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第25章 帝国皇后クーデターと落日の堕天戦乙女編

第1話 決着をつけるため

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・・1・・
4の月16の日
午後8時半過ぎ
人類諸国統合軍・オチャルフ前線総司令部


「北部方面軍、南部方面軍共に敗走する帝国軍に対し包囲環を形成しながら順調に前進中!」

「北部方面軍より連絡!   帝国軍前面の師団を粉砕しつつ、能力者及びゴーレム搭乗能力者部隊を中心とした部隊は快速で進出!   上空援護を受けつつ急速に展開中!    明日までに四〇キーラの前進可能とのこと!」

「さらに北部方面軍より連絡!   先程帝国軍一個師団の全面降伏を確認!    また敵一個師団の包囲を完了!」

「北部方面軍各師団長からは先日までの帝国軍の様子とはまるで変わり容易に攻勢が成功!   現場師団長クラスからは早速捕らえた捕虜が司令部と繋がらない旨を吐いたそうです!」

「南部方面軍も攻勢は順調!   温存していた能力者化   師団や能力者増強師団等を前面に前進!   帝国軍は潰走し、再奪還領域を広げつつあります!   最前方部隊はこの一日で約二五キーラ進出!」

「帝国軍は統制が取れておらず各個反撃が精々と現場からの報告が多数!   南部方面軍も包囲環を形成しており、明日には敵二個師団の包囲環が完成するとのこと!」

「現状の侵攻速度と兵站線から、明日までにはトルポッサの再奪還は十分に可能と進出中の師団から連絡あり!    帝国軍の抵抗は無いに等しいそうです!!」

「ここまで作戦は完璧に進んでいるな!!   全軍、そのまま快速で侵攻するよう命じろ!!   併せて兵站にはここ数日が戦況の明暗を分ける事になると伝え、惜しみなく物資を運ぶよう通達!   作戦に従い、足りなくなれば予備人員も使って構わんと伝えろ!」

『了解!!』

 反攻作戦が始まって半日が過ぎた。
 僕達人類諸国統合軍はこれまでの苦戦が嘘かのように、そして帝国軍にしてやられたこの世界における電撃戦を、帝国軍のそれを上回る速度と火力投射量で進めていた。

「まだ半日とはいえ、こんなに鮮やかに決まるだなんて思わなかったよ。やっぱり敵司令部機能喪失を目的とした作戦は正解だった。帝国軍は烏合の衆になってる」

「耐え抜いた甲斐があったわよね。情報部が敵の無線を傍受しているけれど、ほぼ機能が死んでいるみたい。作戦開始前までは活発に行われていた帝国軍の情報交換はほぼゼロになっているもの」

「マスター、情報を抜粋しました。帝国軍の無線通信網は現在においても南北軍集団相互通信網は途絶。さらにムィトゥーラウ方面との連絡も機能停止したままです。ほぼ確定事項、南北軍集団野戦司令部は完全に機能を喪失。前線と野戦司令部間情報連絡線、野戦司令部と前線司令部連絡線の機能も喪失と思われます」

「完璧だ。これなら早期にまずはトルポッサや前線司令部のあるムィトゥーラウの近くまで進軍出来るね。再び統合軍の南北方面軍も合流出来るだろうし、去年末から失った占領地域のかなりを取り戻せる。まあ、あくまで帝国軍が中々立て直しを出来なかった場合の希望論だけど」

「そうね。でも、希望論が現実になる可能性は高いと思うわ。一〇〇万を越える軍の再建なんて簡単にはいかないもの。それは私達がよく知ってるわ」

 リイナの言う通りだ。僕達統合軍より兵力に勝る帝国軍が僕達の反攻作戦前の統率を取り戻せるのには間違いなく時間がかかる。一日や二日で回復するのはまず無理だ。比較するまでもないけれど、僕達統合軍は去年末の攻勢を受けた時に司令部機能は生きていた。だから再編指示も出来たし統率回復も多少時間がかかったとはいえ、なんとか持ち直した。
 だけど、帝国軍は違う。『L3ロケット』で頭脳たる司令部機能が喪失して命令を送れなくなっている。また、推測だけど帝都からムィトゥーラウへの通信も傍受の結果無茶苦茶らしく、参謀本部の見立てでは『L4ロケット』はとても運がいい事にちゃんと帝都に着弾したらしい。
 つまり、中枢機能の麻痺と前線野戦司令部の機能の喪失という、軍にとっては余りにも致命的な状況が今の帝国軍。
 そこから導き出されるのは……。

「もしかして、もしかして、だ。この戦争、勝ちが確定したんじゃ……?」

 戦争の趨勢については非常に慎重派と周りから評価されている僕でも、そう思えるくらいの状況になった、と。

「参謀本部は少なくとも再奪還と占領域の拡大には積極的よ。瓦解した軍は脆い。ってね」

「このまま推移していけば、統合軍逆転の可能性はかなり高いです。マイマスター」

「そう、だよね。なら、だったら」

 僕にとってやるべき事は二つだ。
 一つ目は軍人としての役目。この攻勢で僕はずっと司令部にいるわけではない。第一能力者化師団や予備兵力を伴って、第二陣として前に出ることになっていて、参謀本部内とマーチス侯爵とも既に会議をした上で決まっているんだ。
 けど、それだけじゃない。とても個人的なやるべき事だけどそれが二つ目。
あの人とのケリをつけること。どんな形でもいい。有り得ないだろうけど、『L3ロケット』で既に死んでいるかもしれない。
 でも、恐らくまだ生きているだろう。となれば、捕虜にするときても殺すことにしても、いずれかの形で決着はつけないといけない。
 だから、思い立ったら、すぐに僕は行動に移した。

「マーチス元帥閣下」

「どうした、アカツキ中将」

「先日お話致しました、第二陣は既に進発準備は終わっておりますので明日の昼までには出ようかと思います」

「許可する。いい頃合いではあるし、全ての用意が整っている。お前の指揮下にある第一能力者化師団の他、予備にしていた第二陣も含めた約六〇〇〇〇を頼む」

「了解致しました。受領致します。我々はムィトゥーラウ方面へ向かいますので、帝国軍の追撃及び掃討、南部方面軍集団総指揮官のリシュカ・フィブラの捜索も同時に行います」

 僕は自身の任務内容を述べていくと、マーチス侯爵はすぐに了承の意志を表す。
 直後、彼は僕に近づくと小声で、

「リシュカ・フィブラについては危険極まりない人物故に対処手段と生死は問わない。お前自身の為にも、終止符を打ってこい。それが、ひいては、人類諸国の為にもなる」

「ありがとう、ございます」

 僕は感謝の言葉を小さい声で返す。
 それから敬礼すると、

「では、これより準備に取り掛かります」

「ああ、貴官の武運を祈る」

マーチス侯爵の答礼の後、僕とリイナとエイジスは早速動き出す。

「決着をつけましょう、旦那様」

「うん。――そして、必ず生きて帰ろう」

「ええ、旦那様」

「サー、マイマスター」

 決戦の日は近い。
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