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第1章 ハッピーエンドは幻夢の如く

第12話 古川少将の提案に対し、四人の決断は

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 ・・12・・
 そうなるだろうな。
 孝弘が古川少将の願いを聞いた感想だ。どうやら水帆や大輝、知花も同じような感じらしい。
 自分達の能力が日本でたったの一三人しかいないSランク相当ならば、古川少将が頭を下げてでも願う意味は孝弘達もよく分かっていた。もしアルストルム世界で同じような事があったのならば、孝弘達でも同じ事をしたからだ。それ程までに、超高位魔法能力者は希少で、喉から手が出るほど欲しい人材なのである。

 ただ、孝弘達は即答できなかった。今日一日で天地がひっくり返るような経験ばかりしており、頭がまとまっていない状態で判断をしたくないからである。
 それに、孝弘は自分だけで今の話を決める訳にはいかないし三人にも相談したいと思っていた。

 だから、四人の答えはしばしの沈黙だった。
 とはいえずっと黙っているわけにはいかない。

「古川さん、申し訳ないですが自分も含めてこの場での即答は出来ません。全員で相談させて頂くわけにはいきませんか?」

 孝弘はそう言った。
 古川少将は少し考えたものの、

「分かった。元より無理も承知だ。即諾してもらえるとは思っていない」

 あっさりと引き下がった。
 対して、複雑な心境なのは福地少尉と翔吾だ。

 福地少尉としてはいくら先の話を聞いたとはいえ赤の他人だ。軍人の身分で考えれば、四人が戦力となればこれほど心強い者はない。現代になってから戦争は『個』の力より『集』の力。つまりは組織力に重きを置かれるようになり、軍の総合力こそが戦争を決すると考えられるようになった。
 しかし、魔法については少々事情は変わる。現代となっても超高位魔法能力者は戦術面までならひっくり返せる存在だからだ。

 現状、世界にせよ日本にせよ圧倒的な戦力を前に苦境に立たされている。ここで四人のSランク能力者が参戦するとなれば、日本軍にとっての好影響は計り知れない。戦線を押し上げる事が出来るかもしれないのだ。
 故に福地少尉は少しだけ残念に思っていた。が、口には無論出さなかった。

 より複雑なのは翔吾だった。
 軍人という立場としては四人が参戦してくれれば心強いなんてものではない。だが、彼は四人の友人である。しかも死んでいたと思っていたら生きていたのだ。たとえとてつもなく強くなって帰ってきたのだとしても、本音は民間人として生きていてほしかった。このような世界になってしまったとしても。六年間の激戦を生き抜いてたというのなら、なおさら。
 だから翔吾は、なんとも言えない表情をしていた。
 古川少将はちらりと翔吾の顔を見つつも、すぐに四人の方へ向き直る。

「君達は今日帰還したばかりにも関わらず、CTと交戦した。さらに世界と日本の現状を知ることになり色々と処理が追いついていないだろう。物事の整理をしたい気持ちもよく分かる」

「ご配慮痛み入ります」

「構わんよ孝弘さん。だから、ひとまず今日は休みたまえ。男女一緒で悪いが部屋の区画も手配する。風呂についても同様だ。ただ、急かしてすまないが結論は明日までに出してくれ。ことは悠長にしていられない。民間人としての立場を望むのなら至急車両の手配をせねばならんからな」

 古川少将の話に、四人は頷き了承する。

「ありがとうございます。あの、最後に二つだけいいですか?」

「叶えられる範囲ならば構わん。何かね?」

「一つ目は家族の安否です。私達は今日帰還したばかりで、家族の事も分かりません。携帯端末は死亡届が出されたか、契約解除されているかで連絡が取れないので、安否確認をお願いしたいです」

「分かった。やっておこう。二つ目は?」

「戸籍の復帰です。行方不明となれば、戸籍が無い可能性が高いので、これの復活を。無いと不便極まると思うので」

「それについては関係省庁を通じて行うようにしよう。便宜がはかれるよう、こちらからも上を通してからやっておく。前例があるから早く解決出来るだろう」

「感謝致します。ひとまず、今のところはそれくらいです」

「うむ。では、話はこの辺にしておこうか。改めて言うが、ゆっくりしたまえ」

 古川少将はこの場を後にする。
 四人も翔吾と時間が許す限りあれこれと話しながら手配された区画に案内してもらい、その日の夜は司令部で過ごすこととなった。




 ・・Φ・・
 10月1日
 午前0時過ぎ
 手配された四人専用の区画

 あれから四人は今後について話し合い、二時間ほど互いの意見を交わしてから結論を出した。翌朝古川少将に話そうと決まり寝ることになったが、寝つきが悪かった孝弘は目を覚まして一人ぼんやりとしていた。

(今日は色々ありすぎた……。帰還、異変、戦闘。軍が一応機能していたから政府も機能している事は喜ばしいことだけど、世界と日本の現状は混沌と化していたなんてな……。このままだと日本と世界は良くない方向へ末路を歩んでいくんだろうけど、これじゃあまるで、転移先のアルストルムみたいだ……)

 孝弘は今の様子を皮肉って、苦笑いする。
 待ち望んでいた故郷への帰還。平和な日常に戻る願いは崩れたに等しい。恐らく民間人として生きたとしても、早晩生死と身の振り方の分岐点に立たされる。

 どうしてこうなったんだろうか。

 孝弘にせよ、今はぐっすりと寝ている三人にせよ、この感想は同じだった。
 だが、泣き言を放ったところで何も変わらないことはアルストルムで散々に経験している。明日から歩む道は、覚悟せねばならないものになるだろう。

(でも、どんな道を歩んだとしても変わらないことはある。大切な人を守りたい。守りながら、守られながら、生きていきたい。あの六年を生きて俺達は変わった。引きこもる選択肢なんてとうの昔に捨てたし、死ぬ選択肢なんて、もちろんどこにも無い。結局、道は一つだよな。)

 たとえ世界がどうなったとしても、曲げたくない信念。何があっても守りたい大切な人。
 その為に、四人は早くも決意させられる。いや、決意させられたのは六年前で今は違う。

 自分達が、決めたのだ。

 異世界から帰還したばかりの四人は、道を定めた。それがどう世界に作用するかは誰も分からない。ただ一つ確実に言えることは、決めたのならば最後までやりきることだけ。

 孝弘はそろそろ寝ないと。と横になる。共に将来を歩むと約束した、水帆の頭を撫でて。
 そうして、孝弘は眠りについた。

 翌朝。半ば小康状態だったという戦況は変化した。
 東側の戦線で、約八〇〇〇〇のバケモノの大群が西に向けて動き始めたのだ。






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