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第21章 英雄の慟哭と苦悩と再起編

第9話 南方大陸沖での大海戦はもう目の前に

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 ・・9・・
 1847年1の月3の日
 午前6時25分
 南方大陸東沖・フリューラガルから東約240キーラ


 再戦と激戦と混沌に包まれた一八四六年は終わりを告げ、年が変わり一八四七年。
 人類諸国呼称ヨールネイト大陸では妖魔帝国が補給の目処がついた為再侵攻準備が整いつつあり、人類諸国統合軍がムィトゥーラウの防衛線構築とオチャルフ防衛線の急遽構築をしているなかで、海の方でも動きがあった。
 両陣営にとって様々な転機となったリチリア島以降初の大規模艦隊同士の海戦が起きようとしていたのである。
 以下は、人類諸国統合軍と妖魔帝国軍の艦隊戦力である。


【人類諸国統合軍海軍連合艦隊】
 ※主要戦力は連合王国軍・協商連合軍・法国軍。

 総指揮官:連合王国海軍大将オランド・キース
 旗艦:戦艦キース(※装甲戦艦アルネシーの次世代型、キース級戦艦。姉妹艦にブレーメル。)

 空母:1(空母名:ノースランデ)
 戦艦:7
 装甲巡洋艦:15
 巡洋艦:22
 駆逐艦:40

 その他艦艇含む合計:95隻

 ※帝国本土側海域防衛の為、全戦力出撃ではない。

【妖魔帝国海軍ボルティック艦隊】
 龍母(空母):1
 戦艦:8
 装甲巡洋艦:12
 巡洋艦:20
 駆逐艦:35

 その他艦艇含む合計:90隻

 ※占領地帯付近海域防衛の為、全戦力出撃ではない。

 以上のように、若干の差はあれど戦力はほぼ互角。強いて差をあげるのであれば、航空戦力であろう。
 この世界において初の航空戦力保有の艦隊同士がぶつかる上で語るべきは、やはり搭載している航空機と洗脳化光龍である。
 速度面及び攻撃力、防御力において洗脳化光龍が上回っている。ただし練度については人類諸国統合軍側が上回る。洗脳化光龍は経験を積み練度向上という概念も皆無だからだ。よって連携力についても人類諸国統合軍側が上回る。また、小回りについても若干人類諸国統合軍側に旗が上がると言えるだろう。
 なお、搭載機数(騎数)も人類諸国統合軍側が上回っている。
 セヴァストゥーポラに残っている洗脳化光龍は現在三四。元は四〇程度いたが、想定より激しい植民地軍の抵抗で少数ではあるが喪失していた。
 対して人類諸国統合軍側の空母『ノースランデ』の搭載機数は四九。初の空母で試行錯誤ながら、休戦期間中に十分な時間が確保出来た事から艦そのものが大型だ。
 アルネシーの次世代型戦艦キース型が排水量約一八八〇〇トル。全長一八七メーラとアルネシーに比べて大型化しているが、ノースランデはそれをも上回る約一九二〇〇トルで全長約二〇五メーラ。協商連合海軍の最新型戦艦よりも大きい艦となった。
 故に搭載数を増やす事が可能だったのである。転生者アカツキによる前世の知識で経るべき段階をジャンプした点と、そこにアカツキが未だに理解しきれてない位にレベルの高いドワーフの技術力あってこそだが。
 何にせよ、人類諸国統合軍側は数の上では航空戦力は上回っていた。
 さて、その人類諸国統合軍側だが南方大陸方面への妖魔帝国軍侵攻までは察知出来ず――帝国海軍がわざと大回りしたから仕方ないが――、南方大陸からの通報を経て準備をして停泊地だったオディッサ南方の沿岸から沿岸防衛戦力を残して抜錨。警戒を厳としつつ南方大陸フリューラガルから東約二四〇キーラ沖にいた。
 既に偵察機によって帝国海軍の位置は把握済み。帝国海軍も同様に察知しており抜錨。両者の距離は約一八〇キーラ程あったが、互いにまもなく航空戦力を出撃させる為、対敵するのは時間の問題だった。
 時刻は午前六時半前。
 人類諸国統合軍海軍の総指揮官オランド・キースは、付近にいる『ノースランデ』の様子を、自身の苗字が与えられた旗艦たる『キース』で見つめていた。

