151 / 240
第四章
148 ユグドラシルの要求
しおりを挟む目の前の小さな少女がユグドラシルというのには驚きだが、その話は聞くだけの価値はありそうだ。
現状こちらとしても、どのように対処するべきか困っている。
故に向こうから語りかけてきたことは、正に渡りに船だ。
「なるほど。わかった。その話とやらを聞こう」
なので俺は、そう言ってユグドラシルの話を聞くことにした。
「まず最初に、お母様との約束を破ったことについてですが、条件次第では許します!」
約束か。ユグドラシルもその事を理解していたみたいだ。
破ったのはこちらだし、その条件とやらは内容次第で聞いてもいい。
もしかしたら、この身体の重みも消える可能性がある。
だがそのことを、相手に知られるわけにはいかない。
「こちらの力が強すぎた結果、約束を破ってしまったのは事実だ。理不尽な内容でなければ、聞く余地はある。
だがそちらも知っている通り、やろうと思えばユグドラシルを破壊しつくせることを忘れないでくれ」
悪いのは100%俺だが、ここは強気に出る。
でなければ、何を要求されるか分かったものではない。
「っ……わ、分かりました。こちらの要求は次の通りです」
そう言ってユグドラシルが提示した要求は、このような感じだった。
1.ユグドラシルに危害を加えない。
2.ユグドラシルを狙うものに力を貸さない。
3.現在ユグドラシルが使用している国境門を譲る。
4.国境門を固定化しているエルオを始末する。
5.転移者ルフルフを殺さない。
6.失った箇所を再生させるための養分を、できる限り差し出す。
7.襲ってくる者から身を守るため、手駒となるモンスターをいくつか差し出す。
これでも妥協したのかもしれないが、いくつか調整する必要があるな。
まず一つ目は、俺にも危害を加えないこととした。
こちらが手出しできないのに、向こうが好き放題し始めたらたまったものではない。
そして二つ目は、”故意に”という部分を付け足す。
知らない間に力を貸しており、それで約束を破った扱いにされたら大変だ。
次に三つ目は、特に問題ないだろう。
あの国境門を使用しなくても、別の国境門を使えばいい。
それと四つ目のエルオの始末だが、これは戦闘に無事発展した場合、始末することを努力するとした。
なんらかの理由で逃げ切られた場合、面倒な事になるからだ。
また五つ目もこちらから襲う事はしないが、向こうから襲ってきた場合、やむを得ず殺害する可能性があると付け加える。
そして六つ目は、これまで溜め込んできたモンスターの死骸をほぼ全て出すことにした。
モンスターの死骸は、また集めればいい。
最後に手駒だが、ユグドラシルは俺がモンスターを召喚できることを知っていたみたいだ。
まあユグドラシルに辿り着くまでに、フェアリーなどをカード化して召喚していたのを見ていたのだろう。
最終的に交渉の結果、Cランク以上のモンスターを50体差し出す事で、こちらの調整も受け入れてもらった。
またこちらの能力について、一切喋らないことも約束させる。
ここに別の転移者がいずれ、やって来る可能性も捨てきれない。
その時にバラされた結果、後々戦うことになった場合面倒なことになる。
転移者同士の戦いになった際に、相手の能力を知っているかどうかで結果は大きく変わるからな。
当然それはユグドラシルの能力を俺が喋らないことで、合意してくれた。
そして色々と説明した後に、カードを渡す。
俺が渡したCランクカードは、ジャイアントサーペント20枚、アプルトレント20枚、アサシンクロウ10枚の合計50枚である。
ちなみにフェアリーもCランクらしいが、フェアリーは受け取りを拒否された。
見知ったモンスターではなく、珍しい手駒が欲しかったとのこと。
これで多少戦力ダウンしてしまったが、ジャイアントサーペントとアプルトレントは残り30枚、アサシンクロウは60枚あるので問題ない。
それよりもユグドラシルに渡したモンスターを目印に、いずれ別の大陸から転移することが可能になった事の方がでかい。
今回も国境門の移動前に、誰かにカードを渡す必要があった。
候補は荒野の闇の面々か、ソイルバグを使役していたビム少年になっていただろう。
だが正直、どちらもカードを渡すほど信用できていなかった。
ユグドラシルも信用という面では微妙だが、約束は破らない気がする。
破った結果ゲヘナデモクレスがやって来ては、本末転倒だろう。
ユグドラシルにとって、ゲヘナデモクレスの攻撃はトラウマのようである。
交渉中も、どこかビクビクしていた。
それでもこちらに意見できるということは、何か切り札があるのだろう。
これは安易に手を出せば、痛い目に遭うかもしれない。
まあ約束をした以上、こちらから手を出す気はないが。
「あなたの神授スキルは凄いわね! まさか本当にくれるとは思わなかったわ。あのティニアでさえ、本人の近場じゃなきゃ貸し出せなかったのよ!」
そう言ってはしゃぐユグドラシルだが、もし俺が譲渡できなかった場合、いったいどうしたのだろうか。
おそらく、別の形で更なる要求をしていたことだろう。
もしかしたら、俺自身がしばらく手駒になる事を要求してきたかもしれない。
ゲヘナデモクレスに怯えているが、根はかなりしたたかな奴だ。
結果的に俺が償う形でかなり差し出したが、それで許されるだけマシなのかもしれない。
ユグドラシルからすれば、俺は約束を破り親を養分にせざるを得ない状況にした仇である。
どちらかが滅びるまで戦うという選択もありえた。
けれども感情よりも損得勘定の方が上回るくらいには、知恵が回るみたいだ。
「これでお母様と共に、安寧を享受できるわ」
「ん? エリシャは生きているのか?」
するとユグドラシルがそう言うので、思わず俺は問いかけた。
「ええ、お母様は私と一つになって、今も生きているわ。変わらず私に魔力を与えてくれるのよ。それに私と一つになったことで、寿命も関係なくなったわ。
なのに”主を喰らう者”というおかしな称号が与えられたのよ? 私はお母様を食べていないわ。私の体の一部になってもらっただけだもの。
お母様だって、きっと喜んでいるはずよ。自我はほとんど消えちゃったけど、多少は残っているし問題ないわ。
邪魔者だったティニアも消えたし、これでエルオが消えれば最高よ。それにお母様の親友であるルフルフも加われば、お母様も寂しくなくなるわ。これからは何千年、何万年といっしょに過ごすの」
これは……ヤバいやつに関わってしまったな。
正直俺がしたことについて、そこまで怒っていなかった可能性がある。
ユグドラシルからしても、渡りに船だったのでは?
