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第19章ドエニプラ攻防戦2編

第3話 ドエニプラ市街戦開始

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 ・・3・・
 11の月7の日
 午前7時50分
 ドエニプラ中心市街地より西12キーラ地点
 人類諸国統合軍前線移動司令部


 ついに作戦決行日がやってきた。
 内部潜入していた『最初の大隊』所属の部隊員が昨日の夜、準備完了を報告したことによって僕達は作戦決行を最終承認。
 既に中心市街地への侵攻準備は終わっていたから、全てはこの後の成功を願うだけになった。
 時刻は午前九時前。ココノエ陛下達の部隊とエイジスによる、合図も兼ねた空爆も間もなくという段階になった。
 今回の作戦はドエニプラ攻防戦終結の鍵となる作戦だから、最前線に近いこの場にはマーチス侯爵もいた。

「総員、最終確認をするぞ。アカツキ中将」

「はっ。作戦参謀長、現状報告を」

「はっ! 現在我が軍はドエニプラ中心市街地を着実に半包囲しており、敵司令部推定位置より北部が約六キーラ五〇〇メーラ、西部を六キーラ、南部を七キーラまで接近しております。本日の作戦決行後については、まだ包囲していない東部を南北展開の軍が迂回し連絡線を構築。ドエニプラ中心市街地を完全包囲致します。ココノエ陛下及びエイジス特務官による空爆開始が合図にして、『最初の大隊』が設置した魔石爆弾を起爆。帝国軍を大混乱に陥れた上で総攻撃を敢行致します」

「うむ。『最初の大隊』回収はどうなりそうだ? 予定より一キーラ程度彼等は長く脱出することになるが」

「昨日報告の為帰還した部隊員によれば、帝国軍将兵はかなり疲弊しているようなので、比較的脱出は楽になるかと思われます。充足率が極度に低下した部隊は東部経由でプレジチェープリへ脱出したようで、予測より内部に残っている兵数は少ないかと。ただ負傷兵を減らした分まだ戦える兵士は残っていますので、油断は出来ません。『最初の大隊』に限り逆探知による居場所の露見を防ぐ為ギリギリまで無線封鎖は継続。残り一キーラ程度になるまでは状況はこちらからはわかりません。空からの追跡が頼りになるかと」

「その点はエイジス特務官に任せよう。エイジス特務官、捕捉は可能か?」

「サー。脱出は一定人数固まって行われる為、検出は可能です。ただし、混戦となれば精密追跡までは難しいかと思われます。ある程度の位置であれば、いつでもマスターに情報提供出来ます」

「メーラ単位で構わん。追跡出来るのであれば、一任する」

「サー。任務を受領致します」

 エイジスは敬礼をして答えるとマーチス侯爵は頷く。
 この場にはココノエ陛下もいるので、彼はココノエ陛下の方を向くと、

「ココノエ陛下。上空支援については脱出する『最初の大隊』への支援を中心に行って貰いたく。ただし、どこにいるかを悟られない位にしてもらいたいのですが」

「うむ! 任せいマーチス元帥! 要するに広域攻撃をすれば良いじゃろう。改めての確認になるが脱出支援に半数、通常の上空支援に半数でどうじゃろか?」

「よろしくお願い致します」

 マーチス侯爵は敬礼して願い出る。ココノエは朗らかな笑顔で頷いた。

「続けて情報参謀長、よろしく」

「はっ」

 僕が次に顔を向けて言ったのは情報参謀長だ。この作戦において一番関係が深いのが彼でもある。

「情報参謀部では作戦決行後包囲が完全になった時点で心理戦を展開します。最早瀕死の妖魔帝国軍でありますが降伏する部隊があまりおりません。シェーコフ大将の統率力と帝国軍全体の練度向上によるものだと思われますが、捕虜にした帝国軍士官が共通して吐いたのは死守命令が出されているようです」

「死守命令か。ドエニプラ以前では出ていなかった布告であるから厄介極まりないな……。全兵士が徹底していないにしても、降伏の枷になっているのは間違いない」

「はっ。はい。どうやら、死守命令は相当強力なようで、未だに必死の抵抗を図っているのはこの命令のせいかと。しかし、本作戦が成功すれば確実に最後の支えを失います。とはいえ、それでも抵抗する場合はビラ撒きや拡声魔法で降伏勧告を行い投降を促します」

「その方が良いだろう。我々も少なくない死傷者を出している。出来る限り早期終結を図り、戦わずに済んだ方が兵士の為にもなる。ビラ撒きは召喚士偵察飛行隊も動員するんだったな」

「はっ。航空戦力が任務を行います」

「了解した。帝国軍が一人でも多く降伏してくれればいいが」

 マーチス侯爵が案じている点は全員共通の認識だった。
 冬季の間は兵站線が雪による輸送速度低下で物資供給量が減少するのが判明しているといっても、物資は供給するなりやりくりするなりで解決する。でも、兵士は人だ。失えば戻ってこない戦力でもある。
 既に兵站部は捕虜にした分の食糧供給にも満数の九割は確保したみたいで、不足分も占領政策が比較的平穏に経過していることから有償徴発――要するに金銭を払って食糧を買い取る――でなんとかなるみたいだ。これは現時点において僕達が予想していたより捕虜が少ないからなんだけどね。
 さて、情報参謀部の話も終わったので次は兵站参謀長に話を振ろう。

