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第7章一冬(ひとふゆ)の戦間期と祝福の結婚披露宴編

第13話 異世界でも珍兵器は歴史を繰り返すと思いきや

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・・13・・
 パンジャンドラム。
 前世地球において英国面と呼ばれる、イギリスが兵器開発などの分野において時折起こしてしまうダークサイドの典型。もしくは三大珍兵器と呼ばれる程に有名な兵器だ。
 マニアでなくてもちょっと軍事について齧っている人であれば知っているそれは珍妙にて不可思議な存在。どうしてこんなモノを作ってしまったのか。英国紳士が紅茶を切らしてしまったから召喚してしまった妖怪。色々と根本的におかしい。
 などなどとにかく前世のインターネット上でも軍オタク達の間でも話題に事欠かさないパンジャンドラム。それをまさか、異世界で実物を見ることになるなんて……。
 そもそもだよ!? コイツ出てきたのは第二次世界大戦期だったよね!? なんで十九世紀半ば位の技術水準のこの世界に召喚されてんのさ!!
 パンジャンドラムがいつ登場してどんな顛末を辿ったか知っている僕は、目の前にある双子の弟みたいなそれを目撃してしまってそれはもう脳内は大混乱だった。

 「旦那様? 旦那様?」

 「ふへぇ? いや、うん、なんでもない。なんでもないよリイナ……。僕は至極冷静だ……」

 「全くそうは見えないんだけれど……。確かにこの兵器は見た事の無い形状をしているから驚くのも無理はないけれど」

 ところがどっこい前世で知ってるんですよぉ! ええ確かに双子のような実物を見るなんて思わなくてびっくりしてますけどねえ!
 なんて、とても言えるわけが無くて、僕は声を震わせながら開発主任のカーリー少佐に質問をする。

 「カーリー少佐、この兵器の、名前は?」

 「正式名称は、糸巻き型遠隔操作移動式車輪爆弾。ですが、長いですから通称は『ボビンドラム』です! 糸巻き道具のボビンにそっくりですから!」

 ちくしょう名前まで結構似てやがるじゃないか! どうしてこんなの作っちゃったのカーリー少佐!? やっぱり紅茶が足らなかったの!? 協商連合民は連合王国民より紅茶をよく嗜んでるし!!
 そうか、水準は百年早いとはいえ異世界でも歴史は繰り返すんだね……。しかも僕は文献じゃなくてこの目でしっかりと見てしまった……。
 なんてことだ、なんてことだ……。

 「アカツキ准将閣下が体を震わせていらっしゃるぞ……」

 「きっと我々が心血注いで開発したこの兵器に感動しているに違いない」

 「連合王国軍の名参謀たるアカツキ閣下に認めてもらえるなら、箔が付くぞ!」

 「やったな! 一年近くの歳月を費やした甲斐があるってものさ!」

 開発したのが連合王国ではなくて協商連合だというのに余りの衝撃で僕が空を見上げていると、開発陣の軍人達はとてつもない勘違いをしていた……。ポジティブ過ぎるでしょ君達……。
 …………ポジティブ。そうだ、ポジティブだ。僕はまだこの『ボビンドラム』の肝心の性能を聞いていない。だからまだ断定するには早いはずだ……。さっき正式名称を聞いた時には遠隔操作移動式とあったから、きっと別物になってるはず。なってるはずだ……。
 リイナにそろそろ本気で心配されかねないので、僕はなんとかギリギリで叫び声を上げるのを踏みとどまり、いつものように振舞おうと心掛けて再びカーリー少佐の方を向くと。

 「…………カーリー少佐。この兵器のスペックを教えてくれる、かな?」

 「待ってました! この『ボビンドラム』は全長二メーラ五十シーラで、炸薬は四百キラ搭載しています」

 キラっていうのは前世でいうキロと同じ単位のこと。どうやらパンジャンドラムに比べて炸薬はかなり控えめになっているらしい。

 「続けて……」

 「はっ! この『ボビンドラム』なんですが、車輪の形状をしておりますが如何せん重いんです。なので、どうやって走らせるかが課題でした。そこで搭載したのが、兵器中央部に四つ装着した風魔法内封魔石です!」

 「うん。うん? これ風魔法で動くの!?」

 風魔法を閉じ込めた魔石だって?
 ああでも、本家もロケットモーターを搭載していたっけ。でもあっちのはロケットモーターで推進するんじゃなくてあくまで車輪と地面の摩擦抵抗によってだけど……。

 「はい! 動きます! 初級魔法でも低消費の魔力で風力を強く発生させる術式を採用しましたから!」

 「マイマスター。カーリー少佐の理論は正しいものと断定します。重量を測定したところ、四個の魔石を同時発動させれば推進力になり自走します。推定時速、最大二十キーラから二十五キーラ」

 「おおおおお! 流石はSSランク召喚武器でも初の話せて人間のように話せるエイジスさんは鋭いですね! 概ね正解です! 試験における『ボビンドラム』の最大自走速度は時速二十四キーラです! 試験における最大自走距離は三千六百メーラですよ! ああでも想定する使用場所は平地より丘陵地です。平地でも使えますが、丘陵地で下り坂なら位置エネルギーを活用すれば自走速度より速くなるので敵に破壊されにくく、距離も伸びますから」

