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第2部 戦間期に歩むそれぞれの道 第14章 戦間期編1

第7話 めでたきこと、それは新たな――

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 ・・7・・
 1842年2の月22の日
 午前10時
 アルネシア連合王国北東部ノイシュランデ市


 年が明けて、一八四二年。僕が異世界で生きることになってからもう四年が過ぎたこの日、王都暮らしが年の大半になってから久しぶりに故郷であるノイシュランデ市にリイナやエイジス、アレン大尉達古参のノイシュランデ組と共に訪れていた。
 晩冬の二の月のノイシュランデは雪が降る日がある。けれど今年の冬はどうやら暖かい方らしく比較的降雪量が少なくて、今日はよく晴れていた日だった。
 ますます工業化し発展を続けるノイシュランデは新市街地が四年前に比べるとさらに拡大し、人口も転生当初に比べて二万人以上増加していた。広大かつ宝の山である旧東方領を手に入れた事によりノイシュランデは旧東方領開拓の一大拠点の一つとなったことでさらに流れは加速し、三年後には人口四十万人を越えるだろうと予測されているくらいだ。
 だからだろう、一旦不景気を挟み景気回復してからは連合王国の中でも王都アルネセイラ、ヨーク、オランディアに次ぐ王国第四の都市にまで発展し市民達は平和を謳歌していた。
 そしてこの日、ノイシュランデ市に新たな歴史の一ページを刻む一大行事が開かれようとしていた。

「誇らしい、とても誇らしいよアカツキ。父として今日この日を迎えられたことをとても嬉しく思うよ」

「ええ。また息子の功績が一つ増えたのだもの。将来は伝記に載ること間違いなしね」

「長生きはするものじゃの。息子や孫が故郷をより発展させてくれているのじゃからな」

「ありがとうございます。父上、母上、お爺様。戦時体制への移行で遅れが生じていましたが、ノイシュランデの将来に大きく寄与してくれる計画が実を結ぶことになりました」

 礼装のA式軍服の僕やリイナにドレス姿のエイジス、正装姿の父上達がいるのは王立鉄道ノイシュランデ駅から数百メーラ離れた場所に最新の建築様式で建造された立派な五階建ての建物。まだ新築の香りが漂う応接室だった。
 今はとある式典が開かれるのを待っている状態で、僕達は紅茶やコーヒーを飲みながらいた。

「その名をノースロード鉄道、か。まさか私鉄で我が家系の名が用いられるとは思わなかったよ」

「ノースロード鉄道は当初、ノイシュランデの商工業の経営者達が集まって結成されたノイシュランデ鉄道株式会社が敷設する王国初の私鉄だったんですが、経営陣がノースロード鉄道に名を変更しようということで今の名称になったんですよね。そして今日が、全通記念式典です」

「儂も聞いた時は驚いたが、彼等は皆同じ事を言うておったからのお」

「戦争からノイシュランデを救い、戦勝へと導き、今もこの地に繁栄をもたらす英雄の街に相応しいのはやはりこの名前でしょう。ってね。本当はアカツキ・ノイシュランデ鉄道にしようなんて言ってたのを私はよーく覚えているよ」

「流石に僕の名がそのまま使われるのは遠慮しましたよ父上……。計画から敷設、アルネセイラからノイシュランデまでの全通に至るまで鉄道会社や建設に携わった人の努力によるものなんですから」

「謙遜しなくてもいいのよ、アカツキ? それだけ貴方がこの街に発展と繁栄をもたらしているのだもの」

「そうさ。お前が戦場に立って勝利を掴んで、前線の近かったノイシュランデを守ってくれたからこそ今があるのだからね」

「父上達の尽力のお陰でもありますよ。僕はほとんど王都にいて、ノイシュランデにはなかなか行けなかったのですから。――ねえ、リイナ。さっきからずっと顔色が悪いけど大丈夫……?」

