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第5章 関東平野西部奪還編

第2話 作戦は順調に進むも、新たに告げられるは

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 ・・2・・
【関東平野橋頭堡構築作戦・北部戦線第二段作戦簡略版要項】
 ※とある士官の手記より抜粋

 八王子・日野方面を確保した後、北部戦線各部隊は第二段作戦として、次のような作戦方針を実施する。

1,多摩川を越え、今後の作戦拠点として必須となる陸軍立川基地及び空軍横田基地を確保すること。本目標は必達目標とする。

2,立川及び横田両基地を確保後、北部戦線に増派される部隊と共に国立方面へと進出する。ただし南部戦線神奈川太平洋方面進出部隊との合流、南北連結を優先とする為、第二段においては国立及び西国分寺までを進出線とする。

3,上記目標に対して北部戦線の航空戦力と機甲戦力はこれまで通り火力投射にて上記地域地上主力部隊を支援する。地上部隊は進出線までを制圧せよ。

4,現在立川及び横田、国立方面に新種CTや帝国軍部隊は確認されていないが、八王子の件もある為最大限警戒を続行せよ。また、開戦より長期間が経過している為絶望視されているが、生存者の捜索も可能な範囲で行うよう。

5,東に向かうにつれて敵密度は上昇するものと思われる。各部隊の奮闘を期待する。


 ・・Φ・・
 11月18日
 午後4時過ぎ
 立川市・陸軍立川基地周辺


 関東平野橋頭堡構築作戦第二段作戦は一七日の重火力砲部隊の地ならしと、空軍・陸軍回転翼機・魔法軍航空部隊の合同航空戦力による攻撃が行われた後に発動された。

 南部戦線太平洋側進出部隊と接続する為の各戦力は相模原相川インター付近まで進出。南部戦線側も海老名方面まで進出した為、こちらはあと数日で南北合流が果たせるのではないかという所まで進んでいた。

 立川方面についても比較的順調だった。
孝弘達や璃佳達は陸軍や海兵隊歩兵部隊や機甲部隊と共に多摩川を越え立川市域に前進。相変わらずCTは多いものの八王子戦に比べればどうということはなく、通常火力と魔法火力の前には開戦当初から知られた既存CTは苦戦となるような相手では無かった。
 昼前には立川駅周辺を制圧。その一時間後には目標の一つである陸軍立川基地及び政府立川防災対策本部予備施設等のある区画も制圧した。

 時刻は午後三時半すぎ。各部隊がさらに制圧地区を広げる中で孝弘達や璃佳達は、奪還したこれらをすぐさま前線基地として機能させるべく、周辺施設の残存CT掃討と前線基地機能の構築を並行して進めていた。

「立川の奪還が割とあっさり済んで良かったわね。八王子の戦闘が効いたのかしら」

「かもしれないな。立川周辺にいたCTは報告によれば多くて五〇〇〇ちょっとみたいだし、八王子に比べればずっと楽だろうね」

「敵の数が少ないのはいいことだぜ。いくらCTがワラワラいるにしても、毎度八王子での密度だと持たねえもんな」

「エンザリアCTも今回はいなかったね。もしかしたらどこかに隠れているかもしれないけど、少数ならまだ対処出来るもん」

「ちげえねえや。光線魔法は厄介だけどよ、対処法に慣れてきてるのもあるかもな」

 孝弘達四人はこの基地に到着するまでに何度も戦闘を繰り広げているが、前日にある程度休息が取れていた事もあってまだまだ魔力には余裕があった。今は基地の一角で一息つきがてら話をしている所であった。
 周りで設営を行っていたり、立川北部に向かおうとしている部隊、横田基地攻略部隊と合流する為に進発準備をしている将兵も表情にゆとりがあった。

 というのも、立川基地や横田基地を押さえるにあたって軍の目にあたるレーダーはマジックジャミングがあり有視界以外の索敵が難しかった八王子と違い、立川や横田基地周辺にマジックジャミング装置は無く敵の数も把握出来ていたのだ。現代軍の要の一つたるレーダーが万全に活用出来れば対策も立てやすく、各部隊が時には場当たり的な対応を強いられることも無い。ともすれば将兵には精神的に余裕が出来たわけである。

 ただし、士官クラスは今回がラッキーだと思っていた。国立や国分寺に三鷹や吉祥寺はともかくとして、陸軍の首都圏重要基地たる朝霞基地を含め東京二十三区はほぼ全域がマジックジャミングで全容は不明。辛うじて観測可能な二十三区周辺部はというと、今主力のいる立川付近とは比較にならない密度のCTがいることから、ほぼ間違いなく東京都心に敵司令部機能があり一筋縄ではいかないだろう。というのが司令部にせよ現場士官組にせよ共通認識であった。

