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第21章 英雄の慟哭と苦悩と再起編
第8話 帝都で語られる、リシュカの作戦提案に対するレオニードの考え
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・・8・・
12の月27の日
午後8時半過ぎ
妖魔帝国・帝都レオニブルク
皇宮・皇帝私室
今年も残すところ五日となり、妖魔帝国海軍と人類諸国統合軍共に年明けが海戦となるであろうと予測されているこの日。
妖魔帝国の帝都レオニブルクには雪がしんしんと降っていた。年末年始に加えて戦況が好転した事により、帝都の市民達の表情は明るい。
来年中には帝国本土全土の奪還、さらには再び山脈を越えてついに人類諸国本土に侵攻出来るのではないかという予測も彼等の間には出ていた。
そのような雰囲気の中、皇宮内にある皇帝私室には部屋の主たる皇帝レオニードと、皇帝直属諜報機関の実質的トップであるゾリャーギがいた。
会話を始めた最初の十分程度は近況等の雑談だったが、かたや皇帝でかたや諜報機関の実質的なトップ。
暇ではない彼等は本題に移っていた。
本題とは、無論リシュカから送られた作戦提案書についてである。
「リシュカからの作戦書を読んだ。貴様も内容は既に目を通しているだろ?」
「はい、陛下。私も読みましたが随分と驚きました」
「だろうな」
レオニードの言葉に対して、率直な返答をするゾリャーギ。
彼はアカツキが帝国側の予想を覆して僅かな期間で復活していたのを知っていたが、リシュカと違い完全な第三者だったからいつかは戦線復帰するだろうとは思っていた。たったの数日でとまでは思っていなかったが。
故にアカツキの復帰を聞いた時には驚きこそしたが、リシュカから送られた文書よりは驚かなかった。
問題は、リシュカから送られてきた、今皇帝レオニードの前に置かれている作戦書である。
感情的に過ぎるだけならば却下を上奏したかったところだが、内容としては一理あるものだった。
恐らくレオニードもゾリャーギと同じように思っているのだろう。
ゾリャーギはだから自分が呼ばれたのだと確信していた。
「なあ、ゾリャーギ。率直な意見を聞かせてくれ。俺はこの作戦提案に許可を出すべきか少しだが迷っている」
ほらやっぱりな。
ゾリャーギは心中で独りごちる。
「作戦内容は、『人類諸国側の英雄、アカツキ並びにその周辺人物にさらなる衝撃を与え精神的に復帰不可能まで追い込むこと。さらに、本件を混乱の最中にある協商連合の仕業に仕立てて人類諸国の結束を砕くこと』でありましたね」
「ああ。作戦内容自体には一理ある。得られる利益が無いわけではない。が、判断に迷うんだよゾリャーギ。お前なら分かるだろ?」
「ええ。専門分野でありますから」
彼等が一理ある。作戦を成功させれば利益も得られると言っているリシュカの作戦とは以下のようになっている。
1,本作戦の主目的はアカツキ並びにその周辺人物にさらなる衝撃を与え精神的に復帰不可能まで追い込むこと。連合王国内にてさらなる混乱に陥れるものである。具体的にはアカツキ及びリイナの息子、『リオ・ノースロード』の暗殺。及びアカツキ・ノースロードの肉親と関係の深い人物の暗殺である。ただしリオ・ノースロードが最優先目標となるので、アカツキ・ノースロードの肉親や関係の深い人物まで暗殺は理想とするだけであり、可能であればの範囲である。リオ・ノースロード一人を暗殺出来ればそれで良い。
2,手段としては至極常識的な手法を用いる。連合王国内に潜入し、ノースロード家が所在するノイシュランデまで向かう。
3,リオ・ノースロードの行動追跡は直前まで続けていき、暗殺可能性の高い場所で決行する。決行者は『亡国救済党』内部でも、よく洗脳されている
者。自国を差し置き経済発展した連合王国に憎しみを抱く者とする。可能であれば、武器の扱いをある程度熟知している者が好ましい。
