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第18章 ドエニプラ攻防戦編

第11話 庭荒らし作戦が遂行される中、現れるのはあのバケモノの――

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 ・・11・・
 同日
 午前7時35分
 妖魔帝国軍ドエニプラ防衛軍中央北防衛拠点


「アレン中佐、敵中隊を突破!!」

「よしその調子だぞ! 連隊主力は南のブロックを制圧中だ! ドエニプラ中央部の敵主力が来る前に中央北防衛拠点の北ブロックを一時的にでもいいから囲むぞ!!」

『了解!!』

 妖魔帝国軍がドエニプラから北に設置していた後方防衛拠点は大混乱に陥っていた。
 朝食の時間に突如として現れ奇襲を敢行した増強連隊により、まず反撃する余裕も無く左側面に展開していた警備部隊が壊滅。ドエニコルツの森方向には一個連隊、さらに後方に一個連隊が配置されていたが、最前面はあっけなく崩れていく。
 完全能力者化師団で編成されている増強連隊の前進は止まらなかった。
 敵が防衛態勢を整える前にアレン中佐の大隊含む一〇〇〇は突出。次の一個連隊と戦闘状態に入る。
 もし彼等だけであれば南方に控えている旅団が救援に駆けつけるはずだったが、旅団の救援到着前にアレン中佐が現在戦闘中の連隊南東に位置していた連隊を南部ブロック担当の一五〇〇が壊滅させる。
 ここまでであれば一時的な混乱で収まるはずだった。
 しかし、北部方面主力のうち三個師団が強襲突破攻撃を発動させる。一気に片をつけるつもりなのだろう、ゴーレム搭乗魔法兵部隊の投入も行われ、中央北防衛拠点の北部担当二個旅団は挟み撃ちの状態故に援軍も望めず非常に厳しい戦いを強いられる。
 そして、泣きっ面に蜂とはまさにこの事だろう。陸だけでなく空からも攻撃を仕掛けられたのである。
『ロイヤル・フライヤーズ』と戦闘機約八〇機による空襲は混乱に輪をかけた。シェーコフ大将がこの場にいたのならば、態勢を立て直し秩序ある反撃や後退等を行うことも出来ただろう。
 しかし、この方面を担当している司令官は優秀ではあるが場を凌げる程の才覚は持ち合わせていなかった。
 その結果が戦闘から僅か一時間足らずで、増強連隊によって二個連隊を壊滅させられるという損害である。
 だが、この状況下においてどうにかしろというのが土台無理な話なのである。いかに包囲されつつあり緊張感のある戦場でも朝飯前となれば多少気が緩む。北部方面の主力軍の攻撃は毎日の恒例であるからともかくとしても、全く予期もしていなかったドエニコルツの森からの奇襲は備えなど最低限しかしていないのだから。

「前方、一個大隊規模! 能力者が多いです!」

「雑魚など構うな踏み潰せ! 第二中隊、中隊一斉射撃! 属性爆発系火属性! 高威力化魔力充填!」

『了解!』

「てぇぇぇ!!」

 アレン中佐の大隊のうち、一個中隊が味方の後方支援を受けながらなんとか反撃を行おうとする大隊に対して中隊一斉射撃を行う。
 魔力充填により通常より速射力に劣るが威力が増大される弾丸が放たれる。彼らが撃った銃弾はドエニプラの戦いが始まってから本国より送られてきた特殊弾である。チャージ出来る魔力の許容量が通常弾より高いものであり、アレン中佐等特殊部隊や最精鋭向けに用意された特殊弾丸である。数はあまり多くないが、『シェーコフの庭荒らし作戦』で使わない理由が無かった。
 彼等が放った弾丸は爆発し魔法障壁を破壊させる。爆風が直撃するか巻き込まれた兵の末路は想像するまでもない。

「よくやった! 次に行くぞ!」

「了解しました!」

「司令部より通信です! 北部主力は敵と交戦し地点によっては圧殺しつつあり! 北部担当のブロックの部隊は既に味方主力軍の姿が見え始めたとのこと!」

「よし! この調子なら北部の二個旅団は無力化下も同然だ。我々は目標を変えず、中央突破するぞ!」

『はっ!!』

「アレン中佐! 上空を! 味方の、ココノエ陛下方です!」

「有難い! このまま突っ切るぞ!」

 アレン中佐の近くにいた部下が空を見上げた先にいた者達に気付き、報告する。
 上空に翼を広げていたのはココノエ達『ロイヤル・フライヤーズ』だった。
 ココノエはアレン中佐に気付いたのか翼を左右に振り、アレン中佐も進行方向先へ腕を振り下ろすと大空に光龍の咆哮が轟く。ココノエ達は龍の姿でも意思疎通が可能なのだが、咆哮したのは威嚇の為だろう。
 ただ、帝国軍も無抵抗ではない。戦闘が始まってまもなく一時間近くになる。ようやくこの段階で洗脳化光龍飛行隊もやってきた。
 とはいえ、『ロイヤル・フライヤーズ』の敵ではなかった。