「ん……、え、ええ。大丈夫よ。ちょっと気分が良くないだけで問題ないわ」

「注意。今朝からリイナ様はずっと体調が優れないようです」

「心配ないわエイジス。大したことないもの」

「本当に? リイナ、外はまだまだ寒いんだし無理はしないようにね」

 エイジスの言うように起きてからずっと体調が良くないらしいリイナへ僕は心配して声をかけると、リイナはいつもより弱々しく頷く。その様子に、父上達も少し不安そうに見つめていた。
 最近まで冷え込みが強かったし、少し忙しかったから式典が終わったら記念パーティーの夕食会までは屋敷に戻ってリイナを休ませてあげた方がいいかもしれないね……。場合によっては参加中止も視野に入れておかないと。
 と思っていると、ノックの音が聞こえる。
 父上が許可を出すと、入ってきたのは僕達の護衛を担当するアレン少佐と部下達だった。

「皆様、まもなく式典入場の時間になりますのでお迎えにまいりました。アカツキ中将閣下、警備については各方面問題無しとのことです。アルヴィン大将閣下もワルシャー視察から直接こちらに来られるそうで間に合うとのことです」

「報告ありがとう、アレン少佐。駅周辺はどう?」

「はっ! 多くの市民がつめかけておりますので、大変混雑しているくらいでしょうか。軽犯罪等については領警察が担当しておりますから大丈夫でしょう」

「ならよしだね。では父上母上、お爺様行きましょう。リイナ、今より気分が悪くなったらすぐに言ってね?」

「ありがとう旦那様……。でもせっかくの式典だもの、出席させて?」

「分かった。エイジス、リイナの身体に変調があったらすぐ伝えて。アレン少佐達もよろしく」

『はっ!』

「サー、マスター。…………?」

「どうかした、エイジス?」

「いえ、なんでもありません。気のせいかと」

「君が気のせいだなんて珍しいね」

 エイジスが首を傾げながらもそう言うので信用し、僕達はアレン少佐達の誘導で部屋を出る。
 式典はちょうどこの建物の正面で行われ、一階の正面玄関からちらりと見てみると既に参列者達はほとんど出揃っているみたいだ。後はこの地を治める僕達の登場を待つだけになっている。