4,作戦の決行にあたり、我が国が裏で手を引いていた痕跡を一切残さない事。リオ・ノースロードの暗殺さえ成功すれば協商連合人による犯行と報道されるだろうから、連合王国と協商連合の亀裂は決定的となり同盟は破棄。場合によっては人類諸国内での内紛を誘える事となる。
5,本作戦はあくまで現戦争の補助作戦となるが、妖魔帝国にとって戦勝を確実に掴む一助となるであろう。
作戦書を簡潔に纏めるとこうなり、レオニードとゾリャーギも作戦書にあるようなメリットには頷けていた。
だが、作戦決行によるデメリットや実現可能性についても二人は懸念をしていたのである。
「ゾリャーギ。リシュカが送ってきたコレだが、俺は俺の国が得られるメリットをこのように考えている。一つ、作戦成功によりアカツキかリイナ、もしくは両方が慟哭するであろうこと。それにより冷静な作戦判断能力を欠くことが出来ること。二つ、作戦書にある通り連合王国と協商連合に修復不可能な亀裂を与えて最低でも同盟破棄、理想的な着地ならば人類諸国内紛を誘えること。それにより、人類諸国の主戦力を弱体化出来ること。三つ、二つ目で話した事が現実となれば現在の戦線に絶大な影響を及ぼし戦勝が早まること。どうだ?」
「私もおおよそ同じように考えております、陛下。この作戦、一つ目もさることながら、二つ目と三つ目が陛下の国にとって最も利益をもたらすであろうと考えます」
「ああ、そうだな。貴様と俺の考え方が一致して嬉しいぞ。それでこそ裏で暗躍する機関の長だ」
レオニードは微笑んで言い、ゾリャーギは意見の一致に安堵する。最近のレオニードは意見が違えど
信頼の厚い者の言葉に耳を傾けるから変な心配など必要ないが、一致していれば次の話もしやすくなる。
特に、二つ目と三つ目の一致は大きい。たしかに国益にはなるからだ。
ただ、一つ目に関してはリシュカと少なくない時間を過ごしたゾリャーギにとってこれはほぼ私怨だろうと考える。リシュカが事ある毎にアカツキの名前を出していたのをゾリャーギは知っていたからだ。
「さて、ゾリャーギ。メリットについて一致したのはいいが、逆にデメリットを聞きたい。ここでは帝国にとってどのような不利益があるか、だな。貴様はどう考える?」
「はっ。私はデメリットは三つあると考えました」
それからゾリャーギはこの作戦において、帝国が被る不利益について話し始める。
簡潔にすると、こうだ。
1,万が一作戦が失敗――ここでは、妖魔帝国が裏で手を引いていた事が露呈した場合である――してしまうと、妖魔帝国への心象は今以上に悪化。アルネセイラの件もあるので既に最悪だが、この件で火に油を注ぐ形となり現戦線で徹底抗戦がより強まるのではないか。
2,本作戦の実現可能性について。現在アルネセイラでの起爆もあって国内は混乱していたものの国境警備や国内主要都市における警備行動がかつてない程に強まっていると共和国潜入諜報員から報告がある。作戦を行うにはある程度の人員を投入せねばならないし、悟られないように行動せねばならない。この事から、潜入を行うのは難しい。
3,というのも本件を協商連合人だけで編成するのは難しい。『亡国救済党』はあくまで協商連合の政権転覆と混乱が目的であり、本作戦向きの人物はほとんどいない。確かに連合王国に対して良からぬ考えを持つ者もいるが、我々諜報員の人員で行う必要もある。
4,作戦としては悪くないものの、そもそもからして一部リシュカ・フィブラ個人の私怨が混ざっていないか? リオ・ノースロードは民間人故に実行、成功しやすいが……。
というものであった。
「一つ目についてはもう今更な気がするがな」
「あくまでデメリットをあげた場合の話あります陛下。ただ、徹底抗戦された場合我が国の損害は比例して大きくなりますから」
「その点については同意する。この帝国とて人的資源は無尽蔵ではない。光龍皇国の抵抗組織は想定以上に抗ってきているせいでまた一個師団派兵しなければならなくなった。まあ光龍の方はいいさ。リシュカの奴が提案した改革によって、まだ予備があるからな。とはいえ、それとて湯水のように使うのは好ましくない。人類諸国は光龍と比べ物にならんくらい強力なのは俺もよく知っている。戦況が好転した今、俺もその先を考えているぞ」
