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第四章

148 ユグドラシルの要求

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 目の前の小さな少女がユグドラシルというのには驚きだが、その話は聞くだけの価値はありそうだ。

 現状こちらとしても、どのように対処するべきか困っている。

 ゆえに向こうから語りかけてきたことは、正に渡りに船だ。

「なるほど。わかった。その話とやらを聞こう」

 なので俺は、そう言ってユグドラシルの話を聞くことにした。

「まず最初に、お母様との約束を破ったことについてですが、条件次第では許します!」

 約束か。ユグドラシルもその事を理解していたみたいだ。

 破ったのはこちらだし、その条件とやらは内容次第で聞いてもいい。

 もしかしたら、この身体の重みも消える可能性がある。

 だがそのことを、相手に知られるわけにはいかない。

「こちらの力が強すぎた結果、約束を破ってしまったのは事実だ。理不尽な内容でなければ、聞く余地はある。
 だがそちらも知っている通り、やろうと思えばユグドラシルを破壊しつくせることを忘れないでくれ」

 悪いのは100%俺だが、ここは強気に出る。

 でなければ、何を要求されるか分かったものではない。

「っ……わ、分かりました。こちらの要求は次の通りです」

 そう言ってユグドラシルが提示した要求は、このような感じだった。


1.ユグドラシルに危害を加えない。
2.ユグドラシルを狙うものに力を貸さない。
3.現在ユグドラシルが使用している国境門を譲る。
4.国境門を固定化しているエルオを始末する。
5.転移者ルフルフを殺さない。
6.失った箇所を再生させるための養分を、できる限り差し出す。
7.襲ってくる者から身を守るため、手駒となるモンスターをいくつか差し出す。