「いよいよ、であるか」

「ええ、いよいよですね」

 オランドからぽつりと漏らした言葉に、四十代半ばで背の高い、暗めの銀髪の頭髪をした男性の、オランド大将の副官のライゼ少将は答える。

「協商連合海軍は本国の騒乱で一時混乱したが、元より政府とは折り合いが悪かったからであろう。戻ってこいという要請を無視したのは助かったな」

「戻るにしてもどの道遭遇しかねませんからね。リチリアから知っているジェイク大将には感謝せねばならん」

 協商連合海軍の長はジェイク大将であるが、彼はリチリアの件以降も海軍要職の座は変わらなかった。これは海軍が政府の影響力が比較的小さかった為であり、また艦隊を巧みに操れる彼を流石の無能政府陣も変えることはなかったのである。

「オランド大将閣下。この度の海戦、どちらが勝つと思われますか? 自分は無論、我々ではありますが」

「そうであるな。勝てるかどうかは五分五分であろう。艦隊戦力だけならともかく、航空戦力は奴等が個別では上である。どこまで艦載機部隊がやれるかどうかにかかっているだろう」

「練度・連携は我々が圧倒的に上と言えますが、個別性能だけは覆ませんからね。艦載機型のAFー44Bは光龍と比して速力でどうしても劣ります。ですが、数はこちらが上です。それに、各艦には対空防御武装も新設されました。多少攻撃力は落ちましたが、沈むより余程良いかと」

「L1ロケットの改良型、L1Bと対空機関砲であるな。L1BロケットはL1ロケットを小型化し、攻撃力より発射機数を増加。対空機関砲は陸上型と比較すると仰角が上げられるようになったものであったな」

「はい。保守派にとっては戦艦等の攻撃力が減ずる事に最初は反対しておりましたが、演習でああいう結果になると話は別でありますよ」

「全くであるな。沈みはせずとも上部構造物や武装をやられてはたまったものではない。的になるだけなど、悪夢極まりない」

 彼等が話すように、統合軍海軍に共通しているのが対空武装の強化である。
 元々空母と航空戦力自体がアカツキの発案だが、彼は同時に帝国海軍が同様に航空戦力を保有した場合に備えていた。
 その結果が対空武装の強化。L1ロケットの艦載型L1Bロケットと、対空機関砲である。
 個艦攻撃力はやや低下したものの、そもそも対空武装の概念が無かった統合軍海軍は復元力に影響が出ない程度とはいえやや過剰とまで言える程の数が搭載されていた。
 何故こうなったのかと言うのも、二人の会話にあった演習の影響である。
 休戦期間中に演習にて航空戦力による艦隊攻撃を行ったのだが、結果は沈没はせずとも上部構造物の破壊により戦力の低下。他にも果ては洗脳化光龍の攻撃力をココノエ達による聴取を元にすると、当たりどころが悪ければ大破しかねない。という現実が突きつけられたからだ。
 これには流石の各国海軍も顔を青くした。戦艦一隻の修理費用はバカにならない。沈没など悪夢だ。
 アカツキはこれについて、やっぱこうなるよね。というか、魔法攻撃だと第二次大戦の爆弾並みの威力もあるからシャレにならないよ。と思っていたようだ。だからこそ既に対空武装の開発生産を整えられるようにしてあった。
 結局、この演習後に各国海軍は対空武装搭載を決意する事になる。
 改装には時間を要す為にかなり苦労したものの、改装の余裕があった戦艦を改装、護衛の巡洋艦や駆逐艦にも小規模改装を施してある程度の個艦防空性能を整えたのである。

「艦隊の要、攻撃力をどれだけか捨てた結果が吉と出るか凶と出るか。それは今日分かるであろうな」

「自分はアカツキ中将閣下には感謝しております。間に合わなかった艦もありますが、これなら艦隊戦の前の航空攻撃があったとしても、安心出来ます」

「彼はドワーフ達の開発力と海軍本部の現実的判断と決意の賜物だと言っておったがな。本当に、感謝してもしきれん」

「一時期は中将閣下のご体調が心配でしたが見事回復されましたし、となれば我々も励まねばなりません。海での戦局も覆す為に」

「うむ」

 海戦の勝利を誓うオランド達。
 一大海戦を前に人類諸国統合軍海軍は全力を尽くそうとしていたが、その裏で妖魔帝国海軍はある問題点を抱えながらこの海戦に挑もうとしていた。
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