「敵本国の占領政策ですね」
「ああ。光龍の報告を聞いて痛感したさ。浄化した上で我らが入植することが理想とはいえ、それまでに多大な労力が必要となる。既に機を逸した感はあるが人類諸国を占領したとして、俺は人民を洗脳して骨抜きにすることが、牙を抜いて抵抗させないようにするのが一番だと思っている。現地で設立させる統治機構によってな。無論、どこかの国の民族を矛先にして人類諸国側で勝手に浄化してくれるのがベストだがな」
「それが賢明かと」
そうは言いつつも、ゾリャーギはレオニードの発言に驚愕していた。
人類諸国を根絶やしにする。強制収容所なりに放り込んで絶滅させる絶滅政策を行う。
これまで途方もない時間と資源を消費する方針を行おうとしていたレオニードからこの発言が聞けるとは思わなかったのだ。
ゾリャーギは命じられれば皇帝の政策を実行するつもりでいた。もとより人類諸国は敵だ。どうなると関係無いし、資源の搾取で妖魔帝国が潤い成り立つならそれでいいとも思っている。
だが、レオニードの従来の方針が現実的ではないとも思っていた。
ところがどうだろうか。今レオニードの口から発せられたのはいわゆる愚民化計画だ。牙を抜き、思想でもって洗脳させる手法。
現状を踏まえれば難易度は相当に高いものの、絶滅化政策よりずっと現実的だ。
ゾリャーギはレオニードの考え方が変わったことを、リシュカの入れ知恵だろうなと推測する。
レオニードはリシュカが妖魔帝国側に寝返ってから戦略だけでなく政治関連の話までしているのを耳にしたことがあるし、リシュカの口からも聞いたことがある。
リシュカもレオニードが妖魔帝国にとって、いや自分にとって不都合になるような理不尽な命令を下さないように色々と知識を伝えのだろうが、まさかこんな形でレオニードの冷静かつ理性的な判断が発揮されるとは皮肉だな。
ゾリャーギはそんな風に思っていた。
「話を戻すぞ。二つ目と三つ目については、貴様に一任する」
「私としても実行するならば、可能な限り協商連合人に犯行を行わせようも思います。我々諜報機関員が携わるのは間接支援までとしておきたいですから」
「最もな話だな。となると、実現可能性は?」
「その分低くなりますので、作戦提案についてしばらく実行可能か考える必要があるかと」
「分かった。四つ目はそうだな……、俺も薄々は感じている。リシュカの奴、随分と人類諸国の英雄にお熱のようだが、あの不気味とも言える執念はなんなのだろうな……。そろそろ従来の俺の見立てでは説明が出来なくなってきたぞ」
「私にも見当がつきません……。ですが、私怨は入るものの送られてくる作戦はこれまでも、今もいずれも帝国にとって利益となっており、利益になるであろう事は間違いありませんから」
「まあ俺の国が、この帝国がより栄えるのならばなんでもいいがな。だが、ゾリャーギ」
「はっ、如何致しましたか陛下」
「リシュカの私怨関係には注意しておけ。俺はリシュカの奴がこの国にとって利益になるから重用しているが、不利益が上回るなら捨てる」
「…………承知致しました」
レオニードの瞳は人を凍死させそうな位に冷たかった。
ゾリャーギは、いつかはこうなる事を予想はしていた。
彼自身も最近思うようになった事だが、リシュカの事を劇薬だと思っていた。彼女は帝国を劇的に進化させた英雄でもあるが、余りにも生き方が思想が危うすぎる。
レオニードにとって、リシュカを寝返らすように仕向けた理由が自分の、帝国の利益になるから。それだけだ。皇帝として至極最もな考えだろう。
しかし、レオニードの今の発言は口が裂けても誰にも漏らせないだとも感じていた。万が一リシュカの耳にでも入ったらどうなるか。
(考えたくもねえな……)
ゾリャーギがこう思うのも無理はなかった。
「ひとまず、本件は保留とする。結論が出るまではリシュカの奴には適当に茶を濁した真っ当な理由を並べた返書を送る。よって貴様の機関で実行が出来るかどうか、実行したとして利益と不利益どちらが大きいかの結論を出せ。その次第で俺は勅令を出すかどうかを決める」
「はっ」
ゾリャーギは頷き答えるしか無かった。
