148 / 240
第四章
145 自称ハイエルフたちの情報を得る
しおりを挟む次に聞いたのは、エルオという転移者についてだ。
性格が悪く、出会った当初老ける前のエリシャに対して、セクハラ紛いのことをしてきたという。
しかし今の老婆の姿になってからは、逆ロリババアなどといった罵声を浴びせてくるようだ。
そんなエルオの神授スキルは”固定化”であり、文字通り固定化して動けなくするらしい。
ただし生き物の心臓など、直接命にかかわる部位を止めることはできないとのこと。
抵抗する者の強さによって固定化の条件は厳しくなるが、決まれば例外を除きほぼ負けないようだ。
けれども神授スキルは固定化出来ないので、転移者なら神授スキル次第で楽に勝てるという。
なので攻撃系神授スキルを持つボンバーには、下手に出ていたらしい。
またエルオは怠け者で、戦闘も嫌がる。
だがそんなエルオにも、重要な役割があった。
それは、国境門の固定化である。
固定化された国境門は、閉じることがなく開き続けているらしい。
神授スキルでも破壊が不可能だったようだが、エルオの神授スキルは効いたみたいだ。
おそらく破壊はできなくても、そうした特殊なタイプであれば適応されるのかもしれない。
そう言う訳でエルオは国境門の固定化に力を使っているので、様々な事が免除されているとのこと。
ちなみに、女王ティニアとの契約で嘘ではない事は確認済みだという。
なのでエルオの固定化が発動している限り、同じ国と繋がり続けるという訳だ。
これは意外と、凄いことなのかもしれない。
エルフは300年~500年は生きるので、しばらく安定した貿易ができるというのはかなりの強みになるだろう。
故に性格がどれだけ酷くても、存在しているだけで役に立っているという訳だ。
だがエルオに依存した体制は、後々面倒な事に繋がりそうな予感がする。
けれどもまあ、そんなこと俺には関係のないことか。
それと元々小さな国境門だったが、建国したら普通のサイズになったらしい。
このときばかりは、エルオの固定化が解除されたという。
ただ幸いな事に扉が開いたまま大きくなったので、同じ国と繋がったままのようだ。
その後再度エルオが神授スキルを発動すると、問題なく固定化できたらしい。
しかし負担は大きくなったようで、エルオがあれこれと文句を言っているとのこと。
エリシャとしては、ティニア死亡後にそんなエルオも処分したいらしい。
自称ハイエルフとしてエルフを纏めるのは、正直興味がないようだ。
なので余裕があれば、エルオも始末して欲しいと言われた。
ポイントのこともあるので、俺としてもヤレそうならヤルつもりだ。
そうして次に転移者のルフルフについてだが、この人物についてはあまり教えてくれなかった。
どうやら転移者の中で唯一信用できる人物のようであり、裏切れないとのこと。
ルフルフもティニアとの契約によって、従っているに過ぎないらしい。
なので、ルフルフとは敵対しないでほしいみたいだ。
元悪いフェアリーたちもルフルフについては好印象だったので、まともな人物の可能性が高い。
だがこれまで出会った転移者の様子から、本当にまともなのかと疑ってしまう。
エリシャについては、恨みと怒りがあるから協力関係を築けているだけである。
けれども無駄に敵を増やす必要もないので、現状は敵対しないことを選択した。
一番大事なことは、自称ハイエルフの女王であるティニアを倒すことである。
そして最後に、その肝心なティニアについて教えてもらう。
まず初めに、ティニアの神授スキルは”精霊召喚術”というらしい。
スキル強奪系だと思っていたので、その名称に驚いた。
だが実質強奪系なのは、変わらない。
精霊召喚術は、倒したモンスターの魔石から精霊を創り出すことができるみたいだ。
その創り出した精霊は、元となったモンスターに類似した姿になるらしい。
また創り出した精霊を自身に憑依させることで、元になったモンスターのスキルを自由に使えるみたいである。
加えて憑依させていない精霊を手駒にして戦わせたり、融合して新たな精霊を創り出せるとのこと。
俺は正直ここまでの内容で、あることを思ってしまった。
精霊召喚術って、俺のカード召喚術と似てないか?
