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第15章 戦間期編2

第17話 人類諸国の現状と連合王国の新兵器

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 ・・17・・
 1844年10の月16の日
 午後1時50分
 アルネシア連合王国北部・アルネシュラン島
 陸軍魔法科学新兵器実験開発場のある区画


 時が経つのは早いもので、休戦期間が残り一年半と少しとなった一八四四年の秋。
 今年は例年よりやや暑い年になったけれど、流石に十の月にもなれば過ごしやすい気温になっていた。
 休戦期間は残り一年半ともなると僕も来年はついに三十歳になるわけで、つまりはアラサー。リオがもう二歳になったんだから当然だけど、異世界に転生してもう六年半以上経ったんだと思うと少し感慨深さもあるかな。
 個人的な事は置いといて、刻一刻と期限切れが近づく中で人類諸国は再びの戦争に向けて準備が整っているかと言われると決してそうではなかった。というのも、各国によって足並みが乱れているからだ。
 フラスルイト共和国は後方支援としての役目に徹するつもりのようで相変わらず。ポルトイン王国も国内と植民地に手一杯で関与するつもりはあまりないのはこれまでと同じだった。
 法国は旧東方領を得た事で国内経済の建て直しに成功し景気は良いらしいけれど、大戦中で一番の被害国だけあって去年になってようやく海軍の再建と陸軍の強化に完了。協商連合には及ばないけれど、大戦前よりは強くなったくらいというところ。
 連邦は一部派兵はするけれど主としては連合王国の支援につくと早々に決めたみたい。後方は任せられるから助かるけれど、積極的攻勢は現状するつもりはないみたい。
 そして同盟国たる協商連合。一番頼りにしていた国はというと、暗雲が立ち込めていたんだ……。

「ここに来て協商連合はまたしても政治的内紛の兆し、かぁ……」

「反対派閥が実権を握って国防大臣どころか大統領も変わってしまって久しいけれど、まあこうなるわよねえ」

「確定事項。反対派閥たる保守党の醜い仲間割れによる政治的な乱れは国内に不穏要素を発生させるのは必然ですマイマスター」

 軍服姿の僕は同じく軍服姿のリイナと、暖色を基調とした子供服姿のリオにデフォルトの装束であるゴスロリのような服のエイジスとで、とある目的で訪れている建物の中にある応接室で最近の情勢について話していた。リオは昼ご飯を食べたからか、ウトウトとしていてついさっきから座り心地のいい複数人掛けのソファで寝ていた。

「軍情報機関によれば、以前からの仲間内での足の引っ張り合いで決められるものも決めにくい様子みたいだね。軍の方も国防大臣が変わってしまったし新しいと言ってもだいぶ経つけど、どうにもあの媚びへつらう大臣は好きになれないなあ……」

「アレは動く無能よね……。どうにか現場組が頑張っているみたいだけど、昔みたいな軍協商連合軍は期待出来ないでしょうね」

「全くだよ。義父上も辟易としてた。私腹を肥やすことしか考えてなくて、戦時になったら邪魔になるかもしれないってね」

「補足事項。何よりも今年の夏前より表面化した反政府団体の動きも気がかりかと」

「確か『亡国救済党』だったよね。ルイベンハルク大佐から情報は貰ってるけど、自分達の事しか考えていない、他国に比べて経済が低迷しているにも関わらず賄賂だの内紛だの国民無視の政治をしている協商連合政府に反対して国民から少しずつだけど支持を得ているって」

 亡国救済党。
 連合王国首脳陣や軍高官クラスでも最近話題に上がっている反政府団体だ。
 初めて公に出てきたのは今年の夏前くらい。なので組織化されたのは今年の初頭あたりかそれくらいだと僕は予想している。
 この団体は、協商連合政府や軍の昨今の体たらくと経済低迷状態を放置している事を憂慮し立ち上がった団体とされている。
 トップに立つのは北東部エディンバリ出身で元政治家のカールード。他にも主要メンバーには反対派閥に追い出されて割を食っている元政治家や元官僚などが並んでいてどれも中央の首都ロンドリウムから遠い北部出身ばかりで、見事な対立構造を生んでいた。
 それだけなら純粋な反政府団体なんだけど、どにもこの組織内には元軍人も混じっているんじゃないかという疑惑もある。ただこれについては確証の得られる情報が無いから何とも言えないらしいけれど、不穏な空気を感じるのはまちがいなかった。