12の月27の日
午後8時半過ぎ
妖魔帝国・帝都レオニブルク
皇宮・皇帝私室
今年も残すところ五日となり、妖魔帝国海軍と人類諸国統合軍共に年明けが海戦となるであろうと予測されているこの日。
妖魔帝国の帝都レオニブルクには雪がしんしんと降っていた。年末年始に加えて戦況が好転した事により、帝都の市民達の表情は明るい。
来年中には帝国本土全土の奪還、さらには再び山脈を越えてついに人類諸国本土に侵攻出来るのではないかという予測も彼等の間には出ていた。
そのような雰囲気の中、皇宮内にある皇帝私室には部屋の主たる皇帝レオニードと、皇帝直属諜報機関の実質的トップであるゾリャーギがいた。
会話を始めた最初の十分程度は近況等の雑談だったが、かたや皇帝でかたや諜報機関の実質的なトップ。
暇ではない彼等は本題に移っていた。
本題とは、無論リシュカから送られた作戦提案書についてである。
「リシュカからの作戦書を読んだ。貴様も内容は既に目を通しているだろ?」
「はい、陛下。私も読みましたが随分と驚きました」
「だろうな」
レオニードの言葉に対して、率直な返答をするゾリャーギ。
彼はアカツキが帝国側の予想を覆して僅かな期間で復活していたのを知っていたが、リシュカと違い完全な第三者だったからいつかは戦線復帰するだろうとは思っていた。たったの数日でとまでは思っていなかったが。
故にアカツキの復帰を聞いた時には驚きこそしたが、リシュカから送られた文書よりは驚かなかった。
問題は、リシュカから送られてきた、今皇帝レオニードの前に置かれている作戦書である。
感情的に過ぎるだけならば却下を上奏したかったところだが、内容としては一理あるものだった。
恐らくレオニードもゾリャーギと同じように思っているのだろう。
ゾリャーギはだから自分が呼ばれたのだと確信していた。
「なあ、ゾリャーギ。率直な意見を聞かせてくれ。俺はこの作戦提案に許可を出すべきか少しだが迷っている」
ほらやっぱりな。
ゾリャーギは心中で独りごちる。
「作戦内容は、『人類諸国側の英雄、アカツキ並びにその周辺人物にさらなる衝撃を与え精神的に復帰不可能まで追い込むこと。さらに、本件を混乱の最中にある協商連合の仕業に仕立てて人類諸国の結束を砕くこと』でありましたね」
「ああ。作戦内容自体には一理ある。得られる利益が無いわけではない。が、判断に迷うんだよゾリャーギ。お前なら分かるだろ?」
「ええ。専門分野でありますから」
彼等が一理ある。作戦を成功させれば利益も得られると言っているリシュカの作戦とは以下のようになっている。
1,本作戦の主目的はアカツキ並びにその周辺人物にさらなる衝撃を与え精神的に復帰不可能まで追い込むこと。連合王国内にてさらなる混乱に陥れるものである。具体的にはアカツキ及びリイナの息子、『リオ・ノースロード』の暗殺。及びアカツキ・ノースロードの肉親と関係の深い人物の暗殺である。ただしリオ・ノースロードが最優先目標となるので、アカツキ・ノースロードの肉親や関係の深い人物まで暗殺は理想とするだけであり、可能であればの範囲である。リオ・ノースロード一人を暗殺出来ればそれで良い。
2,手段としては至極常識的な手法を用いる。連合王国内に潜入し、ノースロード家が所在するノイシュランデまで向かう。
3,リオ・ノースロードの行動追跡は直前まで続けていき、暗殺可能性の高い場所で決行する。決行者は『亡国救済党』内部でも、よく洗脳されている
者。自国を差し置き経済発展した連合王国に憎しみを抱く者とする。可能であれば、武器の扱いをある程度熟知している者が好ましい。
4,作戦の決行にあたり、我が国が裏で手を引いていた痕跡を一切残さない事。リオ・ノースロードの暗殺さえ成功すれば協商連合人による犯行と報道されるだろうから、連合王国と協商連合の亀裂は決定的となり同盟は破棄。場合によっては人類諸国内での内紛を誘える事となる。
5,本作戦はあくまで現戦争の補助作戦となるが、妖魔帝国にとって戦勝を確実に掴む一助となるであろう。
作戦書を簡潔に纏めるとこうなり、レオニードとゾリャーギも作戦書にあるようなメリットには頷けていた。