精霊の憑依は、俺でいう幻影化だろう。
精霊の融合も、カード召喚術のランクアップやフュージョンだ。
細かいところは違うと思われるが、似ている箇所が多い。
だとすれば、オーバーレボリューションと似たことができる可能性もある。
その場合、ゲヘナデモクレス級の精霊が現れるかもしれない。
更にその精霊と直接女王ティニアが融合した場合、手が付けられなくなる。
自分と似た能力が敵に回ると、ここまで面倒な相手になるとは……。
けれども幸いな事に、ティニアが直接精霊と融合することはないという。
代わりに、三体の精霊を同時に憑依させられるみたいだ。
魔力の消費が多くなるらしいが、デメリットらしいデメリットがないとのこと。
俺の場合だと幻影化したカードはしばらく使えなくなるし、カード化もできなくなる。
何とも羨ましい限りだ。
一見これだと俺のカード召喚術の上位互換に思えるが、俺とは違う部分で劣っていた。
まず創り出した精霊がやられると、復活できない事が大きい。
憑依状態では一切の攻撃が精霊に届かないらしいが、普通に召喚している場合なら倒せるとのこと。
また精霊は普段魔力の節約から、魔石に戻しているようだ。
その魔石を破壊した場合でも、精霊を倒せるという。
ただ普段は魔石を異空間にしまっているので、魔石を破壊するのは難しいみたいである。
魔石の破壊か。そういえば、俺のカードも破壊したらいったいどうなる?
似たような能力だけに、そうした弱点も同じかもしれない。
これはいずれ時間のある時に、試してみよう。
あと同時に召喚できる精霊の数は、精々100体のようだ。
強力な個体を召喚した場合、その数は減るらしい。
これについては、圧倒的に俺の方が上だ。
俺は以前、リビングアーマーを同時に1,000体召喚したことがある。
だがまあ、場所的にそこまで多くは召喚できないだろうし、戦闘時はそこまで数的な優位にはならないだろう。
また相手の優れている点は、俺と違い自分が倒していないモンスターでも、魔石があれば精霊を創り出せる点だ。
加えて精霊になった場合、元のモンスターよりも強くなることだろう。
このことから俺のカード召喚術との大雑把な違いが、よく分かる。
カード召喚術は質より量であり、精霊召喚術は質と量のバランスがとれている感じだろうか。
だとすれば一見、質での戦いは不利になる。
しかしゲヘナデモクレスという例外があるので、そうとも言えない。
逆に相手の隠し効果で、数を一度に揃えられる可能性もある。
エリシャは知らないというが、誰にも言っていない能力もあるだろう。
これはやはり、初手でゲヘナデモクレスを出した方がいいかもしれない。
俺にも言えることだが、戦闘中に何が出てくるのか分からないのだ。
対策したと思ったら、新たな敵を出してくるだろう。
またボンバーと同じように、今度は俺の方が一瞬の隙にやられる事もあり得る。
自分と似た能力だけに、それがよく理解できた。
そんな俺が一番やられて嫌なのは、何かする前に超火力で潰されることである。
なので女王ティニアが何かする前に、ゲヘナデモクレスで潰すのが一番だ。
他の手段では、倒す前に何かされる可能性が高い。
ゲヘナデモクレスの召喚回数を消費するのは痛手だが、これは仕方がないだろう。
とりあえず、女王ティニアの神授スキルについては概ね訊くことができた。
ちなみに契約で神授スキルを喋ることを封じられていなかったのか訊くと、このような答えが返ってくる。
「純粋に信頼されているだけよ。悪意が無いだけで、殺したいほど憎い命令をするだけね。契約も、あの時の雰囲気に酔ってしまった結果、女王であるティニアの命令には絶対服従という契約をふざけて結んでしまったのよ。
家臣ごっこのつもりだったのにね……だから私が直接ティニアを害せないのも、そこに関係しているわけ」
クイーンフェアリーが持っていた契約の力は、想像以上に強力なようだった。
また女王ティニアは悪意がない分、一層たちの悪い人物だと思われる。
「それと今では制御できてるみたいだけど、簡単な口約束でも契約になってしまうわ。だから安易にティニアの言葉に同意しちゃだめよ」
「なるほど。考えて発言しよう」
とりあえず女王ティニアが何か言っても、基本無視をすれば大丈夫だろう。
これを知らなければ、やっかいな事になっていたかもしれない。
ちなみに女王ティニアは、出会った当初は素晴らしい人物だったみたいだ。
けれども力を付けていく内に、どんどん性格が変わっていったという。
