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第2章 改革と戦争の足音編
第16話 妖魔帝国の皇帝は夢を語る
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・・16・・
ヨールネイト暦1839年2の月8の日
妖魔帝国・帝都某所
極めて厳しい寒さに支配されるここは妖魔帝国の地。いくら一月の厳冬期を越えたとはいえ未だに真白の雪が世界を支配するこの地では氷点下二桁の気温になることが度々あり、2の月に変わっても日中でも温度はプラスにならない日も珍しくない。
しかしそれはあくまで外の話であり、ある建物群の全体は魔道具によって適温に保たれていた。
そのある建物は妖魔帝国首都の中央に位置しており、一際大きくまた豪勢であった。一目で妖魔帝国における最重要施設であると分かるこの建造物のとある部屋には、若い外見の男が一人いた。
男は黒衣の上にきらびやかな刺繍や装飾が施された羽織ものを纏っており、漂う気品からは高貴な者である事を漂わせていた。
「冬の夜に嗜む蒸留酒というのも、いいものだねえ」
男はグラスに半分ほど満たされている度数の高い透明な酒を蒸留酒を口につけて微笑む。外は雪が強く振り続けており、しかしそれすらも男は景色の一つと楽しんでいた。
彼が優雅に飲酒を楽しんでいると、高価な調度品に囲まれた部屋の扉がノックされる。
「誰だーい」
「ルシュカです」
「ルシュカちゃんね。どうぞどうぞ、入ってよ」
「失礼します」
彼がルシュカちゃんと呼んだ人物は扉を開けて部屋に入る。
入室した女性は特徴的だった。まるで幼い女の子ような容姿だったからである。身長はおよそ百四十シーラ前半だろうか。顔の輪郭も童顔で、年齢を聞かなければまさに少女である。だが美しきプラチナブロンドの髪の毛の彼女は、その外見とはアンバランスな漆黒のドレスを身に包んでいた。故に、幼くも妖艶雰囲気が感じられた。
ルシュカは入室すると、男がいた座り心地がとても良い二人がけソファの空いている所に座る。
「今日もルシュカちゃんは可愛いね」
「もう、私は可愛いより綺麗と言われたいですのに」
「ごめんごめん、可愛くて綺麗だよ。ルシュカちゃん」
「むう、可愛いは外さないんですね」
子供っぽく頬を膨らませるルシュカ。すると男は頬を緩ませて。
「ごめんごめん。だって事実じゃん?」
「もう、陛下ったら。そんな事ばかり言うと、美味しく頂いちゃいますよ?」
小悪魔のような笑みを見せながら言うルシュカは男に寄り添うと、艶めかしく首筋をぺろりと舐めた後に人間では有り得ない鋭い歯で男を噛んだ。
「んくっ、んくっ。――ふぅ、とても美味です。癖になりそう。いえ、とっくに虜です」
「くははっ。突然俺に吸血するなんて君くらいのものだよ」
「だって、陛下が愛しくて愛しくて堪らないんですもの」
陛下、と呼ばれた男は血を吸われたにも関わらず平気な顔をして、むしろ嬉しそうな表情でルシュカの髪を撫でる。対してルシュカは蕩けそうな顔つきで受け入れていた。
二人しかいない部屋で、互いの愛を確かめ合うようにしている彼ら。
だがこの二人のうち、彼こそが陛下と呼ばていたように妖魔帝国の皇帝、レオニード・ヨマニエフ。今は必要が無いので現れていないが彼は妖魔帝国にいる種族の一つ有翼魔人であり、その中でも最も魔力が強い『六翼』の持ち主なのである。
女性の方はルシュカ・ヨマニエフ。これでも立派な成人をとっくに越した年齢だ。彼の血を吸った事から分かるように吸血鬼である。彼女はとある高貴な吸血鬼一族の出身で、今は皇帝レオニードの正妻になっている。その愛情は溢れんばかりで、先程のように吸血行為に及ぶこともしばしばある。無論、配慮はしており一回あたりの血吸いは少量であるが。
「ところで陛下。計画はどこまで進んだのですか?」