「孝弘。この後の予定だけどよ、ひとまず今日は立川までだったよな?」

「ああ。俺達はここ立川基地まで進出する最先鋒として戦うのが今日の任務だからな。明日からの戦闘も控えているし、後は司令部機能確立の補助と防御設備構築の助言を七条大佐から任せられてる。ああ、でもその前に明日以降の説明があるから七条大佐の所に行かないとな。水帆、大佐のとこに行くのは五時前で良かったか?」

「ええ、合ってるわよ。七条大佐はあちこちとのやり取りで忙しいらしいみたい。さっき隊内通信の個人向けの方で送られてきたでしょ?」

「そうだった。場所は後で送られてくる…………、と噂をしてたら入ってきたな」

 孝弘達が使う賢者の瞳の通信に璃佳から連絡が入った。内容はこうだった。

『お待たせ。陸軍立川基地内の指定した位置が前線司令部本部になったのでそこに来るように。私は今そこにいるけど、各方面と連絡を取り合っているからまた待たせたら悪いね』

「指定した位置、ああ、あそこか」

 孝弘は滑走路を挟んだ向こう側にある陸軍立川基地施設の中でも大きい建物を指さす。

「行くか」

「ええ」

「おう」

「うん」

 四人は璃佳のいる建物へ向かう。
 奪還直後の基地滑走路には多くの可変回転翼機と回転翼機が着陸しては離陸、着陸しては離陸とひっきりなしにやってきていた。運んでいるのは物資と人員。中には横田基地の方角へ向かう機体もあった。
 別の一角では僅か数時間ではあるが発見された遺体を集めている最中の部隊もいた。立川が敵の手に落ちて相当な期間が経過しているから遺体の状況は目を背けたくなるようなものだろう。軍人もいれば民間人もいるようで、まとめて後で焼くのだろうが、一人の軍人が手を合わせていた。
 孝弘達は近くにはいかないものの、一度立ち止まって手を合わせる。死体はアルストルムで慣れるほどに見てきたし帰還してから今に至るまで何度も見てきたから特別感傷に浸ることも無い。ただ、戦闘も一段落ついた余裕のある今は四人とも手を合わせようと思ったのである。
 それに気付いた数人の軍人は、孝弘達に向かって敬礼をしていた。孝弘達は答礼すると、璃佳のいる建物へ再び向かった。

 彼女のいる建物はまだ片付けが終わっていなかったが、体裁は取れつつあるといった状態だった。建物に入ると、目的地は一階の大きな部屋。そこが指揮所になっていた。指揮所もまだ設備搬入の途上のようだった。
 孝弘達は指揮所に着くと璃佳を探す。体格の小さい璃佳は目立つからすぐに見つかったが、海兵隊の佐官と何か話をしているようで、孝弘達はしばらく待つことにした。

「お、話が終わったみたいだぜ」

 璃佳と海兵隊佐官の話は彼等が思っていたよりも早く終わったようで、海兵隊佐官――階級章は中佐だった――はすれ違いざまに、今日も助けられた。ありがとう。と言い残して指揮所を後にしていった。

「米原少佐達、メッセ通り待たせちゃって悪かったね」

「いえ、お気になさらず」

「ありがと。じゃ、ここで話すのもなんだし隣の部屋を使わせて貰おうかな。ついてきて」

『はっ』

 璃佳が案内したのは指揮所の隣にある小さな部屋で、元は小会議室らしき所だった。
 璃佳はドアを閉めると防音魔法を施す。その時点で孝弘は嫌な予感がしていた。明日からの作戦説明なら民間人のいる施設ならともかくここなら必要が無いはずだからである。

「君達を呼んだのは明日からの作戦説明で君達の動きを伝えるつもりだったんだけどね。急遽変わった」

 璃佳の表情は少しだけ硬かった。不機嫌という訳では無いが、第二段作戦が順調に進んでいるにしては良さそうとも言えない。
 急遽変わったの中身はロクでもなさそうだ。四人は顔を見合わせるだけで自分の考えが共通見解だと察する。

「急遽、ですか?    立川はこうして無事奪還。横田も今日明日に奪還して明日以降には一部機能を回復させて戦闘機の離着陸も可能と聞いていたのですが」

「そ。第二段作戦は至極順調だよ高崎少佐。問題はねえ、別方面なんだ」

「別方面……」

 水帆が璃佳に問うて璃佳が孝弘含めて全員に返した時点で絶対にロクでもないと彼は確信する。次は一体何があったんだか。と。

「単刀直入に言うね。――吉祥寺付近で生存者が発見された。生存者は五名。何がどうしてどうやったらなのか現時点では一切不明だけど、東京都心から逃げてきたらしい」

「いいことじゃないですか!   って昔の私なら言うんですけど、裏があるんですよね?」

 知花はこれまで絶望視されていた生存者の報告を聞いて一瞬だけ表情を明るくさせたが、すぐに何かあるんだろうと察して顔をやや曇らせる。

「察してくれる君達で良かったよ。話が省ける。生存者はただの民間人じゃない。五人の中に、重要人物がいるらしい。その名は、六条千有莉ろくじょうちゆり。九条術士が一家、六条家の御令嬢だよ」
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