「『亡国救済党』、嫌な予感がするわ。今はまだ大規模な活動をしていないけれど、このまま政府が変わらないようなら暴発しそうで」

「リイナ様に同意。現在の協商連合政府は当該団体を侮っておりほぼ無視していますが、有害化した場合は自身の非を認めず当該団体を弾圧を加える可能性高。この場合、確実に衝突を起こし表面上は落ち着いている協商連合国内情勢に大混乱を引き起こすでしょう」

「連合王国国内でも休戦を延長する意見があるとはいえ、それなりに準備は進んでるって言うのに、ここに来て法国の方が頼もしくなるとは思わなかったなあ……」

「法国は再戦の場合通常戦力だけじゃなくて召喚武器所有者も前面に出して、Sランク召喚武器所有者も惜しみなく投入するとこの前の相互交流でマルコ大将閣下が言ってたものね」

「法国はマルコ大将閣下が軍についてを統括しつつあり、国内についても法皇が君臨するだけに安定しています。何より宗教的宿敵にあたる妖魔帝国に対しては休戦前にしてやられた事をまだ根に持っており、今度こそはという雰囲気があるからだとワタクシは推測します」

「こうなると協商連合をあまり頼りにしない方がいいかもしれないなあ……」

「そうね。私達連合王国が主体なのは相変わらずだけれども、なるべく自分達でやれることをやりましょう。夏前に極秘裏に入った彼等が成果を手にして帰ってくる事を含めてね」

「うん」

 Y特務機関は今年の一の月に正式に発足し、準備期間を経てついに七の月に任務を開始したんだ。
 だから今頃、妖魔帝国西部への潜入は完了しているはず。敵国内だけに魔法無線装置も使えないし、まずは拠点と協力者の確保。情報を得たとして、持ち帰るにも召喚士の召喚動物頼りになる。
 恐らくは成果が持ち帰られるのは早くても年内。遅いと年明けくらいになるだろう。
 この情報をもとに僕達は動くことになるんだけど、こればかりかは待つしかないね。
 さて、国内の状況や作戦の進行はこれくらいにして時間的にそろそろだろうか。
 そう思っていると、扉がノックされ士官が入ってくる。

「アカツキ中将閣下、リイナ准将閣下、エイジス特務官お待たせ致しました。ご準備が出来ました」

「分かったよ。ありがとう。リイナ、行こうか」

「ええ。私達もだけどリオも初めて見るものだから、この子は目を輝かせるでしょうね」

「兵器でありロマンだからね。男の子ならワクワクものさ」

 僕達は席を立ち上がり士官や兵達の案内と護衛を受けながら外へ出る。
 今僕達がいるのは、連合王国の本土ではないんだよね。ここは連合王国北部アルネシュラン島
 。本土から北八〇キーラにある、約三八〇〇平方キーラの比較的大きな島だ。人口は約二〇万人と面積の割には人口密度は低い島で、故に広大な土地がある。それ故に、この島には二十数年前から軍の施設があるんだ。
 それが今いる場所、連合王国軍新兵器実験開発場。魔法、魔法科学、非魔法問わず新兵器はここで実験開発が行われている。僕が転生前の段階ではそれなりにしか使われていなかったけれど、妖魔帝国との戦争が始まる直前くらいから防諜体制も含めて閉鎖性の高いこの施設が有効活用されるようになったんだ。
 そして、今日。ある新兵器もこの地で披露されることになるわけだ。

