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第五章

192 撤退中の侵入者たち

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「あともう少しだ! 走れ!」
「はぁはぁ、クソが」
「残ったジグルスさんたちが心配だ」
「あの四人はSランク冒険者なんだ。お前が気にしても仕方がないだろ!」
「もうすぐだ! あの角を曲がれば、門が見えるはずだ!」
「た、助かった。これで生き残れ……何だよこれ」

 撤退中の連中を追わせていたアサシンクロウが、そんな会話を耳にする。

 実際連中は、ゴール前に現れた第二アンデッド軍団を見て足を止めた。

「は、ははは……終わりだ」
「嘘だろ……」
「な、何でこんなことに」
「死にたくない!」
「お、俺には故郷で待つ妻と息子が……」
「い、生き残ったら結婚するんだ……幼馴染と約束したんだ!」

 あまりの絶望感から、口々に嘆きや生存しなければいけない理由を話す。

 だが、それも無意味だ。

「やれ」

 俺がそう口にした瞬間、第二アンデッド軍団と、ジョンたちが突撃していく。

「クソがぁあああ! こんなところで死ねるか!」
「に、にげるんだよぉ!!」
「待て! 戦えよ!」
「勝てるはずねえだろうが!」
「ウォ、ウォーターショット!」
「ウィンドカッター!」

 その場から逃げ出す者、勇敢にも戦う者、全てを諦めて立ち尽くす者。

 もはや、連携など取れる状況ではない。

 人型種族の恐ろしいところは、数と連携だ。

 その連携が無くなった今、それは戦いではなく、一方的な狩りへと変貌する。

「ウキィ!」

 ジョンの魔導銃が、敵を背後から撃ち抜いていく。

「ギギギ!」

 サンの緑斬リョクザンのウィンドソードが、上空からウィンドカッターを放ち敵を斬り刻む。

「ギャギャギャ!」

 トーンが骸木人を一気に開放して、敵を捕らえる。そして捕らえた敵は生きたまま、トーンの口へと運ばれていく。

「キュィイ!」

 最後にアロマが、傷ついた味方を回復させていった。敵味方を区別できる様々なアロマが広範囲に広がり、アンデッドだろうと関係なく癒していく。

 階層守護者だったスケルトンナイトも第二アンデッド軍団を上手く指揮して、敵を次々と撃破していった。

「圧倒的だな、我が軍は」
 
 そう言いたくなるほどの展開が、目の前で繰り広げられている。

 結果的に、俺が出る幕は無かった……いや。そうでもなさそうか。

 するとスキルで完全に姿を消していたのか、一人の男が現れて俺に襲い掛かる。

「死ねええ!! ――ッ!?」

 反射的に、双骨牙を抜いて男の首を斬り飛ばす。

 ふむ。やはり配下がいる時は戦闘こそできないようだが、向こうから襲ってきた場合はその限りではなく、反撃するのは大丈夫なようだ。

 俺は事切れた男の骨を双骨牙に喰わせ、残りを捨て置く。

 この男が近づいてきていることは、生命感知で気がついていた。

 他の配下には、あえて通させたのである。

 結果として、反撃ならば可能ということを知ることができた。

 もちろん反撃が出来ない場合には、回避して他の対処方法を試していたので問題はない。

 そうして残った敵連中も、配下たちが残さず始末した。

 生命感知を少しずつ広げて確かめてみたが、敵の反応はない。 
 
 これで、今回の守護者の役目は終えたと考えてもいいだろう。

『ジン君、本当にお疲れ様。挑戦者の亡骸はダンジョンが吸収しちゃうから、必要な物があったら先に抜き取っておいてね』
『ああ、分かった』

 そう言われたので、配下に命じて侵入者の装備品や所持品などを集めさせる。

 ちなみに城門前の侵入者の亡骸は、既にダンジョンに吸収されていた。

 まあ、これもダンジョンではあたり前過ぎて、伝るのを忘れていたのだろう。

 あの四人組は溶岩で元々溶けており、装備品が手に入らなかったのでそこまでの痛手はない。
 
 それと連中の装備はだいたいが統一されていることから、どこかの軍だったようだ。

 他国の軍装備は、あまり使いたくはないな。

 その国の所属と思われては、たまったものではない。

 だがまぁ、スケルトンナイトに装備させるなら、大丈夫か?

 アンデッドが装備していれば、相手もその国の所属とは考えないかもしれない。

 加えて装備の質的には、侵入者の物の方が良さそうだ。

 そう思いスケルトンナイトに装備を変えるように言ったのだが、結果として無駄に終わる。

 どうやらスケルトンナイトの装備は、体の一部らしい。

 なので質がよくても変えてしまえば、弱体化するようだ。

 ちなみにスケルトンナイトの装備を他の者が使うと、その装備は一気に朽ちていくという。

 なるほど。であれば倒したアンデッドの装備を再利用することも、難しそうだ。

 それで結局のところスケルトンナイトに装備ができないとなれば、ハイスケルトンにでも渡すか?

 いや、ハイスケルトンを武装しても、たかが知れている。

 数も多い上位種を、普通に使った方がいいだろう。

 ならこの装備は、そこまでの数はいらないな。

 最終的にある程度の数をストレージに確保すると、残りはダンジョンに吸収させることにした。

 俺が守護者になったことで色々コストがかかっているみたいだし、ダンジョンに吸収させた方が、後々楽になる気がする。

 あと装備といえば、大盾もいくつか見つけていた。

 トーンの現在の品より良い物なので渡そうとしたのだが、どうやら必要無いらしい。

 大盾は木材が多く使われていることに、意味があるみたいだ。

 つまり鉄や何らかの金属で作られた大盾は、相性が悪いのだろう。

 この大盾だと、体の一部だと誤認させる事ができないのだと思われる。

 そうしてあとは、侵入者各個人が持つ珍しそうなものを適当に集めて、収納しておく。

 これは時間があるときに、確認しよう。

 さて、回収作業はこれでいいとして、問題は外で捕まえた連中だな。

 女王は一度挑戦者となった者と対話することは出来ないと、そう言っていた。
 
 であればダンジョンの外で捕まえた者であれば、対話も可能かもしれない。

 実際ダンジョン挑戦前の俺自身が、対話により守護者になったので問題はないだろう。

 だがそうだとしても、俺はそこまで平和ボケした訳ではない。

 一度敵対した連中を、余程の理由も無く仲間に引き入れるのは反対だ。

 向こうには帰る場所もあるし、忠誠を誓っている相手もいるだろう。

 何かしらの契約で縛ったとしても、リスクが大きい。

 あくまで俺がしたいのは、情報の収集である。

 その事について女王に相談すると、思った通り侵入者の勢力を引き込むのは反対らしい。

 過去に似たようなことをして、痛い目に遭っているみたいだ。

 俺を守護者にしたのは、様々な条件が重なった上での例外的な事らしい。
 
 また城には一応牢屋もあるが、敵対した部外者をそもそも城には入れたくはないみたいだ。

 なので話し合いの結果、表の城下町にある牢やに収監することになった。

 加えて、収監する人数も五人までとなる。

 まあ、数が多いと面倒な事になる可能性が上昇しそうだし、それは構わない。

 俺は外のアサシンクロウを介して、選別を行う。

 結果として貴族っぽい者、装備からして隊長のような男、医者と思われる老人、身なりのよさそうな者、適当に選んだ男。この五人を選ぶ。

 残りは眠った状態のまま、なるべく苦しまないように始末した。

 そして捕まえた五人は、復活したドヴォールとザグール、それとメイドのシャーリーが移送してくれるらしい。

 テントや残りの死体についても、ドヴォールたちが対処するみたいだ。

 なので俺は、外に残していた配下たちを撤収させる。
 
 周囲には敵はいなかったみたいなので、大丈夫だろう。

 そうしてドヴォールたちがやってきたのを確認してから、外を見張るためのアサシンクロウを残し、他の配下たちをカードに戻す。

 そしてすぐに、レフを俺の側へと再召喚する。

「にゃん!」

 色々満喫したようなので、レフはかなりご機嫌だった。

 さて、俺のできることはここまでだろう。
 
 ダンジョン内の配下たちをカードへと戻すと、俺とレフは近くにある出入口の魔法陣に乗る。

 この魔法陣で外には出れないが、ダンジョン内の魔法陣ならほぼどこでも移動が可能だ。

 なおダンジョンの外から入ってすぐの小部屋は、外という扱いになっている。

 俺が最初にドヴォールたちと出会った、あの出入り口から行ける小部屋のことだ。

 なのでそこには、転移ができない。

 それ以外であれば、守護者になったことで移動制限がほぼ無くなっている。

 ほぼなのは女王だけが行ける場所や、宝物庫など特別な場所があるからだ。

 女王の許可があればその時に限り、俺でも行けるらしい。

 ちなみに侵入者たちと戦うために移動した城門の前には、城の魔法陣から移動した感じだ。

 本来は旗を四つ揃えて城門の前に突き刺すと、魔法陣が現れるらしい。

 突き刺す場所も、ちゃんと用意されている。

 凝った仕掛けだが、守護者が移動する分には関係ない。

 魔法陣のある場所へと、普通に移動ができた。

 また城門前の魔法陣は旗を突き刺す関係上、普段は見えなくなっている。

 だが場所さえ覚えていれば、守護者であれば問題なく使えるようだった。

 魔法陣の事だけでも、覚えることは結構ある。

 ここに来たばかりなので、今後も色々と覚えることが多そうだ。

 忘れないように、あとでメモでもとっておくことにしよう。

 そうして三十秒経過した後、俺は表の城へと帰還するのだった。

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