上 下
76 / 390
第5章 新召喚武器召喚編

第5話 エイジスの驚くべき機能

しおりを挟む
・・5・・
 ふよふよと浮く人形らしく美しくも可愛らしい外見を持つエイジスと名乗ったそれに、僕は驚きのあまり口をぽかんと開けたままだった。国王陛下も、目の前にあるのが召喚武器であって召喚武器にはとても見えないエイジスに驚愕を隠せないでいた。
 その当本人であるエイジスは、僕達の表情を見て小首をかしげる。その姿はまるで人形というよりかは小さくした人間のようだった。

「エ、エイジス?」

「はい、マイマスター。ワタクシの名前はエイジスです。マスターを守り、マスターを補助し、マスターと共に戦う存在として顕現しました」

 エイジスと言うと、イージスの別の名前だ。前世の僕の身分からすると神話よりは海軍の艦艇に何隻かあるあっちのイメージの方が強い。
 ヴァルキュリユルにしてもそうだけど、この世界で前世にまつわる神話の名前が付けられているのかは謎だけど今はそんなことよりだ。
 エイジスが召喚武器としては外見からして常識外れだから何から問えばいいんだろうか……。
 僕は戸惑う。だけど、隣にいた国王陛下は突然笑い出したんだ。

「くくく、くくくくく。ははははははっ!! まっこと召喚武器というものは余を驚かせてくれるものよ! 二百五十年の召喚武器の歴史の中で武器の形では無く人形ドール人形ドールの姿をした召喚武器なぞ前代未聞ぞ! アカツキよ、眼前におるは未知なる存在。好きなように問うたらどうだ?」

「は、はい。そうさせて頂きます」

 僕はまだ戸惑いながらも陛下の言葉に頷き、視線をエイジスに向ける。

「可能な範囲であれば回答可能ですマイマスター」

「わ、分かった。じゃあ早速。えっと」

「エイジスで構いません」

「ならエイジス。キミは一体どうやって動いているの? 見たところ魔石等を燃料にしているとは思えないから」

「回答します。ワタクシ、エイジスは空気中に存在する魔法粒子を動力燃料として稼働しています。よってワタクシは魔法粒子さえあればワタクシが破壊される等の事態が無い限り稼働が可能です」

「ちょ、ちょっと待って!? ていうことはつまりキミは魔法粒子さえあれば延々と動けられるってこと!?」

「正答です。召喚の際にワタクシに付与された知識から解説致しますと、魔法粒子は世界に膨大に存在しており減ることはありません。今後もその根底が揺るがない限りはワタクシは永遠に魔法粒子を動力源として稼働します」

「なんと……。すなわち半永久的に動き続けられるということか……」

 この時点で既におかしいと言ってもいい。陛下の言うようにエイジスは四十シーラの体長に半永久機関を搭載しているということだ。前世の科学者が卒倒しそうだな……。

「質問を続けるね。エイジスは浮遊しているけれど、実用可能高度は?」

「最大で五百メーラです。ただし、ワタクシは空戦特化型ではなくあくまでも所有者支援型の召喚武器なので最大速度は八十キーラから百キーラ。独立しての戦闘には不向きです」

 百キーラも出せるんならこの世界なら早すぎる部類だよ!
 っていうツッコミはよしておこう……。そもそもここまでの質問だとまだ武装等が出てきていない。でも、召喚武器だから何らかの形では戦えるよね……。
 なので僕はさらに問いを続ける。

「率直に聞くね。エイジスは何が出来るの? 所有者支援型ということは、サポートをしてくれるんだよね?」

「はい。複数の機能を保有しています」

「一つずつ説明してくれるかな?」

「サー、マイマスター。一つ、所有者の生命を守る為、魔法障壁を瞬時展開及び最大十五枚までの複合展開が可能です。なお、消費魔力はワタクシが空気中魔法粒子から組成するのでマスターが詠唱する必要はありません。また、マスターが魔法を行使する際には補助を致しますので、マスターの消費魔力は半分に軽減されます。さらに、追尾式魔法の場合はワタクシが敵を捕捉します。最大捕捉数は現状であれば百二十八です」

 魔法障壁自動展開、魔法行使における消費魔力半減、追尾式魔法最大ロックオン数百二十八。この時点でとんでもない能力だ。ロックオンに至ってはイージスを由来にした艦種のイージス艦と同じような機能だし……。

「キミ、初っ端から果てしなく凄いことをさらっと言うね……」

「支援型ですので。二つ目、初級魔法までならワタクシ独自で支援攻撃が可能です」

「……独自ってことは」

「これについてマスターは魔力の消費をしません。マスターが初級魔法での攻撃を行う場合は火力増強として、中級魔法を行使するのならば発動までのサポートとして活用してください」

