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第20章 絶望の帝国冬季大攻勢編

第1話 絶望の始まり

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 12の月1の日
 午後1時45分
 ドエニプラ・統合軍ドエニプラ方面司令部


 積もるほどではないにせよ雪が降るようになった十二の月初日。気温も遂に夜ともなれば氷点下になったドエニプラでは将兵が忙しなく動き回っていた。
 先月から事前に予測していた帝国軍の限定的な攻勢が南部アルネンスク方面とここドエニプラ方面で観測され、昨日から攻勢が始まったからだ。
 僕やリイナにエイジスは統合軍前線司令部のあるムィトゥーラウへ一時的に向かう予定だったけれどこれを中止。マーチス侯爵の昔からの右腕、ブリック大将と共に前線指揮にあたっていた。
 ドエニプラには統合軍の中でも最も兵力が最も集まっていて、敵の冬季攻勢に備えて三個軍が、少し離れたコルロフカに一個軍と重点配備がされている。
 それに対して、帝国軍は新たに一個軍の援軍が到着。
 ドエニプラ占領から早々に再び僕達統合軍と帝国軍は衝突していた。

「室内は暖房魔導具があるからいいけれど、この気温の中で戦うのは寒さ慣れしている連合王国軍でも大変かな……」

「事前に冬季装備と防寒具を確保しておいて良かったな。冬季用のブーツはサイズを大きめ、隙間に藁や新聞紙や不要な紙を入れたのは正解だった。初めて聞いた時はどうしてと疑問に思ったが、兵士達からは好評だそうだぞ」

「これから真価を発揮しますよ。防寒装備は冬季戦に不可欠です。無いと下手すれば軍が崩壊しますから」

「間違いない。とはいえ、帝国軍の攻勢は思ったより強力だな……。南部軍からも敵の援軍が到着してから以前と比べて帝国軍が強力になったと報告が入っている」

「ドエニプラも同じですね。特に新たな一個軍はかなりの精鋭かと」

 僕とブリック大将のやり取りに、その場にいたリイナやエイジス、参謀の面々は頷く。
 帝国現地軍だけなら十分にやり過ごせる。
 だけどこの援軍というのが厄介だった。
 帝国をよく知る諸種族連合共和国軍の士官によると、アルネンスクに現れた援軍は帝国中央方面軍らしく中央方面だけあって練度は高い。帝国側も改革を成功させているから尚更だろうとのこと。
 そして僕達のいるドエニプラに現れた援軍はさらに練度が高い師団が混ざっているという。何せ航空偵察で観測した結果判明したのは、連合共和国軍でも見たことがない師団が多いらしい。旗から判明したのが、第八軍。恐らくは改革に伴って新編成された師団なんだろう。帝国現地軍との練度は比較するまでもなく、装備や兵士の質は連合王国軍並だというのだから一筋縄ではいかない。
 結果、ドエニプラ方面では当初予定を早々に変更して予備兵力を投入して対処していた。

「アカツキ中将、状況整理をしようか。作戦参謀、戦況報告をしてくれ」

「はっ」

 僕が頷いて、作戦参謀は敬礼をすると現状の説明を始める。

「現在、最前線はドエニプラより北東約三十四キーラ地点にあります。先月からの最大進出点です。コルロフカからであれば約四十キーラでありますね。帝国軍はここに現地軍と援軍たる第八軍の約三三〇〇〇〇。それぞれコルロフカから東とドエニプラから北東の我々の最前線と衝突しております。対して、我々統合軍はコルロフカ方面と合わせて四個軍など計約三五〇〇〇〇。予備兵力を含めれば約四二〇〇〇〇です。兵力としてはこちらがやや優勢ですが、ロンドリウム騒乱に伴って協商連合軍は一時的に予備化しております。こちらは状況次第でなんとかなるかと。何せ協商連合軍は本国があのザマですから一時的に命令指揮系統を連合王国軍と統一しましたので。また、帝国軍は兵力を集中投入しており我が軍の前線を圧迫。当面は均衡状態を保てますが冬季に備えて広い戦線をカバーせねばならず、いざという時の予備兵力に不安要素があります」

