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第3章第二次妖魔大戦開戦編
第1話 連合王国鉄道開業式典
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・・1・・
ヨールネイト暦1839年4の月15の日
連合王国王都アルネセイラ・新市街地北東部街区アリハッド地区
僕がこの世界に蘇ってはや一年と二ヶ月が過ぎた、4の月中旬。寒さの厳しかった冬も過ぎ去り再び連合王国には優しく暖かい春が訪れていた。
改革が始動してからだと一年になる今日。去年六月から増員をしたもののそれでも人手不足だった改革特務部。仕事は相変わらず多忙であったけれど充実した日々だった。
だけど、仕事のうちの一つがようやく報われる日がやってきた。
今僕がいるのは王都新市街地北東部街区、アリハッド地区。
そう、ここは去年の今頃に視察した駅建設予定地だ。現在は正式名称が決定して『アルネシア・アルネセイラ』という駅名が付けられている。
そのアルネシア・アルネセイラ駅には、連合王国中から沢山の人が集まっていた。何故なら今日は、記念すべき連合王国鉄道開業の日だからなんだ。
広大な面積を誇る駅前広場は人で埋め尽くされていて推定で数万人は集まっているらしい。広場の外を含めて一目鉄道と駅を見ようと王都に訪れているのはそれ以上だとか。これから開業式典が執り行われるのもあるけれど、いかに鉄道開業が注目されているかが分かる光景だった。
僕はそれを式典の為に用意されていた仮の控え室がある建物から眺めていた。
「ひょえぇ、こんなに人が集まってるのか……」
「開業日が発表されてから、王都の宿泊施設はあっという間に予約が埋まったらしいわよ。だから王都郊外の都市にある宿泊施設もかなり部屋が予約されたんですって」
「そこまでなんだ……。式典は昼からだから、郊外の都市なら朝に出れば間に合うけれどさ。その分じゃ、乗合馬車はフル稼働だろうなあ」
「案の定、超が付くほどの満員ですって。ここへ来るまでの間に、兵達が話していたのを耳にしたわ」
「ひええ……。こうなると、もう一種のお祭りみたいなもんだね……」
「式典であり祭典ね。私は皆が楽しめる姿が見られるのなら嬉しいわ」
「それには賛成。笑顔が沢山あるのは、改革を進めて来てよかった。報われたって思えるよ」
僕は窓から外にいる沢山の人々を目を細めながら見て言う。
リイナは隣に立つと微笑んで、
「旦那様が、私達とこの一年取り組んできた結果よ。アナタが改革案を出さなかったら、きっとこの景色はずっと後の話になっていたわ」
「ありがとう、リイナ」
「あら、お返しはキスでいいのよ?」
「それはまた、後でね」
「ちょっぴり恥ずかしがる旦那様も素敵だわ」
リイナの積極的なアプローチに、僕は照れ隠しで頬をかきながら言う。対してリイナはうっとりした顔をしたかと思いきや、僕の後ろに回ってすっぽりと覆うように抱きしめて頭を優しく撫でていた。
彼女の愛の情熱は一年経つどころかさらに増していた。リイナが婚約の段階の一つとしてノースロード別邸に居を移したのが去年の夏。両家の両親共に、婚約したのだから何があろうと夫婦だと言われた時にはたまげたものだけれど、今の所体を交えた事は無い。僕とリイナの間で結婚式を終えてからにしようと取り決めているからだ。改革の仕事で多忙な上に訓練もあるからね。その分、口付けを交わすのは毎日しているけれど。
「アカツキ大佐、リイナ少佐。ジェフです。入ってもよろしいでしょうか?」
リイナに抱きしめられされるがままになっていると、部屋のドアからノックの音と鉄道改革課長のジェフ大尉の声が聞こえる。
リイナは、あら残念。ダンナニウムの補給は終わりね。と名残惜しそうに言うと、唇と唇を合わせるだけのキスをして。
「どうぞ。入ってらっしゃい」
「はっ。失礼します。――アカツキ大佐、どうかなさいましたか?」
「……いや、なんでもないよ」
なんでもあったよ! 不意打ちとかずるくないか!?
