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第22章 死守せよ、ムィトゥーラウ―オチャルフ絶対防衛線編

第7話 独自魔法発動前、北部防衛ブロックのアレゼル大将は

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 ・・7・・
 1の月29の日
 午前11時45分
 ムィトゥーラウ市中心街より北約20キーラ
 人類諸国統合軍ムィトゥーラウ北部防衛ブロック・アレゼル大将のいる北部防衛ブロック司令部


 遂に『ムィトゥーラウの棺桶作戦』第三段階以降が発動される日がやってきた。
 一の月二十九の日。この日も例年より比較的暖冬なのもあり、妖魔帝国でも南西に位置しているムィトゥーラウ市周辺は昼間でも気温がほぼ氷点下に近い温度になっているものの、防寒装備が揃えられた兵士達の動きを大幅に低下させる程でもなく、作戦は順調に推移していた。
 この作戦はムィトゥーラウ市周辺を三つのブロックに分けている。
 南は副戦線の役目を担っており、後述二つに比べれば帝国軍の攻勢が弱いものの激戦となっていた。
 中央はアカツキ達やマーチス等がいる作戦の中核を担うブロックである。ここは最も妖魔帝国軍の攻勢が激しく、人類諸国統合軍もまた最も兵力を集中させていた。
 そして、もう一つが北部防衛ブロック。ここは妖魔帝国軍が中央ブロックに次いで兵力を集中させており、これに対して人類諸国統合軍は北部ブロックから中央ブロックへの侵入を防ぐ為に重火力及び移動型重火力(ゴーレム搭乗能力者兵など)を中央ブロックとほぼ変わらない程度に火力を集中させていた。
 その北部ブロックの総指揮官は、アレゼル。
 彼女は一進一退の攻防を繰り返しながら自身のユニークマジック『土人形王召喚サモン・ゴーレムキング』でゴーレム達の操作をしつつ、自身の管轄するブロックの指揮も行っていた。

「アレゼル大将閣下、マンノール中佐の連隊より通信! 帝国軍前衛師団の攻撃がさらに激しさを増したとのこと! 大将閣下のゴーレムを若干数でも向けられるかどうか支援要請です!」

「うーん、ちょっと厳しいって伝えて! 代わりに五〇〇メーラから七五〇メーラ後退してよし! 約三十分後なら少しだけ私のゴーレム送れるって伝えて!」

「了解!」

「帝国軍突出部は、作戦始動前最終防衛ラインのムィトゥーラウ外環状道路まであと約四キーラまで接近! 前線各所より後方支援攻撃及び航空支援の要請多数!」

「多数なら優先度配分はアカツキくんとこのエイジスに依頼して! ウチから指示出すよりずっと早い! 航空支援はこっちから出しておくから!」

「了解しました!」

 要請や報告に対して、アレゼルは次から次へと矢継ぎ早に命令をしていく。彼女のゴーレム達はある程度自律行動をする点と戦場に慣れているからこそ出来る芸当なのだが、とはいえこれだけひっきりなしだとアレゼルも心身共に辛いようで、

「ったくもー、帝国軍の連中少しは手を抜いてくれたっていいじゃないのー!」

「アレゼル大将閣下、そればかりかは叶わないかと」

 と愚痴代わりの憤慨をしていた。
 以前の帝国軍ならともかく、今の帝国軍はリシュカの改革の手が入った近代化軍である。急激な近代化ゆえにいくらかは統合軍の真似で、統合軍よりはやや劣るものの数で質をカバーしているのだ。
 だからアレゼルも日々帝国軍が手強くなっていることを痛感していた。
 さて、漫画であればぷんすこという擬音がつくような様子で怒っているアレゼルだが、隣にいる副官――落ち着きのある中年の男性。もちろんエルフである。――は冷静な様子で彼女の発言に対して返していた。

「分かってるけどさ、こうもしんどいと愚痴の一つもつきたくなるってわけよ。モイシェン准将」

「気持ちはよく分かりますよ。数だけならまだいいですが、質も近づきつつあるのが今の帝国軍ですから」

「本当に厄介。ま、こっちから見たら手抜きにしか見えない帝国軍は今や昔の話だよね。ましてや今ウチの北部とマーチス元帥閣下にアカツキくん達がいる中央には、有名なあの軍がいるし」

「第八軍ですね。かのリシュカ・フィブラが率いる帝国軍の最精鋭。近衛師団までいるようですし、それがよりにもよって最前面に出てくるとは厄介極まりないですよ」

「まったくだよー! 第八軍さ、練度でいえば連合王国軍の一般的な師団を上回っている気がしてならないんだよね。事前の情報で知ってはいたけど、実際にぶつかり合ってみたら予想以上。お陰で後方支援要請がパンク寸前。エイジスに通信の振り分けを頼んだのも、当初想定を大きく上回る火力支援が無いと戦線維持出来ないからだし」

「我々エルフ師団も連合王国軍では随一の魔法火力を誇っていると自負していますが、数の暴力には辛いものがあります。ロケットに砲火力の支援でやっとギリギリの状態ですから」

「全くね。でもさ、ここまで苦戦させられててもさ、確信出来るの。奴さ、『いない』よね」

 アレゼルはこれまでの様子から変わり、戦場の方角を睨むように見つめる。
 無論、彼女が言う奴とはリシュカのことである。アレゼルの言葉に、モイシェンもすぐに反応した。

「確かにいませんね。アレがいるのであれば、エイジス特務官でなくとも分かりますし」

「そそ。てことはつまり、こっちはやっぱハズレってわけだよ。あくまで中央に余り戦力を割かせない為に、中央と同じかそれよりやや多くの数を集中させてんだろうね。で、本命は中央。そりゃ偵察されちゃえば分かっちゃうんだろうけど、とはいえその本命が中央のどこにいるのかが不明ってのがねえ」

「姿もなんでしょうが、魔力も巧妙に隠蔽してるのでしょうね。実力が実力だけに、見えないのが一番恐ろしいですがしかし……」

「こっちも中央ブロックの話までしている余裕は無さそうだねえ」

 アレゼルが見つめる先には帝国軍の激しい攻勢。
 ソズダーニアの追加が現れ、アレゼルのゴーレムとソズダーニアがぶつかり合う。その光景はアカツキの前世で例えるのならば映画の怪獣大戦争のようであった。

「あっちはマーチス元帥やアカツキくん達に任せよう。わたし達は、中央ブロックの作戦を成功させる為に、なんとしても帝国軍を抑えなきゃいけないんだからさ」

「ええ」

 マーチスの独自魔法発動まであと約三〇分。
 頼みましたよ、マーチス元帥閣下。アカツキくん達、元帥閣下をお願いね。と、アレゼルは心中で祈り、緊迫した戦況の中で自身の管轄する戦線に集中するのだった。
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