「いい天気ねえ。気温も丁度いいし、お披露目日和ね」

「風力は微風。天候は快晴。最適な状況ですマイマスター」

「本当にいい天気だ。これなら安心して見られるね。お、会場が見えてきたよ」

 さっきまでいた本部棟の建物から歩くこと数分。
 そこにあったのは広大な敷地。けれど演習場のように草がそのままではなくて、地ならしされた整備された土地だった。その中にぽつんといくつかの建物がある。だけど普通の建物ではない。何かを格納する為に作られた、縦横共に十分な高さと広さがあって、蒸気自動車などや大型車両が入るにしても大き過ぎる扉もある。
 前世では当たり前だったけれど、この世界には無かった建物だ。
 その近くには既に複数の軍服や作業着姿、白衣姿の軍人がいた。見知った顔の人物もいる。
 僕の姿に気付いた一人が敬礼すると、一人を除いて敬礼をしてくれた。

「マーチス元帥閣下。既に居られたのですね」

「おお、アカツキ。リイナにエイジスも。先程到着していたからここに直接来ていたのだ」

「ご挨拶が出来ず申し訳ありません」

「なあに、オレとお前との間柄だ。気にするな」

 僕が敬礼をするとマーチス侯爵は答礼をする。眠りの世界にいるリオを見つめると、目を細めて微笑んでいた。

「リオはまだ寝ているみたいだな。もう二歳になるが、可愛いものだ」

「ええ、お父様。愛しい我が子だもの」

「ははっ、違いない。おっと、リオが目を覚ましそうだぞ」

 賑やかな所に来たからか、リオは寝ぼけまなこではあるけれど目を開けた。
 ぼーっとしながら、リイナの胸の中にいるリオは母親を見上げて。

「ママ……?」

「おはよう、リオ。今はお外にいるのよ」

「お外……? んゆ……、パパ」

「おはようリオ。よく寝れたかな?」

「うん……。……あ! じいじ!」

 リオはマーチス侯爵を見つけるとぱぁ、と笑顔になる。王都にいる時もしょっちゅうは会えないから、今日はマーチス侯爵に会えると知って楽しみにしていたんだ。

「じいじだぞ、リオ。元気か?」

「うん!」

「はっはっはっ。そうかそうか」

 軍務時は威厳のあるマーチス侯爵も、孫の前ではデレデレだ。その様子を見て周りの軍人や技術者に研究者達も微笑ましそうに光景を眺めていた。

「アカツキ中将閣下ー!! 今日はお越しくださりありがとうございますー!!」

「おー、ノイシェン技術大佐! 今日は息子を連れてきてますが、この場にいて良かったですよね?」

「もちろん! 絶対に喜びますから!」

 建物の方から現れたのは三十代後半の白衣を着た明るめの茶髪の男性。
 彼はノイシェン技術大佐。休戦直後に始動した今回の新兵器プロジェクトの中心的人物で、とある研究については非常に野心的な人物だ。
 僕はエイジスに協力してもらって提案と簡単な図面を渡しただけで、あとは彼やプロジェクトメンバーが製作をしてくれている。
 彼が何を作ったのかは、この後すぐ分かるかな。

「準備は出来た?」

「ええ、すぐに発表出来ますよ! ――お集まりの皆様、お待たせ致しました! これより人類諸国初の新兵器をお披露目致します!」

 僕に声を掛けてくれて確認をした後、ノイシェン技術大佐は周りにいた人物に呼びかけると彼等はおお、と声が上がる。

「ついにか、アカツキ」

「はい。ついにです。彼等は本当によくやってくれました」

 マーチス侯爵はこのプロジェクトを知っているから、彼も僕も多くは語らない。
 僕達は建物のとても大きな扉が開かれるのを待つ。
 すると、扉はゆっくりと音を立てて開かれた。

「おおお!!」

「これが新兵器か!!」

「見たことも無い形状だ!!」

「まさに新兵器!!」

 集団からは歓声が上がる。
 ゆっくりと姿を現したのは、前世の歴史書や写真等では沢山記録が残っているフォルム。しかし、この世界では未だ到達していなかった、けれども人類の文明と技術の証。
 目の前に現れたのは、飛行機だった。
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