ルシュカはレオニードの肩に寄り添いながら、彼の瞳を見て言う。
「計画かい? そうだなあ、もうちょっとで準備完了というところだなあ」
「まあ、それはそれは素晴らしいです。あと少しで、陛下の夢を叶える始まりが来るんですね」
「そうさ。先祖が成し得なかった目標を、俺は必ず達成させる。世界征服を、ね」
「とても素敵。この目で是非とも目の当たりにしたいです」
「必ず叶えるさ。だけどなあ、ちょっと予想外もあったかな」
「予想外? 人間共にそのような不埒者がいるんですか?」
レオニードという男に対して愛の沼に嵌りきっているルシュカは途端に憎悪を滲ませる。病んだ愛も大概だと思えるくらいに。
「君からしたら不埒者かもしれないけれど、大した人間だと思うよ。名は確か、アカツキ・ノースロード」
「アカツキ・ノースロード、ですか。どのような人間なのですか?」
「諜報の報告によるとね、連合王国で改革を提言して実行してるんだとさ。完遂されれば人類諸国の中でもとびっきり厄介な相手になるだろうね」
「だったら一番に滅ぼさないといけません。陛下の為にも」
「いや、連合王国は後に回した方がいいだろうね。既に人類諸国の中で一番強力な軍隊を擁する国と戦えば、いくら俺の国の軍でも無傷とはいかない。むしろ俺は、後に残して戦争を楽しみたい相手なのさ」
「陛下がお決めになったのならば、私はそれに賛同するまでですの。けれど陛下の瞳がキラキラと光っているように見えるのですから、そのアカツキという人間とやらは敵としてさぞ魅力的何でしょうね」
「それはもう、ぜひ一度この目で確かめたいくらいにね。あぁ、楽しみだなあ。とても、楽しみだ」
「ふふっ、少年のような心を持たれている陛下も愛していますよ」
「ありがとう、ルシュカちゃん」
レオニードは優しく微笑すると、ルシュカを抱きしめる。抱擁されたルシュカは、あっ、と艶かしい声を出した。
暫くして部屋の中には、二人が熱い口付けを交わし合う官能的な音が静かに聞こえ始めるのであった。
ヨールネイト暦1839年2の月8の日
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極めて厳しい寒さに支配されるここは妖魔帝国の地。いくら一月の厳冬期を越えたとはいえ未だに真白の雪が世界を支配するこの地では氷点下二桁の気温になることが度々あり、2の月に変わっても日中でも温度はプラスにならない日も珍しくない。
しかしそれはあくまで外の話であり、ある建物群の全体は魔道具によって適温に保たれていた。
そのある建物は妖魔帝国首都の中央に位置しており、一際大きくまた豪勢であった。一目で妖魔帝国における最重要施設であると分かるこの建造物のとある部屋には、若い外見の男が一人いた。
男は黒衣の上にきらびやかな刺繍や装飾が施された羽織ものを纏っており、漂う気品からは高貴な者である事を漂わせていた。
「冬の夜に嗜む蒸留酒というのも、いいものだねえ」
男はグラスに半分ほど満たされている度数の高い透明な酒を蒸留酒を口につけて微笑む。外は雪が強く振り続けており、しかしそれすらも男は景色の一つと楽しんでいた。
彼が優雅に飲酒を楽しんでいると、高価な調度品に囲まれた部屋の扉がノックされる。
「誰だーい」
「ルシュカです」
「ルシュカちゃんね。どうぞどうぞ、入ってよ」
「失礼します」
彼がルシュカちゃんと呼んだ人物は扉を開けて部屋に入る。
入室した女性は特徴的だった。まるで幼い女の子ような容姿だったからである。身長はおよそ百四十シーラ前半だろうか。顔の輪郭も童顔で、年齢を聞かなければまさに少女である。だが美しきプラチナブロンドの髪の毛の彼女は、その外見とはアンバランスな漆黒のドレスを身に包んでいた。故に、幼くも妖艶雰囲気が感じられた。
ルシュカは入室すると、男がいた座り心地がとても良い二人がけソファの空いている所に座る。
「今日もルシュカちゃんは可愛いね」
「もう、私は可愛いより綺麗と言われたいですのに」
「ごめんごめん、可愛くて綺麗だよ。ルシュカちゃん」
「むう、可愛いは外さないんですね」
子供っぽく頬を膨らませるルシュカ。すると男は頬を緩ませて。
「ごめんごめん。だって事実じゃん?」
「もう、陛下ったら。そんな事ばかり言うと、美味しく頂いちゃいますよ?」
小悪魔のような笑みを見せながら言うルシュカは男に寄り添うと、艶めかしく首筋をぺろりと舐めた後に人間では有り得ない鋭い歯で男を噛んだ。
「んくっ、んくっ。――ふぅ、とても美味です。癖になりそう。いえ、とっくに虜です」
「くははっ。突然俺に吸血するなんて君くらいのものだよ」
「だって、陛下が愛しくて愛しくて堪らないんですもの」
陛下、と呼ばれた男は血を吸われたにも関わらず平気な顔をして、むしろ嬉しそうな表情でルシュカの髪を撫でる。対してルシュカは蕩けそうな顔つきで受け入れていた。
二人しかいない部屋で、互いの愛を確かめ合うようにしている彼ら。
だがこの二人のうち、彼こそが陛下と呼ばていたように妖魔帝国の皇帝、レオニード・ヨマニエフ。今は必要が無いので現れていないが彼は妖魔帝国にいる種族の一つ有翼魔人であり、その中でも最も魔力が強い『六翼』の持ち主なのである。
女性の方はルシュカ・ヨマニエフ。これでも立派な成人をとっくに越した年齢だ。彼の血を吸った事から分かるように吸血鬼である。彼女はとある高貴な吸血鬼一族の出身で、今は皇帝レオニードの正妻になっている。その愛情は溢れんばかりで、先程のように吸血行為に及ぶこともしばしばある。無論、配慮はしており一回あたりの血吸いは少量であるが。
「ところで陛下。計画はどこまで進んだのですか?」
ルシュカはレオニードの肩に寄り添いながら、彼の瞳を見て言う。
「計画かい? そうだなあ、もうちょっとで準備完了というところだなあ」
「まあ、それはそれは素晴らしいです。あと少しで、陛下の夢を叶える始まりが来るんですね」
「そうさ。先祖が成し得なかった目標を、俺は必ず達成させる。世界征服を、ね」
「とても素敵。この目で是非とも目の当たりにしたいです」
「必ず叶えるさ。だけどなあ、ちょっと予想外もあったかな」
「予想外? 人間共にそのような不埒者がいるんですか?」
レオニードという男に対して愛の沼に嵌りきっているルシュカは途端に憎悪を滲ませる。病んだ愛も大概だと思えるくらいに。
「君からしたら不埒者かもしれないけれど、大した人間だと思うよ。名は確か、アカツキ・ノースロード」
「アカツキ・ノースロード、ですか。どのような人間なのですか?」
「諜報の報告によるとね、連合王国で改革を提言して実行してるんだとさ。完遂されれば人類諸国の中でもとびっきり厄介な相手になるだろうね」
「だったら一番に滅ぼさないといけません。陛下の為にも」
「いや、連合王国は後に回した方がいいだろうね。既に人類諸国の中で一番強力な軍隊を擁する国と戦えば、いくら俺の国の軍でも無傷とはいかない。むしろ俺は、後に残して戦争を楽しみたい相手なのさ」
「陛下がお決めになったのならば、私はそれに賛同するまでですの。けれど陛下の瞳がキラキラと光っているように見えるのですから、そのアカツキという人間とやらは敵としてさぞ魅力的何でしょうね」
「それはもう、ぜひ一度この目で確かめたいくらいにね。あぁ、楽しみだなあ。とても、楽しみだ」
「ふふっ、少年のような心を持たれている陛下も愛していますよ」
「ありがとう、ルシュカちゃん」
レオニードは優しく微笑すると、ルシュカを抱きしめる。抱擁されたルシュカは、あっ、と艶かしい声を出した。
暫くして部屋の中には、二人が熱い口付けを交わし合う官能的な音が静かに聞こえ始めるのであった。
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