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第四章

145 自称ハイエルフたちの情報を得る

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 次に聞いたのは、エルオという転移者についてだ。

 性格が悪く、出会った当初老ける前のエリシャに対して、セクハラ紛いのことをしてきたという。

 しかし今の老婆の姿になってからは、逆ロリババアなどといった罵声を浴びせてくるようだ。

 そんなエルオの神授スキルは”固定化”であり、文字通り固定化して動けなくするらしい。

 ただし生き物の心臓など、直接命にかかわる部位を止めることはできないとのこと。

 抵抗する者の強さによって固定化の条件は厳しくなるが、決まれば例外を除きほぼ負けないようだ。

 けれども神授スキルは固定化出来ないので、転移者なら神授スキル次第で楽に勝てるという。

 なので攻撃系神授スキルを持つボンバーには、下手に出ていたらしい。

 またエルオは怠け者で、戦闘も嫌がる。

 だがそんなエルオにも、重要な役割があった。

 それは、国境門の固定化である。

 固定化された国境門は、閉じることがなく開き続けているらしい。

 神授スキルでも破壊が不可能だったようだが、エルオの神授スキルは効いたみたいだ。

 おそらく破壊はできなくても、そうした特殊なタイプであれば適応されるのかもしれない。

 そう言う訳でエルオは国境門の固定化に力を使っているので、様々な事が免除されているとのこと。

 ちなみに、女王ティニアとの契約で嘘ではない事は確認済みだという。

 なのでエルオの固定化が発動している限り、同じ国と繋がり続けるという訳だ。

 これは意外と、凄いことなのかもしれない。

 エルフは300年~500年は生きるので、しばらく安定した貿易ができるというのはかなりの強みになるだろう。

 ゆえに性格がどれだけ酷くても、存在しているだけで役に立っているという訳だ。

 だがエルオに依存した体制は、後々面倒な事に繋がりそうな予感がする。

 けれどもまあ、そんなこと俺には関係のないことか。

 それと元々小さな国境門だったが、建国したら普通のサイズになったらしい。

 このときばかりは、エルオの固定化が解除されたという。

 ただ幸いな事に扉が開いたまま大きくなったので、同じ国と繋がったままのようだ。

 その後再度エルオが神授スキルを発動すると、問題なく固定化できたらしい。

 しかし負担は大きくなったようで、エルオがあれこれと文句を言っているとのこと。

 エリシャとしては、ティニア死亡後にそんなエルオも処分したいらしい。

 自称ハイエルフとしてエルフを纏めるのは、正直興味がないようだ。

 なので余裕があれば、エルオも始末して欲しいと言われた。

 ポイントのこともあるので、俺としてもヤレそうならヤルつもりだ。

 そうして次に転移者のルフルフについてだが、この人物についてはあまり教えてくれなかった。

 どうやら転移者の中で唯一信用できる人物のようであり、裏切れないとのこと。

 ルフルフもティニアとの契約によって、従っているに過ぎないらしい。

 なので、ルフルフとは敵対しないでほしいみたいだ。

 元悪いフェアリーたちもルフルフについては好印象だったので、まともな人物の可能性が高い。

 だがこれまで出会った転移者の様子から、本当にまともなのかと疑ってしまう。

 エリシャについては、恨みと怒りがあるから協力関係を築けているだけである。

 けれども無駄に敵を増やす必要もないので、現状は敵対しないことを選択した。

 一番大事なことは、自称ハイエルフの女王であるティニアを倒すことである。

 そして最後に、その肝心なティニアについて教えてもらう。

 まず初めに、ティニアの神授スキルは”精霊召喚術”というらしい。

 スキル強奪系だと思っていたので、その名称に驚いた。

 だが実質強奪系なのは、変わらない。

 精霊召喚術は、倒したモンスターの魔石から精霊を創り出すことができるみたいだ。

 その創り出した精霊は、元となったモンスターに類似した姿になるらしい。

 また創り出した精霊を自身に憑依させることで、元になったモンスターのスキルを自由に使えるみたいである。

 加えて憑依させていない精霊を手駒にして戦わせたり、融合して新たな精霊を創り出せるとのこと。

 俺は正直ここまでの内容で、あることを思ってしまった。

 精霊召喚術って、俺のカード召喚術と似てないか?

 精霊の憑依は、俺でいう幻影化だろう。

 精霊の融合も、カード召喚術のランクアップやフュージョンだ。

 細かいところは違うと思われるが、似ている箇所が多い。

 だとすれば、オーバーレボリューションと似たことができる可能性もある。

 その場合、ゲヘナデモクレス級の精霊が現れるかもしれない。

 更にその精霊と直接女王ティニアが融合した場合、手が付けられなくなる。

 自分と似た能力が敵に回ると、ここまで面倒な相手になるとは……。

 けれども幸いな事に、ティニアが直接精霊と融合することはないという。

 代わりに、三体の精霊を同時に憑依させられるみたいだ。

 魔力の消費が多くなるらしいが、デメリットらしいデメリットがないとのこと。
 
 俺の場合だと幻影化したカードはしばらく使えなくなるし、カード化もできなくなる。

 何とも羨ましい限りだ。

 一見これだと俺のカード召喚術の上位互換に思えるが、俺とは違う部分で劣っていた。

 まず創り出した精霊がやられると、復活できない事が大きい。

 憑依状態では一切の攻撃が精霊に届かないらしいが、普通に召喚している場合なら倒せるとのこと。

 また精霊は普段魔力の節約から、魔石に戻しているようだ。

 その魔石を破壊した場合でも、精霊を倒せるという。

 ただ普段は魔石を異空間にしまっているので、魔石を破壊するのは難しいみたいである。

 魔石の破壊か。そういえば、俺のカードも破壊したらいったいどうなる?

