く、前進にはやや手間取っている様子です」

「魔石地雷の起爆は見つけ次第面で爆発させるよう、対処法に則ってそのまま進撃。今日は昼からの攻撃だし、焦らなくてもいい。着実に半包囲を狭めるように」

「了解。伝えます」

「マスター、無線で報告のあった魔石地雷埋設地とトラップ設置箇所をマーク。随時更新します」

「助かるよ。ありがとう、エイジス」

 エイジスがマークしていった魔石地雷やトラップのある場所はかなりの数で報告の度にさらに数を増やしている。時間稼ぎとこちらの死傷者を増やそうとしているのは明らかで、士気低下も狙っているんだろう。

「旦那様、どう対処するの?」

「正攻法だね。能力者化師団各部隊は魔法銃で爆発系魔法を使って誘爆させる。非魔法であれば砲兵隊の砲撃で面で吹き飛ばす」

「先月までだったら考えられないような贅沢な使い方ね。でも、その方が良さそう」

「市街戦でどうなるか分からないのに、余計な犠牲は増やしたくないからね。――エイジス、各員通達。魔石地雷やトラップは魔法銃の場合爆発系魔法で、非魔法の場合は砲兵隊の砲撃など誘爆可能な面制圧兵器で対処。今のところ敵は少ないからここで消費した弾薬類は兵站部隊に輸送を依頼するよう」

「サー。一斉送信を行います」

 前進を開始したこの日、反乱軍に目立った動きは少なかった。どちらかというと地雷やトラップなどに手間取られるか、不運な事にこれらの犠牲になった将兵がそれなりの数になった報告が目立っていた。
 前進は順調。敵との交戦数だけを見ればそう思えるだろう。
 だが、あの人が何もしないはずが無い。
 それは早速、翌日に現実になった。
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