なんて言えるわけも無く、ジェフ大尉に対して当たり障りの無い言葉を返す。
「それで、どうかした?」
「はい。間もなく式典も始まりますから御二方をお呼びにまいりました」
「もうそんな時間か。ありがとう。じゃあ、行こうか」
「はっ!」
「ええ、アカツキ大佐」
リイナ、もうモードを切り替えたんだね……。一年経ってプライベートから仕事用へのチェンジが上手くなった気がするよ……。
ジェフ大尉に呼ばれて僕とリイナは控え室を出る。廊下には忙しなさそうに多くの軍人が行き交っていた。
ただし彼等と僕達三人の軍服は意匠が違う。彼等の格好は通常業務などで着用するB式軍服だけど、僕とリイナにジェフ大尉は儀礼・式典の際に着用するA式軍服だ。
A式軍服は儀礼や式典の際に着るものだけあって勲章などがジャラジャラと付いている。例えば僕だと王宮伯爵勲章にリールプルの際の軍功やこれまでの勲章などがある。おかげで歩く度に音はするし、ものすごく目立つ。その証拠にすれ違う度に下士官どころか士官までがすっ飛ぶように敬礼をしていた。
「A式軍服、恐るべしだなあ」
「私はとてもお似合いだと思っていますよ。かっこいいです」
「リイナ少佐に賛成ですね。おれもアカツキ大佐のA式軍服はとても格好いいと感じています。おれまで着ることになるとは思いませんでしたけどね」
「何言ってるんだいジェフ大尉。君だって鉄道敷設の功労者の一人なんだよ? 国王陛下からも良く頑張っているとお言葉を頂いているし」
「恐縮です。これなら実家の両親にも自慢できそうですよ」
「うん、帰郷の際には話してあげなよ」
「はっ!」
とても嬉しそうに笑うジェフ大尉は充実感に満ちていた。こういう顔を見ると、僕も嬉しく思うね。
控え室のあった建物の廊下を歩き、外に出ると心地良い喧騒が耳に入ってくる。人々は今か今かと式典の開始を待ちわびていた。
外に出て会場の裏側に回ると、B式軍服を着たメガネの男性士官がこちらにやって来る。見かけた事のある顔だった。
ん……? あれはもしかして?
「アレン大尉!? アレン大尉じゃないか!」
男性士官はなんとアレン大尉。王都に来てからすっかり会っていなかった僕の部隊の副官だった。
「お久しぶりですアカツキ大佐!」
「まさか王都にいるなんて思わなかったよ! どうしたの?」
「アカツキ大佐の父上と母上、先代当主様にアルヴィン様も王都に来られているのはご存知ですよね?」
「うん、昨日の昼前に別邸に到着したから知ってるよ?」
「実はアルヴィン様からアカツキ大佐を驚かせてやれということで私達が同行している事を伏せていたのです。今回は護衛任務を兼ねて二個小隊で参上致しました」
「ん、兼ねて? どういうこと?」
「ご当主様と奥方様が、せっかくのアカツキの晴れ舞台なんだから見に行きなさい。と仰って頂きまして。部隊全員の中で抽選して選ばれた自分達が来たのです」
「なるほど、そういうことだったんだね。ノイシュランデからわざわざありがとね」
「とんでもないです! ――ところで、そちらはもしやアカツキ大佐の奥方様ですか?」
アレン大尉は僕と会話している内に隣にいるリイナに気付いたのか、リイナに話しかける。
「ええ、そうよ。アカツキ大佐の妻で改革特務部部長補佐兼秘書のリイナ・ノースロードよ。もう苗字はノースロードに変わっているわ」
「はっ! お目にかかれて光栄です! 自分は一〇三魔法大隊副官のアレン・マレットであります。階級は大尉。アカツキ大佐が大隊長になられてから副官をしており、現在は大佐が王都で任務遂行中故、自分が大隊長代行をしております」
「アカツキ大佐とは長い付き合いなのね。今日はよろしくお願いね、アレン大尉」
「はっ。そして、そちらが鉄道改革課長のジェフ大尉でありますね?」
「はい、アレンです。初めまして、ジェフ大尉」