「兵力はやや優勢ならばどうにかなるといったところか。敵現地軍はこれまでの戦いで練度が低下しているからいいとして、やはり問題は第八軍だな……」

「意見具申。第八軍は通常の師団編成より多くのソズダーニアを保有。洗脳化光龍飛行隊も新たに確認されており、これまでで最も強力な軍規模兵力と推定されます」

「私からも。帝国軍は冬季攻勢を得意とするだけあって冬の初めたる今の時期の気候はものともせずいつも通りの動きを見せているわ。対して統合軍は、冬慣れさせているとはいえ法国軍が寒さによって士気に若干の低下があるわね……。連合王国軍は一番冬慣れしているからいいけれど、冬季対策は今後さらに必要になるでしょうね」

「エイジス、リイナ、ありがとう。ブリック大将閣下。以上のように兵力では優勢とはいえ、帝国軍に高練度の軍規模兵力が投入されたことでドエニプラを防衛するのは予測より厳しいものになります。無論今の状況であれば問題ありません。ただ、敵にさらなる援軍が現れた場合は潔くドエニプラを捨てる覚悟が必要でしょう」

「敵冬季攻勢対策における案の一つだな。本来の計画よりドエニプラ制圧が遅れた事によって、今でもドエニプラはある程度の野戦築城しかしておらん。ゴーレム等の活躍で間に合いはしたが、やはり事態想定は必要か」

「あくまで最悪の場合、ですが。ドエニプラは我々が地形に苦労させられたように相手も取り返すのに苦労します。それに一度制圧して拠点化してしまえば、今度は帝国軍に攻撃三倍の法則が働きます。今までのような快進撃や勝利とはいきませんが、防衛に徹した上で敵に隙があれば押し返す限定的攻勢。これで春までは維持できるでしょう。もし後退することになれば、事前の計画通り遅滞防御に徹し援軍を待ちます」

 第八軍という不確定要素があるものの、僕は戦争における常識に従って発言する。
 A号改革以降今の戦略に慣れているブリック大将や参謀達も納得し、軍人としての自信を見せていた。
 僕達が今後の戦術面や戦略面に至るまでの話し合いをしている最中でも戦況報告は入ってくる。
 天候が優れない中での航空優勢は先月に比べると確保がしにくいこと。これは戦闘機が全天候型じゃないから仕方ない。搭乗しているパイロット頼みになるけれど、今のとこは戦えるとのこと。『ロイヤル・フライヤーズ』が対処してくれているから、航空優勢の確保は問題ないだろう。彼等もしょっちゅう出られないし数が少ないからいつも頼るわけにはいかないけど。
 陸の方は酷寒地対策を施した砲やロケットの稼働は保てているという報告も入っている。ただ若干ながら寒さによる動作不良も起きているようだ。予測の範囲内だからいいとしても、そのうち魔法で温めるという手も使わないといけなくなるだろう。
 戦線自体に大きな変化は見られない。野戦築城を活用しつつ、重火力と移動重火力たる『ゴーレム搭乗魔法兵』、それに機動火力の能力者化師団によって敵の衝撃力は吸収出来ていた。
 僕達にとっては久しぶりとも言える守りの戦争。けれど、今のところは末端に至るまで訓練通り動けていると言えるだろう。
 時刻は午後二時四十分が過ぎた。防衛戦がまだ始まったばかりというのもあって、司令部の面々は余裕がある。
 この時僕は、時計の針を確認していた。そろそろ午後三時になるし、午前中から動き詰めで休憩をしようかなと思っていた頃だ。
 ところが、隣にいたエイジスがいきなりピクリと身体を動かすと訝しむ表情を見せる。さらに、顔つきが険しいものになっていく。見せる表情が豊かになったエイジスとはいえ、こんな顔をするのは珍しい。
 何があったんだろうと、念の為に僕は椅子に座って煙草を吸ったまま思念通話を始めた。

『どうしたんだい、エイジス』

『マスター、ワタクシからしても原因が不明なのですが魔法無線装置通信網に異常が見られました。情報共有、展開します』

『…………これは?』

 なんだ、これ……。王都アルネセイラ付近の通信網が軒並みダウン……?