『数は八、いや九じゃな。まだ残っておる者達も楽にしてやらねば。シラユリ、ムネタカ。行け』

『承知!』

『御意に』

 近衛の女性隊員・白百合と、男性隊員の宗孝はココノエに命じられ洗脳化光龍飛行隊が現れた方角へ向かっていった。

『妾達は地上部隊への航空支援を行う。機を見て司令部ごと吹き飛ばしてしまっても構わんぞ』

『はっ』

 ココノエ達は統率の取れた行動を見せ、上空を旋回しつつアレン中佐達と同行を始めた。
 地上からは増強連隊の、上空にはAFー44とココノエ達による陸空協同攻撃はただでさえ混乱していた帝国軍の士気を完膚なきまでに叩きのめしていた。中にはドエニプラ市街地方面へ敗走を始める部隊まで出る有様であり、勝敗は決しつつあった。
 しかしタダではやられないのが今の帝国軍であり、シェーコフ大将である。
 例えそれが苦肉の策による投入だったとしても、完敗を防ごうとするに足る手札だった。
 戦闘開始から一時間半。午前八時半頃の事だった。
 この時間には既に北部ブロック部隊の善戦によって主力とも合流し包囲を形成。アレン中佐達も多少の負傷者を出しつつも敵防衛拠点司令部まであと一キーラと六〇〇メーラまで接近しており、司令部直衛部隊と交戦していた。首狩りも総仕上げで陥落も時間の問題と思えた頃。
 アレン中佐達の部隊に一報が入る。

「南部ブロック部隊から緊急情報! 『南方から敵ソズダーニアを視認。ただしこれまでと外見特徴一致せず、リチリアでの報告にあった『ソズダーニア改良型』の可能性大。数は二個分隊、一〇』とのこと!」

「ちっ、もうすぐ司令部狩りが叶うというのに!」

 アレン中佐は思わず舌打ちをする。
 敵司令部は目の前。魔法銃の射程なら遠距離系術式で命中距離にも関わず水を差された格好になったからだ。
 アレン中佐はアカツキに近い人物だけあって階級以上に情報を得ている。『ソズダーニア改良型』つまりは『ソズダーニア・アジン』がどれだけ強力な存在か知っていた。
 リチリアからもたらされた情報によれば、ソズダーニアを越える攻撃力と防御力を持っており、さらにはソズダーニアには使えないとされる魔法まで行使する存在。
 万が一アジンタイプと遭遇した場合はアレン中佐の大隊でも小隊規模で交戦するのが最良とされているほどだ。
 それが十体もとなれば、帝国軍が息を吹き返し最低でも撤退に余裕を持たされるか最悪の場合多少戦線を押し上げただけで終わってしまう可能性もある。
 南部ブロック部隊は精鋭だが、アレン中佐達と比較するとやや劣る。こうなるとアレン中佐達が救援に駆けつけたいところではあるが、今彼等は目の前に司令部があり代替可能な部隊はいない。
 どうするべきか。優秀な部下のことだ、アカツキ中将閣下に指示を仰ごうと通信は送っているだろうがアジンクラスに対してどれだけ南部ブロックが戦えるかまでは分からない。想定外の被害は確実に発生するだろう。
 有能な現場指揮官であるアレン中佐は思考をフル回転させる。
 そんな時、上空にいた彼女達が現れた。

「アレンよ、妾達に任せよ」

「ココノエ陛下。つまりは、前線に向かわれると?」

 ココノエは着陸しすぐさま人型形態に変わると、アレン中佐の敬礼に対する返礼のすぐに言う。
 アレン中佐は察したのだろう、彼女の発言の意図を掴んで返した。

「うむ。北部は包囲が完成しておるからもう安心じゃ。ここも司令部からすぐじゃから妾の配下を三人付ける。そなたらは気にせず首を狩れば良い」

「ありがとうございます、陛下。しかし、相手は改良型です。恐れながら、いかに陛下が地獄の訓練を乗り越えらた方とはいえ危険ではありませんか?」

「くふふ、アカツキは良い部下を持っておるの。じゃが案ずるなアレン。彼奴等きゃつらが改良型と言えど、憐れな醜いバケモノぞ? 妾やこやつらにとって、相手に不足はない。むしろ、相応しいあいてじゃ」

 龍らしい獰猛な笑みを見せるココノエにアレンは、

(あの地獄を越えて最も人が変わったのは、このお方かもしれないなあ)

 と心中で思ったが口には出さなかった。援軍に向かってくれるというのであれば、彼女らほど心強い存在はない。自分達がこの場から動けないのであれば尚更だった。

「ちなみにじゃが、アカツキの許可は得ておる」

「ならば私からは何も言うことはございません。ご武運を」

「うむっ! 任せい!」

 ココノエは今度は年頃らしい明るい笑いをすりと颯爽と『ソズダーニア・アジン』がいる方面へと向かっていった。

「その、アレン中佐」

「どうした、カイン少尉」

「ココノエ陛下、可憐な方なのに戦場に出られると戦姫のようになられるなと思いまして」

「可憐なのにえげつないのは我が閣下と奥様も同じだろう。なんというかだな、慣れた」

「ですよね……」

「さて、南は陛下に任せて我々は首狩りだ。我らが国の旗を掲げよう」

「はっ!」
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