「こちらこそ。噂はかねがね。アカツキ大佐を支えて頂き、ありがとうございます」
「とんでもない! アカツキ大佐の才覚に助けられているだけですよ」
「アカツキ大佐は聡明でいらっしゃいますから。同じ階級の者同士、よろしくお願いしますね」
「もちろん。これからもよろしく、アレン大尉」
互いに握手を交わすアレン大尉とジェフ大尉。新たな交流が生まれたみたいだね。
「アカツキ大佐、リイナ少佐、ジェフ大尉。そろそろご登壇の時間となりますのでよろしくお願いしますー」
二人の部下の微笑ましい姿を見ていると、間もなく式典が始まるようで近くにいた案内をしている軍人に声を掛けられた。
僕は了承の旨の返答をすると。
「じゃあアレン大尉、王都に訪れたんだし楽しんでいってね」
「はっ! 自由日も頂いているのでそうさせて頂きます。では、失礼します」
アレン大尉はこの場を後にすると、僕達も会場の裏から仮説の階段で登壇すると用意された席に座る。
「ここからの景色も凄いもんだね」
「私達は今回功労者側ですからね、特別席が用意されています。だん、アカツキ大佐と共にこの場に座れることを嬉しく思います」
「プライベートが漏れてるよ、リイナ少佐」
「あら失礼。つい本心が出てしまいました」
「おおおう、緊張するなあ」
「ジェフ大尉、リラックスリラックス」
「は、はっ。深呼吸しますね」
階級の関係上ジェフ大尉は僕達より後ろの席に座り、そこでゆっくりと息を吸って吐いてとしていた。
僕は正面に向き直ると、式典会場の最前部には来場した貴族達に用意された多くの椅子が良く見える。既に半数程が着席しており、父上達四人も発見した。向こうもどうやら気付いたようで、僕は微笑して手を振っておいた。
「おお、アカツキ大佐とリイナ少佐にジェフ大尉じゃねえですか! 先についていやしたか!」
直後、僕の隣に座ろうとしていた人物から明るく豪快な声が聞こえる。アルネシア・アルネセイラ駅及び駅前広場の総責任者のラルグス特等建築士だった。彼は民間人なので軍服では無く式典用にこしらえたのだろう、仕立ての良い燕尾服にスラックスを着ていた。
「こんにちは、ラルグス特等建築士。いよいよだね」
「自分が携わった建築物が大勢のモンに見てもらえるのは、やはりいつでも感激しやすな。歴史に名を残せるのなら尚更でありやす」
ラルグス特等建築士は式典が始まる前から感極まった様子だった。スケジュールは非常にタイトで苦労もあっただろうから喜びもひとしおなんだろうね。
「特等建築士のお陰で改革もここまで来れたんだ。ありがとう」
「とんでもねえです! こちらこそ!」
互いの苦労を労い合い、この後のスケジュールなどを雑談も兼ねて話していると、壇上に宮内大臣が現れる。
ということは、そろそろだね。
「静粛、静粛に!」
宮内大臣がいつもより大きな声を発すると、耳に入る前方からやがて後ろまで伝わり、駅前広場は先までの喧騒が嘘かのように静まり返る。宮内大臣は周りを見渡してそれを確認すると。
「これより、国王陛下が畏れ多くもご登壇される。皆の者、心するように!」
この式典、一大国家事業であるために国王陛下もご参加なされるんだよね。だから中央には一際豪勢な玉座が用意されているわけだ。
僕達は起立して、姿勢を整える。
「エルフォード・アルネシア国王陛下、ご登壇! 総員、礼!」
宮内大臣の言葉の直後、近衛兵十数名に護衛されて国王陛下が現れ、僕達軍人は敬礼。民間人達は最敬礼をする。
本来であれば国王陛下隣には妻の王妃がいるのだが、王妃は先立たれてしまっているからいない。その後ろから現れたのは次期国王がほぼ確定している、国王陛下の息子であるエドウィン・アルネシア王太子とその妻であるエレジア・アルネシア。さらにアリシア王太子妃の横にいるのは国王陛下の孫にあたるローレンス王子だ。彼はまだ幼く、今年で十二になるらしい。それでも王族らしく振舞おうとはしていた。
