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第3章第二次妖魔大戦開戦編

第4話 朝の平穏は一報にて崩壊する

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 ・・4・・
 アルネシア連合王国・王都アルネセイラ
 ノースロード別邸・寝室
 午前7時34分

「ん、んぅ……」

 微睡む意識の中、僕は寝返りをうつと目を覚ます。霞んだ視界、目を擦ると部屋の輪郭がはっきりとして窓から漏れる朝日を目にする。庭の木に止まっているのであろう小鳥の鳴き声が耳に入る。穏やかないつもの朝だった。
 視点を変えて、ベッドの隣にいる彼女に目を移す。シルクのパジャマ姿のリイナはすやすやと寝ており、まだ夢の世界にいるようだ。

「普段の言動は残念だけど、寝顔は可愛いんだよなあ」

 僕は微笑みながら、彼女の頬を指でつついてみる。
 すると彼女はむにゃむにゃとしながら、

「旦那様ぁ、メイド服も似合っているわぁ……」

 前言撤回!!
 なんて寝言だ!! どんな夢を見ているんだよ君は!!

「……やっぱり残念美人だよ君は。ったく、もう……」

 半ば呆れた目線を向けてもリイナはよく寝ているので反応はない。目が覚めてしまった僕はベッドから降りると、寝間着の上に薄手の羽織ものを着て寝室を出る。
 休息日の日曜とはいえ流石に朝の七時半過ぎともなれば既に使用人達は動き出しており、すれ違いざまに挨拶をしていく。僕もおはようと返すと、向かった先は玄関で外だった。
 玄関の扉を開けると、眩しい朝日が降り注いでいた。両手を上にあげて体を伸ばし、軽くストレッチをしてみる。五の月下旬の朝は清々しく晴れており、そよ風が心地よかった。

「アカツキ様、おはようございます」

 僕が穏やかな気分で晩春の朝の光を浴びていると、庭の方から現れたのはいつものメイド服姿のレーナだった。

「おはよう、レーナ。いい朝だね」

「はい。とても気持ちがいい朝です。奥方様はどちらに?」

「ん? 僕一人だよ。まだぐっすり寝ていると思う」

「そうでしたか。朝食はあと三十分から一時間後になりますので、お伝えしにいかなければなりませんね」

 そうでしたか。というレーナの声は少し弾んでいた。なんでなのかは分からないけど。

「いや、いいよ。僕が起こしに行く。レーナも忙しいでしょ?」

 レーナは僕が王都に拠点を移して別邸に住むようになってから、若いながらも屋敷のメイドを纏める役目に就いている。僕自身が忙しい上に訪問者もそこそこの頻度で訪れるから、色々苦労をさせているかもしれない。だから、こんな日くらいはゆっくりしてほしいんだ。

「お気遣いありがとうございます。今日はご予定もありませんし、我々にとっても穏やかな日ですから」

「休息日だからね。確か訪問者もいないから、のんびりしなよ」

「はい。いつも私達に配慮して頂き嬉しく思います、アカツキ様」

「これくらいは気にしないでよ。しかし、本当にいい天気だなあ。こんな日は外に出るもよし、窓際に座って紅茶を嗜みながら本を読むもよし。いい休日だ」

「お外に出られるのでしたら、報告して頂ければすぐに御者には伝えますよ」

「そうだねえ。朝食を食べながら考えようかなあ」

「かしこまりました」

「じゃあ、僕はリイナを起こしに行ってくるから。時間を見計らってダイニングに向かうからよろしくー」

「はい、アカツキ様。今日の朝食は、エッグベネディットに季節野菜のサラダ、キール地方産の貝を使ったチャウダーです。コーヒーもご用意しておきますね」

「いいねえ、美味しそうだ。楽しみにしておくよ」

「はい」

 僕はレーナから朝食のメニューを聞いて微笑みながら彼女に手を振って後にする。エッグベネディットはエッグベネディクトの事で、スープ類はクラムチャウダーのようだ。料理長の作るご飯はなんでも美味しいから日々楽しみなんだよねえ。
 起きる時に持ってきた懐中時計の針は朝の八時過ぎを指していた。
 寝室に戻ると、リイナはまだ夢の世界だった。昨日は訓練の日でねちっこく攻める戦法を僕が取ったから結構魔力を消費したから疲れたのだろうか。ちなみに、僕の名誉のために言っておくけど正攻法ではリイナにかてないからそうしてるだけだからね? 戦い方を試すのは研究にもなるし。

「リイナ、朝だよー。起きなよー」

「あと、五分……」

 わあ、お決まりのセリフが返ってきたぞう。
 僕はリイナの体を揺するけれど、まだ寝ていたい様子で目を開けようとしない。

「朝ごはん、そろそろだぞー?」

「旦那様が朝ごはん……」

「はぁ!? 何言ってんの!?」

「…………冗談よ。おはよう、旦那様」

 リイナは目を開けると、いたずらが上手くいった子供みたいに笑う。ちくしょう可愛い。

「僕を驚かせるレパートリーを増やすのやめようね……」

「だって、旦那様の反応が楽しいのだもの」

「えええ……」

「それより旦那様。朝のキス」

 リイナはせがむように顔をこちらに近付ける。この一年彼女と過ごして、彼女の仕草や表情に愛らしいと感じるあたり、僕も大概になった気がする。
 毎朝している、唇と唇が触れるだけのキスを交わすと、リイナは嬉しそうに笑ってベッドから体を起こした。

「朝のダンナニウム補充完了ね。これで三日は戦えるわ」

「ダンナニウムはどれだけ高効率なんだ……」

「あなたがいればなんでも出来そうと確信するくらいよ」

「ひょえ……」

 面白おかしい会話を交わすのもはや一年が過ぎた。僕も楽しんでいる節があると思う。ていうか楽しい。
 なんでもない日常の会話を交わすと、リイナが部屋着に替えると言うので僕は外に出る。ドレスとかでもない限りは自分で着替えるからだ。
 リイナは、見ないの? と残念そうに言うけれど、これもいつもの冗談だ。たわわを朝から眺めるなんて刺激が強すぎる。
 部屋着に替える事自体は女性とはいえそう長くはないので僕はぼうっとしながら待つ。
 すると、廊下の向こうからドタバタと走る音が聞こえた。
 なんだなんだ、こんな朝からそんなに慌てて。

「伝令! 伝令! 朝早くに失礼しますアカツキ大佐!」

「お、おはよう。どうしたんだい? 所属は?」

「はぁ、はぁ……。自分は第一師団第一一六大隊第四中隊所属のロイです……。階級は、曹長……」

「ロイ曹長、何があった? 落ち着いて」

 曲がり角から現れたのはメイドでもなく執事でも無く、軍服を着て顔を真っ青にした若い男性軍人だった。
 彼の表情と振る舞いから猛烈に嫌な予感がする。当然、それは現実になってしまった。

「本日、〇五二五まるごーにいごーにイリス法国において魔物の大量出現観測を確認の報が駐法国大使館有り。〇七三五まるななさんごー、連合王国など人類諸国へ妖魔帝国が宣戦布告。既に法国は戦場となり、出現した魔物は数万の模様! 戦争、妖魔との戦争がはじまりました!」
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