『重ねて、不明。異常発生地は王都アルネセイラ周辺とアルネセイラが管轄する地域全体。故障にしては大規模です』

『故障は一度北西部であったよね。類似する?』

『否定。明らかな異常です。ただし、演算するにはデータが不足しており検討不能。現在、連合王国軍における魔法無線装置通信網は帝国本土は異常ありませんが、本事態により本国の通信網が断線。至急、予備か迂回通信網への移行が必要かと』

『何が起きたんだ……。どういうことだ……?』

 猛烈に嫌な予感がする。魔法機械は魔法がついているとはいえ機械だから故障や不調はある。だとしても、こんなのはそんな起きることではない。
 背筋に寒気が走るのを覚えた。

『重ねて不明。本国に問い合わせますか?』

『そうだね……。この状況をキャッチしているのは?』

『本国はともかくとしても、帝国本土に展開の友軍はまだかと』

『なら問い合わせを開始。通信網が無事で回線が生きてるのはどこ?』

『管区クラスであれば北東部ノイシュランデ、南部ヨーク、もしくは北西部オランディア……。いえ、地区クラスまで下げます。…………アルネセイラより南のライプツェルであれば繋がります。迂回通信網がありますので』

『問い合わせて。ライプツェル以外にもアルネセイラ近郊から近い場所で、回線が生きてるとこにも』

『サー、マイマスター』

 思念通話を終えると、エイジスは早速問い合わせを始めた。
 その様子に気付いたのか、リイナが話しかけてきた。どうしたのかを察したのか、周りに人が少ない僕のところまできて小声で、

「旦那様、何かあったわね?」

「うん。情報共有画面を開いてみて」

 僕が言うと、リイナはすぐに顔つきを変えた。

「異常よね」

「リイナもそう思うよね。はっきり言うよ、嫌な予感しかしない」

「私もよ、旦那様。すぐにでもブリック大将閣下に言いましょう。もちろん、お父様にも」

「うん。これは知らせないといけない。遅かれ早かれ気付くだろうけど……」

 僕とリイナは互いに首を縦に振ると、ブリック大将を呼んだ。彼は僕達の表情を見てすぐに何事かという顔でこちらに来る。

「異常事態か……?」

「はい、ブリック大将閣下。エイジスが探知しました」

「ここか?」

「いいえ」

「ムィトゥーラウかオディッサ、キャエフか……?」

「いいえ」

「まさかだが……、本国か?」

「はい。王都アルネセイラ周辺の魔法無線装置が通信不能になっています」

「なんだって?」

 ブリック大将は大声で言いたくなるのを抑えて、声を極力まで小さくして返す。

「原因は不明です。私も本国北西部で発生した大規模故障かと思いましたが、エイジスは否定しました。不能箇所は円形で、規則性があります」

「…………すまん、俺には検討がつかん。だが、とにかく何か起きたんだな?」

「ええ。直に通信担当が気付くかと。今、エイジスに回線の生きている地点へ問い合わせを行っています」

「分かった。原因を探ってくれ」

「はっ」

 火を見るよりも明らかな異常事態とはいえ、参謀達はまだ気付かない。前世日本の戦略級統括ネットワークであれば秒単位ですぐに判明しただろうけど、この世界はアナログだ。
 でも魔法無線装置を使う通信要員は定時報告で気付くはず。その時間が三時半あたりだ。まさにもう今の時間帯。

「あの、アカツキ中将閣下。よろしいでしょうか?」

「ルイベンハルク大佐、どうかした?」

 やっぱりか。情報担当のルイベンハルク大佐にもう伝わってる。
 僕は平静を装って返すと、

「通信要員から報告が。本国からの定時報告がまだ、と。それと、通信がおかしいとのことでして」

「定時報告って王都からのだよね?」

「はっ。はい。いつも時間通りに届くものが届かないらしく。問い合わせをしたところ、返答がありません。アカツキ中将閣下は何かご存知……、のようですね。エイジス特務官殿が探知しましたか?」

「正解。今エイジスに問い合わせさせてる」

「了解しました。しかし、王都アルネセイラですか……。自分は、何か悪い事が起きたとしか思えません」

「何にせよ、原因が分からなきゃどうしようもない。その通信要員には引き続き任務にあたらせて」

「はっ」

 僕の中で警鐘はどんどん大きく鳴り響いていく。
 こっちが敵の攻勢に対処している中での、王都アルネセイラの何らかの異常。
 だけど、答えなんて出るわけがない。情報が無さすぎるからだ。
 けど、答えはすぐに出た。エイジスからだった。