王族も集結した連合王国鉄道開業式典はこうして始まった。
ヨールネイト暦1839年4の月15の日
連合王国王都アルネセイラ・新市街地北東部街区アリハッド地区
僕がこの世界に蘇ってはや一年と二ヶ月が過ぎた、4の月中旬。寒さの厳しかった冬も過ぎ去り再び連合王国には優しく暖かい春が訪れていた。
改革が始動してからだと一年になる今日。去年六月から増員をしたもののそれでも人手不足だった改革特務部。仕事は相変わらず多忙であったけれど充実した日々だった。
だけど、仕事のうちの一つがようやく報われる日がやってきた。
今僕がいるのは王都新市街地北東部街区、アリハッド地区。
そう、ここは去年の今頃に視察した駅建設予定地だ。現在は正式名称が決定して『アルネシア・アルネセイラ』という駅名が付けられている。
そのアルネシア・アルネセイラ駅には、連合王国中から沢山の人が集まっていた。何故なら今日は、記念すべき連合王国鉄道開業の日だからなんだ。
広大な面積を誇る駅前広場は人で埋め尽くされていて推定で数万人は集まっているらしい。広場の外を含めて一目鉄道と駅を見ようと王都に訪れているのはそれ以上だとか。これから開業式典が執り行われるのもあるけれど、いかに鉄道開業が注目されているかが分かる光景だった。
僕はそれを式典の為に用意されていた仮の控え室がある建物から眺めていた。
「ひょえぇ、こんなに人が集まってるのか……」
「開業日が発表されてから、王都の宿泊施設はあっという間に予約が埋まったらしいわよ。だから王都郊外の都市にある宿泊施設もかなり部屋が予約されたんですって」
「そこまでなんだ……。式典は昼からだから、郊外の都市なら朝に出れば間に合うけれどさ。その分じゃ、乗合馬車はフル稼働だろうなあ」
「案の定、超が付くほどの満員ですって。ここへ来るまでの間に、兵達が話していたのを耳にしたわ」
「ひええ……。こうなると、もう一種のお祭りみたいなもんだね……」
「式典であり祭典ね。私は皆が楽しめる姿が見られるのなら嬉しいわ」
「それには賛成。笑顔が沢山あるのは、改革を進めて来てよかった。報われたって思えるよ」
僕は窓から外にいる沢山の人々を目を細めながら見て言う。
リイナは隣に立つと微笑んで、
「旦那様が、私達とこの一年取り組んできた結果よ。アナタが改革案を出さなかったら、きっとこの景色はずっと後の話になっていたわ」
「ありがとう、リイナ」
「あら、お返しはキスでいいのよ?」
「それはまた、後でね」
「ちょっぴり恥ずかしがる旦那様も素敵だわ」
リイナの積極的なアプローチに、僕は照れ隠しで頬をかきながら言う。対してリイナはうっとりした顔をしたかと思いきや、僕の後ろに回ってすっぽりと覆うように抱きしめて頭を優しく撫でていた。
彼女の愛の情熱は一年経つどころかさらに増していた。リイナが婚約の段階の一つとしてノースロード別邸に居を移したのが去年の夏。両家の両親共に、婚約したのだから何があろうと夫婦だと言われた時にはたまげたものだけれど、今の所体を交えた事は無い。僕とリイナの間で結婚式を終えてからにしようと取り決めているからだ。改革の仕事で多忙な上に訓練もあるからね。その分、口付けを交わすのは毎日しているけれど。
「アカツキ大佐、リイナ少佐。ジェフです。入ってもよろしいでしょうか?」
リイナに抱きしめられされるがままになっていると、部屋のドアからノックの音と鉄道改革課長のジェフ大尉の声が聞こえる。
リイナは、あら残念。ダンナニウムの補給は終わりね。と名残惜しそうに言うと、唇と唇を合わせるだけのキスをして。
「どうぞ。入ってらっしゃい」
「はっ。失礼します。――アカツキ大佐、どうかなさいましたか?」
「……いや、なんでもないよ」
なんでもあったよ! 不意打ちとかずるくないか!?