 似たような能力だけに、そうした弱点も同じかもしれない。

 これはいずれ時間のある時に、試してみよう。

 あと同時に召喚できる精霊の数は、精々100体のようだ。

 強力な個体を召喚した場合、その数は減るらしい。

 これについては、圧倒的に俺の方が上だ。

 俺は以前、リビングアーマーを同時に1,000体召喚したことがある。

 だがまあ、場所的にそこまで多くは召喚できないだろうし、戦闘時はそこまで数的な優位にはならないだろう。

 また相手の優れている点は、俺と違い自分が倒していないモンスターでも、魔石があれば精霊を創り出せる点だ。

 加えて精霊になった場合、元のモンスターよりも強くなることだろう。

 このことから俺のカード召喚術との大雑把な違いが、よく分かる。

 カード召喚術は質より量であり、精霊召喚術は質と量のバランスがとれている感じだろうか。

 だとすれば一見、質での戦いは不利になる。
 
 しかしゲヘナデモクレスという例外があるので、そうとも言えない。

 逆に相手の隠し効果で、数を一度に揃えられる可能性もある。

 エリシャは知らないというが、誰にも言っていない能力もあるだろう。

 これはやはり、初手でゲヘナデモクレスを出した方がいいかもしれない。

 俺にも言えることだが、戦闘中に何が出てくるのか分からないのだ。

 対策したと思ったら、新たな敵を出してくるだろう。

 またボンバーと同じように、今度は俺の方が一瞬の隙にやられる事もあり得る。

 自分と似た能力だけに、それがよく理解できた。

 そんな俺が一番やられて嫌なのは、何かする前に超火力で潰されることである。

 なので女王ティニアが何かする前に、ゲヘナデモクレスで潰すのが一番だ。

 他の手段では、倒す前に何かされる可能性が高い。

 ゲヘナデモクレスの召喚回数を消費するのは痛手だが、これは仕方がないだろう。

 とりあえず、女王ティニアの神授スキルについては概ね訊くことができた。

 ちなみに契約で神授スキルを喋ることを封じられていなかったのか訊くと、このような答えが返ってくる。

「純粋に信頼されているだけよ。悪意が無いだけで、殺したいほど憎い命令をするだけね。契約も、あの時の雰囲気に酔ってしまった結果、女王であるティニアの命令には絶対服従という契約をふざけて結んでしまったのよ。
 家臣ごっこのつもりだったのにね……だから私が直接ティニアを害せないのも、そこに関係しているわけ」
 
 クイーンフェアリーが持っていた契約の力は、想像以上に強力なようだった。

 また女王ティニアは悪意がない分、一層たちの悪い人物だと思われる。

「それと今では制御できてるみたいだけど、簡単な口約束でも契約になってしまうわ。だから安易にティニアの言葉に同意しちゃだめよ」
「なるほど。考えて発言しよう」

 とりあえず女王ティニアが何か言っても、基本無視をすれば大丈夫だろう。

 これを知らなければ、やっかいな事になっていたかもしれない。

 ちなみに女王ティニアは、出会った当初は素晴らしい人物だったみたいだ。

 けれども力を付けていく内に、どんどん性格が変わっていったという。

 そして今では横暴な女王様であり、日々贅沢三昧らしい。

 現在味方が頑張っているのにもかかわらず、自身は部屋で複数のイケメンエルフと交わっているとのこと。

 正直呆れてものが言えないが、大きな隙だという事には違いない。

 そこを襲われれば、流石に後手に回るだろう。

 ただ問題は召喚したゲヘナデモクレスが、すぐに動いてくれるかどうかになる。
 
 そこが賭けになる分、第二第三の手段を考えておこう。

 またティニアの召喚できる精霊や、部屋にいるエルフについても教えてもらった。

 加えて初手で何かする前に倒すことについては、エリシャも太鼓判を押してくれる。

 エリシャとしても、それが一番有効だと思っていたみたいだ。

 そうして情報を得て作戦も決まった以上、女王ティニアの元に向かうことにする。

 だがそこで、エリシャがティニアの部屋に直接転移させてくれるという。

 ユグドラシルのうろからであれば、周辺へと自由に転移できるらしい。
 
 けれども逆に周辺から洞へと転移するのは、難しいみたいだ。

 やはり、この洞が力の起点になるみたいである。

 また一瞬罠も考えたが、直接城に乗り込むと気が付かれる可能性があった。

 ゆえにここはリスク込みでエリシャを信用して、転移させてもらうことにする。

 むしろユグドラシルの中という絶対的な優位な状況から、罠にはめるとは考えづらい。

 罠にはめるなら、既にしているだろう。

 そういう訳で俺は、エリシャに女王ティニアの部屋まで転移させてもらうことにする。

 もちろん、レフも一緒だ。

 元悪いフェアリーたちは、ここに置いていく。

 デバフが消えた以上、その方が後々役に立つだろう。

 あとは転移前に、ゲヘナデモクレスの召喚をすることにした。

 向こうで召喚する時隙になるし、ゲヘナデモクレスへの説明も必要になる。

 なので一度エリシャに断りを入れたあと、俺は緊張しながらも紫黒しこくの指輪へと意識を向けた。

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