 「さ、三千六百メーラも……。さっき遠隔操作移動式って言ってたよね。で、魔石を使ったってことは操作するのは……」

 「訓練を施された魔法能力者が起動から操作まで目視で行いますよ。炸薬は起爆剤に魔石を用いていますから起爆もやります。ちなみに起爆用魔石には術式が干渉しないよう術式を別途仕込んで対策済みです! 干渉防止の術式に魔力を取られても、起爆に用いるのは少しの爆発力でいいですから」

 「えええええ……」

 「四百キラの炸薬を乗せた自走車輪なんて凄い発想力ね。私にはとても思いつかないわ。もしそれだけの重さの爆薬を乗せて敵にぶつけられればかなりの威力になるわよ」

 既に今の話だけで本家とは全くの別物と化した『ボビンドラム』に困惑する僕と、素直に感心するリイナ。アンネリオン中将は僕とリイナの様子を見て誇らしそうにしていた。
 だけど、まだこの兵器には問題点が残っているはずだ。本家がああなんだ。これは聞かないと気が済まない。

 「カーリー少佐。さっき自走距離は三千六百メーラって言ったよね? いくら初級魔法の中でも強い風力を生むとはいっても発動限界があるはずだけど……」

 「素晴らしい着眼点です! 確かに四発推進とはいえ、風魔法一回きりでは自走距離は短いです。しかし、そこは術式を最適化して最小で発動するようにしました! 結果なんと! この兵器に用いる中品質の魔石でも四度発動可能になったのです!」

 「よ、四度だって……」

 「はっ! 四度ですよ! もちろん技術は機密ですから、いくらアカツキ准将閣下と言えどもお教えすることはできませんが」

 魔石内に内封可能な術式は魔石の純度と術式の長さに依存する。例えば連合王国だと同様条件下だと三つまでが限界だ。魔法の研究が進んでいる法国でも三度。他の国ならせいぜいが二度という所。
 それを協商連合は機密技術である最適化を用いて四度まで実現可能にしたというのだから驚きだ。

 「この時点で僕達の国に比べて優れた技術を用いて動くのはよく理解したよ。だけど、戦場は平坦な道ばかりじゃない。もし姿勢が崩れた時はどうするの?」

 「やはりアカツキ准将閣下ならその問題にも行き着きますよね。確かに、開発中期において姿勢制御は一番の課題でした。仰る通り平らな道ばかりではありませんし、小さいものならともかく、中サイズの石など障害にぶつかればバランスが崩れます。ですが! それを解決したのも風魔法内封の魔石です! 両車輪の中央の上下に計四つ搭載しましてこちらも四度まで発動可能です! これでもし倒れそうになっても魔法能力者の操作によって姿勢制御が可能になったのです!」

 パンジャンドラムで大きな問題になっていた姿勢制御までクリアしているのかよ! ジャイロスコープを搭載していない本家はまあ見るも無残な結果を残したけれど、こっちは風魔法で解決!
 魔法って本当にすごいよね! 珍兵器が魔改造されてれっきとした兵器になっちゃってるじゃんか!

 「何度も質問してごめんね。この兵器、素晴らしいよ」

 「ありがとうございます! 皆聞いたか! 素晴らしいと評価を頂いたぞー!」

『うおおおおおおお!!』

 前世の知識に捕らわれすぎて視野狭窄になり、魔法という概念で解決させるという考えてみれば思いつける点を失念していた僕の完敗だった。よもやパンジャンドラムが実戦投入に耐えられそうになるものにするとは思わなかったけれど……。
 ちなみに、お披露目の後にカーリー少佐が実は問題が残っていると教えてくれた。今のままではまだコストは高いらしく、やや低純度の魔石でも同様に動くようにしたい点。操作から起爆を魔法能力者に依存するから、複雑な姿勢制御までこなせるようになるにはかなりの訓練時間が必要な点らしい。課題を解決するのはもちろんだけれども、それでもここまで兵器として形に出来るんだから現時点では十分なものだと感じたけどね。


 「どうですかアカツキ准将。我が国の技術開発研究員は決して貴国に負けてはいないでしょう?」

 「負けていないどころか、術式最適化の魔法技術においては我々より先に進んでいると痛感しましたよ。アンネリオン中将閣下。今日の視察のレポートを我が国の研究員に見せたらそらはもう対抗心を燃やすでしょう」

 「互いに良きライバルでいるのは、いい事だとぼくは思います。特に研究部門というものについてはね」

 「ええ、アンネリオン中将閣下。我が国も貴国も技術を高め合えば、間違いなく戦争を勝利へと導いてくれるでしょう」

 前世の轍を踏むような珍兵器かと思いきや、一つの兵器として完成されていた『ボビンドラム』を目撃することになったこの視察。
 僕にとってはとても濃密で充実した時間を過ごせた日だった。
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