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第五章
164 捕らえた男から情報収集
しおりを挟む屋根の崩落した民家に入ると、男はトーンの下敷きとなり気絶している。
骨や内臓にダメージがいっていると思われるが、死んではいないみたいだ。
この大陸にやってきた冒険者だけに、身体能力は高そうである。
それとまるで、トーンの苗床になったように見えなくもない。
動きを完全に封じているのか、仰向けで胸から下はトーンの根に覆われている。
おそらく目が覚めても、簡単には身動きを取れないだろう。
そんなことを思いながら、まずは男に鑑定を発動してみる。
名称:ロブント
種族:人族
年齢:34
性別:男
スキル
【弓適性】【気配感知】【隠密】
【アロー】【連射】【不意打ち】
【忍び足】【投擲】【中級開錠】
【中級罠解除】【疾走】
【毒耐性(小)】【パワーアロー】
凄いな。かなり多彩な男だ。
これまで鑑定した冒険者の中では、群を抜いて優秀だろう。
冒険者としてのランクも、高そうである。
とりあえず、気絶しているならちょうどいい。まずは場所を移そう。
このロブントという男の仲間が、近いうちにここへやって来る。
俺はそう思い、ロブントを連れて召喚転移で移動した。
そして場所は、廃墟街の一室。
ロブントの衣服以外をストレージに収納して、適当に直した椅子に座らせた上で縛り上げる。
一応念のため、死なない程度に生活魔法の治療で治しておく。
あとはサモナーだと思われているはずなので、既に見られているであろうサンとジョンを召喚した。
ちなみにトーンはこの部屋だと大きすぎて邪魔になるし、アロマの威圧感は皆無なので現状召喚は止めておく。
レフはいつも通り、俺の横でお座りして待機状態だ。
続いて、以心伝心+で精神を無理やりつなげる。
これで、相手の心の声は俺に駄々漏れになるはずだ。
以心伝心+で精神を繋げる瞬間こそが、一番何かしたと気がつく可能性が高い。
だがそれも気絶している間に行えば、回避できる。
一度精神を繋げてしまえば、違和感を覚える事もないはずだ。
よし、準備もできたし、こいつを起こそう。
そうして俺は、ロブントに生活魔法の飲水を顔面にぶっかけた。
パシャりと勢いよく水を浴びたロブントは、その衝撃で意識を取り戻す。
「――ッ!? こ、ここは……くっ、俺は捕まったのか」
ロブントは目を覚ますと、自身の置かれている状況をすぐに把握したようだ。
苦虫を嚙み潰したような表情をすると、俺を睨む。
「まず初めに訊こう、名前は何という?」
「……ロブントだ」
一瞬迷ったみたいだが、正直に名前を名乗った。
しかしロブントの脳内では、どのようにして自分がやられたのか、頭を悩ませている。
またどうにかして逃げる方法を、必死に考えているみたいだ。
今は少しでも情報を得るために、ある程度素直に答える気があるらしい。
以心伝心+で繋げた精神から、ロブントの心の声がそんな感じで聞こえてきた。
「そうか、では次に所属を言ってもらおうか?」
「……ランクBの冒険者だ」
なるほど。ゼーテス王国カラスス支部所属の、ランクB冒険者か。
「ふむ。どこの国から来た?」
「アーランド公国だ」
これは嘘だな。アーランド公国は、以前国境門で繋がったことのある別の国らしい。
「この大陸に来た理由は?」
「国経由の調査依頼で来た。それよりも、お前は何者だ」
調査は本当のようだ。この大陸の土地を手に入れるため、支配者とその配下を探しているようである。
確か国境門で繋がった国同士は、戦いに勝利するか門が閉じるときにかなり優勢の場合、その土地を奪って自国に足すことができるのだったか。
人型種族が支配している可能性が低いこの大陸の場合は、おそらく頂点に君臨しているモンスターか、その配下の大多数を倒せばいいのだろう。
故にロブントは、仲間と共にこの大陸内を調査していたみたいだ。
「俺のことはどうでもいい。お前は質問に答えればいいだけだ」
「くっ……」
ロブントは、自分が生きて帰れる可能性が低いと感じているようである。
逃走を諦めてはいないが、正しい情報を与えるのは危険だと思い始めているようだ。
まあ、嘘の情報を言ったところで、心の声が駄々漏れなので意味はないが。
「この大陸で、何か発見はあったか?」
「無い。アンデッドばかりで、村も街も荒れ果てているだけだ」
ふむ。嘘は言っていないが、あることを隠している。
どうやら、高く聳え立つ塔を見つけているらしい。
それも一定の距離に近づかなければ、発見できなかったようだ。
蜃気楼のように、突然目の前に現れたとのこと。
場所もおおよその位置は分かったので、アサシンクロウに命じてその周辺に向かわせた。
ちなみにその情報を持ち帰るための帰還中に、少しでも報酬を上げるため村を軽く偵察しに来ていたようだ。
そこに運悪く、俺がいた訳である。
ロブントも心の中で、そのことを嘆いていた。
「なるほど。では、仲間はどうなんだ? まさか、お前ひとりという事はないだろ?」
