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第3章 中央高地戦線編

第12話 肩透かしというよりかはSランク能力者が規格外

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 ・・12・・
「距離約七五〇。数は八。賢者の瞳は……、アンノウンを示してるかぁ……。ってことは新型かな……?」

「いえ、七条大佐。召喚魔法独特の魔力を感じます。たぶんですけど、あれ、CTかもしれませんが召喚魔法の産物かと……」

「ありがと関少佐。となると、召喚術士がいるか……。『理性のある敵』確定だね。本部に即刻報告を」

「了解しました」

「さて、爆撃で見晴らしが良くなっちゃってるから動きがチンタラしてても猶予があんま無いね。一般兵器が効いてくれればいいけど……」

『理性のある敵』が確定した事でどう戦うべきかを頭の中で組み立て始めながらも、今は目の前のデカブツかと思い璃佳は無線を繋げる。

『戦車小隊、アンノウンへ砲撃要請。一体ずつ狙える?』

『了解。やります。各車両、目標敵アンノウン。APFSDS《装弾筒付翼安定徹甲弾》装填』

〇二マルフタ了解』

〇三マルサン了解』

『照準良し。――撃て』

 近くに控えていた二八式戦車小隊は照準を新型に合わせ射撃する。
 富士宮に現れた超大型でも一二〇ミリ砲弾は当たり所が良ければワンショットキルが出来、数発当たれば沈む相手。
 しかし、放たれた砲弾は。

「目標魔法障壁と衝突。損壊率は想定五割。チッ、術士の事前付与か」

『こちらでも確認しました。以降の攻撃を対魔法障壁弾頭へ切り替えます』

『よろしく』

 璃佳は本当に鬼が出るとはなあ。と思いつつ面倒な相手になりそうだとも感じる。だが瞬時に思考を切り替えた。

『第一特務本部中隊よりCHFHQ。南の攻勢が強まっているが、航空支援要請は可能か』

『CHFHQより七条大佐へ。現在甲府南部方面の攻勢強まりすぐには難しいです。八分あれば回せますが、アンノウンですよね……』

『うん。そう。ならSランクが五人もいるしこっちで対処する。航空支援は甲府南部及び南部戦線優先で良いよ』

『感謝します』

「ってわけで無理だね。第二大隊もさっきから甲府南部につきっきり。川島少佐、ゴーレムを一体ずつ充てて。米原少佐、一体よろしく。私と茜で一体ずつ。熊川少佐、二体は中隊と第一大隊の一個中隊で統制射撃で潰せ。過剰火力でも構わない。残りの部隊は――」

「後続よりCT一個大隊規模接近です」

「即報告ありがと関少佐。残りはCT共をぶっ潰せ。今の割り振りで倒す。いいね」

『了解!』

 璃佳の素早い命令に早速連隊員が応える。
 ゴーレムで三体を任された大輝と一体を担当するよう命じられた孝弘も動き始める。
 口を開いたのは孝弘だった。

「大輝、三体頼んだ。俺は今送られた目標に集中する。水帆、新型目標の魔法障壁をぶち抜いてくれ。あれはちょっとばかし面倒だし」

「分かったわ」

「関は一個大隊の方を対処する部隊の支援を。もうあと少し増えるだろうから」

「了解したよ」

 淡々とやり取りを終わらせると、孝弘は新型のバケモノという名に相応しい存在に目を向ける。

(あっちでも八メートルクラスを相手にすることはあったけど、戦車砲二発で割れる程度ならボチボチの強度だな……。生身の硬さが不明だけど、威力を高めれば魔法拳銃でもいける相手だろ。)

 まるでお前等程度には倒されんとは言わんばかりに悠然と迫ってくる新型に、孝弘は簡易分析。最大火力で上級までは使える魔法拳銃で戦うと決める。

「目標約五〇〇まで接近。大佐、茜、お気をつけて」

「あの程度よゆーよゆー」

「捻り潰してくれようぞ」

「米原少佐も気をつけてな」

「ありがとうございます、熊川少佐」

「さあさあ、アンノウン殺しを始めようか。頼むよ、ゴーレム達」

 璃佳が言うと、ゴーレムは鎧を叩いて答える。

「距離約四七〇。中隊統制フルバースト射撃準備!   属性、火属性爆発系!」

「三、二、一、吶喊!!」

「中隊統制射撃、始めッッ!!」

 孝弘、璃佳、ゴーレム達が駆け出したのと、中隊統制魔法射撃が同時に行われる。
 孝弘は統制射撃による多数の弾丸が着弾したのを加速魔法で走りながら確認。二体に目掛けて集中した魔法弾は魔法障壁を完全破壊させ幾つも命中する。