 しかも自衛火器まであると……。

「支援型って言っておいて攻撃も出来るんだ……」

「あくまで初級魔法までです」

「十分すぎるよ……」

「お褒めの言葉と捉えます。三つ目、短距離ではありますが魔力波探知によって索敵が可能です。魔法を使わない者でも魔力は体内に保有しているので、非魔法能力者も探知対象になります」

「今なんて!? 索敵探知って言った!?」

「はい」

「どれくらいまでなら可能、なの……?」

「現状であれば、精度は落ちますが最大直径四十キーラから五十キーラまで。最大精度実現推奨距離は十キーラです」

「アカツキよ……。余には分からぬのだがそちが驚くという事はそれほどまでということか?」

「は、はい……。エイジスがいるだけで敵の動きは筒抜けになります……。無論、相手が魔力を隠蔽したり空気中魔法粒子を撹乱しなければの話になりますが……」

「マスター、補足説明します」

「まだあるの……」

「ワタクシの探知には敵味方識別が実装されています。エイジス、戦闘支援モード起動と仰ってください」

「わ、分かった。エイジス、戦闘支援モード起動」

「了解。戦闘支援モードを起動します」

 エイジスはそれまでいた場所から僕の肩の隣まで来るとそう言う。

「え、ちょ、は、ええぇ!?」

 すると、信じられないことに目の前には前世でも覚えのある拡張現実画面が広がったんだ。
 視界の右にいた陛下には青い四角形で囲まれていた。しかも陛下のフルネームまで付いている……。
 さらには視界の左下には四桁の数字。これは僕の魔力で、今日は使っていないから最大値の四一三七が表示されていた。右下には小型画面のレーダースクリーン。近くにいたマーチス侯爵達を示しているんだろう。複数の青い点が表示している。大きさ的にはかなり近距離範囲だろうから、多分縮小すればもっと広げられるんだろう。

「そちは先程から驚き過ぎではないか……」

「陛下、信じていただけないかもしれませんが、私にしか見えない一桁単位での魔力の羅列、陛下やマーチス侯爵などを表す点などが表示されているんです」

「なんだと!? 魔力が可視化されておるのか!? それに余ならともかく、この部屋におらぬマーチスまでか!?」

「はい……」

「現在マスターが視認されているように、私の主な機能の一つとして、このような戦闘時サポートシステムがあります。マスターの残存魔力表示や敵味方識別表示もその一つになります」

「現実とは思えぬな……。魔力測定でしか見られなかった魔力が分かり、敵味方が手に取るようにわかるのであろう……? それではまるで神の目ではないか……」

「ええ、そうとも言えます……」

 僕にとっては神の目とまでは思えないけれど、この世界の水準からしたらそのような比喩表現も決して大袈裟じゃない。この表示方法は僕が前世で使っていた「拡張現実表示式眼鏡型情報端末」に類似しているんだ。
「拡張現実表示式眼鏡型情報端末」は本部から送られてくる情報を端末所有者がリアルタイムで戦況を知ることができる、いわゆる個人所有型のC4I端末のことで、こいつのお陰で僕達は無線と合わせて効率的かつ相手より有利に戦闘を行う事が出来た。
 それを、だ。エイジスは実現してみせた。
 これがどれだけの変化を生むかなんて計り知れない。だってだよ、十九世紀半ばの水準世界で二十一世紀前半の情報量で戦う事が出来るんだ。この差は絶大だ。これまで僕は戦場において情報面も重視してきた。情報の差が勝利を掴む大きな要素の一つだからだ。
 故にこの機能は支援型の名に相応しく、またエイジスの別名イージスの名に相応しい、あらゆる邪悪や災厄を払うかのように所有者や味方を敵から事前に守ることが出来る機能だった。

「ちなみにですが」

『このように思念会話も可能です。マスターも行えます』

『こうか。う、うん。もう僕は驚かないよ…………』

『心拍数が先程から高めに推移しております。瞳孔から驚いていると判断可能です』

『そこまで分かっちゃうのね……』

「アカツキ、今度は何があったのだ……」

「……脳内に語りかけてきて、私も会話が可能です陛下」

「す、凄まじいの一言に尽きるな……。となるとだ、エイジスよ」

「はい、エルフォード陛下」

「余も長年生きてきたがよもや召喚武器に名を呼ばれる日が来るとは思わなんだ……。――して、エイジスよ。お主の召喚武器としてのランクはいかほどになる? 人間と遜色無く話せる知識を持っておるのならば、理解しておろう?」

「召喚武器ランクとしては、SSです。最上位召喚武器と捉えてください」

 ですよねー!! ここまでとんでもない機能を有していながらSなわけないよねー!!