「ッ――。確かに、パーティメンバーがいる」
「やはりそうか、であれば人数と名前、それぞれ何ができるか話せ」
「くっ、人数は――」
当然ロブントの口から出た内容は、デタラメだ。
しかし即興で内容を創作するには、参考のため仲間について意識せざるを得ない。
結果として、ロブントの仲間については十分に知ることができた。
まあ今後偶然遭遇した際には、この情報を活用させてもらおう。
嬉々として人を襲うほど、俺はヒャッハーしていない。
けれども向こうから敵対してきた場合には、その限りではないが。
それからいくつか質問を繰り返し、訊きたいことは全て把握した。
なお俺を攻撃した理由は、概ね予想していた通りのようだ。
この大陸で他国の者は、基本的に敵らしい。
なのでチャンスがあれば、仕留めることが推奨されているようだった。
まあ他国の者はこの大陸の土地を狙うライバルであるし、向こうも同様の考えが多いのだと思われる。
故に、やられる前にやれということだろう。
俺に攻撃をしたのも、そうした理由からきている。
さて、訊きたいことはもう訊いたし、これでこの男はもう用済みになった。
生かしていても利点は無いし、そもそも俺を殺そうとした男である。
冒険者といっても、盗賊と違いはないだろう。
であれば、答えは決まっている。
俺は男の背後に、トーンを召喚した。
この部屋の天井は既に無く、上の階と繋がっているので高さは問題ない。
少し狭くなったが、なんとか許容範囲だ。
そしてトーンの根が、ロブントに絡み付く。
「ひぃ!? くそがっ! やっぱりこうなるのかよ!」
ロブントは暴れるが、抜け出すことができない。
そこでトーンが次にエナジードレインを発動させて、ロブントから生気を吸い始める。
すぐに死に至るスキルではないので、ロブントは終始暴言を吐きながら抗い続けた。
だが次第に弱っていき、最後は骨と皮になって息を引き取る。
ミイラと化したロブントの死体が、この場に残った。
少々残酷な殺し方になったが、まあトーンの食事みたいなものと考えることにしよう。
トーンの葉っぱがいつもよりも瑞々しく、生気に溢れているように見えた。
「――!!」
トーンも、満足したみたいである。
そして役目を終えたトーンたちをカードに戻したのだが、トーンのカードに変化は見られなかった。
ランクBの冒険者を倒しても、進化には至らなかったみたいである。
うーむ。やはり、パワーレベリング的な事は出来ないのだろう。
無抵抗の強敵を倒したところで、ゲームのように経験値が大量に発生するシステムではないようだ。
けれどもこれは、何となく分かっていた。
戦闘の経験というのは、そう楽に得られるものではない。
俺の直感スキルも、そう告げている。
加えてモンスターの進化には、様々な要因があるはずだ。
戦闘の経験だけではなく、個性の芽生えや俺との関係性が重要な気がする。
故に例えFランクのモンスターに命じて、無抵抗のAランクモンスターを何度か倒させたとしても、簡単に進化することはないだろう。
なのでパワーレベリングでモンスターを大量進化というのは、現実的ではない。
俺のカード召喚術はゲームのようではあるが、ゲームのように経験値取得からのレベルアップ、進化というシンプルなシステムではないのだろう。
けれども例え仮にできたとしても、心情的に何となく腑に落ちないので、逆にできなくて良かったとも言える。
パワーレベリングが出来てしまえば、俺のモチベーションが下がった可能性があった。
やはり最強の軍団への道は、基本的にはコツコツと積み上げていきたい。
これは、俺にとっての生きがいでもある。
モンスターが進化する時の高揚と緊張も、手間がかかるからこそするというものだ。
それに、トーンは元々進化が近い。
訊き出した聳え立つ塔に行ってみれば、進化に至る経験を積める可能性がある。
加えて進化に大事なのは、その戦闘で何を得られたかということだろう。
もちろん強敵との戦いを乗り越えるほど、得られるものは大きいと思われる。
であれば片手間で可能なザコ狩りは、ほとんど意味はない。
ずっと側にいるレフが未だに進化できないのは、ランクの高さもあるが、これが原因なのだろう。
けれどもレフは、リードとの決勝戦、俺との融合後のツクロダ戦、スパークタイガーやバーニングライノス戦、ボンバー戦でのアシストなど、経験は豊富だ。
それを考えると、レフの進化も案外遠くはないのかもしれない。
逆にBランクというのは、それだけ進化が大変という事だろう。
これはレフや高ランクのモンスターの育て方も、今後はより考える必要があるな。
今回は情報収集とまた一つ、カード召喚術について理解を深められた。
不意の遭遇ではあったが、これは良い結果と言えるだろう。
人との関わりを避けすぎるというのも、もしかしたら良くないのかもしれないな。
俺は何となくそう思いながら、一度拠点へと帰還するのであった。
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