359 / 390
第23章オチャルフ要塞決戦編(前)
第13話 最先端の要塞と文明の火と
しおりを挟む
・・13・・
『オチャルフ要塞攻防戦』。
3の月22の日から火蓋が切られたこの戦いには様々な別名が付けられ、また人類諸国と帝国双方の戦史書や手記などで言及されている大戦中で一、二を争うような戦いとして知られている。
別名としては、曰く『鉄の火と魔法の火が空一面と地を覆う大戦争』、曰く『近代戦争の総決算』、曰く『鉄と火と硝煙が支配する地獄の極み』、曰く『総力戦の体現』等々、名前を挙げればキリがない。
また、戦史書や手記などにはこう記されている。
「『オチャルフ要塞戦』は人類諸国統合軍と妖魔帝国軍のドクトリンが究極まで体現された戦争であった。その最たる例が人類諸国統合軍における重砲火力を含む火力投射量である。人類諸国統合軍は連合王国の『複合優勢火力ドクトリン』を基礎としてこれまでの戦いを行ってきたが、『オチャルフ要塞戦』で行われたそれは、完成系といっても差支えがなかった。何故ならば我々人類諸国統合軍が投射した火力の量は、師団定数比で約二倍かそれ以上を帝国軍に降り注がせたからである」
【アルネシア連合王国軍『第二次妖魔大戦戦史書第八巻』P.299より一部抜粋】
「ツォルク川を渡った帝国軍を待ち受けていたのは、友軍が一斉に放ち始めた砲弾とロケット、魔法銃弾だった。第一防衛線から第二防衛線に展開していた分だけでも凄まじいというのに、それに加えて奴等を襲ったのは後方に展開している二八〇ミーラ臼砲、二三〇ミーラカノン砲、二一〇ミーラカノン砲。さらにL2シリーズロケットの大量投射。地上と上空双方から届けられる座標をもとに降り注いだそれらは、面制圧にも関わらず正確極まりないものだった。川の地形はみるみる変化していき、ツォルク川東岸の堤防などあっという間に破壊されていた。私はその光景を司令部からしか見られなかったが、とある大隊長は言っていた。もし自分が敵ならば、間違いなく死を確信していた。と。それ程までに、凄まじかったのだ。我々は不利な戦況を今まで強いられていたにも関わらず、この砲撃を見た時はとてもそうは思えなかった」
【イリス法国軍とある将官の手記より抜粋】
「俺は信じられなかったさ。あんなのは初めて見た。味方の砲撃がこれ程頼もしいと思ったことは無いし、同時に恐ろしかった。なぜかって? 砲撃が一旦止んだ後に残っていたのは奴等の死体だけで、ツォルク川は奴等の血に染められ、肉塊がそこらじゅうに浮かんでいたからだ」
【ロンドリウム協商連合軍とある士官の手記より抜粋】
「今思うと、私はあの戦場でよく生き残れたと思う。川の向こうにいた時だ。二キルラ先の一面の地面が抉れ、川の水が間欠泉のように上がり、そこにいたはずなのに死体になった友軍の肉塊が弾け飛んだのが見えてしまったからだ。私はそれを見た時にほっとしてしまったさ。最前方の橋頭堡構築の二個師団じゃなくて良かった、って。だが、このあとあそこに行くことになるかと思うと、逃げたくて逃げたくて仕方がなかった」
【オチャルフ要塞戦で戦死が確認された帝国軍とある士官の日記】
※補足:この士官は翌日二十三の日に戦死している。遺族に渡されたのは、軍服の端切れだけようだ。
これはあくまで、『オチャルフ要塞戦』について書かれている公的文書や手記のごく一部である。
文章ですらこの戦いがいかに激しかったか分かると言えるだろう。現場にいた兵士や高級士官に至るまで、口を揃えて「時代は変わった。戦争も変わったと確信させる戦い」と言ったのは言うまでもない。
このように人類諸国統合軍が行った一斉砲撃、一斉攻撃であるが、帝国軍とてタダでやられた訳では無い。
ツォルク川にいた帝国軍将兵が悲惨な目に遭ってすぐに、帝国軍南部方面軍集団総指揮官のリシュカ・フィブラは反撃を命令。この時、即時航空戦力が投入され、予定を上回っても構わないと砲兵部隊を全力稼働。
現場にいた尖兵たる帝国軍兵士達も戦慄しながらもこれらの支援を受けて突入した。
もとより兵力が多い帝国軍である。数に任せた彼等は夕方になってようやく渡河に成功した部隊が続々と現れる。
結果として、二十二の日に帝国軍は第一防衛線から第二防衛線となっている中洲部分の二箇所に橋頭堡――中央部と南部――の構築を成功。一箇所あたりの面積は僅か六平方キーラではあったが、川を越えられたのは間違いない。翌日から、帝国軍はここを拠点として地獄が再現された戦場で戦闘を行っていくことになる。
初日から大戦最大の激戦を確信させる『オチャルフ要塞戦』。
最後に、人類諸国統合軍と帝国軍の二十二の日における死傷者を記しておこう。
【人類諸国統合軍死傷者】
・約五〇〇〇から約五五〇〇
【妖魔帝国軍死傷者】
・約二三五〇〇から約二五〇〇〇
※最初に渡河を行った二個師団は壊滅状態。師団の纏まった戦力としては、二度とこの戦いに投入されることは無かった。
『オチャルフ要塞攻防戦』。
3の月22の日から火蓋が切られたこの戦いには様々な別名が付けられ、また人類諸国と帝国双方の戦史書や手記などで言及されている大戦中で一、二を争うような戦いとして知られている。
別名としては、曰く『鉄の火と魔法の火が空一面と地を覆う大戦争』、曰く『近代戦争の総決算』、曰く『鉄と火と硝煙が支配する地獄の極み』、曰く『総力戦の体現』等々、名前を挙げればキリがない。
また、戦史書や手記などにはこう記されている。
「『オチャルフ要塞戦』は人類諸国統合軍と妖魔帝国軍のドクトリンが究極まで体現された戦争であった。その最たる例が人類諸国統合軍における重砲火力を含む火力投射量である。人類諸国統合軍は連合王国の『複合優勢火力ドクトリン』を基礎としてこれまでの戦いを行ってきたが、『オチャルフ要塞戦』で行われたそれは、完成系といっても差支えがなかった。何故ならば我々人類諸国統合軍が投射した火力の量は、師団定数比で約二倍かそれ以上を帝国軍に降り注がせたからである」
【アルネシア連合王国軍『第二次妖魔大戦戦史書第八巻』P.299より一部抜粋】
「ツォルク川を渡った帝国軍を待ち受けていたのは、友軍が一斉に放ち始めた砲弾とロケット、魔法銃弾だった。第一防衛線から第二防衛線に展開していた分だけでも凄まじいというのに、それに加えて奴等を襲ったのは後方に展開している二八〇ミーラ臼砲、二三〇ミーラカノン砲、二一〇ミーラカノン砲。さらにL2シリーズロケットの大量投射。地上と上空双方から届けられる座標をもとに降り注いだそれらは、面制圧にも関わらず正確極まりないものだった。川の地形はみるみる変化していき、ツォルク川東岸の堤防などあっという間に破壊されていた。私はその光景を司令部からしか見られなかったが、とある大隊長は言っていた。もし自分が敵ならば、間違いなく死を確信していた。と。それ程までに、凄まじかったのだ。我々は不利な戦況を今まで強いられていたにも関わらず、この砲撃を見た時はとてもそうは思えなかった」
【イリス法国軍とある将官の手記より抜粋】
「俺は信じられなかったさ。あんなのは初めて見た。味方の砲撃がこれ程頼もしいと思ったことは無いし、同時に恐ろしかった。なぜかって? 砲撃が一旦止んだ後に残っていたのは奴等の死体だけで、ツォルク川は奴等の血に染められ、肉塊がそこらじゅうに浮かんでいたからだ」
【ロンドリウム協商連合軍とある士官の手記より抜粋】
「今思うと、私はあの戦場でよく生き残れたと思う。川の向こうにいた時だ。二キルラ先の一面の地面が抉れ、川の水が間欠泉のように上がり、そこにいたはずなのに死体になった友軍の肉塊が弾け飛んだのが見えてしまったからだ。私はそれを見た時にほっとしてしまったさ。最前方の橋頭堡構築の二個師団じゃなくて良かった、って。だが、このあとあそこに行くことになるかと思うと、逃げたくて逃げたくて仕方がなかった」
【オチャルフ要塞戦で戦死が確認された帝国軍とある士官の日記】
※補足:この士官は翌日二十三の日に戦死している。遺族に渡されたのは、軍服の端切れだけようだ。
これはあくまで、『オチャルフ要塞戦』について書かれている公的文書や手記のごく一部である。
文章ですらこの戦いがいかに激しかったか分かると言えるだろう。現場にいた兵士や高級士官に至るまで、口を揃えて「時代は変わった。戦争も変わったと確信させる戦い」と言ったのは言うまでもない。
このように人類諸国統合軍が行った一斉砲撃、一斉攻撃であるが、帝国軍とてタダでやられた訳では無い。
ツォルク川にいた帝国軍将兵が悲惨な目に遭ってすぐに、帝国軍南部方面軍集団総指揮官のリシュカ・フィブラは反撃を命令。この時、即時航空戦力が投入され、予定を上回っても構わないと砲兵部隊を全力稼働。
現場にいた尖兵たる帝国軍兵士達も戦慄しながらもこれらの支援を受けて突入した。
もとより兵力が多い帝国軍である。数に任せた彼等は夕方になってようやく渡河に成功した部隊が続々と現れる。
結果として、二十二の日に帝国軍は第一防衛線から第二防衛線となっている中洲部分の二箇所に橋頭堡――中央部と南部――の構築を成功。一箇所あたりの面積は僅か六平方キーラではあったが、川を越えられたのは間違いない。翌日から、帝国軍はここを拠点として地獄が再現された戦場で戦闘を行っていくことになる。
初日から大戦最大の激戦を確信させる『オチャルフ要塞戦』。
最後に、人類諸国統合軍と帝国軍の二十二の日における死傷者を記しておこう。
【人類諸国統合軍死傷者】
・約五〇〇〇から約五五〇〇