『マスター。判明、しました……』

『どうだった……?』

『落ち着いて、聞いてください』

 聞かない方がいい。聞いたらいけない。
 第六感とも言える感覚が警告する。
 僕は心を極力落ち着かせて、

『報告を』

『サー、マスター。王都アルネセイラより最も近い地点で回線が機能しているアルネニューロウが繋がりました』

『アルネセイラから約三〇キーラ地点のアルネニューロウから、ね。あそこは迂回通信網の一つだから繋がったか……。どう返答があった?』

『…………アルネセイラの方角より、大規模爆発あり。空高く、煙が昇り、キノコのような雲が発生。推定高度、戦闘機の限界高度を遥かに上回る。爆発によるものか、衝撃波を観測。アルネセイラとの通信途絶。詳細は一切不明。現在我、通信を行うも至る所で通信が機能せずやっと復旧したが、とにかく何もかもが分からない。ですマスター』

『待って。今、キノコのような雲がって言った……?』

『サー、マイマス、ター……?』

 嘘だ。
 嘘だ嘘だ嘘だ。
 キノコのような雲?
 まさかそんなはずがない。
 あってはいけない。
 キノコ雲、つまりは火山の噴火でも起きるあの雲の形。でも、アルネセイラで火山は有り得ないからつまりは人為的なもの。
 それがアルネセイラで観測された……?
 アルネセイラで……?
 この世界で……?
 この世界の科学技術じゃ作られるはずもない核爆弾で発生するキノコ雲が……?
 そんな馬鹿なこと、あるはずないだろう!!
 アレは前世の世界でも禁忌の兵器だぞ!?

「マス、ター? マスター?」

「すまない、エイジス……。少し落ち着かせて……。意味が分からない……」

『マスターの精神変調を確認。恐怖……、ですね……』

 エイジスの思念会話は聞こえているけど、聞けなかった。
 どうしてだ……。なんでだ……。
 この世界の技術水準なんて、戦争を経ても第一次世界大戦の頃がやっとのはず。
 なのに、核爆弾に類似する爆発事象が起きた?
 よりにもよって、王都で……?

「旦那様……?」

「どうしたんだ、アカツキ中将……?」

 リイナとブリック大将の声も届かない。
 統合軍は、連合王国はあんな爆弾の開発はしていない。基礎理論は魔法と併せた魔法科学でなら研究はしていた、はず……。だけど開発するにはまだまだの時点で……。これはどう見ても帝国が仕掛けてきた。帝国軍の仕業だ。でもどうやって、機械だとするならば、どうやってアルネセイラまで運んだ……?
 いや……。
 違う、そうじゃない……。
 その前に、アルネセイラはどうなった……?
 今の王都はどうなっている?
 アルネセイラであんなのが起きたなら、想像に難くない。
 市民は? 行きつけの店の店員達は? リオやレーナにクラウド達はノイシュランデにいるけれど、別邸の管理を任せてる使用人達は?
 王都の中央官庁の官僚達は? A号改革の時の部下達などの軍人は?
 王宮は……?
 国王陛下は……? 次期国王の王太子殿下は……?
 お願いだ……。お願いだから夢であって……。アルネセイラにいる沢山の人達はどうなった……?
 転生してからの思い出が詰まったあの街は……?
 前世の知識が無ければ、まだ無事と思えただろう……。
 でも、もしあの禁忌の兵器と同等の威力とあらゆる効果を持っていたとしたら……?

「旦那様……。旦那様!」

「…………なに、かな」

 リイナに肩を揺さぶられてようやく返答が出来た。声が震えすぎていて、ちゃんと発音できたのかも怪しい。

「どうしたのよ。何があったのよ。アナタ、顔が真っ青よ」

「アルネセイラの異常事態…………、何か分かってしまったんだ……。エイジス、伝えて……。僕は、伝えられない……」

 現実を嫌でも突きつけられて、僕は力無く椅子の背もたれに身体を預ける。虚空を見つめるかのような、瞳で。
 エイジスが説明しているのが遠くに聞こえる。
 皆が思うより、ずっと深刻だよ……。今頃、王都は、アルネセイラは……。
 帝国は、あの野郎共は……。
 エイジスがなるべく噛み砕いて伝えている。基礎理論研究は偶然研究所の局員が辿り着いたもので、ただ、連合王国の技術を持ってしても、五年、いや十年近くかかるものだと極一部の者は知っている。今の時点で、ようやく基礎理論研究が終わった頃のはず。
 その一人、ブリック大将は、

