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第五章

159 廃墟街での探索

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 廃墟となった街だが、意外と建物は風化していない。

 部分的に崩れている建物も多いが、入っても突然崩壊する様子は無かった。

 俺は縮小して猫サイズになったレフを連れて、建物の中を探索する。

 残りのネームドたちは、外で警戒させている感じだ。

 そうして探索を続けるが、ろくな物がない。

 壊れた家具や食器類ばかりで、価値のあるものは見つからなかった。

 他にはさびびた武具や、腐った食べ物ばかりである。

 本やメモといった情報が得られそうな物も、不思議なほど無かった。

 いくつか建物を回ってみたが、結果は変わらない。

 ならばとハイゾンビを召喚して、希少な物がある場所などを訊いてみる。

 だがどういう訳か、どの個体も知らないらしい。

 ゾンビにも訊いてみたが、同様だった。

 おそらくこの街には、本当に碌な物が無いのだろう。

 つまりは、探索するだけ無駄という訳である。

 もしかしたらゾンビたちが知らないだけで、実際には少しくらいはあるのかもしれない。

 けれどもこの広大な街の中を探し続けるのは、時間的な費用対効果が悪い気がする。

 なので希少で価値のある物を探すのは、ここら辺で一旦諦めよう。

 しかしそうした物よりも、探したいものは他にもある。
 
 それは、ダンジョンの場所についてだ。 

 故にダンジョンの場所について改めて訊いてみたのだが……結果はダメだった。

 どの個体も、ダンジョンについては知らないらしい。

 このサイズの街の付近にもダンジョンが無いとは、いったいどういう事だろうか。

 いや、全ての大きな街の付近にダンジョンがあるとは、限らないのかもしれない。

 これが何度も続けば問題だが、今回は運が悪かったとするしかないか。

 まだこの大陸に来て、一つ目の街だ。気長に行こう。

 であれば最後に強敵のいる場所について訊いてみたところ、こちらは無事に判明する。

 どうやら、領主の館にそいつがいるらしい。

 どのようなモンスターかまでは、知らないみたいだ。

 しかし領主の館からなんとなく、上位の存在を感じていたとのこと。

 何か同種にしか伝わらない、命令のようなものが飛んでいたのだろうか?

 上位種が下位種を従えることはよくあるので、その関連かもしれない。

 これは、色々と期待ができるな。

 俺はゾンビたちをカードに戻すと、早速そこへ向かうことにした。

 領主の館の場所は、既に判明している。

 おそらく街の中で、一番立派なあの建物だろう。

 俺はアンクをそこまで飛ばした後、召喚転移で移動した。

 そしてレフとアンクを連れて、領主の館に入る。

 なおネームドの何体かは自由に狩りへと向かわせ、一部はカードに戻した。

 俺の予想が正しければ、ちょうどいい感じになるだろう。

 そうして入った館の中は古ぼけており、様々なところが壊れているようだった。

 周囲には何匹かゾンビがおり、それらを蹴散けちらしながら進んでいく。

 ゾンビは正直臭いし、腐った血肉が飛び散る。

 見た目もグロテスクであり、当初は眉をひそめた。

 しかし何度も戦えば、慣れてくる。

 だがそれでも、進んでこいつらを使いたいとは、あまり思わなかった。

 故にゾンビをカード化しても、即座にカードごと抹消する。

 カード化は最早ここでは、周囲を綺麗にする手段でしかない。

 なのでこれから戦う上位存在が、どうか臭くないことを祈る。

 できれば腐っておらず、内臓むき出しは遠慮したい。

 今は麻痺しているが、それだと普段使いが難しくなるからだ。

 そう思いながら進み、ホールのような場所にくる。

 結果、期待は裏切られた。


 種族:ノーブルゾンビ
 種族特性
【生命探知】【闇属性適性】【闇属性耐性(小)】
【身体能力上昇(小)】【毒耐性(小)】【毒の息】
【シャドーネイル】【集団指揮】


 貴族服に身を包んではいるが、腐っており片目が飛び出ている。

 幸い内臓は貴族服で隠れているからか、見えてはいない。

 だがどう見ても臭そうだった。

 上位種だからカード化したいが、普段使いは難しいだろう。

 そう思いながらノーブルゾンビの周りを見ると、ハイゾンビを四体従えている。

 またスキル構成は多彩であり、近距離~中距離戦に加えて、指揮もできるみたいだ。

 おそらくランクとしては、Cだろう。

 これは、俺の予想の範疇はんちゅうだ。

 であれば少しきついだろうが、戦いはこいつらに任せよう。

「出てこい」

 俺はそう言って、ジョン・サン・トーン・アロマを召喚した。

 全体の数とトップのランクでは負けているが、勝てる可能性はある。
 
 まあ客観的にこちらの方が不利だが、これも良い戦闘経験になるはずだ。

 そんな風に思考を巡らせながら、俺は改めてジョンたちの能力を思い出す。

 
 種族:キャタピラーモンキー(ジョン)(D)
 種族特性
【糸吐き】【毒爪】
【自然治癒力上昇(小)】
【身体能力上昇(小)】

 エクストラ
【フュージョンモンスター】

 ◆

 種族:サン・デビルズサーヴァント(サン)(D)
 種族特性
【陽光再生】【闇光属性適性】
【闇光属性耐性(小)】【爪強化(小)】
【飛行】【生命探知】【マナドレイン】

 エクストラ
【フュージョンモンスター】

 ◆

 種族:トレント(トーン)(D)
 種族特性
【自然治癒力上昇(中)】【硬化】
【エナジードレイン】【身体操作上昇(小)】

 スキル
【樹液生成】【再生】

 ◆

 種族:アロマラビット(アロマ) (D)
 種族特性
【癒属性適性】【リラックスアロマ】
【ヒールアロマ】【リフレッシュアロマ】

 エクストラ
【ユニゾンモンスター】


 やはり決定打になるものや、状況をひっくり返すスキルは無い。

 このスキル構成でどこまで戦えるのか、俺やレフは手を出さずに見守ろう。

 俺らが手助けしてしまえば、こいつらの良い戦闘経験にはならない。

「ヴぉがあ!」

 そうして見守ることを決めると、早速相手がハイゾンビたちを差し向けてくる。

 戦いが始まった。

「――!」

 するとそれを見てトーンが前に立ち、枝や根で攻撃を仕掛けて注目を集め始める。

 ゾンビの群れと戦った時の経験から、そこに迷いはない。

 故にこれでパターンに入るかと思われたが、簡単にはいかなかった。

「ヴォがが!」

 ノーブルゾンビが吠えた途端、ハイゾンビたちがトーンを無視して回り込み始める。

「――!?」

 トーンは必死に止めようとするが、足が遅く振り切られてしまった。

「うきい!」

 抜けてきた四体のハイゾンビたちを止めるため、ジョンが糸を吐く。

 それにより一瞬動きを止めるが、ハイゾンビたちの身体能力は高い。

 瞬く間に、ジョンの糸を引きちぎってしまった。

 力だけで言えば、ハイゾンビたちはCランクに迫るのだ。

「ギギ!」
「ヴォゲェ!?」

 けれどもそこへサンが急襲を行い、一体の首を爪でねる。

 攻撃が綺麗に決まったこともあるが、そのハイゾンビは元々首の肉が半分欠損していた。

 故に頸椎けいついが見えており、首を刎ねる難易度が下がっていたのが要因だろう。
 
 だが所詮倒したのは一体であり、残りの三体は駆け続ける。

 そして、真っ先にアロマを狙いに行く。

 命令を下したノーブルゾンビは、後方にいるアロマがサポート系だと、見抜いていたのかもしれない。

「うきっ!」
「ギギギ!」

 当然アロマを守るために、ジョンとサンが止めに入った。

 だがそれでも全てを止められず、一体のハイゾンビがアロマへと迫る。

「きゅい!?」

 しかしここで逃げるか迎え撃つ必要があるのだが、なんとアロマは動揺して動きが遅れてしまう。

 普通のカード化したモンスターならある程度合理的に動くが、これは個を確立したモンスターによる一種の弊害へいがいかもしれない。

 そしてこの一瞬の動揺が、戦いでは命取りだ。

 アロマへと、ハイゾンビの手が伸びる。

 これで、アロマは脱落か……。そう、思われた直後だった。

「ヴォエ!?」

 アロマへと手が届く間際、ハイゾンビが突然引っ張られるようにして転倒する。

 よく見れば、ハイゾンビの片足には根が巻きついていた。

 どうやら、トーンが間に合ったらしい。

 これで形勢逆転だ。そう思ったのだが……。

「ヴォェエエ!」

 ノーブルゾンビがそれを見て、紫色の煙を吐き出した。

 おそらく、種族特性にあった毒の息だろう。

 それは瞬く間に、ジョンたちを包み込む。
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