「兵站参謀長、最終報告をよろしく」

「はっ。兵站部では既に本日から行われる総攻撃に関して規定量の砲弾薬を輸送完了。少なくとも兵士が弾薬に困ることはありません。魔力回復薬も規定量九割ですが前線への移送が完了しております。医療物資も後方オディッサから工面致しましたが、南方副攻戦線にても消費ひておりますから余裕はさほどありません」

「ひとまず大方問題なく集められたようだな。兵站部にはいつも負担をかけて悪いが、さらなる余剰を確保してもらえると有難い。死に体の帝国軍だが、土壇場での刺し違いを図ってくる可能性も否定は出来ん」

「はっ。極力確保に努めます。ただ、全線戦への振り分けからこちらに多少融通はされている状況ですので……」

「了解した。総力を持って終わらせよう」

 マーチス侯爵は頷くと、これで大体の作戦確認が終わる。
 マーチス侯爵は全体を見回すと、

「総員、本作戦が上手くいけばようやく今年の作戦が一段落となり冬を越しての再攻勢にも繋がる。各位奮起し、ドエニプラ攻防戦を終わらせるように。――アカツキ中将」

「はっ」

「貴官には西部方面で前線指揮に出てもらう事となる。能力者化師団を駆使して市街地に突入し、ドエニプラを陥落させよ。いつも通りの活躍を期待している」

「はっ! 了解致しました!」

 僕は敬礼し答えると、マーチス侯爵は笑みながら答礼した。

「それでは総員行動を開始せよ」

『はっ!』

 マーチス侯爵の鼓舞を込めた声に全員が敬礼すると、一斉に動き出す。
 僕も隣にいたリイナと目線を合わせると頷きあって司令部テントの外に出た。

「エイジス、ココノエ陛下と協同して『最初の大隊』に合図を兼ねた空爆を。第一解放を限定的に許可するから、半分ほど余裕時分を残すくらいまでは暴れ回っていいよ」

「サー、マスター。ココノエ陛下と逐次連携を取ります」

「よろしく。ココノエ陛下」

「うむ!」

「今回はいくら諸種族連合共和国軍とはいえ、魔人族の精鋭部隊の救出を任せることになり申し訳ございません」

「何を今更。細かいことなど気にするでない。妖魔帝国の者ならばともかく、あれらは同盟者なのであろう? 妖魔帝国が倒れあれらが新しき統治者になるのであれば、いずれ妾達も貿易等で関わるようになるしの。じゃからアカツキ、配慮はいらぬ」

「ご理解頂きありがとうございます。作戦に変更はありません。脱出支援と上空からの攻撃二点になります」

「あいわかった。空は妾達だけでなく戦闘機もおる。上は任せよ」

「感謝の極みにございます」

「では、妾達はそろそろ行くのでの。エイジス、よろしく頼むぞ?」

「サー。陛下にもしもの事があればお守り致します」

「かかっ! それは頼もしい! じゃがお主の主君はアカツキじゃ。主君を優先せよ」

 なんというか、立ち振る舞いにせよこう言うあたりココノエ陛下も皇族だなと思う。
 ココノエ陛下とエイジスは用意されていた離陸地点へ向かう。
 もちろん、僕達は彼女らを見送ってから行動開始だ。
 ココノエ陛下達とエイジスが揃うと僕は声を大きく上げて、

「総員、ココノエ陛下とエイジス特務官へ敬礼!」

「では、行ってくる」

「マスター、万事お任せください」

「うん。エイジスも気をつけて」

「サー」

「ココノエ陛下、『ロイヤル・フライヤーズ』の総員。健闘を祈ります」

「うむ!」

『了解!』

「サー、マイマスター」

 彼女等は敬礼するとココノエ陛下達は龍の姿に、エイジスは第一解放時の姿に変化して上空へと舞っていった。

「それじゃあ僕達も行こうか」

「ええ」

 僕とリイナはアレン中佐達と共に最前線へと向かう。場所はドエニプラ中心市街地から約九キーラ地点。三キーラ先が両軍入り乱れて戦闘真っ最中の場所だ。今は総攻撃前の準備攻撃が行われている。

「『ロイヤル・フライヤーズ』及びエイジス特務官が中心市街地に到達。間もなく合図の空爆が始まります」

『マスター、カウントを開始します』

『了解。任せたよ』

 通信要員からの報告とほぼ同時に、エイジスからカウント開始の思念通話が入る。

『十、九、八、七――』

『三、二、一、モードオフェンス。単一捕捉。攻撃開始』

 ドエニプラ中心市街地からココノエ陛下達とエイジスによる小規模術式による空爆が始まる。視覚共有のレーダーでは『最初の大隊』の中でも投入部隊全員に被害が無い場所を攻撃していた。
 同時に市街地各所から空爆とは別の爆発音も聞こえた。どうやら破壊工作は上手くいっていたようだ。
 さぁ、総攻撃の合図だ。こっちも始めよう。

「総員、突撃!! 目標ドエニプラ中心市街地敵軍総司令部!!」
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