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第五章

165 アロマと過ごす時間

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 そびえ立つ塔を発見するには、少々時間がかかると思われる。

 なのでその間に、ロブントの持っていた物を確認することにした。

 まず目につくのは、立派な弓である。

 複数の青い鳥の羽を、モチーフにしたようなデザインだ。

 早速鑑定をしてみる。

 
 名称:追尾の瞬弓
 説明
 ・適性があれば装備中に限り、スキル【連射】【ホーミングアロー】をこの弓から発動できる。
 ・弓に矢をつがえる速度が上昇する。 
 ・この弓は時間経過と共に修復されていく。


 これは、中々凄いのではないのだろうか。

 適性は必要だが、弓系スキルを二つも発動することができる。

 俺は全装備適性があるので、使うことが可能だ。

 遠距離攻撃が不足しているし、弓なら味方のモンスターを見ながら扱える。

 案外これは、良い掘り出し物かもしれない。

 近いうちに使ってみよう。

 それと緑斬リョクザンのウィンドソードと効果タイプは似ているが、この弓の方が希少度は下だろう。

 理由は効果を見れば、よく分かる。

 
 名称:緑斬リョクザンのウィンドソード
 説明
 ・装備中に限りスキル【ウィンド】【ウィンドカッター】をこの武器から発動できる。
 ・この武器は時間経過と共に修復されていく。


 一見効果は追尾の瞬弓の方が数が多く優秀に見えるが、それは違う。

 緑斬リョクザンのウィンドソードの効果は、適性が無くとも使用できるのだ。

 俺には関係ないが、一般的にこの差は大きい。

 しかしだからといって、追尾の瞬弓の価値が低い訳ではないだろう。

 ロブントの持ち物で他に価値のあるものは、これくらいしかなかった。


 名称:収納の矢筒
 説明
 ・魔力を込めることで、矢を収納することができる。
 ・容量は使用者の魔力総量によって決まる。
 ・この矢筒は腰と背中に自動着脱できる。
 ・この矢筒は時間経過と共に修復されていく。


 他はどこにでもあるような、店売りのものである。

 おそらくだがこの二つを手に入れるために、かなりの金銭を使用したのではないだろうか?

 効果付きの装飾品が、他に一つもない。

 もしかしたら、この弓と矢筒を買うために売った可能性もある。

 ランクBなら結構稼いでいそうな気がするが、様々な支出があるのだろう。

 それに俺とは違い二重取りは無いし、金銭はパーティで山分けとなる。

 加えて酒や女に金銭を頻繁に使っていた場合、あまり貯金はできない。

 その結果、弓と矢筒以外は微妙な品なのだろう。

 仲間を呼ばずに単独で俺を襲ったのも、装備や金銭、手柄などを独占できるからだ。

 またサモナーがタイミングよく、モンスターを送還したから咄嗟とっさにチャンスだと動いてしまったらしい。

 思っていたよりも、俗物的な人物である。

 この大陸で遭遇した他国の人物=敵というのは、基本的な条件に過ぎないようだ。

 後半色々訊いていた時に、そんなことをロブントは考えていたので間違いない。 

 ちなみにロブントは既に連射のスキルを習得していた事から、この弓を手に入れたのは最近なのだろう。

 スキルが重複しても手に入れたのはそれだけ質が良く、ホーミングアローが優秀なのだと思われる。

 これは、試してみる時が楽しみだ。

 ◆

 まだ時間があるので、俺はアロマと向き合う時間を設けることにした。

 そのためレフには、一時的に退場してもらう。

 最初はカードに戻そうとしたが、やはり抵抗した。

 なので仕方なく適当な廃村に瞬間転移で送り、時間を潰してもらう。

 何気に、レフを単独でどこかに放つことは初めてかもしれない。

 これに対してもレフは嫌がったが、カードに戻るかの二択を迫ったところ、渋々承諾したのである。

 そうしてレフがいなくなり、アロマと一対一の状況になった。

 部屋に置いてあるリトルトレントは、自我が全く無いレベルなので気にしなくてもいいだろう。

 そして準備も整ったので、アロマを召喚した。

「きゅぃ……」

 現れたアロマは、トラウマでまともに戦えなかったことを怒られるとでも思ったのか、少しビクビクしている。

 だが当然、俺はそれを指摘するつもりはない。

 逆にこうなってしまった原因を作ってしまったことに対し、申し訳ない気持ちである。

 こういうことは初めてなので、どのように切り出していいのか俺も迷ってしまう。

 けれども黙っていればいるほど、アロマを不安な気持ちにさせてしまう事は間違いない。

 なので俺は軽く声をかけて、世間話をするかのように話し出す。

「そんなにビクビクしなくてもいい。別に指摘したいわけじゃない。それよりも、この部屋を見てくれ。過ごしやすそうな、立派な拠点だろ?」
「きゅぃ?」

 俺がそう話し出すものだから、アロマは困惑しながらも小さく鳴く。

 ただ怒られないという事が分かっただけでも、多少は緊張をほぐせたようだ。

「特にこの暖炉がお気に入りで、ソファに座りながら火を見ていると落ち着くぞ。アロマもどうだ?」

 そう言って薪を出し、暖炉に火をつける。パチパチと音を奏でながら踊る火を見ていると、心が落ち着く。

 野生動物のウサギは火を恐れるかもしれないが、モンスターであるアロマは違うみたいだ。

 何も言わず、暖炉の火を見つめている。

 俺はそれを確認すると、ゆっくりとアロマを抱き上げ、そのままソファへと座った。

 グローブを外し、膝の上に乗せたアロマを撫でる。

「きゅぃ」

 何も言わずに撫でていると、アロマは気持ち良さそうに鳴いた。

 次第に緊張もほぐれてきたのか、俺に身を任せる。

 下手に何か言うよりは、こうして一緒にいる方が効果的だと思った。

 トラウマについて俺がアドバイスしても、アロマには重圧になるだろう。

 それに俺とアロマでは、根本的に性格が違っている。 

 戦闘の恐怖感について、俺がアロマを理解するのは難しい。

 加えてアロマも自身で、何をどうすればいいのか自問自答して、ある程度の答えは出ているみたいだ。

 であればアロマが答えを出してそれに辿り着く日まで、俺はこうして見守るのが最善だろう。

 またアロマは、仲間の力になりたいと考えているようだった。

 故に戦闘に参加することはやめないし、怯えながらも奮闘ふんとうしている。

 戦闘から距離を置いた完全サポート役になる道もあるが、どうやらそれは嫌なようだ。

 アロマには、アロマの考えがある。

 ならそれを尊重して、これからもジョンたちとパーティを組ませようと思う。

 アロマならきっと、大丈夫なはずだ。

 トラウマを克服こくふくして、より活躍してくれることを信じている。

 そうしてゆっくりとした時間が過ぎ、合間ストレージからニンジンを出してスティック状にしたそれを、アロマに与えた。

 やはりウサギだからか、アロマはニンジンを美味しそうにポリポリ食べる。

 なおニンジンはストレージなら腐ることはないので、時間があったときに買っていたものだ。

 加えて次に、廃墟街の屋敷で見つけたブラシを取り出す。 

 生活魔法で直すと立派な物であり、手触りも良い。

 それでアロマをブラッシングしてやると、とても喜んだ。

 たまにはこうして、モンスターと一対一で過ごすのも良いものだな。

 時間があればアロマ以外のモンスターとも、交友を深めてみようと思う。

 なんだかこれは、とても重要なことな気がした。

 ◆

 それからアロマと過ごす時間を終えて送還した俺は、現在一人で拠点にシンクを作っている。

 設置個所は、暖炉側にある調理用のテーブルを置いたすぐ隣だ。

 土塊で形を整え魔力を込めることで、石のように硬く表面がツルツルとしたシンクが出来上がる。

 当然排水溝について気になると思われるが、そこは既に開通していた。

 実は拠点から西に進むと、大きな亀裂きれつがある。

 とても深く、排水をするにはピッタリだった。

 生き物もいないし、排水して困る者はいない。

 念のため亀裂の中を調査させたが、モンスターは皆無だった。

 そして亀裂へと穴を繋げ、土塊でコーティングを施すことで排水溝へと変えた感じである。

 あとは穴の上にシンクを作り、排水溝を土塊のパイプで繋げれば完成だ。

 ちなみにパイプは、よく見るS字にカーブさせておく。

 悪臭や小さい生き物が入ってくることは無いと思われるが、念のためだ。
 
 そして最後に生活魔法の飲水を発動させて、水が排水するか確認してみる。

 水はパイプを通り、流れていく。次に亀裂に待機させているモンスターの視界を共有すると、問題なく水は亀裂の奥底へと排水された。

 よし、これでシンクの問題は解決だな。 

 まあ、正直あまりシンクを使うことはないと思うが、拠点としての完成度は上がったので良しとする。

 そうしてシンクが無事に完成すると、単独行動をさせたレフのことを思い出す。

 時間も経っているし、そろそろ外へ放り出したレフを迎えに行くか。

 俺はレフの居場所を意識すると、そのまま召喚転移を発動させるのだった。
 
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