上 下
199 / 240
第五章

195 ゲヘナデモクレスは暗躍する

しおりを挟む
「ぐぬぬぬ。主よ。なぜ我を召喚しない!? あ奴ら三匹を出すよりも、我を召喚する方が確かであろう!」

 ゲヘナデモクレスは、一人嘆いていた。

 あの飛んで行った四人組の居場所を突き止め、全知の追跡者のマーキングをするところまでは出来ている。

 だがここから、どのように誘導しようか悩んでいたのだ。

 しかしそんな時、ジンが城のダンジョンで守護者になり、大勢の侵略者たちと戦うことになる。

 ゲヘナデモクレスは推しの一大イベントとばかりに、映像に釘付けになった。

 そして四人組の強者が現れるや否や、自身の出番は近いとソワソワしながら見届けたのである。

 だがしかし結果として、その希望は打ち砕かれた。

 グインを筆頭に、ボーンドラゴン、バーニングライノスのAランクトリオが活躍してしまったのだ。

 ゲヘナデモクレスは、頭を掻きむしりたいほどに憤怒する。

 裏切られたと言いがかりを元に自傷するメンヘラの如く、自身の頭部を岩に叩きつけた。

「なぜだぁ! なぜなのだぁ! 我の事、もしかしてもう忘れたのか? いらないのか? 主には我が必要であろうに!!」

 そして巨大な岩は、ゲヘナデモクレスの頭突きによって粉砕される。

 単なる八つ当たりであるが、それは結果として、ある事態を招いてしまう。

「な、何だこいつは!?」
「お、おい! お前! 何者だ!」
「ま、待て、あいつは本当に人族か!? な、なんか違う気が……」

 そう、あまりの衝撃と音により、冒険者たちに気がつかれてしまったのである。

「ぬぅ!? しまった。気がつかれたか。であれば、もはや是非もなし。我こそは城のダンジョンおわす魔将ジルニクス様一番の配下! ゲヘナデモクレスである! 宝珠を手にせし者を先んじて討ちにやってきたのだ! 緑の宝珠・・・がある城のダンジョンには行かせぬぞ!」
「なぁ!?」
「敵襲! 敵襲!」
「城のダンジョンだと!?」

 三人の冒険者が驚き戸惑っている間に、ゲヘナデモクレスは跳躍した。

 そしてわざと重要な情報を喋り、三人を害すことなく駆けだす。

「我こそは城のダンジョンおわす魔将ジルニクス様一番の配下! ゲヘナデモクレスであーる!」
「何だこいつは!?」
「つ、強すぎる!」
「Aランク、いや、それ以上……」

 ゲヘナデモクレスはもはやどうなってもいいと、冒険者たちの拠点で暴れ始めた。

 更に手心を加えて、殺さない程度に抑えている。

 これも全て、ジンに召喚してもらうためだった。

 敵が多ければ、それだけ召喚の可能性が増すと考えたのである。

「ふはははは! 緑の宝珠が欲しければ、同色の矢印を辿って来るがよい!」

 また先ほどの発言をひるがえし、今では逆に城へやって来るように促していた。

 しかしそんな暴虐の限りを尽くすゲヘナデモクレスの元に、向かって来る者たちがいる。

「す、凄い気配だ。あの時倒したボーンドラゴン以上のものを感じる。いったい何者なんだ、こいつは?」

 そう言ってまず現れたのは、金髪碧眼で十代半ばの美少年、ブレイブ。

 手にはそれぞれ、聖なる力を宿す剣と盾を構えている。

「たくっ、先に行くなよな。これだから勇者様の仲間はたいへんだぜ!」

 続いて赤髪褐色肌の美女。アネスが悪態をつきながらも、ブレイブの横へと並ぶ。

 高身長で筋肉質な肉体に纏うのは、まるで水着のような真っ赤な鎧。ビキニアーマーだ。

 更には重量級の武器、巨大な両手斧を軽々しく背中から抜いた。

「鑑定……通らない。たぶん、エクストラ級の妨害スキルをもっている……かも」

 そう言って音もなく次に現れたのは、黒髪ボブカットの美少女であるヤミカ。

 同色の瞳は少し眠そうであり、十代前半と年齢も最年少。

 毒々しい色の短剣を手に取り、油断なくゲヘナデモクレスを見つめる。

「はぁ、はぁ、はぁ……ちょっとぉ、私のこと置いてかないでよねっ! って何よこの邪悪な気配!? あれは悪の化身に間違いないわ!」

 最後に息を切らせながら現れたのは、青い腰までの長髪と、同色のツリ目をした聖職者。名をセーラという。

 セーラは見た目の美しさからは裏腹に、言葉の端々から荒さが見受けられた。

 しかしこれは、仲間のいる時だけである。普段のセーラは、猫をかぶっているのだ。

「ほぉ? 貴様ら、少しは強そうであるな! 我こそは城のダンジョンおわす魔将ジルニクス様一番の配下! ゲヘナデモクレスである!」

 ここぞとばかりに、ゲヘナデモクレスは名乗りを上げる。

「それ、遠くからでも聞こえてた……」
「俺も聞いたぞ」
「こいつ、同じことしか言えないのか?」
「所詮はモンスター。大した知能がある訳ないじゃない! どうせそのジルニクスとやらに教えてもらったことしか、言えないんだわ!」

 四人は呆れたように、そう口にした。

 名乗っただけなのに、散々な言われようである。

 これに対してゲヘナデモクレスは怒りから震えるが、ここは必死に我慢した。ここでうっかり台無しにするわけにはいかない。

「ふははは! 我が主のダンジョン・・・・・・・は、近々貴様らの背後にある国境門へと侵攻する予定である! 安易に宝珠を手にしたばかりに、愚かな事だ! 
 これを阻止したければ、緑の矢印が指し示す方へと進め! 時間は限られていると理解せよ! ではさらばだ! オーラオブフィアー!」  
  
 そしてゲヘナデモクレスは一方的に言葉を発すると、かなり弱めにスキルを発動する。

 結果として周囲の心弱き者は、恐慌状態に陥った。

「ひぃいいいい!?」
「だれかぁ! だれかぁ!」
「ヤメロー! シニタクナーイ!」
「こ、こんなところに居られるか! 俺は帰らせてもらう!」
 
 当然ブレイブたちにはあまり影響はなかったが、周囲に気を取られる一瞬の隙に、ゲヘナデモクレスを見逃してしまう。

「なっ!? いつの間に!?」
「なんちゅう速さだ。たった一瞬だったぞ?」
「目を離さなかったけど……追いつけそうにない」
「……な、何よあれ……あ、あれに勝てるの?」

 若干セーラは恐怖状態であるが、完全に戦意を失った訳ではない。

 そんなセーラを、ブレイブが抱きしめる。

「大丈夫だ。俺らなら勝てる。だって俺たちは、勇者パーティだからな!」
「ふぇ、そ、そうね。私も聖女。聖女だもの! ライトベール!」

 ブレイブに抱きしめられたことで恐怖に打ち勝ったセーラは、そこで光属性魔法、ライトベールを発動させた。

 それは半円状に広がっていき、恐慌状態にある全ての人たちを癒す。

 同じ魔法を使えるグインでも、ここまで広げることはできない。

 それだけ、セーラの魔法は卓越していた。

「ずるい。僕も……」
「あっ! あたしもあたしも!」
「おわっ!? ったく、困ったなぁ」

 セーラが離れた隙に、ヤミカとアネスがブレイブに抱き着く。

「あー! ちょっと何してるのよっ!」
「セーラはさっきやってた。次は僕の番」
「そういうことだ! はっはっは!」
「三人とも、俺を求めて争わないでくれよ、やれやれ」

 ゲヘナデモクレスが現れた緊張感は一気に払拭され、逆に周囲からは殺気の視線が集中する。

 だがそれも既に慣れたものなので、ブレイブは全く気にはしない。

「それよりも、次の目的地が決まったな。城のダンジョンを目指そう。そして魔将ジルニクスというダンジョンボスを倒すんだ!」
「罠かもしれないわよ? それに、塔のダンジョンを勝手に攻略したことを怒られたばかりじゃない」
「大丈夫さ。俺たちは勇者パーティ。教会からのお墨付きもある。それに、あんなヤバそうなのが来たら、誰も反対できるはずないだろ?」
「確かに、ブレイブの言う通りだぜ!」
「僕は、お兄ちゃんに従う。反対なら、セーラはお留守番」
「なぁ!? 行くわよ! 私が行かなきゃ、皆野垂れ死ぬわよ!」
「よし、なら全員賛成みたいだし、早速直談判に行こう!」

 そうして多数決に見えて、ブレイブの鶴の一声で決まった城のダンジョン攻略が、こうして始まるのであった。

 しかしブレイブはまだ、このときは知らない。

 魔将ジルニクス、ジンがどれだけの力を秘めた存在かということを。

 そしてその配下であるゲヘナデモクレスが、それ以上にヤバイ存在という事実に、全く気がついていなかったのだ。

「ふはははは! 我は天才だ! これで主も、我を召喚せざるを得ないだろう! あの者たちは、中々に強そうだったぞ! ……だがしかし、これで本当に足りるのか? また、我無しで勝つのでは……? 
 であれば我を召喚するまで敵を集めれば、100%召喚されるはずだ! 我は止まらぬ! 待っておれ主よ!」

 遠く離れた場所にいるゲヘナデモクレスが、そんな風に独り呟く。

「……だがもしもここまでの事を全て知られたら、主も流石に怒るであろうか?
 う、うむ。これは主にとっても、良い試練になるだろう! 
 わ、我は主のことを思ってやっているのだ! 主を強くするのも、一番の配下である我の勤めである! ふはははは!」

 最後にそう言い残して、ゲヘナデモクレスは荒野を駆けて行くのであった。

_____________
これにて第五章は終了になります。
次回よりアンデッドの大陸後編、第六章が始まります。

またプロット整理のため、少々お時間を頂きます。
遅くても、9月の半ばから更新を再開いたします。

毎日更新していたこともあり私事ではありますが、色々と遅れていることもありますので。(^-^;

加えて再開後は、また隔日更新になると思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
<m(__)m>

乃神レンガ
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~

有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。 主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

クラスごと異世界に召喚されたんだけど別ルートで転移した俺は気の合う女子たちととある目的のために冒険者生活 勇者が困っていようが助けてやらない

枕崎 削節
ファンタジー
安西タクミ18歳、事情があって他の生徒よりも2年遅れで某高校の1学年に学期の途中で編入することになった。ところが編入初日に一歩教室に足を踏み入れた途端に部屋全体が白い光に包まれる。 「おい、このクソ神! 日本に戻ってきて2週間しか経ってないのにまた召喚かよ! いくらんでも人使いが荒すぎるぞ!」 とまあ文句を言ってみたものの、彼は否応なく異世界に飛ばされる。だがその途中でタクミだけが見慣れた神様のいる場所に途中下車して今回の召喚の目的を知る。実は過去2回の異世界召喚はあくまでもタクミを鍛えるための修行の一環であって、実は3度目の今回こそが本来彼が果たすべき使命だった。 単なる召喚と思いきや、その裏には宇宙規模の侵略が潜んでおり、タクミは地球の未来を守るために3度目の異世界行きを余儀なくされる。 自己紹介もしないうちに召喚された彼と行動を共にしてくれるクラスメートはいるのだろうか? そして本当に地球の運命なんて大そうなモノが彼の肩に懸かっているという重圧を撥ね退けて使命を果たせるのか? 剣と魔法が何よりも物を言う世界で地球と銀河の運命を賭けた一大叙事詩がここからスタートする。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

処理中です...