「そんな馬鹿な事があってたまるか!! アレは実用化には程遠いんだぞ!? それを、帝国が!? 我が国に!? それも、陛下がおられるアルネセイラにだと!?」

「ウソでしょ……。じゃあ、今頃アルネセイラは……」

「焦土だよ……。焼け野原さ……。王宮は最新鋭の人工魔法障壁装置、『王宮の盾』が発動していれば、いや……、爆心地次第ではそれも……」

 この部屋にいる者全てが恐慌状態になっていた。
 でも僕は耳を傾ける気にすらならない。
 頭の中は回らない思考回路をどうにか稼働させている。
 一体、どうやって、王都アルネセイラに持ち込んだ?
 そもそも、どうして開発が出来た……?
 誰が、やった……?
 基礎理論研究提唱者は?
 膨大な予算を投入しないといけない兵器を、開発出来たんだ……?
 恐らくは予算を投入しまくったんだろう。だとしても、どのようにして、実用化に至った……?
 開発出来たとして、どうして投入した……?
 作るうちに、気付いただろうよ……。アレは使っちゃいけない兵器だって。よしんば、どれだけ譲ったとしても持ってるだけでいい、抑止力だって。
 使ったとしても、人口希薄地帯で使う、脅迫に、って……。
 ……………………あぁ、そうか。
 これは、戦争だもんな……。前世の歴史でもあったじゃないか。狂気に塗れた、あの戦争が。
 ははは……。ははははは……。
 これが、妖魔帝国のやり方か……。
 気付けなかったんだよ……。僕は……。

「はは、ははは……。戦争、だからね……。理性を失えば、使うよな……。奴等は、妖魔帝国なんだから……」

 僕は力無く、呟く。
 この頃になると、王都で起きた事象の報告が万が一の対策として構築していた迂回通信網からも次々と届く。
 だけど、それだけでは済まなかった。

「ブリック大将閣下……」

「次はなんだ……。至急マーチス元帥閣下に、いや、もうとっくに伝わっているか……。それで……?」

「南部軍より、通信です……。アルネンスク方面から、帝国軍一個軍団級、約二五〇〇〇〇の増援を確認。とのこと……」

「北部軍からも連絡あり……。一個軍の敵軍を、航空偵察にて確認と……」

「アカツキ、アカツキよ……!! 大変なこ、と、に……。なんじゃ、これは……」

 通信要員が、南部方面だけでなく妖魔諸種族連合共和国統治地域に駐留する北部軍から帝国軍の増援を伝えると、そこへ入ってきたのは扉を激しく開けたココノエ陛下とその部下だった。
 ココノエ陛下は司令部の異様な雰囲気に言葉を失う。

「どうしたのじゃ、皆よ……」

「陛下……、思念で拾っておりませんでしたか……?」

「思念……? あぁ、混線というんじゃったな。ぐちゃぐちゃになっておったから何かあったのは間違いないのじゃろが、切っておった。そうなったのは、ついさっきの事じゃったからの。しかしアカツキよ、どうしたのじゃ。お主、腐った魚の瞳みたいに…………、話してみよ。至急話しておくれ」

「王都アルネセイラに、大量殺戮兵器が、使われたんですよ……。陛下もご存知の、やっと理論段階に至ったアレです。帝国軍の仕業、です……。奴等、実用化に至ってたんですよ……」

「なん、じゃと……。お主、いま、なんと……?」

「陛下こそ、どうしたんですか……」

「それよりも……、そう、じゃな。――部下が強行偵察しておったんじゃが、見つけたそうじゃ。帝国軍の、大軍をの」

「こっちでも、ですか」

「陛下。陛下の部下はどれだけの帝国軍を視認されたのですか……?」

 僕が茫然自失状態だからだろう、ブリック大将がやっとの事で言葉にした。
 ココノエ陛下は俯いてから、こちらは見て言った。

「トゥラリコフ方面から一個軍団約、ドエニプラから南南東方面からも一個軍団、じゃとな……。合計すると約五〇〇〇〇〇を越える、と……」

 東部と南部だけでも合計三個軍団。北部からも一個軍の新たな帝国軍の新たな増援。
 限定的な冬季攻勢なんてちゃちなものじゃない。
 妖魔帝国軍による、冬季大攻勢だ。
 絶望が、幕を開けた。
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