だが、作戦決行によるデメリットや実現可能性についても二人は懸念をしていたのである。
「ゾリャーギ。リシュカが送ってきたコレだが、俺は俺の国が得られるメリットをこのように考えている。一つ、作戦成功によりアカツキかリイナ、もしくは両方が慟哭するであろうこと。それにより冷静な作戦判断能力を欠くことが出来ること。二つ、作戦書にある通り連合王国と協商連合に修復不可能な亀裂を与えて最低でも同盟破棄、理想的な着地ならば人類諸国内紛を誘えること。それにより、人類諸国の主戦力を弱体化出来ること。三つ、二つ目で話した事が現実となれば現在の戦線に絶大な影響を及ぼし戦勝が早まること。どうだ?」
「私もおおよそ同じように考えております、陛下。この作戦、一つ目もさることながら、二つ目と三つ目が陛下の国にとって最も利益をもたらすであろうと考えます」
「ああ、そうだな。貴様と俺の考え方が一致して嬉しいぞ。それでこそ裏で暗躍する機関の長だ」
レオニードは微笑んで言い、ゾリャーギは意見の一致に安堵する。最近のレオニードは意見が違えど
信頼の厚い者の言葉に耳を傾けるから変な心配など必要ないが、一致していれば次の話もしやすくなる。
特に、二つ目と三つ目の一致は大きい。たしかに国益にはなるからだ。
ただ、一つ目に関してはリシュカと少なくない時間を過ごしたゾリャーギにとってこれはほぼ私怨だろうと考える。リシュカが事ある毎にアカツキの名前を出していたのをゾリャーギは知っていたからだ。
「さて、ゾリャーギ。メリットについて一致したのはいいが、逆にデメリットを聞きたい。ここでは帝国にとってどのような不利益があるか、だな。貴様はどう考える?」
「はっ。私はデメリットは三つあると考えました」
それからゾリャーギはこの作戦において、帝国が被る不利益について話し始める。
簡潔にすると、こうだ。
1,万が一作戦が失敗――ここでは、妖魔帝国が裏で手を引いていた事が露呈した場合である――してしまうと、妖魔帝国への心象は今以上に悪化。アルネセイラの件もあるので既に最悪だが、この件で火に油を注ぐ形となり現戦線で徹底抗戦がより強まるのではないか。
2,本作戦の実現可能性について。現在アルネセイラでの起爆もあって国内は混乱していたものの国境警備や国内主要都市における警備行動がかつてない程に強まっていると共和国潜入諜報員から報告がある。作戦を行うにはある程度の人員を投入せねばならないし、悟られないように行動せねばならない。この事から、潜入を行うのは難しい。
3,というのも本件を協商連合人だけで編成するのは難しい。『亡国救済党』はあくまで協商連合の政権転覆と混乱が目的であり、本作戦向きの人物はほとんどいない。確かに連合王国に対して良からぬ考えを持つ者もいるが、我々諜報員の人員で行う必要もある。
4,作戦としては悪くないものの、そもそもからして一部リシュカ・フィブラ個人の私怨が混ざっていないか? リオ・ノースロードは民間人故に実行、成功しやすいが……。
というものであった。
「一つ目についてはもう今更な気がするがな」
「あくまでデメリットをあげた場合の話あります陛下。ただ、徹底抗戦された場合我が国の損害は比例して大きくなりますから」
「その点については同意する。この帝国とて人的資源は無尽蔵ではない。光龍皇国の抵抗組織は想定以上に抗ってきているせいでまた一個師団派兵しなければならなくなった。まあ光龍の方はいいさ。リシュカの奴が提案した改革によって、まだ予備があるからな。とはいえ、それとて湯水のように使うのは好ましくない。人類諸国は光龍と比べ物にならんくらい強力なのは俺もよく知っている。戦況が好転した今、俺もその先を考えているぞ」
「敵本国の占領政策ですね」
「ああ。光龍の報告を聞いて痛感したさ。浄化した上で我らが入植することが理想とはいえ、それまでに多大な労力が必要となる。既に機を逸した感はあるが人類諸国を占領したとして、俺は人民を洗脳して骨抜きにすることが、牙を抜いて抵抗させないようにするのが一番だと思っている。現地で設立させる統治機構によってな。無論、どこかの国の民族を矛先にして人類諸国側で勝手に浄化してくれるのがベストだがな」