なんて言えるわけも無く、ジェフ大尉に対して当たり障りの無い言葉を返す。
「それで、どうかした?」
「はい。間もなく式典も始まりますから御二方をお呼びにまいりました」
「もうそんな時間か。ありがとう。じゃあ、行こうか」
「はっ!」
「ええ、アカツキ大佐」
リイナ、もうモードを切り替えたんだね……。一年経ってプライベートから仕事用へのチェンジが上手くなった気がするよ……。
ジェフ大尉に呼ばれて僕とリイナは控え室を出る。廊下には忙しなさそうに多くの軍人が行き交っていた。
ただし彼等と僕達三人の軍服は意匠が違う。彼等の格好は通常業務などで着用するB式軍服だけど、僕とリイナにジェフ大尉は儀礼・式典の際に着用するA式軍服だ。
A式軍服は儀礼や式典の際に着るものだけあって勲章などがジャラジャラと付いている。例えば僕だと王宮伯爵勲章にリールプルの際の軍功やこれまでの勲章などがある。おかげで歩く度に音はするし、ものすごく目立つ。その証拠にすれ違う度に下士官どころか士官までがすっ飛ぶように敬礼をしていた。
「A式軍服、恐るべしだなあ」
「私はとてもお似合いだと思っていますよ。かっこいいです」
「リイナ少佐に賛成ですね。おれもアカツキ大佐のA式軍服はとても格好いいと感じています。おれまで着ることになるとは思いませんでしたけどね」
「何言ってるんだいジェフ大尉。君だって鉄道敷設の功労者の一人なんだよ? 国王陛下からも良く頑張っているとお言葉を頂いているし」
「恐縮です。これなら実家の両親にも自慢できそうですよ」
「うん、帰郷の際には話してあげなよ」
「はっ!」
とても嬉しそうに笑うジェフ大尉は充実感に満ちていた。こういう顔を見ると、僕も嬉しく思うね。
控え室のあった建物の廊下を歩き、外に出ると心地良い喧騒が耳に入ってくる。人々は今か今かと式典の開始を待ちわびていた。
外に出て会場の裏側に回ると、B式軍服を着たメガネの男性士官がこちらにやって来る。見かけた事のある顔だった。
ん……? あれはもしかして?
「アレン大尉!? アレン大尉じゃないか!」
男性士官はなんとアレン大尉。王都に来てからすっかり会っていなかった僕の部隊の副官だった。
「お久しぶりですアカツキ大佐!」
「まさか王都にいるなんて思わなかったよ! どうしたの?」
「アカツキ大佐の父上と母上、先代当主様にアルヴィン様も王都に来られているのはご存知ですよね?」
「うん、昨日の昼前に別邸に到着したから知ってるよ?」
「実はアルヴィン様からアカツキ大佐を驚かせてやれということで私達が同行している事を伏せていたのです。今回は護衛任務を兼ねて二個小隊で参上致しました」
「ん、兼ねて? どういうこと?」
「ご当主様と奥方様が、せっかくのアカツキの晴れ舞台なんだから見に行きなさい。と仰って頂きまして。部隊全員の中で抽選して選ばれた自分達が来たのです」
「なるほど、そういうことだったんだね。ノイシュランデからわざわざありがとね」
「とんでもないです! ――ところで、そちらはもしやアカツキ大佐の奥方様ですか?」
アレン大尉は僕と会話している内に隣にいるリイナに気付いたのか、リイナに話しかける。
「ええ、そうよ。アカツキ大佐の妻で改革特務部部長補佐兼秘書のリイナ・ノースロードよ。もう苗字はノースロードに変わっているわ」
「はっ! お目にかかれて光栄です! 自分は一〇三魔法大隊副官のアレン・マレットであります。階級は大尉。アカツキ大佐が大隊長になられてから副官をしており、現在は大佐が王都で任務遂行中故、自分が大隊長代行をしております」
「アカツキ大佐とは長い付き合いなのね。今日はよろしくお願いね、アレン大尉」
「はっ。そして、そちらが鉄道改革課長のジェフ大尉でありますね?」
「はい、アレンです。初めまして、ジェフ大尉」
「こちらこそ。噂はかねがね。アカツキ大佐を支えて頂き、ありがとうございます」
「とんでもない! アカツキ大佐の才覚に助けられているだけですよ」
「アカツキ大佐は聡明でいらっしゃいますから。同じ階級の者同士、よろしくお願いしますね」
「もちろん。これからもよろしく、アレン大尉」
互いに握手を交わすアレン大尉とジェフ大尉。新たな交流が生まれたみたいだね。