【妖魔帝国軍死傷者】
・約二三五〇〇から約二五〇〇〇
※最初に渡河を行った二個師団は壊滅状態。師団の纏まった戦力としては、二度とこの戦いに投入されることは無かった。
0
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います
八神 凪
ファンタジー
平凡な商人の息子として生まれたレオスは、無限収納できるカバンを持つという理由で、悪逆非道な大魔王を倒すべく旅をしている勇者パーティに半ば拉致されるように同行させられてしまう。
いよいよ大魔王との決戦。しかし大魔王の力は脅威で、勇者も苦戦しあわや全滅かというその時、レオスは前世が悪神であったことを思い出す――
そしてめでたく大魔王を倒したものの「商人が大魔王を倒したというのはちょっと……」という理由で、功績を与えられず、お金と骨董品をいくつか貰うことで決着する。だが、そのお金は勇者装備を押し付けられ巻き上げられる始末に……
「はあ……とりあえず家に帰ろう……この力がバレたらどうなるか分からないし、なるべく目立たず、ひっそりしないとね……」
悪神の力を取り戻した彼は無事、実家へ帰ることができるのか?
八神 凪、作家人生二周年記念作、始動!
※表紙絵は「茜328」様からいただいたファンアートを使用させていただきました! 素敵なイラストをありがとうございます!
疑う勇者 おめーらなんぞ信用できるか!
uni
ファンタジー
** 勇者と王家の戦い、これは宿命である。10回目の勇者への転生 **
魔王を倒した後の勇者。それは王家には非常に危険な存在にもなる。
どの世界でも、いつの時代でも、多くの勇者たちが、王や王子達に騙され殺害されてきた。
殺害されること9回、10回目の転生でまたもや勇者になった主人公。神はいつになったらこの宿敵王家との対決から彼を開放してくれるのだろうか?
仕方がないので彼は今回もまた勇者の宿命に抗う。
なんだかんだすらなく勝手に魔物の森に住み着きながら、そこが勝手に村になりながら、手下の魔人達と一緒に魔王と各国王たちを手玉に取ろうと、、、
(流行りの形式ではなく、スタンダードなコメディ系小説です。)
【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている
五色ひわ
恋愛
ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。
初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
転生者はめぐりあう(チートスキルで危機に陥ることなく活躍 ストレスを感じさせない王道ストーリー)
佐藤醤油
ファンタジー
アイドルをやってる女生徒を家まで送っている時に車がぶつかってきた。
どうやらストーカーに狙われた事件に巻き込まれ殺されたようだ。
だが運が良いことに女神によって異世界に上級貴族として転生する事になった。
その時に特典として神の眼や沢山の魔法スキルを貰えた。
将来かわいい奥さんとの結婚を夢見て生まれ変わる。
女神から貰った神の眼と言う力は300年前に国を建国した王様と同じ力。
300年ぶりに同じ力を持つ僕は秘匿され、田舎の地で育てられる。
皆の期待を一身に、主人公は自由気ままにすくすくと育つ。
その中で聞こえてくるのは王女様が婚約者、それも母親が超絶美人だと言う噂。
期待に胸を膨らませ、魔法や世の中の仕組みを勉強する。
魔法は成長するに従い勝手にレベルが上がる。
そして、10歳で聖獣を支配し世界最強の人間となっているが本人にはそんな自覚は全くない。
民の暮らしを良くするために邁進し、魔法の研究にふける。
そんな彼の元に、徐々に転生者が集まってくる。
そして成長し、自分の過去を女神に教えられ300年の時を隔て再び少女に出会う。
冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話
岩永みやび
BL
気が付いたら異世界にいた主人公。それもユリスという大公家の三男に成り代わっていた。しかもユリスは「ヴィアンの氷の花」と呼ばれるほど冷酷な美少年らしい。本来のユリスがあれこれやらかしていたせいで周囲とはなんだかギクシャク。なんで俺が尻拭いをしないといけないんだ!
知識・記憶一切なしの成り代わり主人公が手探り異世界生活を送ることに。
突然性格が豹変したユリスに戸惑う周囲を翻弄しつつ異世界ライフを楽しむお話です。
※基本ほのぼの路線です。不定期更新。冒頭から少しですが流血表現あります。苦手な方はご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる