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第8章 CT大群決戦編

第11話 激戦を終えて②

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 連隊前線本部の建物に入ると、璃佳と熊川の他に高富や川崎もいた。璃佳もまだ疲労は取れておらず、高富や川崎は長浜と似たような様子だった。

「みんなひっどい顔してるねえ。こりゃ明日まではいつも通りは無理かな?   ま、とりあえず座って」

 璃佳は全員に声をかけると、孝弘達は大きなテーブルの前に置かれていた椅子に座る。璃佳も座ると、全員を見渡してから口を開いた。

「改めて。皆、ご苦労だったね。よく頑張ってくれたよ。今ここにいるのは私達だけだから、ある程度は肩の力を抜いてもらっていいよ」

「助かります。まだ頭痛が酷くって……」

 川崎はこめかみを抑えながら苦笑いをすると、璃佳は肩をすくめつつもやむ無しといった感じだった。

「私も結構しんどくてね。咎めないからいいよ。――さて、とはいえ報告はしなくちゃいけないから大隊長の面々と米原少佐達を集めたけど。いい報告と悪い報告がそれぞれある。まずはいい報告からしよっか」

 璃佳が言うと、それぞれが姿勢を正す。

「魔法軍本部から私に通達があった。内容はこう。『第一特務連隊はこれまでの功績を讃えて各位の活躍に応じた勲章を授与する。また、第一特務連隊はこれまで激戦続きであり再編成と休息が必要であると判断し、別命あるまで長期の休暇を与えるものとする』。ま、ようするに君達が待ち望んだ長い休みが貰えたってとこだね」

 上からの通達に、孝弘達は心底ほっとする。大隊長の面々も口許を緩めていた。期間が読めないが、ある程度まとまった休みが貰えるのだ。いくら再編成も兼ねているとはいえ、この戦時に長い休みが手に入るのは何物にも替え難い本部からのプレゼントだった。

「休みの期間はハッキリしないけど、最低でも二週間。長ければ一ヶ月かな。というのもね、私達は三日後には一度東京を離れることになるんだ」

「ここを離れるんですか?    戦場から離れられるのはいいことですが、大丈夫なんすか?」

 川崎が最もな疑問を璃佳に投げかける。これについては璃佳も想定していたようで、彼にこう返答した。

「私達は中央高地戦線の前からずっと出ずっぱりでしょ?    武器類の消耗も激しいし、何よりお前達もそろそろリフレッシュが必要じゃない?」

「そりゃ、まあ」

「てわけで上は私達を本部、つまりは伊丹に戻すことに決めたってわけ。こんな事が出来るのは、作戦軍全体でCTの大群をあれだけ蹴散らしたから。あとは銚子転移門が消失したことで、本州ではこれ以上CTが増えることが無くなったからかな」

「他にも理由がある。CT大群はマジックジャミングが無くなって我々が取り戻したレーダー観測網の範囲外、つまり埼玉と群馬・栃木県境付近以北から綺麗さっぱりいなくなったからだ。残存したCTは昨日までの数を思えばたかが知れていたが、それもいなくなった。つまり、埼玉県の大部分はCTの空白地帯になったわけだ。他にも茨城県南部からもCTは消え、千葉県もごく少数のCTを除いてほぼいなくなった」

「ま、ようするに戦うべき相手がごっそりいなくなったわけ。私達の出番はしばらく無いってとこ」

 璃佳の話に熊川が補足すると、それを聞き終えた璃佳が締めくくる。この話を聞いて川崎だけでなく他の面々も納得した様子だった。

「だから久しぶりの休暇を味わおう。――次。勲章授与について。これは個別に連絡待ち。活躍に応じてだからね。何が授与されるかはまた話すから各自そのつもりで。沢山貰えると思うけどね。特に大隊長三人と米原少佐達四人は凄いんじゃない?    川崎、高富、長浜はまた略綬りゃくじゅの列が増えるし、米原少佐達四人は一気に増えると思うよ」