「悪ぃ! 遅くなった!」

「間に合って良かったです、アルヴィンおじさん」

「おう! めでたい日に遅刻だなんてしたくねえからな」

 会場の裏に着くとアルヴィンおじさんとも合流、ノイシュランデ市長の挨拶も終わりを迎えたようで、伝言役の鉄道会社職員が表の方へ行くと市長が声音を弾ませて、

「会場にお集まりの方々、お待たせ致しました! ノースロード鉄道開通に力を注いでくださった我らが領主ノースロード一家の皆様がご登壇されます!」

 市長の宣言に会場からは歓声が上がると軍の音楽隊の演奏が始まり、直後に僕達が式典の壇に上ると一気に沸き立つ。

「総員、御領主ルドルア様、アリシア様、ロータス様、アルヴィン大将閣下、アカツキ中将閣下、リイナ准将閣下、エイジス特務官に、敬礼っ!!」

 式典招待客の一人、ノイシュランデ駐屯の師団長が僕達に向かい敬礼。続いて会場にいた軍人達も後に続いて敬礼をする。
 父上達は手を振り、軍人組のアルヴィンおじさんや僕達は返礼をする。
 それから式典は順調に進んでいった。父上やお爺様、アルヴィンおじさんの挨拶の次には、開通記念式典には久しぶりの再会となった人物も挨拶を行った。
 例えば、王立鉄道開通の時に今や沢山の鉄道利用客だけでなく、駅内にある飲食店施設を利用客でも賑わう駅舎の建築を担当したラルグス特等建築士。彼はさっきまでいた本社とニュー・ノイシュランデ駅の設計も担当していて、今後の新路線開通も見越した素晴らしい駅舎とホームを作ってくれた。
 彼の挨拶を終えると、次にノースロード鉄道の社長や役員なども同様に話をしていく。
 そして最後には僕が登壇。最初はお爺様や父上もしくはアルヴィンおじさんの後でと言ったんだけど、社長や役員達、ラルグス特等建築士たっての希望で出番が最後になったんだ。
 もうこの手のパターンに慣れた僕は承諾し、壇上に立つと僕は十分ほど祝いの言葉とノイシュランデのさらなる発展を祈る言葉を述べ、二時間ほどで無事式典は終了を迎えた。
 式典を終えてからは駅のホームでテープカットと第一号となる列車の発車を見送ると、時刻は正午過ぎになっていた。
 この後は記念パーティーの夕食会まで時間があるので、参加前にいた応接室に戻ってから、屋敷に一旦戻ろうかと僕はリイナに声を掛けた。やはり体調が優れないからだ。

「ごめんなさい、旦那様。朝に比べて少し悪くなったかもしれないわ……」

「確か朝に少し倦怠感があるのと、頭痛、それに吐き気もあるって言ってたよね……」

「ええ……。今は昼食も気が進まないくらいね……。どうしたのかしら……、体調の管理には気を遣っていたのだけれど……」

「ならパーティーの参加は見合わせよう。リイナの身体が第一だ。父上、母上、お爺様。申し訳ありませんがリイナはこの様子なので僕もパーティーへの参加を取りやめてもよろしいでしょうか……?」

 リイナに寄り添いつつ僕は父上達に言うと、父上やお爺様はそうしなさい、自分達が参加して事情は伝えておくと快く頷いてくれた。
 その中で、母上にエイジスは何やら考え事をしているようで、僕はどうしたのだろうと二人に問いかけると。

「何か引っかかるわね……」

「アリシア様に同意。現在症例を検索中」

「えっ、と。母上、エイジス……?」

「…………推測完了」

「私もだわ。きっとエイジスさんと同じ答えになると思うの。何せ経験があるから……」

「経験……? どういうことだい、アリシア?」

「恐らくだけれど、帰る前に医者を呼んだ方がいいわ。一般医師か魔法医師どちらでも。理想は両方かしら」

「おいおい穏やかじゃないね。…………待った。もしかして、もしかしてか……!?」

「あなたも分かったかしら?」

「ああ、ああ……!!」

 懸念の表情を浮かべていた父上がいきなり顔つきが変わって喜びを見せるし、母上は僕とリイナを交互に見つめると優しく笑む。お爺様は「ほほぉ、なるほどのぉ」と、ほぼ同じタイミングで気付いたアルヴィンおじさんとニンマリしている。エイジスは微笑むし、アレン少佐も、合点がいったのか祝うような笑顔になっていた。
 唯一、状況が飲み込めていないのが僕とリイナだ。

「どうしよう全然分からない……」

「私もよ……。……いえ、まさか、まさか……?! うそ……?! 本当に……?!」

 しかしリイナも、何かの答えに行き着いたのかいきなり両手で口許を覆い涙を零し始める。
 戦場でも滅多に無かったくらいの、僕は大混乱に陥っていた。

「へ!? どうしたのさリイナ!?」

「我が孫は戦争では名軍師の如く冴え渡る頭脳を持っておるのに、今回に限っては随分と鈍感じゃのお……」

「全くですよ父上。我々にとって、そして二人にとってとてもめでたい事だといいうのに」

「兄上に同じだぜ。俺らの顔見りゃ分かるだろ?」

「え、え、え?」

「推奨。リイナ様。はっきりとマスターに自身の状態を申した方がよろしいかと思われます」

「だ、旦那、様ぁ……」

「どどど、どうしたの本当にリイナ!?」

「私、わた、し……、アナタとの『子供』を授かったかもしれないの……!!」

「…………えええええええええええええ!?!?」

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