そして今では横暴な女王様であり、日々贅沢三昧らしい。
現在味方が頑張っているのにもかかわらず、自身は部屋で複数のイケメンエルフと交わっているとのこと。
正直呆れてものが言えないが、大きな隙だという事には違いない。
そこを襲われれば、流石に後手に回るだろう。
ただ問題は召喚したゲヘナデモクレスが、すぐに動いてくれるかどうかになる。
そこが賭けになる分、第二第三の手段を考えておこう。
またティニアの召喚できる精霊や、部屋にいるエルフについても教えてもらった。
加えて初手で何かする前に倒すことについては、エリシャも太鼓判を押してくれる。
エリシャとしても、それが一番有効だと思っていたみたいだ。
そうして情報を得て作戦も決まった以上、女王ティニアの元に向かうことにする。
だがそこで、エリシャがティニアの部屋に直接転移させてくれるという。
ユグドラシルの洞からであれば、周辺へと自由に転移できるらしい。
けれども逆に周辺から洞へと転移するのは、難しいみたいだ。
やはり、この洞が力の起点になるみたいである。
また一瞬罠も考えたが、直接城に乗り込むと気が付かれる可能性があった。
故にここはリスク込みでエリシャを信用して、転移させてもらうことにする。
むしろユグドラシルの中という絶対的な優位な状況から、罠にはめるとは考えづらい。
罠にはめるなら、既にしているだろう。
そういう訳で俺は、エリシャに女王ティニアの部屋まで転移させてもらうことにする。
もちろん、レフも一緒だ。
元悪いフェアリーたちは、ここに置いていく。
デバフが消えた以上、その方が後々役に立つだろう。
あとは転移前に、ゲヘナデモクレスの召喚をすることにした。
向こうで召喚する時隙になるし、ゲヘナデモクレスへの説明も必要になる。
なので一度エリシャに断りを入れたあと、俺は緊張しながらも紫黒の指輪へと意識を向けた。
237
お気に入りに追加
1,575
あなたにおすすめの小説
恩恵沢山の奴隷紋を良かれと思ってクランの紋章にしていた俺は、突然仲間に追放されました
まったりー
ファンタジー
7つ星PTに昇格したばかりのPTで、サポート役をしていた主人公リケイルは、ある日PTリーダーであったアモスにクランに所属する全員を奴隷にしていたと告げられてしまいます。
当たらずとも遠からずな宣告をされ、説明もさせてもらえないままに追放されました。
クランの紋章として使っていた奴隷紋は、ステータスアップなどの恩恵がある以外奴隷としての扱いの出来ない物で、主人公は分かって貰えずショックを受けてしまい、仲間はもういらないと他のダンジョン都市で奴隷を買い、自分流のダンジョン探索をして暮らすお話です。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
クラスごと異世界に召喚されたんだけど別ルートで転移した俺は気の合う女子たちととある目的のために冒険者生活 勇者が困っていようが助けてやらない
枕崎 削節
ファンタジー
安西タクミ18歳、事情があって他の生徒よりも2年遅れで某高校の1学年に学期の途中で編入することになった。ところが編入初日に一歩教室に足を踏み入れた途端に部屋全体が白い光に包まれる。
「おい、このクソ神! 日本に戻ってきて2週間しか経ってないのにまた召喚かよ! いくらんでも人使いが荒すぎるぞ!」
とまあ文句を言ってみたものの、彼は否応なく異世界に飛ばされる。だがその途中でタクミだけが見慣れた神様のいる場所に途中下車して今回の召喚の目的を知る。実は過去2回の異世界召喚はあくまでもタクミを鍛えるための修行の一環であって、実は3度目の今回こそが本来彼が果たすべき使命だった。
単なる召喚と思いきや、その裏には宇宙規模の侵略が潜んでおり、タクミは地球の未来を守るために3度目の異世界行きを余儀なくされる。
自己紹介もしないうちに召喚された彼と行動を共にしてくれるクラスメートはいるのだろうか? そして本当に地球の運命なんて大そうなモノが彼の肩に懸かっているという重圧を撥ね退けて使命を果たせるのか?
剣と魔法が何よりも物を言う世界で地球と銀河の運命を賭けた一大叙事詩がここからスタートする。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう
味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる