上 下
168 / 203
第五章

164 捕らえた男から情報収集

しおりを挟む

 屋根の崩落した民家に入ると、男はトーンの下敷きとなり気絶している。

 骨や内臓にダメージがいっていると思われるが、死んではいないみたいだ。

 この大陸にやってきた冒険者だけに、身体能力は高そうである。

 それとまるで、トーンの苗床になったように見えなくもない。

 動きを完全に封じているのか、仰向けで胸から下はトーンの根に覆われている。

 おそらく目が覚めても、簡単には身動きを取れないだろう。

 そんなことを思いながら、まずは男に鑑定を発動してみる。


 名称:ロブント
 種族:人族
 年齢:34
 性別:男
 スキル
【弓適性】【気配感知】【隠密】
【アロー】【連射】【不意打ち】
【忍び足】【投擲】【中級開錠】
【中級罠解除】【疾走】
【毒耐性(小)】【パワーアロー】


 凄いな。かなり多彩な男だ。

 これまで鑑定した冒険者の中では、群を抜いて優秀だろう。

 冒険者としてのランクも、高そうである。

 とりあえず、気絶しているならちょうどいい。まずは場所を移そう。

 このロブントという男の仲間が、近いうちにここへやって来る。

 俺はそう思い、ロブントを連れて召喚転移で移動した。

 そして場所は、廃墟街の一室。

 ロブントの衣服以外をストレージに収納して、適当に直した椅子に座らせた上で縛り上げる。

 一応念のため、死なない程度に生活魔法の治療で治しておく。

 あとはサモナーだと思われているはずなので、既に見られているであろうサンとジョンを召喚した。

 ちなみにトーンはこの部屋だと大きすぎて邪魔になるし、アロマの威圧感は皆無なので現状召喚は止めておく。

 レフはいつも通り、俺の横でお座りして待機状態だ。

 続いて、以心伝心+で精神を無理やりつなげる。

 これで、相手の心の声は俺に駄々漏れになるはずだ。
 
 以心伝心+で精神を繋げる瞬間こそが、一番何かしたと気がつく可能性が高い。

 だがそれも気絶している間に行えば、回避できる。

 一度精神を繋げてしまえば、違和感を覚える事もないはずだ。 

 よし、準備もできたし、こいつを起こそう。

 そうして俺は、ロブントに生活魔法の飲水を顔面にぶっかけた。

 パシャりと勢いよく水を浴びたロブントは、その衝撃で意識を取り戻す。

「――ッ!? こ、ここは……くっ、俺は捕まったのか」

 ロブントは目を覚ますと、自身の置かれている状況をすぐに把握したようだ。

 苦虫を嚙み潰したような表情をすると、俺をにらむ。

「まず初めに訊こう、名前は何という?」
「……ロブントだ」

 一瞬迷ったみたいだが、正直に名前を名乗った。

 しかしロブントの脳内では、どのようにして自分がやられたのか、頭を悩ませている。
 
 またどうにかして逃げる方法を、必死に考えているみたいだ。

 今は少しでも情報を得るために、ある程度素直に答える気があるらしい。

 以心伝心+で繋げた精神から、ロブントの心の声がそんな感じで聞こえてきた。

「そうか、では次に所属を言ってもらおうか?」
「……ランクBの冒険者だ」

 なるほど。ゼーテス王国カラスス支部所属の、ランクB冒険者か。

「ふむ。どこの国から来た?」
「アーランド公国だ」

 これは嘘だな。アーランド公国は、以前国境門で繋がったことのある別の国らしい。

「この大陸に来た理由は?」
「国経由の調査依頼で来た。それよりも、お前は何者だ」

 調査は本当のようだ。この大陸の土地を手に入れるため、支配者とその配下を探しているようである。

 確か国境門で繋がった国同士は、戦いに勝利するか門が閉じるときにかなり優勢の場合、その土地を奪って自国に足すことができるのだったか。

 人型種族が支配している可能性が低いこの大陸の場合は、おそらく頂点に君臨しているモンスターか、その配下の大多数を倒せばいいのだろう。

 故にロブントは、仲間と共にこの大陸内を調査していたみたいだ。

「俺のことはどうでもいい。お前は質問に答えればいいだけだ」
「くっ……」

 ロブントは、自分が生きて帰れる可能性が低いと感じているようである。

 逃走を諦めてはいないが、正しい情報を与えるのは危険だと思い始めているようだ。

 まあ、嘘の情報を言ったところで、心の声が駄々漏れなので意味はないが。

「この大陸で、何か発見はあったか?」
「無い。アンデッドばかりで、村も街も荒れ果てているだけだ」

 ふむ。嘘は言っていないが、あることを隠している。

 どうやら、高くそびえ立つ塔を見つけているらしい。

 それも一定の距離に近づかなければ、発見できなかったようだ。

 蜃気楼しんきろうのように、突然目の前に現れたとのこと。

 場所もおおよその位置は分かったので、アサシンクロウに命じてその周辺に向かわせた。

 ちなみにその情報を持ち帰るための帰還中に、少しでも報酬を上げるため村を軽く偵察しに来ていたようだ。

 そこに運悪く、俺がいた訳である。

 ロブントも心の中で、そのことをなげいていた。

「なるほど。では、仲間はどうなんだ? まさか、お前ひとりという事はないだろ?」
「ッ――。確かに、パーティメンバーがいる」
「やはりそうか、であれば人数と名前、それぞれ何ができるか話せ」
「くっ、人数は――」

