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第7章一冬(ひとふゆ)の戦間期と祝福の結婚披露宴編

第4話 彼女との結婚式の話

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・・4・・
 「結婚式、ですか?」

 戦争の話から一転しマーチス侯爵の言う通りプライベートの、それも自身の話になったというのに僕は彼に首を傾げて言い方をしてしまう。

 「ああ。もうかなり前になるが、時勢が落ち着いたら結婚式と披露宴をという話をしただろう?」

 「去年にしたのは覚えています。が、まさか今日その話が出るとは思わなくて」

 「結局あれ以降は戦争が始まってお前やリイナは各地を転々とさせてしまっていたからな……。だが、お前達が婚約を結んでから一年も経つ。そろそろどうかと思ったのだ。時期としては戦争計画も作戦計画も一段落し、準備期間としても一番忙しくない二の月中旬なんてどうだろうか」

 「仰る通りではあります。催す月としても的確かと。がしかし……」

 「今は戦時中だから、か?」

 「はい……」

 この世界で生きることになってからリイナと出会い、僕の事を第一に考えてくれていて大事にしてくれて、愛してくれている彼女との結婚式が開けるのは嬉しくない訳がない。本音を言えば時間を作れるのならばいつでも開いてもいいと思っているくらいだ。
 だけど今は妖魔との戦争中。スケジュールはやり繰りすればどうとでもなるだろうけれど、時勢柄が僕の心に躊躇をさせていた。

 「真面目な性格のお前の事だ。心境は察するに余りある。しかしこの時を逃したら、次はいつになるか分からないぞ? 今年の冬ならば国内は勝利に沸き立ち、経済的にも精神的にも余裕がある。だが来年はどうなる? 再来年は? 軍部大臣のオレが外では決して言ってはいけない事だが、ジトゥーミラ・レポートを読んでいるとこれまで道理に事が運ぶとはとても思えん。アカツキが陛下に話された戦争観はオレも聞いたが、どうにもお前の言う通りになる可能性が高いと踏んでいる。となればだ。…………愛する娘と、実の息子のように思っているお前との結婚式を春期攻勢の始まる前にしてやりたいと思ったのだ」

 「義父上ちちうえ……」

 そう語るマーチス侯爵の表情は、瞳は、軍人ではなく父親としてのそれだった。だから僕の口から言葉もいつものマーチス侯爵ではなく、義父上と零れる。
 マーチス侯爵の言葉の重みは僕が一番実感している。何せ陛下に提言したのは僕なんだから。
 そう考えると、来年二の月が最もいい機会なのだろうとますます思う。
 今なら伯爵家次期当主の僕と侯爵家令嬢のリイナの結婚式だからと貴族らも大勢参加しての華やかな結婚式と披露宴になるだろう。国民もきっと歓迎してくれると思う。少なくとも反対される事は無いはずだ。
 だけど来年や再来年に現在のような国家の体力と心の余裕があるとは限らない。
 無論、勝利に導くのが僕達軍人の務めだから全力でやるさ。だけれども百パルセントの保証は戦争には無いんだから。
 ……どうしても戦争について考えてしまって、とても嬉しいのに素直に喜ばないのは僕の悪い癖だな。頭を切り替えよう。

 「本音を語りますと、義父上の提案はとても、とても嬉しいです。僕としても、リイナとの結婚式と披露宴をしたいと思います」

 「お前がそう言ってくれて嬉しい。実は昨日、リイナには先に話しておいてあるんだ。娘は即答だったが、夫婦と言うのはどうも似るらしい。戦時中なのを気にしていた」

 「リイナもまた軍人ですからね」

 「ああ。職業病みたいなものだ。しかしこれで、両者とも意志の確認は取れたな。娘にも話した内容をお前にも伝えておこう。結婚式及び披露宴の内容については二人が主役だから二人に決めてほしい。オレからは開催時期と場所等についてだ」

 「なるほど。どのような形になるのでしょうか?」

 それからマーチス侯爵が話した内容はこんな感じだった。
 開催時期は先も話したように二の月中旬。去年に婚約を結んでから着々と招待者の選定は進んでいたので、あとはほとんど招待状を送るだけだ。
 ちなみに国王陛下はこの件を既に知っているらしく、明るい笑みを浮かべて祝福していたとか。二人のめでたき行事なのだからと陛下も全時間帯とまではいかないが参加なさるらしい。参加予定者には王太子殿下と王太子妃、王子もいた。
 会場については陛下の勧めもあって翡翠宮ひすいきゅうに決まるそう。
 翡翠宮はアルネセイラの王城内にある、舞踏会や外交等のレセプションが開催される国内最大規模の会場であり、由緒ある歴史的建築物だ。重要な外交がここで行われた事もあるくらいだから、結婚式と披露宴会場には申し分ない所だと思う。
 なお、この件については日付が決まり次第国内外に発表される予定らしい。マーチス侯爵はきっと国民達も喜ぶ祭典のようなものになるだろう。と言っていた。

 「――以上が今のところ伝えられる部分だな。細かい調整やお前とリイナで話し合ったり、親同士で会談の場を設けるつもりだ」

 「陛下だけでなく、王太子殿下と王太子妃にも祝福されている僕は幸せ者だと感じています」

 「アカツキが確かな実績を積んできたからこそだぞ。心から祝いの言葉を預かるなんてそう滅多にあるもんじゃない」

 「ならば、今後もますます期待に応えなければなりませんね。ロイヤル・アルネシアにさらなる栄光を」

 「そう気張らなくてもいい。お前のやりたいようにやればいいさ。そうだな、例えばロンドリウムとの外交とかな」

 「ええ。結婚式を無事迎える為にも、まずは協商連合との会談です」

 「お前の外交面での活躍を期待している。そして、結婚式や披露宴については親として楽しみにしているぞ」

 優しく微笑むマーチス侯爵。僕もつられて微笑して返す。
 彼からこのような話を聞いた夜。さりげなくリイナから話題を振られた僕は、彼女に自分の心を伝えた。
 すると、それはもうリイナの喜びようったらすごかった。花が咲いたような笑顔でぎゅうっと強く抱き締められてキスをしてきたくらいだし、その日は抱き枕みたいにされて一緒に寝たくらいに。
 …………あ、いや。抱き枕は割といつもの事か。
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