「な、なんとSSか……。余もSSが召喚されるのを願っておったが、ま、まさか現実になるとはの……」

「私もです、陛下……」

 僕も陛下も、王命召喚であってすら出現確率が著しく低いSSランクの召喚武器が顕現するとは思わず、驚愕のあまりに言葉がたどたどしくなってしまっていた。

「以上がワタクシの機能になります。他にご質問はありますか?」

「いや、逐次聞くからいいよ……。これ以上聞いたらぶっ倒れそう……」

「余も頭が痛くなってきたわ……」

「両名に冷や汗を感知しました。体調が不調の場合は速やかに治療にかかることを推奨致します」

「キミ(お主)のせいだけどね!(じゃけどな!)」

「……失礼しました?」

 感情の起伏こそ自動人形らしく乏しさを感じるものの、素振りは完全に人間のそれ。
 もうダメだツッコミが追いつかない。僕も陛下もこれ以上はコメントのしようが無かった。
 そしてだ。問題が一つある。

「陛下……、この件は事後発表なさるのですよね……?」

「う、うむ。そのつもりだが」

「どう、発表致しましょう……?」

「…………即日の発表は取りやめよう。表現し難い機能も多い。三日後ならどうだ……?」

「それがよろしいかと……」

「で、あるな……」

 そうして三日後。
 僕ことアカツキ・ノースロードが連合王国において五人目のSSランク召喚武器所有者になったことが国内国外に報道発表された。
 当然、国内外は大きな衝撃と歓喜に包まれることになったのである。
 …………本当に舞台の中央に立つなんて思わなかったよね!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

深刻な女神パワー不足によりチートスキルを貰えず転移した俺だが、そのおかげで敵からマークされなかった

ぐうのすけ
ファンタジー
日本の社会人として暮らす|大倉潤《おおくらじゅん》は女神に英雄【ジュン】として18才に若返り異世界に召喚される。 ジュンがチートスキルを持たず、他の転移者はチートスキルを保持している為、転移してすぐにジュンはパーティーを追放された。 ジュンは最弱ジョブの投資家でロクなスキルが無いと絶望するが【経験値投資】スキルは規格外の力を持っていた。 この力でレベルを上げつつ助けたみんなに感謝され、更に超絶美少女が俺の眷属になっていく。 一方俺を追放した勇者パーティーは横暴な態度で味方に嫌われ、素行の悪さから幸運値が下がり、敵にマークされる事で衰退していく。 女神から英雄の役目は世界を救う事で、どんな手を使っても構わないし人格は問わないと聞くが、ジュンは気づく。 あのゆるふわ女神の世界管理に問題があるんじゃね? あの女神の完璧な美貌と笑顔に騙されていたが、あいつの性格はゆるふわJKだ! あいつの管理を変えないと世界が滅びる! ゲームのように普通の動きをしたら駄目だ! ジュンは世界を救う為【深刻な女神力不足】の改善を進める。 念のためR15にしてます。 カクヨムにも先行投稿中

特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?

アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。 どんなスキルかというと…? 本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。 パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。 だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。 テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。 勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。 そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。 ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。 テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を… 8月5日0:30… HOTランキング3位に浮上しました。 8月5日5:00… HOTランキング2位になりました! 8月5日13:00… HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ ) 皆様の応援のおかげです(つД`)ノ

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

ハズレギフト『キノコマスター』は実は最強のギフトでした~これって聖剣ですか? いえ、これは聖剣ではありません。キノコです~

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
孤児院生まれのノースは、十歳の時、教会でハズレギフト『キノコマスター』を授かってしまう。 他の孤児院生まれのルームメイトたちは『剣聖』や『魔法士』『鍛冶師』といった優遇スキルを授かったのに、なんで僕だけ……。 孤児院のルームメイトが国に士官されていくのを横目に、僕は冒険者として生きていく事を決意した。 しかし、冒険者ギルドに向かおうとするも、孤児院生活が長く、どこにあるのかわからない。とりあえず街に向かって出発するも街に行くどころか森で迷う始末。仕方がなく野宿することにした。 それにしてもお腹がすいたと、森の中を探し、偶々見つけたキノコを手に取った時『キノコマスター』のギフトが発動。 ギフトのレベルが上る度に、作る事のできるキノコが増えていって……。 気付けば、ステータス上昇効果のあるキノコや不老長寿の効果のあるキノコまで……。 「こ、これは聖剣……なんでこんな所に……」 「いえ、違います。それは聖剣っぽい形のキノコです」 ハズレギフト『キノコマスター』を駆使して、主人公ノースが成り上がる異世界ファンタジーが今始まる。 毎日朝7時更新となります! よろしくお願い致します。 物語としては、次の通り進んでいきます。 1話~19話 ノース自分の能力を知る。 20話~31話 辺境の街「アベコベ」 32話~ ようやく辺境の街に主人公が向かう

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

処理中です...