「であるのならば、七条大佐もかなり増えるのでは?」

 高富はごくごく真面目な顔つきで璃佳に言う。

「どうだろうね。ああでも、ごっそり略綬が増えると功績ポイントもあるし、そのうち昇進はあるかも。君達もだけどさ」

「となると、いよいよ准将。七条閣下になられるわけっすね」

「そうなるねえ。だったら部隊をちょっとでもいいから大きくしてほしいかな。増強連隊とか、それくらいに。ウチの性質上難しいけど」

「そうっすよねえ。入隊基準が高いから、補充も難しいっすもん」

 長浜は小さくため息をついて言う。

 こればかりは仕方がないことだ。第一特務連隊は一個連隊で二個師団相当の戦力と言われるような精鋭部隊だ。連隊戦闘員の能力者ランクは最低でもAマイナス。ただでさえ数が少ない魔法軍の中でも精鋭しか入れないのだ。入れないということはつまり、補充も難しいということ。現に中央高地戦線から今まで物資弾薬の補充は何度もあったのに将兵の補充はない。第一特務連隊の定数は九五〇だが、戦死及び戦線離脱者の穴は埋められておらず、今の第一特務連隊兵力は八四八人と一〇〇人も少なかった。璃佳としては自身の昇進より、連隊を再び定数に満たしたいというのが正直な感想だった。

「望みは薄いけど、連隊への補充は優先して話をつけておくよ。んじゃ、次に悪い方の話。これは連隊がっていうより、日本軍全体としての話かな」

 璃佳が先程までの気を楽にした顔から引き締まった顔つきになると、自ずとこの場にいる全員も同じ様子になった。

「皆は何となく察していると思うけど、『反撃の剣』作戦は成功し我々は勝利したけれど、引き換えにしたものが多すぎた。作戦開始から昨日に至るまでの戦死傷者は約九〇〇〇。さらに物資弾薬の消耗があまりに激しくてね。とてもじゃないけど、今の作戦軍約一〇〇〇〇〇に北関東を奪還する力は残っていない。空になった埼玉、千葉、茨城南部を確保するのが精一杯ってとこだね。だから、伊丹のICHQはこの後の作戦方針見直しを強いられた。よって今後の作戦方針は不明」

 こう話す璃佳自身も、これからどうなるかは分からなかったし読めなかった。しかし、とにかく色々なものを使いすぎた代償は小さくないことだけ分かっていた。

「質問よろしいでしょうか?」

「何かな、米原少佐」

「今後の作戦方針は不明ということは、第一特務連隊はしばらく伊丹もしくはその近傍にいるという認識でよろしいでしょうか?」

「そうだね。長いと休暇は一ヶ月になるってのもこれが理由。恐らくだけど、『反撃の剣』作戦レベルで軍をまた動かすとなると、一ヶ月はかかるんじゃないかな」

「了解しました。ありがとうございます」

(当然だよな。人が死にすぎたし、傷を負った人も多すぎる。兵士一人の命の価値が高くなった現代軍において作戦単一で死傷者約九〇〇〇は、はっきりいって深刻だ……)

 孝弘はここにきてアルストルムにいた頃と今の兵士の命の重さの違いを実感する。
 アルストルム世界の時代における兵士個人と、現代における兵士個人の価値は比較にならないほど現代軍の方が高い。訓練にかける時間、用いる武器、兵士そのものに要求される専門性。要するにかけられた時間と金額は志願兵で構成される現代軍の方が何倍も多いし高いのだ。

 そうなると、補充にも時間はかかるしすぐにというわけにはいかない。武器も弾薬も生産すればいい。だが、人だけはそうはいかなかった。

「とりあえず、今後の作戦方針については決まり次第また話をする。それまでは伊丹で傷を癒し心を落ち着かせ、ゆっくりすること。もちろん、訓練はするけどね。さ、ミーティングは以上だ。解散」

『はっ!!』

 ミーティングが終わると川崎、高富、長浜は退室していき、孝弘達も部屋を後にしようとする。
 部屋を出ようとした時だった。璃佳が四人を呼び止めた。

「ああそうだ。君達に話しておきたいことがあってね。連隊長室に来て貰えるかな?」

「はっ。分かりました」

 孝弘はそう返しつつも、なんの話しがあるのだろうと思う。水帆達と視線を合わせると、皆孝弘と同じことを思っていたようだった。
 どんな話をするのだろうと思いつつも、孝弘達は璃佳や熊川と共に連隊長室へと向かった。
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