 これでも妥協したのかもしれないが、いくつか調整する必要があるな。

 まず一つ目は、俺にも危害を加えないこととした。

 こちらが手出しできないのに、向こうが好き放題し始めたらたまったものではない。

 そして二つ目は、”故意に”という部分を付け足す。

 知らない間に力を貸しており、それで約束を破った扱いにされたら大変だ。

 次に三つ目は、特に問題ないだろう。

 あの国境門を使用しなくても、別の国境門を使えばいい。

 それと四つ目のエルオの始末だが、これは戦闘に無事発展した場合、始末することを努力するとした。
 
 なんらかの理由で逃げ切られた場合、面倒な事になるからだ。

 また五つ目もこちらから襲う事はしないが、向こうから襲ってきた場合、やむを得ず殺害する可能性があると付け加える。

 そして六つ目は、これまで溜め込んできたモンスターの死骸をほぼ全て出すことにした。

 モンスターの死骸は、また集めればいい。

 最後に手駒だが、ユグドラシルは俺がモンスターを召喚できることを知っていたみたいだ。

 まあユグドラシルに辿り着くまでに、フェアリーなどをカード化して召喚していたのを見ていたのだろう。

 最終的に交渉の結果、Cランク以上のモンスターを50体差し出す事で、こちらの調整も受け入れてもらった。

 またこちらの能力について、一切喋らないことも約束させる。

 ここに別の転移者がいずれ、やって来る可能性も捨てきれない。

 その時にバラされた結果、後々戦うことになった場合面倒なことになる。

 転移者同士の戦いになった際に、相手の能力を知っているかどうかで結果は大きく変わるからな。

 当然それはユグドラシルの能力を俺が喋らないことで、合意してくれた。

 そして色々と説明した後に、カードを渡す。

 俺が渡したCランクカードは、ジャイアントサーペント20枚、アプルトレント20枚、アサシンクロウ10枚の合計50枚である。

 ちなみにフェアリーもCランクらしいが、フェアリーは受け取りを拒否された。

 見知ったモンスターではなく、珍しい手駒が欲しかったとのこと。

 これで多少戦力ダウンしてしまったが、ジャイアントサーペントとアプルトレントは残り30枚、アサシンクロウは60枚あるので問題ない。

 それよりもユグドラシルに渡したモンスターを目印に、いずれ別の大陸から転移することが可能になった事の方がでかい。

 今回も国境門の移動前に、誰かにカードを渡す必要があった。

 候補は荒野の闇の面々か、ソイルバグを使役していたビム少年になっていただろう。

 だが正直、どちらもカードを渡すほど信用できていなかった。

 ユグドラシルも信用という面では微妙だが、約束は破らない気がする。

 破った結果ゲヘナデモクレスがやって来ては、本末転倒だろう。

 ユグドラシルにとって、ゲヘナデモクレスの攻撃はトラウマのようである。

 交渉中も、どこかビクビクしていた。

 それでもこちらに意見できるということは、何か切り札があるのだろう。

 これは安易に手を出せば、痛い目に遭うかもしれない。

 まあ約束をした以上、こちらから手を出す気はないが。

「あなたの神授スキルは凄いわね! まさか本当にくれるとは思わなかったわ。あのティニアでさえ、本人の近場じゃなきゃ貸し出せなかったのよ!」

 そう言ってはしゃぐユグドラシルだが、もし俺が譲渡できなかった場合、いったいどうしたのだろうか。

 おそらく、別の形で更なる要求をしていたことだろう。

 もしかしたら、俺自身がしばらく手駒になる事を要求してきたかもしれない。

 ゲヘナデモクレスに怯えているが、根はかなりしたたかな奴だ。

 結果的に俺が償う形でかなり差し出したが、それで許されるだけマシなのかもしれない。

 ユグドラシルからすれば、俺は約束を破り親を養分にせざるを得ない状況にした仇である。

 どちらかが滅びるまで戦うという選択もありえた。

 けれども感情よりも損得勘定の方が上回るくらいには、知恵が回るみたいだ。

「これでお母様と共に、安寧あんねい享受きょうじゅできるわ」
「ん? エリシャは生きているのか?」

 するとユグドラシルがそう言うので、思わず俺は問いかけた。

「ええ、お母様は私と一つになって、今も生きているわ。変わらず私に魔力を与えてくれるのよ。それに私と一つになったことで、寿命も関係なくなったわ。
 なのに”主を喰らう者”というおかしな称号が与えられたのよ? 私はお母様を食べていないわ。私の体の一部になってもらっただけだもの。
 お母様だって、きっと喜んでいるはずよ。自我はほとんど消えちゃったけど、多少は残っているし問題ないわ。
 邪魔者だったティニアも消えたし、これでエルオが消えれば最高よ。それにお母様の親友であるルフルフも加われば、お母様も寂しくなくなるわ。これからは何千年、何万年といっしょに過ごすの」

 これは……ヤバいやつに関わってしまったな。

 正直俺がしたことについて、そこまで怒っていなかった可能性がある。

 ユグドラシルからしても、渡りに船だったのでは?

 だとすれば、エリシャへの罪悪感が半端ない。

 どうにかして殺してやるのがエリシャの救いになるが、既に取引は完了している。

 他の転移者が、ユグドラシルを滅ぼすことを願うしかない。
 
 それとまだ会ったことはないが、ルフルフという自称ハイエルフもこいつは取り込む気だろう。

 だから殺害しないことを、条件に出してきたと思われる。

 しかしエルオを取り込まないことから、ユグドラシルにとって体の一部にするという事は特別なのだろう。

 それと一応、ユグドラシルはこの妖精の森周辺から出る気は無いらしい。

 養分も、国境門を通じて得るつもりのようだ。

 だから同じ場所へと開き続けるのを、どうにかしたいのだろう。

 そのために、エルオの始末を依頼してきたと思われる。

 あとはエルフとダークエルフについてだが、攻撃してこない限り恩恵は与えるという。

 これは、エリシャの望みでもあるそうだ。

 何となく、数百年~数千年後にまだエルフがいれば、神として崇められていそうだな。

 そうして後はエルオの始末についてだが、ユグドラシルがエルオの元へと転移してくれる。

 エルオは太ったエルフであり、なぜか神輿みこしで運ばれていた。

 ちなみに運んでいるのは、エルフの女たちである。

 ユグドラシルの暴走を見て、逃げている最中だった。

 エルオは俺の登場に驚いていたが、神授スキルを発動する前にゲヘナデモクレスが呆気なく始末してしまう。


『転移者を殺害したことにより、20ポイント獲得しました』
『神授スキル【二重取り】が発動しました。追加で20ポイント獲得します』


 そして残されたエルフの女たちは、散り散りに逃げていった。

 ゲヘナデモクレスは始末するか訊いてきたが、それは止めておく。

 エルオがやられた瞬間、エルフの女たちが笑みを浮かべていたからだ。

 おそらくエルオに逆らえず、嫌々従っていたのだろう。

 そんなことを思っていると、目の前にユグドラシルが現れた。

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