 当然ロブントの口から出た内容は、デタラメだ。

 しかし即興で内容を創作するには、参考のため仲間について意識せざるを得ない。

 結果として、ロブントの仲間については十分に知ることができた。

 まあ今後偶然遭遇した際には、この情報を活用させてもらおう。

 嬉々として人を襲うほど、俺はヒャッハーしていない。

 けれども向こうから敵対してきた場合には、その限りではないが。

 それからいくつか質問を繰り返し、訊きたいことは全て把握した。

 なお俺を攻撃した理由は、概ね予想していた通りのようだ。

 この大陸で他国の者は、基本的に敵らしい。

 なのでチャンスがあれば、仕留めることが推奨されているようだった。

 まあ他国の者はこの大陸の土地を狙うライバルであるし、向こうも同様の考えが多いのだと思われる。

 故に、やられる前にやれということだろう。

 俺に攻撃をしたのも、そうした理由からきている。

 さて、訊きたいことはもう訊いたし、これでこの男はもう用済みになった。

 生かしていても利点は無いし、そもそも俺を殺そうとした男である。

 冒険者といっても、盗賊と違いはないだろう。

 であれば、答えは決まっている。

 俺は男の背後に、トーンを召喚した。

 この部屋の天井は既に無く、上の階と繋がっているので高さは問題ない。

 少し狭くなったが、なんとか許容範囲だ。

 そしてトーンの根が、ロブントに絡み付く。

「ひぃ!? くそがっ! やっぱりこうなるのかよ!」

 ロブントは暴れるが、抜け出すことができない。

 そこでトーンが次にエナジードレインを発動させて、ロブントから生気を吸い始める。

 すぐに死に至るスキルではないので、ロブントは終始暴言を吐きながら抗い続けた。

 だが次第に弱っていき、最後は骨と皮になって息を引き取る。

 ミイラと化したロブントの死体が、この場に残った。

 少々残酷な殺し方になったが、まあトーンの食事みたいなものと考えることにしよう。

 トーンの葉っぱがいつもよりも瑞々みずみずしく、生気に溢れているように見えた。
 
「――!!」

 トーンも、満足したみたいである。

 そして役目を終えたトーンたちをカードに戻したのだが、トーンのカードに変化は見られなかった。

 ランクBの冒険者を倒しても、進化には至らなかったみたいである。

 うーむ。やはり、パワーレベリング的な事は出来ないのだろう。

 無抵抗の強敵を倒したところで、ゲームのように経験値が大量に発生するシステムではないようだ。

 けれどもこれは、何となく分かっていた。

 戦闘の経験というのは、そう楽に得られるものではない。

 俺の直感スキルも、そう告げている。

 加えてモンスターの進化には、様々な要因があるはずだ。

 戦闘の経験だけではなく、個性の芽生えや俺との関係性が重要な気がする。

 故に例えFランクのモンスターに命じて、無抵抗のAランクモンスターを何度か倒させたとしても、簡単に進化することはないだろう。

 なのでパワーレベリングでモンスターを大量進化というのは、現実的ではない。

 俺のカード召喚術はゲームのようではあるが、ゲームのように経験値取得からのレベルアップ、進化というシンプルなシステムではないのだろう。

 けれども例え仮にできたとしても、心情的に何となく腑に落ちないので、逆にできなくて良かったとも言える。

 パワーレベリングが出来てしまえば、俺のモチベーションが下がった可能性があった。

 やはり最強の軍団への道は、基本的にはコツコツと積み上げていきたい。

 これは、俺にとっての生きがいでもある。

 モンスターが進化する時の高揚と緊張も、手間がかかるからこそするというものだ。

 それに、トーンは元々進化が近い。

 訊き出した聳え立つ塔に行ってみれば、進化に至る経験を積める可能性がある。

 加えて進化に大事なのは、その戦闘で何を得られたかということだろう。

 もちろん強敵との戦いを乗り越えるほど、得られるものは大きいと思われる。

 であれば片手間で可能なザコ狩りは、ほとんど意味はない。

 ずっと側にいるレフが未だに進化できないのは、ランクの高さもあるが、これが原因なのだろう。

 けれどもレフは、リードとの決勝戦、俺との融合後のツクロダ戦、スパークタイガーやバーニングライノス戦、ボンバー戦でのアシストなど、経験は豊富だ。

 それを考えると、レフの進化も案外遠くはないのかもしれない。

 逆にBランクというのは、それだけ進化が大変という事だろう。

 これはレフや高ランクのモンスターの育て方も、今後はより考える必要があるな。

 今回は情報収集とまた一つ、カード召喚術について理解を深められた。

 不意の遭遇ではあったが、これは良い結果と言えるだろう。

 人との関わりを避けすぎるというのも、もしかしたら良くないのかもしれないな。

 俺は何となくそう思いながら、一度拠点へと帰還するのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学
ファンタジー
 馬鹿の巻き添えで異世界へ、召喚した神様は予定外だと魔法も授けずにテイマー神に丸投げ。テイマー神もやる気無しで、最低限のことを伝えて地上に降ろされた。  テイマーとしての能力は最低の1だが、頼りは二柱の神の加護だけと思ったら、テイマーの能力にも加護が付いていた。  無責任に放り出された俺は、何時か帰れることを願って生き延びることに専念することに。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

夜明けには程遠い【完結】

米派
BL
古くから、人と魔族は大陸の支配者になろうと争い続けてきた。勇者の剣に選ばれたことで泥沼化した戦争に巻き込まれ、ただの高校生が役目から逃げられなくなる話。 復讐者×剣に選ばれてしまった高校生がメインです。 途中で、主従の脇CPのお話が入ります。 ※所々、倫理観を捨てている部分がありますので、ご注意ください。立場上、主人公が人を殺す場面があります。 こちらは他サイトにも置いてあります。

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

処理中です...