だとすれば、エリシャへの罪悪感が半端ない。
どうにかして殺してやるのがエリシャの救いになるが、既に取引は完了している。
他の転移者が、ユグドラシルを滅ぼすことを願うしかない。
それとまだ会ったことはないが、ルフルフという自称ハイエルフもこいつは取り込む気だろう。
だから殺害しないことを、条件に出してきたと思われる。
しかしエルオを取り込まないことから、ユグドラシルにとって体の一部にするという事は特別なのだろう。
それと一応、ユグドラシルはこの妖精の森周辺から出る気は無いらしい。
養分も、国境門を通じて得るつもりのようだ。
だから同じ場所へと開き続けるのを、どうにかしたいのだろう。
そのために、エルオの始末を依頼してきたと思われる。
あとはエルフとダークエルフについてだが、攻撃してこない限り恩恵は与えるという。
これは、エリシャの望みでもあるそうだ。
何となく、数百年~数千年後にまだエルフがいれば、神として崇められていそうだな。
そうして後はエルオの始末についてだが、ユグドラシルがエルオの元へと転移してくれる。
エルオは太ったエルフであり、なぜか神輿で運ばれていた。
ちなみに運んでいるのは、エルフの女たちである。
ユグドラシルの暴走を見て、逃げている最中だった。
エルオは俺の登場に驚いていたが、神授スキルを発動する前にゲヘナデモクレスが呆気なく始末してしまう。
『転移者を殺害したことにより、20ポイント獲得しました』
『神授スキル【二重取り】が発動しました。追加で20ポイント獲得します』
そして残されたエルフの女たちは、散り散りに逃げていった。
ゲヘナデモクレスは始末するか訊いてきたが、それは止めておく。
エルオがやられた瞬間、エルフの女たちが笑みを浮かべていたからだ。
おそらくエルオに逆らえず、嫌々従っていたのだろう。
そんなことを思っていると、目の前にユグドラシルが現れた。
250
お気に入りに追加
1,575
あなたにおすすめの小説
クラスごと異世界に召喚されたんだけど別ルートで転移した俺は気の合う女子たちととある目的のために冒険者生活 勇者が困っていようが助けてやらない
枕崎 削節
ファンタジー
安西タクミ18歳、事情があって他の生徒よりも2年遅れで某高校の1学年に学期の途中で編入することになった。ところが編入初日に一歩教室に足を踏み入れた途端に部屋全体が白い光に包まれる。
「おい、このクソ神! 日本に戻ってきて2週間しか経ってないのにまた召喚かよ! いくらんでも人使いが荒すぎるぞ!」
とまあ文句を言ってみたものの、彼は否応なく異世界に飛ばされる。だがその途中でタクミだけが見慣れた神様のいる場所に途中下車して今回の召喚の目的を知る。実は過去2回の異世界召喚はあくまでもタクミを鍛えるための修行の一環であって、実は3度目の今回こそが本来彼が果たすべき使命だった。
単なる召喚と思いきや、その裏には宇宙規模の侵略が潜んでおり、タクミは地球の未来を守るために3度目の異世界行きを余儀なくされる。
自己紹介もしないうちに召喚された彼と行動を共にしてくれるクラスメートはいるのだろうか? そして本当に地球の運命なんて大そうなモノが彼の肩に懸かっているという重圧を撥ね退けて使命を果たせるのか?
剣と魔法が何よりも物を言う世界で地球と銀河の運命を賭けた一大叙事詩がここからスタートする。
家の猫がポーションとってきた。
熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。
ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。
瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。
始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達より強いジョブを手に入れて無双する!
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。
ネット小説やファンタジー小説が好きな少年、洲河 慱(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りに雑談をしていると突然魔法陣が現れて光に包まれて…
幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は【勇者】【賢者】【剣聖】【聖女】という素晴らしいジョブを手に入れたけど、僕はそれ以上のジョブと多彩なスキルを手に入れた。
王宮からは、過去の勇者パーティと同じジョブを持つ幼馴染達が世界を救うのが掟と言われた。
なら僕は、夢にまで見たこの異世界で好きに生きる事を選び、幼馴染達とは別に行動する事に決めた。
自分のジョブとスキルを駆使して無双する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?」で、慱が本来の力を手に入れた場合のもう1つのパラレルストーリー。
11月14日にHOT男性向け1位になりました。
応援、ありがとうございます!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる