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第7章一冬(ひとふゆ)の戦間期と祝福の結婚披露宴編

第20話 チャイカ姉妹はとっておきの玩具相手を思いつく

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・・20・・
2の月24の日
午後8時45分
妖魔帝国首都・某所


 連合王国でアカツキとリイナの盛大な結婚式が挙行されてから約一週間。暖かい地域ではそろそろ春の匂いも感じ始められるであろう二の月になっても、妖魔帝国の首都は厳寒の雪に閉ざされていた。
 その首都の中でも中心街に妖魔帝国軍の官舎が存在している。士官クラス以上の軍人が居を構える建物は施設も充実しており室内は暖房で適温になっていた。
 その官舎のとある部屋に、あの二人が不満気な顔つきをしていた。連合王国では残虐姉妹として悪名高いチャイカ姉妹のラケルとレーラである。

 「つまらない、つまらないわ。毎日歯応えのない拷問おあそびなんて、クソ以下よお」

 「まったくよ、姉様。退屈すぎて、おかしくなっちゃいそう」

 ラケルはティーカップを小さく揺らしながら、不機嫌そうに言葉を漏らす。妹のレーラは姉に同調して椅子に座りながら脚をぶらぶらと動かしていた。
 彼女らが与えられている部屋は佐官クラスの十分な広い個室で、二人で使っていてもゆとりがあった。内装はシンプルであるが、備えられている家具は女の子らしい物品が数々見受けられる。合計で十数ある動物のぬいぐるみがその最たる例であろう。二つを除いてそのぬいぐるみ全てにナイフが幾つも突き刺さっていなければであるが。

 「たしかにぃ、法国で任務を成功させてからアカツキで遊んだのは命令外よぉ? 失敗してしまったのも事実。けれどぉ、だからってブライフマンのやつはお仕置きとしてずっとこんなの、あんまりだわあ」

 「ええ、姉様。すぐに壊れちゃう人形なんて、遊びがいがないもの。それを帰国してからずっとだなんて、ほとんど謹慎みたいなものよ」

 二人が不満を漏らした相手は上官にあたるブライフマンだった。
 彼は、任務を遂行したものの独断行動でアカツキと交戦しあまつさえ途中から駆けつけた援軍に包囲される失態を演じている。チャイカ姉妹ならばあの状況から相当な被害を与えた後に離脱する事も可能なのだが、明らかに任務の範囲外だ。
 よってブライフマンは二人を回収して帰国した後に上官として処分を下したのだ。内容は当面首都から出ることを禁じ、代わりに粛清対象への尋問もとい拷問の業務に就くこと。
 命令違反にしては余りにも軽い処罰だが、粛清対象者はチャイカ姉妹の拷問に長時間耐えられる筈もなく尽くが廃人化か死亡している。
 このような日々が法国から帰国以降ずっと続いているのだ。拷問をお遊びと称して楽しむ狂人の双子にとっては退屈で仕方がなく、我慢の限界なのも彼女らの視点で考えれば頷ける話だった。
 レーラは手持ちぶたさに魔法を詠唱して黒剣を一本顕現させると、ぬいぐるみにそれを突き刺すと。

 「ねえねえ、ラケル姉様。わたし達が中途半端にしか遊べなかったアカツキの事なんだけど、つい最近結婚式なんて挙げやがったそうじゃない」

 「らしいわねえ。十八の日に挙行したそうだから、約一週間前にしたそうよお。相手はアイツを大事そうに抱えたり、私達に殺気に満ちた目線を送ってきたリイナ・ノースロード。戦争中だって言うのに、連合王国ではまるでお祭りのようだってブライフマンから聞いたわぁ」

 「今は勝っているように見えるだけなのに随分といいご身分なのね。腹が立つし、幸福に満ちた二人をぐちゃぐちゃに壊したくなっちゃう」

 「…………それよ、レーラ」

 「え?」

 「私の妹は天才だわ! そうよぉ! その手があるじゃない!」

 「ね、姉様?」

 レーラが何気なく述べた感想に、ラケルは悪行を閃いたのかきっかけを作った妹を賞賛する。流石のレーラも姉が突然狂喜するものだから若干引いていた。

 「ねえレーラ。アカツキとリイナの二人は今幸せの絶頂。とても壊しがいがあるとは思わないかしら?」

 「ええ、姉様。とっても楽しく遊べそうだけれども、あの二人はアルネセイラを拠点にしているわ。そのアルネセイラはブライフマンが部下を潜らせているけれど、警備が厳重な上に諜報対策もしていてほとんど身動きが取れなくなりつつあるらしいじゃない。だから王都じゃマトモに活動も出来ないって難しい顔をさらに難しくさせていたわよ?」

 「別に私はアルネセイラに行くなんて言っていないわあ。二人を狙うつもりはさらさらないの。もちろん、出てきてくれれば最高に愉しいけれどお」

 「じゃあ、誰を……?」

 「ヒントは王都以外よお」

 「王都以外?」

 レーラは首を傾げてしばし思案するが、どうやら姉の考えの答えに至ったらしく口角を歪に曲げると。

 「くひひっ、ひひひひっ!! なるほどそういう事なのね姉様! それはとってもとっても面白そうだわぁ!」

 「でしょう! なら、思い立ったら行動するのが良しよ! 愉快な血の祭りを開きましょう!」

 「大賛成よ姉様! もういい加減つまらない遊戯には飽き飽きしていたもの!」

 「だったら早速準備しなきゃ! もちろん、口煩いブライフマンに見つからないようにねえ」

 「ええ。もう邪魔されるのはたくさんだものお」

 部屋には気味の悪い二人の笑い声が満ちる。独断専行の癖があり、拷問を遊戯と称するような狂人の彼女らが自身等にとって最高の遊び道具を見止められないあ止まらないし、誰も止められない。
 翌日。チャイカ姉妹は妖魔帝国の首都から姿を消す。
 ブライフマンが勘づき、温和なような性格に見える彼が怒声を上げて机をあらん限りの力で叩く頃には既に二人を捕捉するには手遅れな頃であった。
 チャイカ姉妹の脅威は、刻一刻と連合王国に近付いていた。
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