「アカツキ大佐、リイナ少佐、ジェフ大尉。そろそろご登壇の時間となりますのでよろしくお願いしますー」
二人の部下の微笑ましい姿を見ていると、間もなく式典が始まるようで近くにいた案内をしている軍人に声を掛けられた。
僕は了承の旨の返答をすると。
「じゃあアレン大尉、王都に訪れたんだし楽しんでいってね」
「はっ! 自由日も頂いているのでそうさせて頂きます。では、失礼します」
アレン大尉はこの場を後にすると、僕達も会場の裏から仮説の階段で登壇すると用意された席に座る。
「ここからの景色も凄いもんだね」
「私達は今回功労者側ですからね、特別席が用意されています。だん、アカツキ大佐と共にこの場に座れることを嬉しく思います」
「プライベートが漏れてるよ、リイナ少佐」
「あら失礼。つい本心が出てしまいました」
「おおおう、緊張するなあ」
「ジェフ大尉、リラックスリラックス」
「は、はっ。深呼吸しますね」
階級の関係上ジェフ大尉は僕達より後ろの席に座り、そこでゆっくりと息を吸って吐いてとしていた。
僕は正面に向き直ると、式典会場の最前部には来場した貴族達に用意された多くの椅子が良く見える。既に半数程が着席しており、父上達四人も発見した。向こうもどうやら気付いたようで、僕は微笑して手を振っておいた。
「おお、アカツキ大佐とリイナ少佐にジェフ大尉じゃねえですか! 先についていやしたか!」
直後、僕の隣に座ろうとしていた人物から明るく豪快な声が聞こえる。アルネシア・アルネセイラ駅及び駅前広場の総責任者のラルグス特等建築士だった。彼は民間人なので軍服では無く式典用にこしらえたのだろう、仕立ての良い燕尾服にスラックスを着ていた。
「こんにちは、ラルグス特等建築士。いよいよだね」
「自分が携わった建築物が大勢のモンに見てもらえるのは、やはりいつでも感激しやすな。歴史に名を残せるのなら尚更でありやす」
ラルグス特等建築士は式典が始まる前から感極まった様子だった。スケジュールは非常にタイトで苦労もあっただろうから喜びもひとしおなんだろうね。
「特等建築士のお陰で改革もここまで来れたんだ。ありがとう」
「とんでもねえです! こちらこそ!」
互いの苦労を労い合い、この後のスケジュールなどを雑談も兼ねて話していると、壇上に宮内大臣が現れる。
ということは、そろそろだね。
「静粛、静粛に!」
宮内大臣がいつもより大きな声を発すると、耳に入る前方からやがて後ろまで伝わり、駅前広場は先までの喧騒が嘘かのように静まり返る。宮内大臣は周りを見渡してそれを確認すると。
「これより、国王陛下が畏れ多くもご登壇される。皆の者、心するように!」
この式典、一大国家事業であるために国王陛下もご参加なされるんだよね。だから中央には一際豪勢な玉座が用意されているわけだ。
僕達は起立して、姿勢を整える。
「エルフォード・アルネシア国王陛下、ご登壇! 総員、礼!」
宮内大臣の言葉の直後、近衛兵十数名に護衛されて国王陛下が現れ、僕達軍人は敬礼。民間人達は最敬礼をする。
本来であれば国王陛下隣には妻の王妃がいるのだが、王妃は先立たれてしまっているからいない。その後ろから現れたのは次期国王がほぼ確定している、国王陛下の息子であるエドウィン・アルネシア王太子とその妻であるエレジア・アルネシア。さらにアリシア王太子妃の横にいるのは国王陛下の孫にあたるローレンス王子だ。彼はまだ幼く、今年で十二になるらしい。それでも王族らしく振舞おうとはしていた。
王族も集結した連合王国鉄道開業式典はこうして始まった。
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そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。
彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。
それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。
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