「それが賢明かと」
そうは言いつつも、ゾリャーギはレオニードの発言に驚愕していた。
人類諸国を根絶やしにする。強制収容所なりに放り込んで絶滅させる絶滅政策を行う。
これまで途方もない時間と資源を消費する方針を行おうとしていたレオニードからこの発言が聞けるとは思わなかったのだ。
ゾリャーギは命じられれば皇帝の政策を実行するつもりでいた。もとより人類諸国は敵だ。どうなると関係無いし、資源の搾取で妖魔帝国が潤い成り立つならそれでいいとも思っている。
だが、レオニードの従来の方針が現実的ではないとも思っていた。
ところがどうだろうか。今レオニードの口から発せられたのはいわゆる愚民化計画だ。牙を抜き、思想でもって洗脳させる手法。
現状を踏まえれば難易度は相当に高いものの、絶滅化政策よりずっと現実的だ。
ゾリャーギはレオニードの考え方が変わったことを、リシュカの入れ知恵だろうなと推測する。
レオニードはリシュカが妖魔帝国側に寝返ってから戦略だけでなく政治関連の話までしているのを耳にしたことがあるし、リシュカの口からも聞いたことがある。
リシュカもレオニードが妖魔帝国にとって、いや自分にとって不都合になるような理不尽な命令を下さないように色々と知識を伝えのだろうが、まさかこんな形でレオニードの冷静かつ理性的な判断が発揮されるとは皮肉だな。
ゾリャーギはそんな風に思っていた。
「話を戻すぞ。二つ目と三つ目については、貴様に一任する」
「私としても実行するならば、可能な限り協商連合人に犯行を行わせようも思います。我々諜報機関員が携わるのは間接支援までとしておきたいですから」
「最もな話だな。となると、実現可能性は?」
「その分低くなりますので、作戦提案についてしばらく実行可能か考える必要があるかと」
「分かった。四つ目はそうだな……、俺も薄々は感じている。リシュカの奴、随分と人類諸国の英雄にお熱のようだが、あの不気味とも言える執念はなんなのだろうな……。そろそろ従来の俺の見立てでは説明が出来なくなってきたぞ」
「私にも見当がつきません……。ですが、私怨は入るものの送られてくる作戦はこれまでも、今もいずれも帝国にとって利益となっており、利益になるであろう事は間違いありませんから」
「まあ俺の国が、この帝国がより栄えるのならばなんでもいいがな。だが、ゾリャーギ」
「はっ、如何致しましたか陛下」
「リシュカの私怨関係には注意しておけ。俺はリシュカの奴がこの国にとって利益になるから重用しているが、不利益が上回るなら捨てる」
「…………承知致しました」
レオニードの瞳は人を凍死させそうな位に冷たかった。
ゾリャーギは、いつかはこうなる事を予想はしていた。
彼自身も最近思うようになった事だが、リシュカの事を劇薬だと思っていた。彼女は帝国を劇的に進化させた英雄でもあるが、余りにも生き方が思想が危うすぎる。
レオニードにとって、リシュカを寝返らすように仕向けた理由が自分の、帝国の利益になるから。それだけだ。皇帝として至極最もな考えだろう。
しかし、レオニードの今の発言は口が裂けても誰にも漏らせないだとも感じていた。万が一リシュカの耳にでも入ったらどうなるか。
(考えたくもねえな……)
ゾリャーギがこう思うのも無理はなかった。
「ひとまず、本件は保留とする。結論が出るまではリシュカの奴には適当に茶を濁した真っ当な理由を並べた返書を送る。よって貴様の機関で実行が出来るかどうか、実行したとして利益と不利益どちらが大きいかの結論を出せ。その次第で俺は勅令を出すかどうかを決める」
「はっ」
ゾリャーギは頷き答えるしか無かった。
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ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
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