(まずはツーキル。なるほど、あのクラスの攻撃なら一撃でやれるんだな。それが分かって安心した。)

『米原少佐、確認したよね。どうやら上級魔法なら倒せるよ』

『みたいですね、七条大佐。魔法拳銃でやれそうです』

『よろしくー』

 無線で璃佳と短くやり取りをした後、まずは璃佳と茜が先行した。二人の目標は一番後ろにいる二体。ゴーレムは最も進んでいた三体だ。孝弘は中間辺りにいた一体である。

 最初に戦闘を始めたのはゴーレムだった。水帆から魔法障壁破壊を目的とした火属性中級魔法が多数、それぞれ三体に全命中。アンノウンを守る魔法障壁は消え去った。
 ゴーレムは、ならばいつもと同じだと言わんばかりに約三倍の体格差などものともせずに戦う。図体が大きいという事は動きが大振りになる。ゴーレムは隙の大きい攻撃を躱すと、まずは身動きを封じる為にバケモノの腱を斬る。
 ゴーレムはアンノウンの三分の一とはいえ約三メートルの巨体である。さらに見た目以上のパワーでバケモノの腱を切断。多少の差はあれど、アンノウン三体は肘をつくことになった。

武士もののふよ、殺っちまえ」

 大輝がニィ、と笑うとゴーレム達は槍で心臓があるであろう場所を一突きさせる。
 どうやらバケモノとはいえ心臓は頭と並ぶ弱点だったらしく、倒れ伏した。
 絶命したアンノウンは粒子となって消失。召喚体の典型的な消え方だった。

「まずは三体。一番乗りは大輝のゴーレムだったな」

 孝弘は念の為と距離を取りつつ弱点に探りを入れながら戦っていたが、普通の生物と弱点が同じだと分かった瞬間にケリをつけようとしていた。

「動きがトロい。攻撃は隙だらけ。水帆の法撃で魔法障壁が一撃で消し飛んだ辺り、A以上の能力者なら余裕そうだな。心配して損した気分だ」

 孝弘はアンノウンに接近する。拳を振り下ろすような攻撃を余裕で回避すると、魔法障壁を守る為でなく足場にする為に展開。
 魔法で強化された脚力をバネにして、約一〇メートルまで跳躍。

「内から爆ぜよ。――遅延術式、発動。爆散」

 銃弾が二発放たれ、アンノウンの皮膚の分厚さによって頬と顎にめり込んだそれはしかし。
 遅延術式が発動された瞬間、大きく爆ぜた。
 頭の吹き飛んだアンノウンは当然地に体躯を転がし、二度と立ち上がらなかった。
 単独でのアンノウン撃破。だが孝弘は別の意味で驚いていた。

「中級魔法で殺れたぞ……。なんだ、見掛け倒しか……?」

 孝弘は着地すると、首が無くなっても動いた敵がアルストルムにいた経験から心臓にさらに一発、爆発系無属性の魔法銃弾を撃ったが必要の無い攻撃だったのを彼が知ったのは少し後のことだ。

『さっすが孝弘。完璧ね。ワンショットキルじゃない』

 上機嫌に無線を送ってきたのは水帆だった。
 孝弘は他の部隊がたまたま討ち漏らした人型CTへ一発魔法弾を撃って倒しながら、

『不謹慎かもしれないけど、肩透かしだったよ。これじゃあただデカいだけだ。もしかしたら何か他の攻撃手段があったのかもしれないけど』

 と返す。

『まあまあ。弱いに越したことはないわ。『理性のある敵』が甲府にいるのが確定したんだし、温存しておきましょ』

『そうだな。ちなみに七条大佐と空狐の茜は……、悪い。愚問だったわ』

『当然でしょうね』

 孝弘が璃佳と茜の方へ身体を向けると、璃佳によって真っ二つにされ茜によって首の飛んだアンノウンがいた。どうやらあの二人の力ならば瞬殺だったようだ。だとしても、璃佳のあの小さな体躯でどうして約八メートルのバケモノを縦に真っ二つに出来たのか首を傾げたくなったが。

 懸念のアンノウン八体が全て倒されたとなれば、一個大隊と少々のCTは彼等にとってさしたる問題にはならず、アンノウン全討伐からそうかからずに璃佳達や孝弘達によって蹴散らされたのであった。
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